【司法書士監修】遺産分割の代償金を確実に支払わせる方法とは?

故人の遺産を分割する方法の1つに、代償分割という方法があります。特定の相続人が多く遺産を相続する見返りとして、他の相続人に金銭等(代償金)を支払わせる手法です。

しかし、遺産分割が終わっているにもかかわらず代償金が支払われない場合はどうすればよいのでしょうか?また、代償金の支払いを確実にするために、どのような方法が考えられるのでしょうか?今回は代償金のトラブルについて考察します。

代償分割(代償金)とは何か?

代償分割とは、故人の遺産の分け方の方法の1種で、特定の相続人が法定相続分を超える遺産を現物で取得し、その代わりに他の相続人に対して金銭等を支払うことを内容とする分割方法です。

たとえば、「故人の自宅はAが相続する。Aはその代償として、Bに対し代償金1,000万円を支払う」という遺産分割の内容になります。

この代償分割という方法は、例えば故人の遺産の内訳として、相続人の一人が故人と同居する自宅不動産しかない場合によく利用されます。遺産が自宅不動産しかなければ、現物分割は難しいので、まず代償分割を検討することになります。

遺産分割協議のやり方や、その他の遺産分割の方法については、別に詳しい記事がありますので、もしよろしければお読みください。

■遺産分割協議|遺産分割調停|相続人会議

遺産分割協議|遺産分割調停|相続人会議

どのような場合に代償分割の方法が可能か?

遺産分割方法には、他にも現物分割、換価分割などの方法がありますが、相続人全員の合意があればどの方法を選択しても問題はありません。

しかし、家庭裁判所で遺産分割審判を行う場合には、代償分割をするために「特別の事情」が必要となります。

【債務を負担させる方法による遺産の分割|家事事件手続法】
第195条 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。

「特別の事情」が具体的にどのような事情なのかについては規定がなく、解釈に委ねられています。一般的には次のように理解されています。

代償分割が認められる「特別の事情」
1、現物分割が不可能な場合
2、現物分割をすると分割後の財産の経済的価値を著しく損なうため不適当である場合
3、特定の遺産に対する特定の相続人の占有、利用状態を特に保護する必要がある場合
4、共同相続人間に代償金支払の方法によることについて、おおむね争いがない場合家庭裁判所による遺産分割・遺留分の実務|片岡武・菅野眞一著|日本加除出版

さらに、上記の「特別の事情」には含まれていませんが、家庭裁判所で遺産分割審判を行う場合には、代償分割をするために「代償金の支払い能力」が必要という判例等があります。

家庭裁判所は、特別の事由があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人または数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて、現物をもってする分割に代えることができるが、右の特別の事由がある場合であるとして共同相続人の一人または数人に金銭債務を負担させるためには、当該相続人にその支払能力があることを要すると解すべきである。最高裁判所第1小法廷決定平成12年9月7日

つまり、上に挙げた図の例で言いますと、自宅を相続するAに代償金を支払うだけの資力がなければ、代償分割は認められないことになります。

これは家庭裁判所で遺産分割審判を行う場合の話ですが、裁判所を利用しない相続人同士の話し合い(遺産分割協議)のケースでも留意すべき点でしょう。Aに支払い能力がなければ、Bは代償金を受け取れない可能性もあるからです。

代償金が支払われない場合はどうすれば良いか?|事後の解決方法

遺産分割が終了したが、いつまでたっても代償金が支払われない場合、相続人はどのように対処すればよいのでしょうか。代償金を支払ってもらうためには、どのようにすればよいのでしょうか。ここでは、事後の対応策として、代償金を約束通りに支払ってもらうようにする為の具体的な方法を考察します。

問題点|遺産分割協議を解除できるか?

相続人Bとしては、Aが代償金を支払わないことは当初の約束と違うわけですから、Aの債務不履行を理由として、遺産分割協議を解除し、初めからなかった事にしたいと考えるでしょう。しかし、最高裁の判例において、代償金が支払われないことを理由とする遺産分割協議の解除は認められないとされています。

共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が右協議において負担した債務を履行しないときであつても、その債権を有する相続人は、民法五四一条によつて右協議を解除することができない。 最判平成元年2月9日

この判例で言う「民法541条による解除」とは、代償金を受け取っていない相続人Bからの一方的解除を指します。これに対して、相続人全員の合意により解除すること(これを合意解除と言います)は認められます。そして解除をしたうえで、再度の遺産分割協議を行うことはできます。

しかし、そもそも代償金を支払わないAが、遺産分割協議の解除に合意することは考えにくいので、現実的には他の方法を考えざるを得ません。

方法1|「遺産分割後の紛争調整調停」を申し立てる

遺産分割協議で定められた代償金が支払われない場合には、家庭裁判所に「遺産分割後の紛争調整調停」を申し立てることができます(家事事件手続法244条)。この裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所となります(家事事件手続法245条)。

申立て時期に制限はありません。この調停で、当事者間に代償金の支払いについて合意が成立した場合は、家庭裁判所により「調停調書」が作成されて調停終了となります(家事事件手続法268条)。この代償金の支払いに関する調停調書は、判決と同一の効力があります(家事事件手続法268条)。したがって、調停終了後もなお代償金の支払いが無い場合は、調停調書にもとづいて直ちに強制執行することができます。

遺産分割協議で定められた代償金が支払われない場合に、直ちに訴えの方法(方法2)をとることもできますが、当事者間に合意が成立する見込みが高い場合は、まずは「遺産分割後の紛争調整調停」の方法を検討することになります。

方法2|「代償金支払請求訴訟」を申し立てる

方法1の調停が不成立で終わった場合や、そもそも方法1による調停による合意の見込みがないような場合は、通常の裁判をすることになります。具体的には、代償金の支払いをしない相続人を被告として、代償金の支払請求の訴えを提起します。

裁判所は、被告の住所地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所等になります(民事訴訟法4条)。被告に請求する代償金の金額が140万円を超える場合は地方裁判所、140万円を超えない場合は簡易裁判所が管轄になります。また、地方裁判所については弁護士のみが代理人となることができます。簡易裁判所については、司法書士も代理人となることができます。

方法3|「履行勧告」の申出をする

家庭裁判所から、代償金支払い義務者に履行を勧告してもらうように申出をすることができます(家事事件手続法289条)。当事者が支払いを求めるより、家庭裁判所から勧告してもらった方が、心理的圧力が期待できるものです。この方法を利用できるのは、以下の書類がすでにある場合に限られます。

  • 遺産分割調停調書(代償金の支払い義務についての記載あるもの)
  • 遺産分割審判書(代償金の支払い義務について記載あるもの)
  • 遺産分割後の紛争調整の調停調書(方法1の調停調書)

申出をする裁判所は、これらの書類を発行した家庭裁判所です。申出期間に制限はありません。申出を受けて裁判所が適宜の方法で調査をします。調査の結果、正当な理由もなく代償金の支払いを怠っていることが判明した場合には、履行を勧告します。

勧告の方式については定めはありません。ですから書面で注意するのか、当事者を裁判所に呼び出して注意するのか判然としません。また、勧告は裁判ではありませんから、強制力もありません。

方法4|「履行命令」の申立てをする

方法3の「履行勧告」をもう1歩発展させた方法です。家庭裁判所から、代償金支払い義務者に履行を命じてもらう手続きです(家事事件手続法290条)。履行命令をするに際しては、裁判所は代償金支払い義務者の陳述を聞かなければならないとされています。

裁判所が定めた履行期限までに代償金の支払いがされない場合は、10万円以下の過料に処されます。過料の制裁を科すことにより、相手方に相当の心理的圧迫をかけることが期待できます。この方法を利用できるのは、方法3と同じく、以下の書類がすでにある場合に限られます。

  • 遺産分割調停調書(代償金の支払い義務についての記載あるもの)
  • 遺産分割審判書(代償金の支払い義務について記載あるもの)
  • 遺産分割後の紛争調整の調停調書(方法1の調停調書)

申出をする裁判所は、これらの書類を発行した家庭裁判所です。申出期間に制限はありません。

最終的には強制執行する(財産の差押)

以上のような手続きをしても相手が代償金を支払わないときは、分割の対象となっていた相続財産を差し押さえて強制執行を行います。この方法は手続き的に非常に迂遠ですが、やむを得ないものです。何もしなければ、お金は支払われないままなのです。

なお、次の書面があれば強制執行(差押)ができます。

  • 遺産分割調停調書(代償金の支払い義務についての記載あるもの)
  • 遺産分割審判書(代償金の支払い義務について記載あるもの)
  • 遺産分割後の紛争調整の調停調書(方法1の調停調書)
  • 確定した勝訴判決など(方法2の代償金裁判に関するもの)
  • 強制執行受諾文言が記載されている公正証書による遺産分割協議書(下記で説明)

いずれにしても、せっかく遺産分割が終了しても、代償金が支払われない場合は、紛争が再発することとなり、問題解決には時間を要する結果となります。したがって、如何に代償金未払いを事前に防ぐのかという防止策がより重要と言えます。

代償金の支払いを確実にする方法とは?|事前の解決方法

代償金が支払われない場合、事態は非常に深刻なものとなってしまうことは上に挙げた通りです。それでは、このような不利な形勢に陥らないためには、どのようなことに気を付ければよいのでしょうか。ここでは、事前の対応策として、代償金の支払いを確実にする具体的な方法を考察します。

方法1|代償金支払い義務者の資力を予め確認

家庭裁判所で遺産分割審判を行う場合には、代償金支払い義務者の資力を確認することになっています。具体的には、銀行支店長名義の融資証明書(代償金を支払うためにローンを組むようなケース)や、預金の残高証明書、預金通帳の写しを提出させることもあります。

家庭裁判所で遺産分割調停をする場合も、共同相続人の意向の確認だけでなく、代償金支払い義務者の支払い能力について資料の提出を求めるのが実務の運用として一般的です。

ですから、家庭裁判所の手続によらず、遺産分割協議で代償分割を行う場合も、これらの書面の提出を求めると良いでしょう。遺産分割協議の場合は、支払い能力について十分な確認がされずに合意に至ってしまうことがあり、代償金の支払いの不履行が起こりがちです。遺産分割協議書への署名捺印前に、代償金を支払うだけの残高が相手にあるかを必ず確認してください。

方法2|代償金の支払いを分割払いにしない

代償金の支払いは公平の観点から原則的には1回払いですが、遺産分割協議でも裁判(遺産分割調停・遺産分割審判)でも分割払いとすることがあります。実務上は、数年の分割払いを認めるケースもあります。

しかし、分割払いの途中で支払いが滞った場合は、残額の支払いを求めて訴訟をせざるを得ないわけですから、分割払いの方法はリスクがあります。

ですから、遺産分割協議や遺産分割調停では、代償金の支払いは期日と振込口座等の支払い方法を定めて一括払いにすると良いでしょう。

もし可能であれば、遺産分割の席上に、現金や小切手を持参してもらうことが一番確実な方法です(手続き上遺産分割審判では不可能ですが遺産分割調停では可能です)。現金や小切手と引き換えに遺産分割を成立させれば、後に問題を残さずに済みます。

方法3|遅延損害金についても合意しておく

代償金が支払われない場合に備えて、遺産分割協議書等に遅延損害金の支払いを義務付ける条項を入れておくと良いでしょう。具体的には「代償金の支払いを怠ったときは、年○%の割合による遅延損害金を支払うものとする」などの内容となります。

方法4|公正証書で遺産分割協議書を作成する

一般的に、遺産分割協議書は相続手続きに詳しい専門家(弁護士や司法書士等)が作成することが多いですが、公証役場で公正証書の形式で作成することもできます。そして、「代償金支払い義務者が代償金を支払わない場合には、強制執行に服する(強制執行受諾文言と言います)」旨が記載されていれば、直ちに強制執行ができます。

公正証書であっても強制執行受諾文言が入っていなければ、ただちに強制執行することはできません。また、専門家が作成した公正証書によらない一般的な遺産分割協議書も、これに基づいて直ちに強制執行はできません。

方法5|抵当権を設定する

代償金が支払われない場合に備えて、代償金支払い義務者の不動産を担保にとる(抵当権を設定する)方法もあります。担保にとる不動産は、代償金支払い義務者の固有財産でも構いませんし、相続により取得する不動産でも構いません。ただし、遺産分割審判では、遺産とは無関係の不動産に担保を設定することは手続き上できません。

抵当権設定登記に必要な書類は、遺産分割協議の席上に持参してもらうようにすると良いでしょう。協議が完了してからでは、抵当権設定登記に必要な書類を引き渡してもらえず、登記が行えなくなってしまう可能性があるからです。

ただし、相続により取得する不動産を担保に取る場合は、遺産分割終了後に相続登記が完了しない限り書類は発行されないため、事前に遺産分割の席上で預かることは不可能ですから、その点は注意しなければなりません。

方法6|連帯保証人を立ててもらう

代償金が支払われない場合に備えて、連帯保証人を用意してもらい、連帯保証契約を締結する方法もあります。こうすれば、代償金支払い義務者から支払いが行われない場合は、連帯保証人に対して取り立てることが可能となります。

ただし、連帯保証契約は書面を作成することではじめて効力が発生する契約です(民法第446条)。また、連帯保証契約書には連帯保証人の署名・捺印が必要です。連帯保証契約の内容を遺産分割協議書等に盛り込む場合、連帯保証人が共同相続人中の誰かであれば特段問題ありませんが、相続人ではない全くの第三者である場合、遺産分割協議書に第三者が署名・捺印するおかしな結果となってしまいます。

ですから、この方法による場合は、遺産分割協議書等と連帯保証契約書は別個に作成した方が誤解もなく望ましいと思われます。

方法7|「審判前の保全処分」の検討

家庭裁判所で遺産分割審判を行う場合に限っての方法ですが、代償金の支払いを確実にするために、あらかじめ代償金支払い義務者の財産を仮差押することができます。

【審判前の保全処分|家事事件手続法】
第105条 本案の家事審判事件(家事審判事件に係る事項について家事調停の申立てがあった場合にあっては、その家事調停事件)が係属する家庭裁判所は、この法律の定めるところにより、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他の必要な保全処分を命ずる審判をすることができる。
2 本案の家事審判事件が高等裁判所に係属する場合には、その高等裁判所が、前項の審判に代わる裁判をする。

「審判前の保全処分」とは、具体的には、遺産分割の終了前に相手(代償金支払い義務者)の財産を仮に差し押さえてしまい、使えなくしてしまうという手続きです。

遺産分割が長引けば長引くほど、相手の財産が消費されて、最終的に遺産分割の審判がなされたとしても代償金の支払いが困難となっていることもあります。このような事態を未然に防ぐために、予め仮に差し押さえてしまうという方法です。

しかし、この方法は常に認められるわけではありません。「保全の必要性」と言って、本当に仮差押えをする必要があるのか否かが申し立ての時点で裁判所に審理されます。

具体的には、代償金支払いの意思や代償金の支払い能力に疑問があるような場合に「保全の必要性」があると判断され、仮差押えが認められることになります。ですから、すでに裁判所でこれらを確認しているよう場合(通帳のコピーなどの提示を受けて十分な資力を確認しているケース)は、「保全の必要性」は無いと判断されて、仮差押えは認められにくいでしょう。

つまり、単純に「代償金を本当に支払ってくれるかどうか疑わしい」という心理的な事情のみでは仮差押えの申し立ては難しいのです。

また、仮差押えの申し立てを行うには、供託所に「供託金」を支払う必要があり、最終的に戻ってくる金額ではありますが、一時的に多額の現金が必要となります。この点が、仮差押えの方法を選択しずらい理由になることもあります。

解決案の提示|どの方法が良いか迷ったら…

一般論としてどの方法が適切かはケースバイケースと言えます。まさに事例ごとに対処方法は異なります。これから遺産分割をするのであれば、どのような事前対策が望ましいのかがポイントとなり、すでに不払いが生じている場合には、どの方法が即効性があるのかがポイントになります。

できれば自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。

また、上に挙げました通り、すでに代償分割をして代償金が支払われていないケースは、調停・訴訟等を検討せざるを得ません。このような場合でも相続手続きの専門家に相談し、訴訟による解決のメリットやデメリットをあらかじめ知っておくべきだと思います。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。

このページでは、「遺産分割の代償金を確実に支払わせる方法とは?」についてお話ししました。

代償金を約束通り支払わせるためには、ただ漫然と遺産分割をするのは危険であり、さまざまな視点からの施策を施す必要がある点はお分かりいただけたでしょうか。ぜひそのような場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。

遺産分割の手続きの流れや、遺産分割協議書作成の費用はいくら位かかるのか、登記手続きにかかる費用や、どの位の期間で完了するのか、各種調停の申立手続の詳細について、他にも様々な疑問があることと思います。

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