【司法書士監修】遺言でできるシングルマザーの生前対策|未成年後見と親権問題

2024年1月12日

赤ちゃんと母親
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未成年の子供がある片親家庭(シングルマザー・シングルファザー世帯)においては、親亡き後の子供の将来に漠然とした不安があるかと思います。

今回は、「遺言でできるシングルマザーの生前対策」として未成年後見と、親権の問題を取り上げます。タイトルは「シングルマザー…」となっていますが、もちろんシングルファザーの方にも活用して頂ける内容です。

インターネットでは法律的に不正確な情報が散見されるので、このページではなるべく根拠(参考となる法律条文や判例や戸籍先例の番号、参考文献等)を明らかにして記事にしました。

このページでは創業20年、地域随一の相続専門の司法書士事務所が「【司法書士監修】遺言でできるシングルマザーの生前対策|未成年後見と親権問題」と題して、今まさに相続問題でお困りのあなたの疑問にお答えします。

このページを見れば『自分が死んだら子どもの親権はどうなるのか』や『自分が死んでも離婚した相手に親権は渡したくないがどうすれば?』の具体的な対策・対処方法や注意点ついて、これまでの疑問点がスッキリ解決すると思います。

このページは「遺言・未成年後見・親権」などのキーワードで様々なサイトを検索・調査し、不安になっているすべての相続人・その家族に向けたものです。ご参考になれば幸いです。

シングルマザーが不安に思うこと

一番不安に感じるのは、もし自分が突然死んでしまったら子供はどうなるのか?ではないでしょうか。

両親があれば、片方が他界しても、もう片方が面倒を見るのでそのような不安はありません。

仮にそのような悩みを打ち明けても「そんなに急に人は死なない」とか、「なるようにしかならない」等、無責任なことを言われることさえあります。これは片親特有の共通の悩みごとであり、あまり理解されにくい問題とも言えます。

ご自身に理解のある近親者がいれば(たとえば自分の父母など)、事実上その方が面倒を見ていくことになるのだろうとの予想はできるかもしれません。しかし、それが法律上どの様な性質のものなのか正しく理解している方は少ないでしょう。

また、死別により単身状態になったのではなく、そもそも未婚の母や、あるいは離婚(協議・裁判のどちらも含みます)により単身状態になった方は、もし自分が亡くなった後、親権はどうなるのか、についても心配があるはずです。

結局、わが国では、未成年者の保護は原則として親権の問題とされていますから、シングルマザーが心配に感じていることは「親権」のテーマに集約されます。

そして、この後に紹介するように、未成年者に親権者がいないときは未成年後見が開始する(民法第838条)とされているので、「親権」の問題にとどまらず「未成年後見」についても十分に検討をしなければなりません。

もし「未成年後見」について知識が不足しているのであれば、この機会に勉強しておく必要があります。

未成年後見とは何でしょうか?

未成年後見とは、親のいない(または親がいても親が親権を行使できない)未成年者のために、原則として家庭裁判所の監督のもとに、未成年者の身上と財産の保護を目的とする制度です。民法の第838条から第875条に規定があります。

具体的にどのような場合に問題になるか?

未成年後見が問題になる場合は、民法の規定によると次のケースです。

第八百三十八条
後見は、次に掲げる場合に開始する。
一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。電子政府の総合窓口|e-Gov

これによると、次の2つのいずれかの場合にあてはまれば、当然に未成年後見が開始することになります。

ここで言う「未成年後見が開始する」とは、簡単に言えば「何らかの手段によって未成年後見人を選んでくださいね」という意味です。

  1. 未成年者に対して親権を行う者がないとき
  2. 親権を行う者が管理権を有しないとき

まず、「1」について考察します。未成年後見で問題となるのは、ほとんどの場合このケースです。具体例で考えてみましょう。

父母が離婚する際に母を親権者と定めた。その後、親権者である母が死亡した。この場合、未成年後見が開始するか、それとも未成年後見は開始せず、当然に父が親権者となるか。

子どもにとって唯一の親権者である母が死亡した場合、正に「未成年者に対して親権を行う者がないとき」にあたるため、当然に未成年後見が開始すると解されています(大阪高決昭和28年9月3日、先例昭和23年8月12日)。そしてこの時、父の親権が当然に回復することもありません。

しかし、あまり無いことかもしれませんが、この場合に父を未成年後見人にすることは差し支えありません(未成年後見人の選び方は後述します)。また、繰り返しになりますが、父は当然には親権を手に入れることはありません。

離婚に際して母を親権者に定めたという事は、母が親権者として適当であるからとされた為であり、その母の死亡によって当然に父の親権が回復するとは考えにくいというのが主な理由です。

ただし、父は単独の親権者である母の死亡を理由として、「親権者変更の審判の申立」を家庭裁判所にすることは可能です。もしこの申立が家庭裁判所で認められれば、父は子供の親権を再び手に入れることができます。

参考までに親権者の変更については、家庭裁判所のHPをリンクで貼っておきます(親権の問題は後述します)。

■親権者変更の申立書(親権者行方不明(死亡)等の場合)|裁判所

その他に「1」に該当するケースとしては、単独の親権者が家庭裁判所から親権者としてふさわしくないという審判をされた場合(具体的には。親権喪失・親権停止の審判)があげられます(民法第834条、民法第834条の2)。

これらの審判をされると親権が行使できなくなるため、未成年後見が開始します。

さらに、親権者の地位は家庭裁判所の許可があれば辞任することもできるため、親権の辞任の許可があった場合も「1」のケースに該当します(民法第837条)。

また、単独の親権者が後見開始の審判を受けていたり、後見開始の審判はまだされていないけれども、認知症等精神上の障害によって事理を弁識する能力を欠く常況にある場合も、事実上親権を行うことができないので「1」に該当します。

認知症は若年性のものもあるため、自身の死亡のケースだけでなく、若年性認知症の場合も視野に入れるべきかもしれません

次に「2」のケースを考察します。そもそも親権の具体的な中身とは、大きく分けて2つあると民法上理解されています。

  1. 身上監護・教育権(子の身上に関する権利義務)
  2. 財産管理・代理権(子の財産に関する権利義務)

この内、「Ⅱ」の財産管理をする権限については、その管理の仕方が不適切であれば家庭裁判所から喪失宣告されることもありますし(民法第835条)、自らその権限を辞任することもできます(民法第837条)。

財産管理権喪失の審判を受けた場合や、財産管理権の辞任許可があった場合が「2」のケースに該当して、未成年後見が開始します。

未成年後見人とは何をする人か?

未成年後見人は、親権者と同じ権利や義務を有し、未成年者の身上監護と財産管理を行います。つまり、未成年後見人とは、未成年者が成年になるまでの「親代わり」とも言うことができます。

上に挙げました通り、親権の具体的な中身は大きく分けて2つありますから、未成年後見人もこの2つの内容に関する権利と義務があります。未成年後見人の法律上の権利と義務は、具体的に以下の通りです。

1.身上監護・教育権(子の身上に関する権利義務)

(未成年被後見人の身上の監護に関する権利義務)
第八百五十七条
未成年後見人は、第八百二十条から第八百二十三条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。ただし、親権を行う者が定めた教育の方法及び居所を変更し、営業を許可し、その許可を取り消し、又はこれを制限するには、未成年後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。電子政府の総合窓口|e-Gov
【身上監護・教育権(子の身上に関する権利義務)の内容】
①監護・教育する権利義務(民法第820条)
②居所指定権(民法第821条)
③懲戒権(民法第822条)
④職業許可権(民法第823条)

2.財産管理・代理権(子の財産に関する権利義務)

(財産の管理及び代表)
第八百五十九条
後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
2 第八百二十四条ただし書の規定は、前項の場合について準用する。電子政府の総合窓口|e-Gov
【財産管理・代理権(子の財産に関する権利義務)の内容】
①財産管理の善管注意義務(民法第859条)
②財産調査・財産目録作成の義務(民法第853条、民法第854条)
③未成年被後見人に対する債権・債務の申出(民法第855条)
④利益相反取引の特別代理人の選任請求(民法第860条)
⑤支払金額の予定及び後見事務の費用(民法第861条)
⑥財産に関する権限のみを有する未成年後見人(民法第868条)

どうやって選ぶのか?

未成年後見人の選び方は2つあります。

1つは、あなた自身が遺言書を作成して、その文面の中であらかじめ特定の人(または法人)を未成年後見人と指定する方法です。これを「指定後見人」と言います。

遺言以外の方法で、例えば口約束であるとか、契約書や念書のような文書を作って予め決めておくなどの方法は無効です。あなた自身の意思を反映させる方法は、法律上遺言書しかありません。この指定後見人については、下記の別の項目で詳しく説明します。

(未成年後見人の指定)
第八百三十九条
未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。
2 親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。電子政府の総合窓口|e-Gov

もう1つの選び方は、家庭裁判所に選んでもらうやり方です。

遺言で指定した未成年後見人がいればその方が優先しますが、もしいない場合は(指定されていた人がすでに死亡してしまっている場合も含みます)、未成年者またはその親族その他の利害関係人が家庭裁判所に請求することによって、未成年後見人が選ばれます。これを「選定後見人」と言います。あなたの生前にあらかじめ裁判所で選ぶことはできません。

この方法の場合、あなたの死後に一定の方が家庭裁判所へ申立をするわけですが、申立書には「未成年後見人候補者」を書くのが一般的です。あなたの親兄弟・親戚を候補者に書いて申立てをすることが多いのですが、裁判所側がその方を未成年後見人として認めるか否かは裁判所の裁量なので何とも言えません。

未成年者の年齢、心身の状態や生活状況、財産、未成年候補者の職業や経歴などを総合的に判断して、家庭裁判所により選任された方が未成年後見人となります。

候補者欄を未記入で申立てをしたり、候補者がふさわしくない場合は、裁判所備え付けのリストの中から、裁判所の裁量で適当な弁護士等の職業後見人を未成年後見人に選任します。

家庭裁判所により選任された選定後見人は、家庭裁判所の監督下に置かれますので、身上管理・財産管理について家庭裁判所に対して定期的な報告が義務付けられます。

未成年者の為と言えども、未成年後見人が未成年者の財産から高額の出費をする場合(財産の処分等)は予め家庭裁判所に相談する必要があります。

この点について公的な資料があります。家庭裁判所から未成年後見人に選任された方に対するパンフレットや、裁判所への届け出様式など、裁判所のHPに詳しい案内があります。ご参考までにリンクを貼っておきます。

■未成年後見人に選任された方へ|千葉家庭裁判所

(未成年後見人の選任)
第八百四十条
前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。
3 未成年後見人を選任するには、未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)、未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。電子政府の総合窓口|e-Gov

未成年後見人に資格は要るか?

未成年後見人になるために特別な資格は要りません。弁護士資格や司法書士の資格などは不要です。

しかし、未成年後見人は未成年者の保護者となるべき方なので、そのための能力を備え、未成年者の利益を図ることができる者である必要があります。

また、未成年者と過去において利害の対立があったり、現在利害の対立があったりすることも好ましくありません。そこで、民法は未成年後見人の欠格事由を定めました。欠格事由のいずれかに該当する方は未成年後見人になることはできません。

(欠格事由)
第八百四十七条
次に掲げる者は、後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族 五 行方の知れない者電子政府の総合窓口|e-Gov

未成年後見人を2人以上選んでよいか?

未成年後見人は1人に限らず、2人以上選んで構いません。人数に制限はありません。

(未成年後見人の選任)
第八百四十条
2 未成年後見人がある場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは未成年後見人の請求により又は職権で、更に未成年後見人を選任することができる。電子政府の総合窓口|e-Gov

未成年後見人は戸籍にどのように記載されるか?登記制度はあるか?

未成年後見人が誰であるかは、未成年者の戸籍に記載されます。

指定後見人の場合は、未成年後見人自身がその就職の日(死亡日)から10日以内に、未成年者の本籍地または未成年後見人の本籍地または未成年後見人の所在地の市区町村役場に、「未成年者の後見届」を提出しなければなりません。この届をすると、未成年者の戸籍に未成年後見人に関する所定の事項が記載されます。

選定後見人の場合は、裁判所がこの手続きをしてくれるので、未成年後見人自身が行う必要はありません。

なお、成年後見人のように登記制度(後見登記と呼ばれているものです)はありませんから、未成年後見人が、後見人であることの証明をするための公的な文書としては、未成年者の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)を取得するしか方法がありません。

それでは次に、具体的にどのように戸籍に記載されるかを見ていきます。繰り返しになりますが、未成年後見の所定の事項は、未成年者の戸籍に記載されます。未成年者の戸籍謄本の「身分事項欄」に次のように記載されます。

未成年者の後見
【未成年後見人就職日】令和2年2月2日
【未成年者の後見開始事由】親権を行う者がないため
【未成年後見人】田中太郎
【未成年後見人の戸籍】東京都港区港町1番地 田中太郎
【届出日】令和2年2月10日
【送付を受けた日】令和2年2月13日
【受理者】東京都港区長

戸籍に記載されることの問題点

上記のように、未成年者の戸籍に未成年後見人の本籍が記載されます。このことが、弁護士や司法書士等いわゆる職業後見人が、一般の方からの未成年後見人への指定依頼や、家庭裁判所からの選任要請を渋る要因になっていると言われています。

未成年後見人は未成年者の財産を管理する立場にあります。もしあなたが多額の財産を持っていれば、それは子供に相続されます。

この事を面白く思わない親族から、財産管理を妨害されるなど危害を加えられる恐れがあることは否定できません。その際、未成年後見人の本籍が記載されていると、最終的には住所も特定され、未成年後見人自身の生活の平穏も乱されます。

そして、もしあなたと親権を争った夫(妻)がいた場合も同じです。未成年後見人の住所が特定されることが考えられます。この問題は、国会でも取り上げられましたが、具体的な解決策はいまのところ講じられていません。念の為、参考資料をリンクとして貼っておきます。

■未成年被後見人の戸籍に未成年後見人の本籍地等が記載されることの見直し|第111回行政苦情救済推進会議付議資料

未成年後見人を選ぶのは面倒か?

未成年後見人を選ぶ方法は2つあることは前述の通りです。それでは、それぞれの方法によって未成年後見人を選ぶことは大変なことなのでしょうか?

まず、1つ目の方法の遺言で予め指定しておく方法(「指定後見人」)。

この方法は、簡単です。下記で説明する通り、遺言書の中で予め特定の方(法人でも可)を未成年後見人として書いておくだけです。未成年後見人の指定は、遺言の効力発生時(つまり遺言者の死亡の時という意味です)に効力を生じます。ですから、指定後見人は遺言者の死亡と同時に未成年後見人に就職します(先例大正8年4月7日第835号)。就職の承諾の有無や、死亡の事実の不知を問いません。

そして2つ目の方法の家庭裁判所へ選任の申立てをする方法(「選定後見人」)。

この方法は、あなた自身は何もしないので簡単ですが、残された親族(未成年者自身を含みます)は大変です。家庭裁判所へ申立手続をしなければなりませんし、選ばれた後も定期的に裁判所へ報告書などを作成する義務が生ずるためです。

どの程度利用されている制度なのか?|利用実績

未成年後見人には「指定後見人」と「選定後見人」の2種あることはご説明の通りですが、このうち、利用実績が明らかとなっているのは裁判所が選任する「選定後見人」のみです。「指定後見人」は統計がないので分かりません。

平成30年の裁判所の司法統計によると、裁判所に対する未成年後見人の選任申立件数は、全国で計1879件となっています。これに対して認知症等の成年後見人の選任申立件数が、計5299件となっているので、比較すると件数として決して少なくないと言って良いでしょう。根拠となるデーターのリンクを貼っておきます。

■家事平成30年度|別表9|家事審判・調停事件の事件別新受件数家庭裁判所別|裁判所司法統計  

解決案の提示|遺言書を作成しましょう|指定後見人のススメ

遺言で未成年後見人を予め指定できるという事自体があまり知られていない制度と言えますから、「指定後見人」については利用実績も少ないと思われます(当事務所へのご相談件数は多いですが…)。

しかし、「選定後見人」よりも「指定後見人」の方が、残された親族に負担をかけず、簡単であることが分かれば、こちらを利用しない手はないでしょう。

指定後見人のメリットとデメリット

何より、遺言に書いておくだけなので簡単というのがメリットです。

ただし、「指定後見人」は信頼できる人にお願いすべきですし、一方的に遺言書に書いておくだけでなく、本人の了解は必ず取ることが肝心です。

本人の了解は法律的な要件ではありませんが、倫理上当然のことだと思います。現実的には、あなたの父母や兄弟など、ごく近い親族が「指定後見人」として適当でしょう。

指定後見人のもう1つのメリットは、家庭裁判所の監督下に置かれないという事です。

ですから、選定後見人のように定期的に裁判所へ報告書類を提出する必要はありませんし、未成年者の財産から多額の出費が必要な場合に事前に裁判所に問い合わせをする必要もありません。

指定後見人に選ばれた人の立場の立てば、未成年者の面倒を見るのに手一杯なはずで、裁判所への報告等、煩雑なことはなるべくやりたくないことでしょう。

しかし、このメリットは見方を換えればデメリットにもなります。裁判所の監督下に置かれないということは、未成年者の財産が未成年後見人の食い物にされる可能性もあるのです。

未成年者の財産が未成年者の為に使われず、未成年後見人の私利私欲に使われることを防止することができません。指定後見人制度を利用する際は、この点は十分に認識しておかなければなりません。

デメリットを阻止する「未成年後見監督人」とは?

このように指定後見人が暴走した場合、それを阻止する手段はないのか?が問題となります。手段はあります。それは、遺言書の中で「未成年後見監督人」を予め指定しておくことです。「監督人」とは、「監視する役目の人」といったイメージです。

(未成年後見監督人の指定)
第八百四十八条 未成年後見人を指定することができる者は、遺言で、未成年後見監督人を指定することができる。電子政府の総合窓口|e-Gov

未成年後見監督人は必須ではありませんが、未成年後見人が権限を濫用して、未成年者にとって不利益となるような後見事務がされないないように、あえて遺言で指定しておくことができます。

未成年後見監督人に弁護士資格や司法書士資格などは必要ありません。

しかし、上記で説明したような未成年後見人と同じ欠格事由の規定が適用されます(民法第847条、民法第852条)。また、未成年後見監督人特有の欠格事由もあります。

未成年後見人の配偶者や、未成年後見人の直系血族、未成年後見人の兄弟姉妹は、監督機関として不適当であるため(監督の役目を期待できない)、未成年後見監督人になることはできません。

(後見監督人の欠格事由)
第八百五十条 後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、後見監督人となることができない。電子政府の総合窓口|e-Gov

未成年後見監督人は、未成年後見人の事務を監督することが主な役目です。

未成年後見監督人に指定された人は、遺言者の死後に市区町村役場に「未成年後見監督人就職届(戸籍法第85条)」をしなければなりません。そして、未成年者の戸籍に未成年後見監督人の氏名や本籍など所定の事項が記載されます。

(後見監督人の職務)
第八百五十一条
後見監督人の職務は、次のとおりとする。
一 後見人の事務を監督すること。
二 後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること。
三 急迫の事情がある場合に、必要な処分をすること。
四 後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること。電子政府の総合窓口|e-Gov

未成年後見人を指定できるのはあなただけ

遺言書を作成して、その中で未成年後見人・未成年後見監督人を指定することができるのは、未成年者に対して最後に親権を行う者(民法第839条)だけです。

最後に親権を行う者とは、例えば父母の一方の死亡により単独親権者となった方を指します。あるいは、離婚の際に親権者と定められた方もこれに該当します。指定の方法は必ず遺言によらなければなりません。

遺言書はどうやって作ればよいのか?

遺言書は法律の様式に沿った形で作成しなければなりません。様式は大きく分けて2つあります。

1つは、公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言です。数万円程度の費用はかかりますが、公証人が作るため、内容も確かなものであり、非常に安心感があります。

もう1つは、自分の手書きで作成する自筆証書遺言です。あなた自身が手書きで作るだけですから費用はかかりません。しかし、誰のチェックも受けないので、法律的に問題のある遺言となる可能性もあります。

公正証書遺言も自筆証書遺言も、法律的な効力は同じです。どちらが上で、どちらが下ということはありません。

ただし、自筆証書遺言は、あなたが亡くなった後、近親者などが家庭裁判所へこれを提出して「検認」を受けなければならないとされています(民法第1004条)。

そして、未成年後見人に指定された方は、この「検認」を受けた証明書付きの自筆証書遺言を市区町村役場に提出して未成年後見の届けを行うという流れです(戸籍法第81条)。

未成年後見人に指定された方は、その就職の日(つまり死亡の日)から10日以内に未成年後見開始の届け出を役所にしなければならない(戸籍法第81条)とされていますが、「検認」の手続きには、少なくとも数週間かかるため、現実問題として10日以内に届け出はできなくなってしまいます。

これに対して、公正証書遺言は「検認」は不要です(民法第1004条)。したがって、相続開始後に、未成年後見人に指定された方はスピーディーに未成年後見開始の届け出が可能となります。

このように公正証書遺言には様々な利点があるため、当事務所では新たに遺言の作成を検討されている方には、公正証書遺言の作成をお勧めしています。詳しいことは、別のページに【まとめ】がありますので、もしよろしければお読みください。

■公正証書遺言の作成サポート

もう少し手軽な方法は?|自筆証書遺言の保管制度について

公正証書遺言が安全確実なのは理解できるとしても、それほど遺産もなく、未成年者が成年になるまでの急場しのぎであり、遺言書では未成年後見の指定に重きを置くという利用目的であれば、令和2年7月10日よりスタートした新制度「自筆証書遺言の保管制度」をお勧めします。

これは、あなたが手書きで作った自筆証書遺言を法務局に預かってもらうという新たな公的サービスです。法務局から遺言書の内容に関するアドバイスなどは受けられませんが、遺言に求められる形式的な要件をクリアしているか否かのチェックは受けられます。

また、「検認」も不要です。公正証書遺言に比べて手軽に安価に作成できるため、検討の余地はありそうです。詳しいことは、別のページに【まとめ】がありますので、もしよろしければお読みください。

■自筆証書遺言の保管サポート

■自筆証書遺言の保管制度と公正証書遺言はどちらがいいのか比較してみた

遺言書への具体的な書き方|記載例

公正証書遺言で作成する場合は、公証人にお任せすれば問題ありません。自筆証書遺言で作成する場合は、一例として次のように記載することが考えられます。

【未成年後見人の指定を遺言書で記載する場合の一例】
第◯条 遺言者は、未成年者である長男山田太郎(平成30年1月1日生)の未成年後見人として次の者を指定する。
【住所】東京都港区港町1丁目1番1号
【氏名】山田一郎
【生年月日】昭和50年5月5日

遺言執行者の必要性

あなたが亡くなった場合、あなたの財産は子供に相続されます。もしあなたが離婚している場合、元夫(元妻)が相続することはありません。しかし、あなたの遺産を確実に子供に名義変更(相続手続き)するために、遺言書の中で「遺言執行者」を定めておくこともできます。

遺言執行者は、未成年後見人と同一人物であっても構いません。たしかに未成年後見人を定めておけば、未成年後見人には未成年者の財産管理権があるわけですから、名義変更もできるはずで、わざわざ遺言執行者を定める意味はないとも言えます。

しかし、この後検討するように、未成年後見と親権の競合の問題が生じた場合に、特定の方を遺言執行者としておけば、遺言執行者の権限で相続手続きが可能となるため、一応の安全策となりえると考えます。

遺言執行者についての詳しい説明は別のページにあります。もしよろしければご一読ください。

■知っておきたい遺言執行者のこと

いつでも書き直せる・子供が成年になったら

遺言書はいわば保険のようなものとも言えます。保険に見直しが必要なように、遺言も見直しができます。つまり、遺言書はいつでも書き直せるのです。

例えば、当初は公正証書遺言で作成した場合、あとから自筆証書遺言で作成し直すことができます。具体的には、当初指定した未成年後見人を別な人に変更するようなケースです。遺言書は日付が新しいものが有効と扱われます。

子供が成年になったら、遺言書をどのように扱えばよいのでしょうか。少なくとも未成年後見は問題にならないので、遺言書の文面中、未成年後見人と未成年後見監督人に関する部分は何ら意味のない記載となります。

もし、遺言書に遺産を誰に相続するかや、遺言執行者に関すること等、未成年後見とは関係のない記載があった場合には、これに関する内容はそのまま有効となります。

内容を大きく見直したい要望がない限りは、遺言書はそのままにしておいて問題ありませんが、念のため遺言執行者を子供自身に変更しておくことをお勧めします。

親権の問題について

未成年後見人と親権者の権限が競合(衝突)する場面も想定できます。先に挙げた事例を再び検証します。

父母が離婚する際に母を親権者と定めた。その後、親権者である母が死亡した。この場合、未成年後見が開始するか、それとも未成年後見は開始せず、当然に父が親権者となるか。

すでに説明しました通り、答えは、「未成年後見が開始する。当然に父は親権者とはならない」です。しかし、単独親権者である母の死亡を理由として、父が親権者の変更の申し立てを裁判所にすることは手続き上可能です。

(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。電子政府の総合窓口|e-Gov

父の申し立てが認められるか否かはケースバイケースです。

しかし、未成年後見人もいて、親権者もいるという状態は好ましくありません。未成年後見人の権限と、親権者の権限はほとんど同じであるため、権限の競合(衝突)が生じてしまうからです。この点を解決・整理する条文は存在しません。

ただし、未成年後見は、親権者がいないときに開始するものですから、もし父が親権者として認められれば、その時点で未成年後見は当然に終了するものと解されます。

過去のいくつかの家庭裁判所の裁判例を見ると、親権者を父に変更することを認めない内容(福岡家庭裁判所小倉支部平成11年6月8日審判、福岡家庭裁判所小倉支部昭和55年5月6日審判など)がある一方で、申し立て通り、変更を認めるもの(福島家庭裁判所平成2年1月25日審判、仙台高等裁判所昭和63年12月9日決定など)もあります。

未成年者にある程度の判断能力があれば、子供の主張が裁判所では尊重されるようです。いずれにしても子供の福祉・健全な成長のために、実の親である父のもとで養育されるのが良いのか、未成年後見人に養育されるのが良いのか、裁判所は総合的に判断を行います。

もしあなたがどうしても自分の死後に元夫(元妻)からの親権者変更の申し立てを阻止したくても、100%確実な手段はありません

しかし、あなたが残す遺言書で「付言事項」として、「自分の死後に親権者の変更はしてほしくない。子供は未成年後見人に養育してほしい」と書いておけば、あなたに有利に働く可能性はあります。

「付言事項」には法律的な効力や拘束力は全くありませんが、遺言者の意思を明示するものとして一般に広く利用されているものです。「葬式はしないでほしい」とか、「兄弟仲良くやってほしい」などの内容も法律的には無意味ですが、「付言事項」として希望する方が多いです。

子供に対して親ができること…

「自分が亡くなった後に残された子供が安心して暮らせるように」と考えるのが親としての当然の務めです。また、漠然と考えるだけでなく、法律的に正しい準備をしておくことも重要です。子供の為ですから用心して、しすぎるという事は決してありません。

その上で、やるべきことは、遺言書の作成です。

未成年後見人の指定、未成年後見監督人の指定、遺言執行者の指定、遺産を誰に相続させるか、付言事項の内容、公正証書で作成するのか否か、等々、単に遺言書を作るといっても検討しなければならない課題はいくつもあります。

それだけに問題を先送りにしがちですが、早急に解決しなければいけない問題ともいえます。

できれば自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。このページでは、「遺言でできるシングルマザーの生前対策|未成年後見と親権問題」についてお話ししました。

未成年後見と、親権の問題について十分お分かりいただけたでしょうか。ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。

公正証書遺言の作成手続きやその費用、自筆証書遺言の保管手続きやその費用の詳細について、他にも様々な疑問があることと思います。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。

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