【司法書士監修】成年後見人は親族からと最高裁が方針変更か?|追記最新データ

2023年11月8日

最高裁判所
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成年後見制度の取扱について、平成31年3月18日に厚生労働省で開催された専門家会議で、最高裁判所がいままでの方針を変更する見解を発表しました。

従来は、なるべく専門職資格者(司法書士・弁護士・社会福祉士など)を成年後見人に選ぶべきとしていました。その扱いを、「成年後見人は親族が望ましい」と変更したのです。

ここでは、現在の成年後見制度の利用実績や問題点、最高裁判所が成年後見人を専門職資格者から親族家族から選ぶとするに至った理由などを考察してみたいと思います。また、「途中から後見人を別の人に変更することが可能か」についても解説します。

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症などの高齢者や精神上の障害者を支援するために、平成12年4月1日より運用されている制度です。

成年後見人は認知症等の方に代わって財産管理や身上監護を行います。財産管理とは、預貯金の入出金や各種費用の支払いを指します。また、身上監護とは、病院や施設の入退院等の契約事務を指します。

成年後見制度のしくみ

成年後見制度には、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」があります。

法定後見は、本人の意思能力が低下してから利用する制度です。例えば、認知症がかなり進んでいるとなると、法定後見を選択することになります。

これに対して、任意後見は将来の意思能力の低下に備えて利用する制度です。
そして頭のしっかりしているときに、誰を代理人にしてどのような事務を委任するかを公正証書により契約をしておきます。
本人の意思能力が低下したときに初めて後見がスタートするという内容です。

また、法定後見にはさらに3つの類型があります。
本人の意思能力の低下具合によって3つの類型から選択することになります(実際には医師の判断によるところが大きいです)。

意思能力がほぼ認められないというケースは「成年後見」を選択します。
反対に、意思能力が完全とは言えないが不十分だというケースは「補助」を選択します。
ちょうどその真ん中辺であるときは「保佐」を選択します。

表でまとめると次のようになります。

法定後見 ①成年後見⇒意思能力を欠く
②保佐⇒意思能力が著しく不十分
③補助⇒意思能力が単に不十分
任意後見 将来に備えて使う制度

これらをすべて総称して「成年後見制度」と呼ぶのですね。

成年後見制度の利用状況の最新データ

平成30年1月から12月までの1年間における,全国の家庭裁判所の成年後見関係事件(後見開始,保佐開始,補助開始及び任意後見監督人選任事件)の処理状況について,最高裁判所事務総局家庭局がその概況を取りまとめたデータがあります。

裁判所のHPをリンクに貼ります。
「成年後見関係事件の概況」
http://www.courts.go.jp/about/siryo/kouken/index.html

成年後見関係事件の申立件数は?

成年後見人制度の利用は家庭裁判所への申立てが必要です。

  1. 成年後見関係事件(後見開始,保佐開始,補助開始及び任意後見監督人選任事件)の申立件数は合計で36,549件(前年は35,737件)であり,対前年比約2.3%の増加となっている。
  2. 後見開始の審判の申立件数は27,989件(前年は27,798件)であり,対前年比約0.7%の増加となっている。
  3. 保佐開始の審判の申立件数は6,297件(前年は5,758件)であり,対前年比約9.4%の増加となっている。
  4. 補助開始の審判の申立件数は1,499件(前年は1,377件)であり,対前年比約8.9%の増加となっている。
  5. 任意後見監督人選任の審判の申立件数は764件(前年は804件)であり,対前年比約5.0%の減少となっている。

利用件数は年々増加傾向にあります。
私はこの理由は、日本は既に超高齢者社会にあるということと、成年後見制度が社会的に認知されてきているからだ、と分析します。

誰が成年後見人になっているか

誰を成年後見人にするかの決定権は、裁判所にあります。
実務の現状としては、裁判所へ申立をする際に、「親族・家族から成年後見人を選んでください」と記載しても、実際にはそうならないことが多いのが実情です。

  1. 成年後見人等(成年後見人,保佐人及び補助人)と本人との関係をみると,配偶者,親,子,兄弟姉妹及びその他親族が成年後見人等に選任されたものが全体の約23.2%(前年は約26.2%)となっている。
  2. 親族以外が成年後見人等に選任されたものは,全体の約76.8%(前年は約73.8%)であり,親族が成年後見人等に選任されたものを上回っている。
  3. 成年後見人等と本人との関係別件数とその内訳の概略は次のとおりである。
親族 合計8,428件
親 族 以 外 合計27,870件 弁護士 8,151件
司法書士 10,512件
社会福祉士 4,835件
市民後見人 320件

成年後見人は、3割が親族7割が親族以外の専門職資格者から選ばれていることが分かります。

成年後見人は親族から選ぶという時代へ

そもそも専門職資格者を成年後見人にすべきであるという従来の運用は、専門職資格者の方が成年後見事務に明るく、知識も豊富であるという理由があったように思います。

この点は、事実であることは間違いありません。親族がその家族の後見事務しか経験できないのに対して、専門職後見人は数人の後見事務を掛け持ちすることも珍しくなく、場慣れしているのは当然といえます。

しかし、専門職資格者が成年後見人になるという事は、それに支払う報酬・経費が掛かるという事です。専門職資格者に支払う報酬額の相場ははっきりとしませんが、司法書士が成年後見になる場合は、1ヶ月3万円程度が一つの基準となります。

成年後見人制度は、原則的に本人が死亡するまで続くものです。本人が長生きすればするほど、専門職資格者への報酬額が重く肩にのしかかることになります。

もちろん報酬・経費は本人の負担となり、家庭裁判所が決定する金額なので、親族が支払うものではありませんが、専門職資格者に成年後見人を依頼するときの障害になります。

最高裁による方針変更の文書

平成31年3月18日、厚生労働省の第2回成年後見制度利用促進専門家会議において、次のように決定されました。

【最高裁と専門職団体との間で共有した後見人等の選任の基本的な考え方】

◯ 本人の利益保護の観点からは,後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は,これらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましい

◯ 中核機関による後見人支援機能が不十分な場合は,専門職後見監督人による親族等後見人の支援を検討

◯ 後見人選任後も,後見人の選任形態等を定期的に見直し,状況の変化に応じて柔軟に後見人の交代・追加選任等を行う

⇒平成31年1月 各家裁へ情報提供

厚生労働省のHPをリンクに貼ります
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03991.html

方針変更の理由とは

1つには、専門職資格者による財産の横領事件が後を絶たなかったことはあると思います。弁護士による横領、司法書士による横領など様々あります。

しかし、親族を後見人にすれば横領が防げるかというと、決してそのようなことはないと思います。むしろ、親族が後見人になることにより、監視の目が働かない為、横領行為はさらに発覚しずらい状況になってしまうのではないでしょうか。

ただ、横領問題よりもやはり報酬費用の負担が一番の理由のような気がします。報酬費用は認知症等患者本人の財産から支払われるものですが、もし専門職の成年後見人による財産等管理の状態が10年以上続くとなると報酬費用だけで300万円程度の支出が予想され、財産が少ない方はこの制度の利用をあきらめざるを得ない結果となってしまいます。

またそのほかに考えられる理由として、実際に成年後見事務を行っている弁護士や司法書士の数が少ないこともあるのではないでしょうか。つまり、裁判所として専門職に成年後見人を任せたいと考えても、成年後見事務を適切に行える者の絶対数が減少していると認識しているのではないでしょうか。同業者の中にも「成年後見業務は手間ばかりかかって全く収入にならない」という理由で、成年後見業務から撤退してしまった方もいます。

ちなみに、上のデータにある通り専門職資格者の中で成年後見人に選任されている数が一番多いのは司法書士です。ところが国家資格である司法書士の受験者数・合格者数は年々減少傾向にあります。人口の減少や登記業務が減少する中で、今後司法書士の数が増加に転ずるとは考えにくく、成年後見人のなり手として資格者専門職はすでに人手不足の状況にあると言っても良いと思います。

ただし、だからと言って家族を成年後見人にすれば問題が解決するというわけではありません。
「老老介護」が社会問題化している昨今、認知症である高齢の親の成年後見人を、高齢の子供が務めるのは現実的ではありませんし、負担が大きすぎます。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

司法書士による業界団体の反応は?

そもそも「裁判所が方針変更」という記事は、平成31年3月19日付の朝日新聞と、東京新聞によるものです。この朝日新聞と東京新聞の記事は、大枠で「平成31年3月18日付厚生労働省の第2回成年後見制度利用促進専門家会議」の発表通りなので間違った報道ではありません。

しかし、司法書士による業界団体(日本司法書士会連合会・公益社団法人成年後見センターリーガルサポート)は、「裁判所が方針を変更したという認識には至っていない」と静観しているようです。

参考までに日本司法書士連合会の会長声明文のリンクを貼ります。

今後「裁判所」は誰を後見人に選ぶのか?

裁判所が方針を変更したからといって、今後常に家族や親族を成年後見人に選任するという事ではありません。まして、何の理由もないのに現在専門職が成年後見人としてすでに選任されているものを、親族や家族を成年後見人に変更することもないと考えます。

その意味では、新聞の報道は、やや勇み足であったかもしれません。今回の裁判所の方針変更は、実質的な方針転換というわけではなく、一般の方がより成年後見制度の利用を積極的に検討できるようにこれまでの「原則」と「例外」を入れ替えたと言うべきものでは無いでしょうか。

これまで これから
原則 専門職を後見人に 親族を後見人に
(ただし要件を充たす必要がある)
例外 親族を後見人に
(ただし要件を充たす必要がある)
専門職を後見人に

「家庭裁判所が誰を成年後見人に選ぶのか」となった時に、「原則は専門職ですよ」と回答されるより、「要件を充たす必要はあるが原則的には親族です」と説明された方が、成年後見制度の利用を前向きに検討できます。実質的に何が変わったわけでもありませんが、イメージ作りには成功していると言えるのではないでしょうか。

以前に、「【司法書士監修】成年後見人に家族がなるたった6つの条件」という記事を書きました。今回の裁判所の変更内容は、こちらの記事で書いた条件が多少緩和される程度で、6つのどの条件も満たしていないのに直ちに親族家族が成年後見人に選任されることはないと予測しますし、また、あってはならないと思います。

なお、当事務所による解決事例も参考にして頂ければ幸いです。成年後見の申立方法を工夫すれば家族でも後見人になれるチャンスがあるという内容です。詳しくは、「【解決事例】相続と認知症|後見制度支援信託を使って家族が後見人に」をご覧ください。

後見人は変えられるのか?

「何の理由もないのに現在専門職が成年後見人としてすでに選任されているものを、親族や家族を成年後見人に変更することもないと考えます」と上述しました。

よく相談を受ける事案としてつぎのようなものがあります。

  • 「今の成年後見人(司法書士や弁護士などの資格者専門職)と上手くいっていないので別の人に代わってほしい」
  • 「今の成年後見人は裁判所が勝手に選任した人なので別の人を選びたい」

つまり、現在の成年後見人を解任したいという相談ですが、法律上成年後見人を解任できる事由は決まりがあります。

(後見人の解任) 第八百四十六条 後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で、これを解任することができる。電子政府の総合窓口|e-Gov

後見人を解任できる事由としては、例えば選任後に作成すべき財産目録を調整しなかったり、裁判所に対する財産状況の報告を怠った場合、裁判所からの遵守事項に従わない場合があります(大判大13.10.10、宇都宮家裁昭47.12.15、旭川家審昭45.8.6)。

いずれにしても、成年後見人が行う後見業務について、単に親族等が不満を持っている程度では成年後見人の解任事由にはあたらないでしょう。もし不満があるのであれば、その後見人が司法書士であれば所属するリーガルサポートに連絡をしたり、裁判所へ相談するなどの方法で業務を改善してもらうべきでしょう。

そして、親族等と成年後見人が十分に話し合いをして、それでも成年後見人が業務を遂行できない正当事由があれば、その成年後見人に後任者の選任を家庭裁判所に申し立ててもらい、同時に裁判所の許可を得た上で辞任してもらう方法も一考の余地があるでしょう。しかし、辞任を認めるか否かも家庭裁判所の裁量ですから少し難しい方法かもしれません。

親族が後見人になった場合の具体的な負担とは?

上に揚げたように、この裁判所の発表によっても、なお誰を成年後見人に選ぶかは従前の通りで、裁判所にイニシアチブ(主導権)があります。そこで気になるのは、親族が成年後見になるのが良いのか、資格者専門職に任せるのが良いのか、という問題です。

親族が後見人になった場合

金銭的な負担は一切ありません。もちろん親族が後見人になった場合も、資格者専門職がそうするように、家庭裁判所に対して報酬付与の審判をもとめて、本人の財産より報酬を得ることはできます。

しかし、親族が後見人になった場合、もともと金銭的に節約することを目的としているため、報酬の請求をする事例は少ないように見受けられます。

では、親族が後見人になった場合の具体的な負担とは何でしょうか。他にも数々の負担を伴うことがありますが、以下はその一例です。

  1. 費用の支出・収入を帳簿にする
  2. 大きな支出・収入・財産処分は事前に家庭裁判所へ相談(連絡票の提出)・事後の報告
  3. 金銭の流れを明確にするために通帳に記帳する
  4. 領収書・請求書の保管
  5. 本人名義の不動産がある場合はその管理(例えば賃貸物件の管理)
  6. 確定申告(あるいは税理士への確定申告の依頼)
  7. 施設・病院との契約締結事務等、日常的な連絡業務
  8. 保険や還付金・年金などの地方自治体等に対する各種手続き
  9. 選任後すぐに義務付けられている裁判所に対する「初回報告」
  10. 1年に1回程度義務付けられている裁判所に対する「定期報告(事務・収支報告)」

裁判所によっては、親族が成年後見人に選ばれた場合、親族向けの説明会が開かれる場合もあります。その説明会で、具体的に成年後見人として事務を行うに際して気を付けなければならないことなどの説明を受けます。

簡単な冊子などが裁判所から配られることもありますが、実際の後見事務は判断に迷う場面も多く、薄い冊子ではとても対応できません。後見人に向けて書かれている専門書籍や、裁判所との協議によって問題を解決していきます。

なお、「9」で揚げた「初回報告」をするまでに、金融機関や自治体を回っていわゆる「後見人届け」をすることになります。いずれも平日しか開いていない機関ですから、サラ―リーマンの方はこの手続きのために会社を休むことになるでしょう。

イメージとしては、裁判所から成年後見人に選任する旨の通知書が郵送されてから、初回報告をするまでは非常に忙しくなります。

初回報告が終わると、上記「1」から「8」までのような財産管理を行っていきます。財産が少なければ容易ですが、財産が多く種類も多いと非常に煩雑です。

そして1年に1回程度は「定期報告」をしなければなりません。帳簿を元に1年間の収支などを報告します。

資格者専門職が後見人になった場合

金銭的な負担が生じます。資格者専門職に支払う報酬です。報酬は資格者専門職が決定するのではなく、裁判所が一方的に決めます。

決まった金額はありません。後見事務の内容や、管理する財産の額によって異なりますが、司法書士が成年後見人になる場合は、1か月あたり3万円程度が基準と言えます。3万円未満のこともありますし、3万円以上のこともあります。

これ以外の負担はありません。財産管理・事務手続きは資格者専門職が代行しますので、上に揚げた負担を親族が行うことはありません。管理に伴う実費なども本人の財産から支出されます。

しかし、資格者専門職が日常的な療養・看護は行いません。「本人の着替えやタオルを届ける」とか「お見舞いをして話し相手になる」ことは行いません。

これらは必要に応じて施設・病院・ヘルパーなどと別途の契約を締結します。サービスの選定・契約なら資格者専門職が行うことができます。

親族がなるべきか、資格者専門職に頼むべきか

極論になるかもしれませんが、「お金を取るか手間を取るか」と言えます。資格者専門職に頼めば、お金はかかりますが、これ以外に親族の負担はありません。逆に、親族が後見人を務めればお金はかかりませんが、煩雑な事務手続きの負担を覚悟しなければなりません。

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