遺産相続で印鑑証明書と住民票を要求された時の対処法
「遺産相続で印鑑証明書と住民票が必要だからすぐに送って欲しい」と言われたらどのように対応するのが正解なのでしょうか?振り込め詐欺など、悪質な詐欺事件が多発していることもあり、対応に困っている方も多いと思います。
このページでは「遺産相続で印鑑証明書と住民票を要求された時の対処法」を20年の実績を有する相続専門司法書士の立場で考察してみました。
そもそも印鑑証明書と住民票は相続手続きで必要なのか、という初歩的な問題から、もし提出しなかった場合にどうなるか等、当事務所に寄せられた実際の相談事例をもとにわかりやすく解説します。
【相談】遺産相続で印鑑証明書と住民票を渡しても良い?
次のような相談がありました。
話し合いはまだ完全には終わっていないと思うのですが、先日、叔父が相続手続きをお願いしている司法書士の先生から私に対して「遺産分割協議書を作成するにあたって住民票と印鑑証明書が必要になるので提出してください」と言われました。
今の時点で提出してしまって良いものなのでしょうか?提出したら勝手に話が進んでしまうようで心配です。
【回答】書類に押印さえしなければ大丈夫です。
この相談について次のように回答しました。
どのタイミングで提出を求めるかは事例によって異なりますが、書類を作成する上で、相続人の正確な情報を記載する必要があるため、必要な書類ではあります。
印鑑証明書と住民票を提出したからと言って、遺産分割の内容を了承したという事にはなりません。一般論として、遺産分割は遺産分割協議書へ署名・押印をしたときに成立しますから、これらの書類に署名・押印をしない限りは話が勝手に進められるという事もありません。
この相談のポイントとは
この相談のポイントは次の通りです。
- 印鑑証明書と住民票を要求するのは詐欺ではないか?
- 遺産分割が成立するのはいつなのか?
- どのタイミングで印鑑証明書と住民票を提出すれば良いのか?
- 印鑑証明書や住民票の提出を拒んだらどうなるのか?
では順に検討していきたいと思います。このページで、相続手続きに必要な印鑑証明書と住民票に関する情報を得て、正しい対応を心がけましょう。
印鑑証明書と住民票を要求するのは詐欺なのか?
残念ながら、印鑑証明書と住民票を要求するのが詐欺かどうか、ここでお答えすることは難しいです。ただし、今回のご相談内容のように、すでに相続手続きを依頼している司法書士から連絡があったというのであれば、事件性は無く、話の流れとして当然のやり取りと言えます。
反対に、相続など何も生じていないのに全く知らないところから印鑑証明書と住民票の提出を求められているのであれば、常識的に考えてあり得ないことですから、事件性ありと判断すべきでしょう。
相続手続きで印鑑証明書と住民票が必要な理由とは
それでは、そもそも相続手続きで印鑑証明書と住民票が本当に必要な書類と言えるかどうかを解説します。また、戸籍謄本など他に提出が求められるような書類はないかについても検討します。。
印鑑証明書は必要
まず、相続手続きで印鑑証明書は原則として必要になる書類です。少なくとも相続人全員で話し合って遺産を分けて相続するようなケース(遺産分割協議書を作成するような場合)は、必ず必要になります。
これは、遺産分割協議書には相続人は署名・押印を行い、その印は必ず実印で行う必要があるためです。押印された印鑑が実印であることを証明するために、印鑑証明書をセットで提出するという仕組みです。もし押印だけして印鑑証明書を提出しなければ、押印された印影が実印かどうかを判断することはできません。
また、印鑑証明書は本人しか取得することができないため、印鑑証明書の提出者は本人自身であることの間接的な証明になるとも言えます。ちなみに、実印(ハンコ)そのものの提出を求めるという事は絶対にありませんので、もしそのような要求があったら、事件性があるかもしれません。
提出された印鑑証明書は、登記手続きや預金の相続手続きで必要となるため、手続きを行う専門家から法務局や銀行へ提出されることになります。
法律上、印鑑証明書に作成期限はありませんが、銀行などの金融機関は「発行後3か月以内」や「発行後6か月以内」など独自のルールを設けているところがほとんどです。法務局はそれよりはゆるやかですが、なるべく新しいものを提出するのが通例です。
住民票は必要になる場合と不要の場合がある
次に住民票ですが、こちらは常に必要というわけではありません。事例によってその判断は異なります。例えば、もし遺産分割によって不動産を取得する人があれば、不動産を取得する相続人は、住民票は必要な書類となります。
反対に、遺産分割で不動産を相続しない相続人については、住民票は必ずしも必要がありません。相続人の住所を確認したいという要請もあるかもしれませんが、そもそも住民票に記載されている住所は、印鑑証明書に記載されている住所と同じなので、特別な場合を除いて印鑑証明書があれば用は足りてしまいます。
また、銀行や証券会社など金融資産について相続手続きを行う場合に、相続人の住民票の提出が求められることもあまりありません。
このように考えると住民票は相続手続きではほとんど不要と思われるかもしれません。
しかし、印鑑証明書と住民票の提出をセットでお願いして、その内容の同一性を確認することで、書類の偽造の可能性をチェックするなど、専門家それぞれのやり方があるので、その要否について一概には結論付けることはできません。もし専門家から提出をお願いされた場合には、その指示に従ってもよろしいのではないでしょうか。
他に提出を求められる書類はあるか
相続人側で他に必要な書類としては、自分の戸籍謄本があります。ただし、すでに専門家に相続手続きを依頼している場合には、専門家の方で取得しているケースもあります。
相続手続きの進め方の順番としては、法定相続人を確定することから始めることが多いため、故人(被相続人)の戸籍謄本の調査と合わせて、相続人の戸籍謄本の調査も併せて行うことがあります。もしそうであれば、あらためて相続人に戸籍謄本の提出は求めません。専門家や相手方の相続人の指示や依頼に応じて考えればよいでしょう。
印鑑証明書を提出した時に遺産分割は成立するのか
法律上は、遺産分割が成立するのは相続人全員の遺産分割の合意が得られた時です。必ずしも書類を作らなくても良いため、理論上は合意が整った時に遺産分割は成立することになります。
しかし、名義変更などの相続手続きを行うためには、合意が整った旨の証拠を書面で提出しなければ事実上手続きは行えません。ですから、通常は合意の内容を「遺産分割協議書」という書類にまとめます。
そして、遺産分割協議書に相続人全員が署名・押印した日をもって遺産分割が成立したと考えます。誰か一人でも署名・押印をしていなければ、その遺産分割は成立したとは言えませんし、当該遺産分割協議書で相続手続きを進めることもできません。
ですから、単に相手の依頼に応じて印鑑証明書を提出しても、それだけで遺産分割協議が成立したことにはなりません。
相続手続きの印鑑証明書と住民票はいつ提出すべきか
今回の相談事例では、まだ遺産分割の話し合いが完全に終わっていない段階で印鑑証明書や住民票の提出を求められたという事でした。
遺産分割の話し合いが完全に終わっているか否かを気にしているという事は、その内容について若干不満な点があるという事かもしれません。あるいは、他の相続人と遺産の分け方について話足りない点があるのかもしれません。もしそうであれば、この段階で印鑑証明書や住民票の提出をするのは少し待った方が良いかもしれません。
もちろん印鑑証明書や住民票を提出したからといって、遺産分割協議書の内容を完全に了承したという事になるわけではありません。また、すでに解説したように遺産分割協議書に署名・押印をしない限りは、相続手続きを勝手に進められることもありませんから、印鑑証明書や住民票はいつ提出しても問題は無いようにも思えます。
しかし、法律上はともかくとして、書類を受領した他の相続人の心情としては「書類を提出したということは内容も了承しているのだろう」と解釈される可能性は否定できません。さらに、一度相続人にそのように解釈されてしまうと、後から「やっぱり遺産分割協議書には署名捺印はできない」とは言いづらくなり、必要以上に相続手続きに悩まされる結果となりかねません。
ですから、例えば司法書士などの専門家から「とりあえず確認のために印鑑証明書や住民票を提出してください」と言われたら、コピーを送ることでその場を対処するという方法もあります。そして、その原本は署名・押印した遺産分割協議書と後日一緒に提出するということで、何も問題は生じません。
印鑑証明書や住民票の提出を拒んだらどうなるのか?
相続手続きを代表して行っている他の相続人や、その方から頼まれた司法書士などの専門家に対して、印鑑証明書や住民票を提出しなかったらどうなるのでしょうか。罰則などがあるのでしょうか。
もし、他の相続人や専門家の要求に応えないで、印鑑証明書や住民票を提出しなくても法律上の罰則などは特にありません。単に、相続手続が進まないというだけです。そして相続手続きが進まないことによる不利益は相続人が負うことになるので、結果として自分が不利益を受けるという事です。
その不利益としては、印鑑証明書や住民票を提出しない限り、本来相続できるかもしれない遺産を相続できないという事がありますし、もし仮に相続税の納税が必要な場合は、納税期限に遅れることにより、通常よりもペナルティとして多くの税金を支払うことになります。
また、他の相続人から、相続手続きに協力しないことを理由として、遺産分割調停を申し立てられるかもしれません(可能性としてはこれが一番高いでしょう)。簡単に言えば裁判所へ出頭が求められるという事です。
遺産分割の内容に不満があって遺産分割調停を行うのであれば意味のある行為ですが、単に書類を提出したくないという理由で遺産分割調停を行うのは、時間や労力の無駄ともいえるでしょう。
結局、印鑑証明書や住民票は提出すべきか?…
これまでの説明をまとめると…
- 詐欺かどうかは個別の事情による
- 相続手続きで印鑑証明書は必要
- 相続手続きで住民票が必要なこともある
- 正当な理由なく提出を拒んでも自分に得なことはない
となります。
もし遺産分割について自分の意見が反映されていて、内容について納得がいっているのであれば、遺産分割協議書の作成の前後を問わず、印鑑証明書や住民票を提出することに特に問題はないと考えます。
反対に、遺産分割について自分は何も意見を述べていなくて、もっぱら他の相続人の主導のもとに行われているというのであれば、現時点で印鑑証明書や住民票を提出するのは早いかもしれません。このような場合は、とりあえずコピーだけを提出する方法で対処することも可能です。
いずれにしても、このページで解説したような事情があって、どのようにすべきか迷ったら、当事務所にご相談ください。自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。
無料相談を受け付けています
私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。
このページでは、「遺産相続で印鑑証明書と住民票を要求された時の対処法」と題して、実際に当事務所に寄せられた相談を少しアレンジして紹介・解説しました。同じような問題で困っている方の参考になれば幸いです。
弁護士や司法書士などの専門家から印鑑証明書や住民票の提出を求められた場合は違いますが、一般の相続人から求められたような場合は、その方も相続手続きの流れをよく理解しないで連絡しているというケースは多くあります。
そもそも印鑑証明書や住民票を遺産分割協議書作成前に提出すべきか、後に提出すべきかは、法律で決まっているわけでもありません。あまりその点に注意が行き過ぎると、かえって相続手続き全体を遅らせる結果にもなりますから、慎重かつ柔軟な判断が必要でしょう。
ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。
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東京司法書士会会員
令和4年度東京法務局長表彰受賞
簡裁訴訟代理等関係業務認定会員(法務大臣認定司法書士)
公益社団法人成年後見リーガルサポート東京支部会員
家庭裁判所「後見人・後見監督人候補者名簿」に登載済み
公益財団法人東京都中小企業振興公社「ワンストップ総合相談窓口」相談員
公益財団法人東京都中小企業振興公社「専門家派遣事業支援専門家」登録