【司法書士監修】相続放棄をしたら完全に免責か?|法改正

あごに手をつく女性

政府の法制審議会民法・不動産登記法部会が令和元年12月3日に決定した「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案(以下中間試案と言います)」に関するパブリックコメントの受付が令和2年3月10日に締め切られました。

中間試案の中では、これまで曖昧だった「相続放棄をした放棄者の義務」について、より明確な規定を置くように民法の改正が提案されています。このページでは、現行の規定がどうなっているのか、どのような問題点があるのか、どのように改正される予定(中間試案)なのかを検証します。相続放棄をした者の義務は改正により軽くなるのでしょうか?重くなるのでしょうか?

相続放棄をした者は免責されるのでは…?

相続放棄とは、故人の財産についての相続する権利を放棄することです。故人の財産とは現金・預金・不動産などの積極財産だけでなく、債務・借金・負債などの消極財産も含みます。

相続放棄とは、積極財産と消極財産の全部を放棄することを言います。ですから、相続放棄をすれば遺産についてはすべて免責されるだろうというのが一般的な理解のされ方だと思います。

確かに、消極財産(借金等)については相続放棄をすることにより免責されます。しかし、積極財産(不動産等)については必ずしも免責されるわけではなく、管理責任は負い続けることになります。現行の民法第940条1項に規定があります。

現行の民法第940条第1項が規定する「管理責任」とは?

相続放棄をすれば、故人の借金などを相続することはなくなり、完全に免責されます。しかし、故人の現金や不動産については、物理的にその物自体は存在しているわけですから、たとえ相続放棄をしたとしても物が消滅するわけではありません。ですから、物は残り、あとは誰がそれを保存(管理)するのかという問題になるのです。

(相続の放棄をした者による管理)
第940条第1項 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。電子政府の総合窓口|e-Gov

この規定によると、相続放棄をしてもその者は相続財産の管理義務を継続して負うことになります。例えば第一順位の相続人Aが相続放棄をした場合、これによって相続人の資格を取得することになる第二順位の相続人Bが相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければなりません。

現行の民法第940条第1項の問題点とは?

現行の規定は、上の具体例で示した通り、第一順位の相続人Aは、第二順位の相続人Bが相続財産を管理を始めることができるまでは管理を継続しなければならないと定めているだけです。

ですから、法定相続人の全員が相続放棄をして、次順位の相続人が存在しない場合(いわゆる相続人不存在のケース)にも、この規定が適用されるかについては必ずしも明らかではありません。

また、そもそも相続放棄をした者がもともと相続財産を占有していない場合や、相続財産を把握していない場合にまで、相続財産の管理義務を負うことになるのか否かも明らかではありませんし、その義務の内容も解釈にゆだねられているといって良いでしょう。

そこで、現行の民法第940条第1項を改正し、①相続放棄をした者の負う義務の性質と発生要件、②義務の内容と終期、③義務を免れるための方策などを整理したものとするべきであるという提案が中間試案に記されています。

改正案を考察|相続放棄をした放棄者の義務

政府が現行の民法第940条第1項を改正して、相続放棄をした放棄者の義務について明確な規定を置こうとした背景には、東日本大震災で露呈した所有者不明の土地問題があります。所有者不明の土地問題は、震災の復興事業を遅れさせる大きな原因の一つになったと指摘されています

近年、土地の所有者が死亡しても相続登記がされないこと等を原因として、不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず、又は判明しても連絡がつかない所有者不明土地が生じ、その土地の利用等が阻害されるなどの問題が生じている。 政府においては、経済財政運営と改革の基本方針等の累次の政府方針で、民事基本法制の見直しに関しては、令和2年までに必要な制度改正の実現を目指すこととされている。民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明|令和2年1月|法務省民事局参事官室・民事第二課

コロナ対策等で今回の法改正審議は多少遅れるかもしれませんが、数年内には改正法が施行されると考えてよいでしょう。それでは、中間試案で提案されている改正案や問題点を次に考察します。

改正案|民法第940条第1項

中間試案では、現行の民法第940条第1項を次のように改めるとしています。

【中間試案|民法第940条第1項】
相続の放棄をした者がその放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している場合には、相続人又は相続財産法人に対して当該財産を引き渡すまでの間、その財産を保存する義務を負う。この場合には、相続の放棄をした者は、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存すれば足りる。

それでは中間試案で示された改正案のポイントや問題点を掲げます。

相続放棄をした者の負う「義務の性質」と「発生要件」

現行法は、相続の放棄をした者は一律に管理責任を継続して負うものと規定しています。しかし、そもそも相続開始時点で遺産を管理していない者に、相続放棄をしたことをきっかけに管理責任を負わせるのは実際上無理があります。

そこで、改正案では「相続財産に属する財産を占有している相続放棄者」だけ管理責任を継続して負わせることにしています。そして、占有を開始した以上、その財産を他の相続人や相続財産法人に引き渡すまでは保存する義務を負わせるものです。

例えば、第一順位の相続人Aが相続財産に属する土地を占有して管理していたが、相続放棄をした後、これによって相続人となった第二順位の相続人B(Bはこの土地について一切管理していない)が続いて相続放棄をしたという事例において、誰が管理義務を行うのか。

この場合、「相続財産に属する財産を占有している相続放棄者」はAです。したがって、Aが管理義務を継続して負い、Bは管理したことのない土地についての管理義務は負わないことになります。

相続放棄をした者の負う「義務の内容」

改正案の中では「その財産を保存する義務負う」としています。現行法では「管理責任を継続して負う」となっていますが、改正案では「管理責任」ではなく「保存義務を継続して負う」となります。

現行法の「管理責任」と改正案の「保存義務」には実質的な違いはあまり無いように思われます。ところで、この保存義務の具体的な内容については次の2つの説があります。

説の分類説の内容
1、積極的義務を負うとする説①相続財産を滅失させ、又は損傷する行為をしてはならない
②相続財産の価値を維持するために必要な行為をしなければならない
2、消極的義務を負うのみとする説①は上記と同じだが、②の義務までは負わず、相続財産を積極的に害さなければそれで足りる

たとえば、相続財産に属する土地があり、相続放棄をした者がこの土地を占有していたという場合。「1」の説によれば、相続放棄の後、次順位の相続人に引き渡す前にその土地の管理を放棄したときは義務違反を問われる可能性があります。

これに対して「2」の説によれば、そのような義務は負わないため、その土地の管理を放棄してその土地から立ち去ったとしても、義務違反を問われることはないものと考えられます。どちらの説で解釈するべきかは現時点では不明です。

なお、このような保存義務は誰に対して負うのでしょうか。改正案では、相続財産を保存する義務の相手方は、相続放棄によってあらたに相続人となった次順位の相続人、あるいは相続財産法人となっています。

【相続財産管理人とは?|相続財産法人とは?】
民法の規定によると、例えば相続人がそもそも誰もいない場合や、あるいは相続人の全員が相続放棄をした場合など、いわゆる相続人不存在となったときは、その残された故人の財産は「相続財産法人」になるとしています(民法第951条)。

しかし、相続財産法人になっただけでは、故人の財産はどうにもなりません。そこで、故人の財産を実際に管理したり処分したりする者を、家庭裁判所は選任します。これが「相続財産管理人」です。

相続財産管理人は、利害関係人や検察官の請求によって選任されます。相続財産管理人の選任の請求をするには原則として予納金(相続財産管理人に支払う報酬金額等に充当される金額で少なくとも数十万円)が必要です。一部の例外を除いてほとんどの場合、弁護士が相続財産管理人に選任されています。

また、注意義務の程度は現行法と同じく「自己の財産におけるのと同一の注意」をもってすれば足りるものとしています。相続放棄によって相続財産は「自己の財産」ではなく既に他人に財産となっていることから、注意義務の程度としては善良なる管理者の注意を要するとの考え方もありますが、改正案は現行法と同じにしています。この意味においては、改正によって責任が重くなる訳でも軽くなる訳でもありません。

相続放棄をした者の負う「義務の終期」

それでは相続放棄をした者は、いつまで保存義務を負うのでしょうか。改正案の中で「相続人又は相続財産法人に対して当該財産を引き渡すまでの間」としています。

これらの者に引き渡せば、それ以後は相続人又は相続財産法人が保存義務を継続することができますから、引き渡しのときに保存義務が終了します。現行法でもこのように解釈されていますので、改正により明文化するということです。

義務を免れるための方策はあるか?

相続放棄をした者は、相続財産を引き渡すまで、相続財産の保存義務を負うことになります。しかし、次順位の相続人が財産の引き渡しを拒んだ場合や、次順位の相続人がいない場合には、過度な負担になるのではないかとの指摘もあります。

そこで、このような場合に相続放棄をした者が保存義務を免れるための方策を引き続き検討するようです。今回の改正案には直接記載されていませんが、現在検討されている具体的な方策は2つです。

  1. 次順位の相続人に対して一定期間内に相続財産の引き渡しに応じるよう催告し、その期間が経過したときは保存義務が終了するものとする方策
  2. 相続財産を供託することによって保存義務が終了することを認める方策。なお、相続財産が土地など供託に適さない場合は、相続放棄をした者は、裁判所の許可を得てこれを競売し、その代金を供託することができる。

相続人全員が相続放棄をした場合の扱いはどうなるか?

法定相続人の全員が相続の放棄をした相続財産の中に不動産があり、その不動産が管理不全状態に陥っていて第三者に害悪を及ぼしている場合に、誰が責任を負うのかという問題があります。

中間試案を作成した法制審議会では、「相続放棄者の全員」または「最後に相続放棄をした者」に、民法第952条の相続財産の管理人の選任請求義務を負わせるべきとの指摘もあったようです。

しかし、相続財産管理人の選任請求をするには予納金(相続財産管理人に支払う報酬金額等に充当される金額で少なくとも数十万円)が必要となり、相続放棄者に相続財産管理人の選任請求義務を課すと、相続放棄をしたにもかかわらず、結局、相続による不利益を負担させられてしまうことになります。

したがって、相続放棄された結果、管理のされていない土地が第三者に害悪を及ぼしている場合は、相続放棄をした者に管理義務を負わせるのではなく、「別の制度」を適用することにより、土地の適切な管理を図るべきだと提案されています。この「別の制度」としては2つ想定されます。

1、所有者不明土地管理制度等|所有者が不明である場合の土地の管理命令

今回の中間試案で新たに創設することが提案されている「所有者不明土地管理制度」を利用することにより、所有者が不明の土地問題を解決しようという試みです。

【所有者不明土地管理制度とは?】
土地の円滑な管理が困難になる所有者不明土地の典型として、土地所有者が従来の住所を去って容易に帰来する見込みがない不在者になっている場合や、土地所有者が死亡したが、相続人であることが明らかでなく、相続財産法人が成立している場合(民法第951条)、相続人は存在するがその全員が相続放棄をしていて、同じように相続財産法人が成立している場合などがあります。

このような場合に、土地を管理する必要が生じた場合には、現行法では、不在者財産管理制度(民法第25条)や相続財産管理制度(民法第952条)が活用されています。 しかし、これらの制度における管理人の選任の申立てを裁判所にする際に、管理人の報酬を含む管理費用を賄うために、予納金の納付が求められているのが実情です。

このような事情から、土地の管理が必要な状態になっているにもかかわらず、予納金の負担を負うことができないことを理由に管理人の選任の申立てを断念して、結局、土地が管理されずに放置されている問題があります。

そこで、今回の改正で、不在者財産管理制度や相続財産管理制度とは異なる、利害関係人の利益にも配慮しながら所有者不明の土地の円滑で適正な管理を実現するための新たな財産管理制度を創設することを提案していて、これが所有者不明土地管理制度です。

「所有者が不明」とは、例えば、所有者が死亡して戸籍等を調査しても相続人が判明しない場合や、判明した相続人全員が相続放棄をした場合なども含まれるとしています。

このような場合、利害関係人の裁判所への申し立てにより、裁判所は土地管理人を選任して、この土地管理人に管理を命ずる処分(土地管理命令)をすることができるように検討されています。利害関係の中には、当該土地の近隣所有者や開発業者、国や地方公共団体も含めて検討していくようです。

2、相続財産管理制度の見直し|相続人のあることが明らかでない場合における相続財産の保存のための相続財産管理制度

すでに説明しましたように、法定相続人がいない相続財産や、法定相続人の全員が相続の放棄をした相続財産は、相続人のあることが明らかでないものとして、相続財産法人が成立します(民法第951条)。

そして、このような相続財産に属する財産には、土地だけでなく、建物や動産も含まれますが、相続人がいなくなる結果としてこれらが放置されて腐敗・荒廃し、周辺に悪影響を及ぼすこともあります。

このような場合、現行法では民法951条以下に規程する相続財産管理制度がありますが、相続財産の清算・処分を目的とするものであるため、手続きが長期に渡りコストもかかることから、相続財産を適切に管理しようとしても、この制度を利用することができない場合があるとの批判があります。

そこで、相続財産を適切に管理することができる仕組みを整備するために「相続人不分明の場合の保存のための相続財産管理制度」を新たに創設することが中間試案で提案されています。この制度により選ばれる相続財産管理人の職務は、相続財産の保全を図ることにあるので、その権限は保存行為に限定されると考えられます。従来の相続財産管理人のように清算・処分の権利は原則としてありません。

しかし、相続人のあることが明らかでないという状態においては、相続財産は最終的には清算されるべきとも言えますから、選ばれた相続財産管理人は、清算を目的とする相続財産管理人の選任の申立てが別途できるとしています。

現行法では、相続財産管理人は清算・処分を目的として選ばれる類型しかなかったものを、改正法では、保存行為のみを目的とする相続財産管理人をまず選任することもでき、その後状況を見て、清算手続きへ移行させることも可能という段階的な仕組みを提案しています。

解決案の提示|相続放棄をした者が管理責任を免責されるには…

上記の通り、相続放棄をした者の管理責任については、数年内に民法の改正がされる予定です。しかし、中間試案を検討すると、これまで民法の条文からは曖昧で法曹の解釈に委ねられていたような部分を明文化する内容で、大きな変更は無いと考えられます。

しかし、管理責任(保存義務)を免責させる規定や、所有者不明土地管理制度はまったく新しい制度となりますので、今後の法案の行方が注目されます。

いずれにしても、現時点では改正はされていませんから、現行法にもとづいて問題を解決していくしか方法はありません。実際に当事務所で扱った事例などを別のページで解説しています。あなたの問題の解決に役立つ部分もあると思います。もしよろしければお読みください。

■【解決事例】相続放棄したら空き家はどうなるのか?(空き家法から読み解く)

【解決事例】相続放棄したら空き家はどうなるのか?(空き家法から読み解く)

できれば自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

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このページでは、「相続放棄をしたら完全に免責か?|法改正」と題して、相続放棄者の義務に関する改正情報について解説しました。

相続放棄をすること自体は、すぐにできる場合が多いです。しかし、相続放棄後の問題は、簡単に解決できない点もあることはお分かりいただけたでしょうか。ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。

相続放棄の手続きの流れや、費用はいくら位かかるのか、相続財産管理人の選任の申立てにかかる費用や、どの位の期間で完了するのか、予納金の金額、相続人不存在の手続に関する詳細について等、他にも様々な疑問があることと思います。

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