あなたはいま、身近に相続が開始して、はじめて「遺言執行者」という存在があることを知ったかもしれません。あるいは、これから遺言書を書こうとして「遺言執行者」という役割があることを知ったかもしれません。

そのどちらの方にとってもこのページの情報は有益です。

遺言執行者とはどのような場合に必要なのでしょうか、かならず必要なものなのでしょうか、どのように選び、誰がなることができるのでしょうか。

このページでは、創業20年の相続専門の司法書士事務所が、相続の初心者に向けて「遺言執行者の基礎知識」をひとまとめにしてお伝えします。このような問題でお悩みの方のお役に立てば幸いです。

遺言書に遺言執行者が書かれていなければ選ぶ必要が…

まずは、相続におけるどのような場合に「遺言執行者」が必要となるか、わからない方もいるでしょう。

故人が亡くなり、故人が遺した遺言書(自筆か公正証書かは問いません)の中に、「遺言執行者」を誰にするかの記載がなければ、「遺言執行者」を選ぶことを検討する必要があります。

つまり、「遺言執行者」というのは、その名の通り「遺言」がある場合に限って必要となります。

そもそも「遺言」はなく、相続人の全員で遺産分割をしようというなら、「遺言執行者」は問題とならないので、もちろん選ぶ必要はありません。

遺言執行者を絶対に選ばなければいけないケースは実は少ない

では、遺言書に「遺言執行者」に関することが何も書かれていない場合、「遺言執行者」は必ず選ばなければいけないものなのでしょうか。

実は、かならず遺言執行者を選ばなければいけないケースはごく一部です。もし、遺言書に次のような内容が書かれていれば、常に遺言執行者が必要となります。

  1. 認知
  2. 推定相続人の廃除、またはその取消
  3. 一般財団法人を設立するための定款作成、財産の拠出の履行

かなり特殊な行為と言って良いでしょう。これ以外の内容が書かれている場合には、遺言執行者を頼むか頼まないかは相続人の任意となります。

例えば「相続人〇〇に自宅不動産を相続させる」などの一般的な内容であれば、必ずしも遺言執行者を頼む必要なないということになります。

遺言執行者を選ばなかったらどうなるか

このように遺言執行者を選ばなければならないケースはごく一部で、それ以外の場合は、遺言執行者を選ぶか選ばないかは相続人が自由に決められる、ということですが、もし選ばなかったらどうなるのでしょうか。

もちろん「相続人が自由に決められる」場合は、選ばなくても罰則のようなものはありません。そもそも任意であるからです。

では、その場合、遺言書に書いてある内容に沿って遺産分けをする(法律では「遺言の執行」と言います)にはどうすればよいのでしょうか。答えは、相続人全員がすることになります。

つまり、遺言執行者がいればその一人が代表して遺言の執行が可能ですが、これがいない場合は、相続人全員が共同して行わなければならないのです。「相続人の誰かが代表して」というのは基本的に無理です。

ちなみに、遺言執行者が遺言の執行をするときに、相続人の同意や承諾は必要ありません。

どのような場合に遺言執行者を頼めばいいのか?【ここ重要】

上でお伝えしたように「遺言執行者を選ばなければ相続人全員がやればよい」というのが結論ですが、これが実際は難しいのです。

遺言書の内容は、相続人同士の利害関係が相反するものであることが多く、法律的には有効な遺言書であっても、その内容通りに相続することを快く思わない相続人もあります。

その結果、「相続人全員がやればよい」と言っても、必要な書類がなかなか揃わず、時間ばかり過ぎて、相続税の申告の期限にも間に合わないといったトラブルになってしまいます。

このような相続人の間の感情の対立というものは表面化しにくいもので、もう一方の相続人には心当たりがなかったり、理解できないようなこともあります。

つまり、せっかく被相続人(故人)が、相続トラブルが起こらないように遺言書を書いてくれていても、遺言執行者がいないために、問題が発生してしまうことも多いのです。

なお、遺言書の中で不動産や金銭などを相続人以外の特定の第三者へ譲る(法律上は「遺贈」と言います)となっているような場合、法律的・税務の知識が必要となることもあります。

つまり、何の知識も持たない相続人が遺言執行者になることはやめた方がよいケースもあるということです。

以上をまとめると、「遺言執行者を頼んだ方がいい場合」というのは次のようなケースです。

  1. 遺言書の内容が「相続人同士で不公平(と感じられる)」ような場合
  2. 遺言書に「相続人以外の第三者への譲渡」が書かれている場合
  3. 遺言書の遺産の分け方が複雑な場合
  4. 相続人同士の付き合いがほとんどない場合
  5. 遺産が多く相続税の申告が必要となる場合

遺言執行者は家族や専門家(弁護士・司法書士など)が多い

以上のように遺言書の内容を確実に実現するためには、遺言執行者を決めておく必要があります。遺言執行者とは、死後、遺言書の内容通りに、遺産分けなどの手続を実行する者をいいます。

遺言書は作るだけでは意味がなく、内容が実現されて初めて価値が出ます。では、遺言執行者は誰に頼めばよいのか、法律上どのように決めるのか、について解説します。

遺言執行者の選任方法は3つの種類がある|基本は誰でもなれます

遺言執行者になるための資格はとくにありません。相続人自身がなることも可能とされています。しかし、未成年者と破産者は法律上遺言執行者になれないと規定されています(民法第1009条)。

つまり、弁護士や司法書士などの資格が無くても、誰でも遺言執行者になれるということです。遺産の額の大小は関係がありません。

また、法人も遺言執行者になれると解されていますので、銀行で「遺言信託」により公正証書遺言書を作成した場合は、信託銀行が遺言執行者となっています。

ほとんどの場合、相続人中の1名や弁護士・司法書士等の専門家を遺言執行者にすることが多いです。

【選び方1】これから遺言書を作るなら遺言書に書いておくこと

これから遺言書の作成をお考えの方は、信頼できる専門家(弁護士や司法書士)を遺言執行者に指定しておくことをおすすめします。

その理由は、知識のある専門家に遺言執行者を頼むことは、相続トラブルの対策となるからです。

しかし、専門家に遺言執行者をやってもらうためには費用もかかりますので、それほど複雑な遺言書の内容でなければ、特定の相続人を選んでしまうという選択肢もあります。

相続開始の前であれば、あらかじめ遺言書の文章中に、具体的に誰を遺言執行者にするか書いておく必要があります。

生前に口頭で伝えておくとか、メモ書き程度のものでは認められません。つまり遺言書で決める以外の方法はないのです。

なお、どのような方法で選ばれた遺言執行者も、就任(遺言執行者の地位に就くことを言います)の義務はなく、拒否権を行使して、職に就かないこともできます。

せっかく選んだのに、そのようにならないためにも、生前に遺言書で遺言執行者を決めておく場合は、あらかじめ遺言執行者となる本人の承諾を取っておく必要があるでしょう。

【選び方2】遺言書に書いてなければ家庭裁判所で選任手続きが必要

発見された遺言書に遺言執行者の指定がない場合はどうすればいいのでしょう?その場合は、遺言者の死亡の後に遺言執行者を選任することができます。死亡の前に家庭裁判所で選ぶことはできません。

遺言執行者の選任は、相続人などが申立人になり裁判所(被相続人の住所を管轄する家庭裁判所)へ遺言執行者選任申立の書類を提出します。書類は法務局ではなく、裁判所へ提出する点が注意点です。

家庭裁判所へ選任申立をする際、その申立書に「自分がなってほしい遺言執行者(「候補者」と言います)」を書いておくことが認められています。

特定の相続人や司法書士・弁護士などから事前に了解を得て、その者を遺言執行者候補者として遺言執行者の選任申立をすると、裁判所は候補者をそのまま遺言執行者として認めることが多いです。

しかし、誰を遺言執行者に選ぶかは、最終的には裁判所の権限・裁量によって決定しますので、候補者として書いた人が選ばれない可能性もあります。

なお、もし候補者を書かないで申立てをすると、家庭裁判所は職権で家庭裁判所にある専門家リストの中から弁護士を遺言執行者として選任します。この場合、見ず知らずの人が遺言執行者となるワケですね。

【選び方3】特殊な方法として「第三者に選んでもらう」ことも

少し特殊なやり方ですが、民法上みとめられた選任方法です。これから遺言書を作成して、生前に遺言執行者を選ぶ場合にだけ使える方法ですが…。

遺言書の文中に、「遺言執行者は○○さんが選任するものとする」と書くことにより、遺言者の死亡後に○○さんが自由に遺言執行者を選任できます。

もし、○○さんがあなたより前に死亡しているときは、遺言執行者を選んでいないということになって、「選び方2」の方法により、家庭裁判所で選ぶことになります。

実際、遺言執行者は法的な知識がないと務まらない

遺言執行者が、遺言の内容を実現するために必要な行為は法律で決まっています。また、遺言執行者が負う義務や責任、権利も法律で決まっています。

ここでそのすべてをお伝えすることはできませんが、代表的なものを解説します。

遺言執行者は具体的にどんなことをするのですか?|事務は煩雑

遺言執行者として一番大事な仕事は、遺言の内容を忠実に実現することです。実際には細かく民法などの法律でその内容が決まっています。

また、実際の遺言執行の手続の場面では、法律的な判断が求められる場合も多く、相当な知識がないと対応できません。

参考までにその一部をお伝えしますと、具体的には次の通りです。

  1. 戸籍謄本など取得して相続人を確定する
  2. 不動産・預貯金を調査して「財産目録」を作成する
  3. 「財産目録」「遺言書」「遺言執行者の就任通知」を相続人へ連絡する
  4. 遺言書に書かれた相続割合どおりに分配する(預貯金の解約や不動産の名義変更など)
  5. 遺贈がある場合は、受遺者に対して財産を引き渡す
  6. 相続財産(権利証・貸金庫の鍵などを含む)を不法に占有している者に対して明渡や引き渡しを求める
  7. 相続財産を管理する義務がある(善管注意義務)
  8. 認知の内容がある場合は、戸籍の届出をする
  9. 相続人を廃除する内容がある場合は、家庭裁判所に廃除の申立てをする
  10. 遺言無効確認の訴えが提起された場合は、被告となり訴訟を行うことがある
  11. 相続人から請求があった時はいつでも遺言執行の状況を報告する義務がある
  12. 相続人のために受領した金銭、その果実は相続人に引き渡す義務がある
  13. 遺言執行が終わったら「任務終了通知・報告書」を作成し相続人へ送付する

遺言執行者の報酬はいくら位かかるのか?

家庭裁判所で選んだ遺言執行者の報酬は、相続財産の状態、執行事務の難易度などを考慮して、家庭裁判所が定めることができます。ただし、相続人の同意があれば、必ずしも家庭裁判所に決めてもらう必要はなく、遺言執行者と相続人の合意で決めることも可能です。

なお、遺言書の中で、本人が自ら遺言執行者の報酬を定めたときは、あらかじめ定めた報酬に従います。

参考までに当事務所の遺言執行者の報酬は以下のリンクをご確認ください(リンク先のページの一番下の表になります)。

■相続手続の報酬|https://www.office-kon-saitou.com/user-guide/cost

また、遺言執行者への報酬は必須という訳ではありません。つまり、家族や相続人が遺言執行者になる場合、通常は、遺言書に遺言執行報酬に関することは書きませんし、家庭裁判所で相続人が選ばれた場合も、相続人が報酬を請求することは稀です。

遺言執行者を頼むデメリットとメリットはあるのか

結局、基本的に遺言執行者を選ぶか選ばないかは相続人の自由であるということはお判りいただけたと思います。

そこで、以上でお伝えしたことを踏まえて、遺言執行者を専門家に頼むデメリットとメリットを考えてみます。

遺言執行者を選任すれば費用は掛かる|デメリット

すでにお伝えしましたが、専門家に遺言執行者を依頼すれば、かならず費用がかかります。決して安い金額ではありませんので、特に遺産が少ない場合は、非常に負担が増えることになります。あえてデメリットをあげるなら、この費用の問題があるでしょう。

遺言執行者を選任すれば相続手続きはスムーズになる|メリット

専門家に遺言執行者を依頼すれば、その後の相続手続きは非常にスムーズなものとなります。これは最大のメリットとなります。

専門家は法律に基づいて手続きを進めていきますので、相続人が主体的にやるべきことはほとんどありません。

例えば相続人が数名いるような場合も、遺言執行者がそれぞれの相続人と連絡を取りますので、あまり連絡を取りたくない人がいるような場合は、気が軽くなるかもしれません。

もちろん相続人の最低限の協力が得られなければ、実際のところ、事務手続きは行えませんから、その点はあらかじめ注意が必要でしょう。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

さいごに|いまなら無料相談が受けられます

私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。

このページでは、「遺言執行者」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、まさに今あなたが困っていることについて、知っておくべきことを解説しました。いかがでしたでしょうか。

このページでお伝えしたかったポイントは次の3点です。

  • 遺言執行者は基本的に選んでも選ばなくても良い
  • 遺言執行者を選ばなければ費用は節約。しかし相続人全員でやる羽目に。
  • 遺言執行者を選べばコストはかかる。しかしトラブル防止かつ手続きもスムーズに。

これから遺言書を作成しようとしている方、遺言書があるが何から手を付ければよいか分からない方。とにかく遺産分割・相続の手続きから解放されたい方。ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。相続問題に強い提携の税理士や弁護士もおりますので、全方向の対応が可能です。

いまなら毎週土曜日に面談(対面・非対面)による無料相談を実施しています。また無料相談は平日も随時実施しています。
お電話(予約専用ダイヤル042-324-0868)か、予約フォームより受け付けています。メールによる無料相談も行っております。いずれも無料ですが誠意をもって対応します。ご利用を心よりお待ちしております。

無料相談