自筆証書遺言の保管制度と公正証書遺言はどちらがいいのか比較してみた
40年ぶりの相続法改正。従来の規定が変更されたり、新しい制度が創設されたりしました。その中でも、「自筆証書遺言の保管制度」はいま注目を集めている新しい制度です。こちらの制度は令和2年7月10日からスタートしています。
この制度を利用してみようと検討中ですか?
たしかに自筆証書遺言書の保管制度では、法務局が遺言書を保管することになるため安全性はとても高いです。そこで今回は、同じく安全性が高いとされる公正証書遺言書と比較して、結局どちらによるべきか?を考察してみたいと思います。
自筆証書遺言の保管制度 VS 公正証書遺言書
それでは、令和2年7月10日から新しくスタートした自筆証書遺言の保管制度と、従来からある公正証書遺言を、専門家(相続手続き専門の司法書士事務所)の視点から10つの項目で比較してみます。
1、費用|保管制度は格安
どのような遺言を作成するにしてもコストはかかりますから、費用については一番気になる点です。公正証書遺言書を公証役場で作成する場合、公証人に支払うべき手数料はいくらでしょうか。こちらに詳しい解説を書いていますので、もしよろしければご参考までにお読みください。
財産(遺産)の金額や条件によって変動しますが、財産1億円で約5万~15万円程度です。これまで当事務所で公正証書遺言の作成サポートを行った方の財産の最多価格帯は3000~5000万円です。このときの公証役場への手数料は5~8万円というデータでした(諸条件により変わりますので参考程度にお考え下さい)。
しかし、この金額は本人が遺言の内容を考えて、自分で証人2名を手配し、自分で公証人に頼んだ場合の金額です。司法書士や弁護士に作成サポートを依頼した場合(遺言の文案作成・公証人との打ち合わせ・証人等)は、その報酬も要しますから、実際にはもう少しかかるでしょう。
これに対して、自筆証書遺言の保管制度は、遺言書を保管する法務局に手数料を払うことになります。手数料は収入印紙で納付することになります。手数料は、3,900円です。金額だけで比較すれば自筆証書遺言の保管制度を利用する方が安上がりです。
公正証書遺言も自筆証書遺言の保管制度も、一度費用を支払えば、その後に保管年数に応じた「保管料」などは一切かかりません。
ちなみに、信託銀行の「遺言信託サービス(信託銀行が遺言の作成サポートと相続開始後の遺言執行者になることをあらかじめ約束する商品)」を利用して公正証書遺言を作成した場合等は、信託銀行等が「保管料」の名目で、年間あたり数千円の手数料を徴収することもあります。いずれにしても、そのような特別なサービスを利用しない限りは「保管料」がかかることはありません。
2、手間|保管制度は自分でできる
公正証書遺言書は公証役場で公証人に作成してもらいます。事前に用意すべき書類もありますし、事前に公証人と打合せをする必要があります。また、証人2名以上を立ち会わせなければならないので、かなりの手間と言えるでしょう。
これに対して、自筆証書遺言の保管制度では、自ら作成した自筆の遺言書を法務局に持ち込むだけです。証人の立会は不要です。
ただし、法務局に保管の依頼をする自筆の遺言書については、作成様式が法務省令(法務局における遺言書の保管等に関する省令)で決められています。「別記第1号様式(第9条関係)」という作成様式になります。例えば、次の通りです。
- 用紙は、文字が明瞭に判読できる日本産業規格A列四番の紙とする
- 縦置き又は横置きかを問わず、縦書き又は横書きかを問わない
- 各ページにページ番号を記載すること
- 片面のみに記載すること
- 数枚にわたるときであっても、とじ合わせないこと
- 様式中の破線は、必要な余白を示すものであり、記載することを要しない(縦置きにした場合上5ミリメートル以上、下10ミリメートル以上、左20ミリメートル以上、右5ミリメートル以上余白をあける)
さらに保管のための申請書を作成して、一定の添付書類と本人確認書類(免許証やマイナンバーカード等の写真付きの公的身分証明書)が必要です。これらは事前に準備することになるので完全に手間いらず、とまでは言えないでしょう(法務局で事前の予約も必要です)。
実際の申請書や添付書類などについて知りたい方は、別のページで詳しく案内していますのでご確認ください。
しかし、証人の立会は不要ですし、公正証書遺言書ほど事前に準備しなければならない書類も少ないので、自筆証書遺言の保管制度を利用する方が手間は少ないでしょう。
ただし、見方を変えると結論は逆転します。
つまり、自筆証書遺言は全文を自分自身で考えて作成する必要があります。それに対して公正証書遺言は遺言の内容の趣旨(例えばどの財産を誰に相続させるかなど遺言の要旨)を公証人に伝えれば公証人が全部を作成してくれるのです。
このように考えれば、かえって公正証書遺言の方が負担が少ないとも言えます。
3、本人が出向けない場合|公証人は出張もしてくれる
公正証書遺言は公証役場で作成するのが原則です。しかし、本人が病気等の事情で公証役場に出向くことができない場合は、出張料を支払ったうえで公証人に本人の居所まで出張してもらうことができます。
その際は、公証人の職務執行区域(公証人の管轄)について注意が必要です。公証人は各都道府県の法務局に所属する公務員です。したがって、職務ができるのは公証人が所属する法務局の管轄区域内に限られます。
たとえば、入院している東京都の病院で公正証書遺言を作成したい場合、埼玉県の公証人に出張の依頼をして作成することはできません。しかし、通常、公証人に出張の依頼をする場合は、最寄りの公証役場に連絡をするため、東京都の入院先の病院から埼玉の公証人を手配することも無いため、あまり問題にならないかもしれません。
ところで、自筆証書遺言の保管ではどうでしょうか。
自筆証書遺言の保管制度では、必ず本人が法務局に出向く必要があります。本人が出向くことができない場合に、法務局の担当者に出張してもらうことはできません。
また、代理人に預けて代理人が本人に代わって法務局に保管の申請をすることもできません。つまり司法書士や弁護士、家族が本人から自筆証書遺言を預かって保管の申請を行うことはできません(ただし保管申請の手続き書類を司法書士が代理して作成することは可能です)。
郵送による保管申請も認められません。
なお、本人が法務局に保管の申請をする際に、付き添い程度の介添えであれば他人の同伴も許されます。
いずれにしても、自筆証書遺言の保管制度も公正証書遺言も、必ず本人が何らかの手続きを行う点では共通しています。たとえば、公正証書遺言では遺言者本人が公証人の面前で遺言の内容を口述するため、代理人が遺言者本人に代わってこれをすることはありません。
しかし、出張を依頼できるか否かを単純に比較すると、公正証書遺言書の方が優れていることが分かります。現状、遺言者本人が老人ホームに入居中、病院に入院中、自宅で療養中など、外出が困難である場合は、自筆証書遺言の保管制度を利用することは難しいでしょう。
ちなみに、本人に意思能力がない場合は、保管制度の利用もできませんし、公正証書で作成することもできないことは言うまでもありません。
4、場所|保管できる法務局は決まっている
公正証書遺言書は、公証役場で作成する遺言書ですが、どの公証役場で作成しても構いません。例えば東京都に住所がある人が、横浜市の公証役場で公正証書遺言を作成しても全く問題ありません。しかし、一般的には自宅近くの公証役場で作成することが多いです。
これに対して、自筆証書遺言の保管制度は法務局に遺言書を預けるわけですが、預けることができる法務局には決まりがあります。法務局は次の3つの中から選択できます。
- 遺言者の住所地を管轄する法務局
- 遺言者の本籍地を管轄する法務局
- 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局
通常は、「1」でしょう。公正証書遺言書もわざわざ遠くの公証役場で作成することはないと思いますから、この点はどちらが優位とは言えません。
ただし、すべての法務局で遺言書の保管を扱っているわけではなく、特定の法務局に限られます。関東地方では以下のようになります。
都道府県 | 取扱い法務局 |
東京都 | 本局、板橋出張所、八王子支局、府中支局、西多摩支局 |
埼玉県 | 本局、川越支局、熊谷支局、秩父支局、所沢支局、東松山支局、越谷支局、久喜支局 |
千葉県 | 本局、市川支局、船橋支局、館山支局、木更津支局、松戸支局、香取支局、佐倉支局、 柏支局、匝瑳支局、茂原支局 |
神奈川県 | 本局、川崎支局、横須賀支局、湘南支局、西湘二宮支局、相模原支局、厚木支局 |
栃木県 | 本局、足利支局、栃木支局、日光支局、真岡支局、大田原支局 |
群馬県 | 本局、高崎支局、桐生支局、伊勢崎支局、太田支局、沼田支局、富岡支局、中之条支局 |
茨城県 | 本局、日立支局、土浦支局、龍ケ崎支局、下妻支局、常陸太田支局、鹿嶋支局 |
例えば、東京都には全部で23の法務局がありますが、そのうち遺言書の保管を取り扱うのは上記の5つの法務局に限られます(本局・板橋・八王子・府中・西多摩に住んでいる方だけ利用できるという意味ではありません)。
地域により管轄は細かく定められているので、事前に調べたうえで管轄を特定して、その法務局に預けるという手順になります。管轄の意味や調べ方については別のページで詳しく解説しています。
5、安全性|どちらも盗難・偽造を防止可能
公正証書遺言書は公証役場で保管します。自筆証書遺言の保管制度は法務局で保管します。どちらも安全です。公的機関で保管してもらえるという事は、第三者による偽造、紛失、盗難を防止できるというメリットがあります。この点については、どちらが優位とは言えません。
6、保管期間|どちらも問題ない
公証役場で公正証書遺言書を作成する場合、「原本(オリジナルの文書)」は公証役場に保管されます(保管料はかかりません)。保管期間は原則として20年間(公証人法施行規則第27条第1項第1号)ですが、実際には半永久的に保管されるのが実務の扱いのようです。
その根拠は、「保存期間の満了した後でも特別の事由により保存の必要があるときは、その事由のある間保存しなければならない(公証人法施行規則第27条第3項)」とされているためです。
遺言は相続が発生した場合に備えて作成しているわけですから、まだ相続が開始してもいないのに、形式的に20年経過したからといって保管を放棄されてしまっては、遺言を作った意味がありません。
また、公証役場が遺言者本人の死亡を当然に知るというシステムも現時点ではないため、少なくとも本人の死亡を知るまでは公証役場は遺言書を保管することになりますし、たとえ相続の開始を知ってもその時点で保管を止めることもできず(詳細は省略しますが民法884条などが関係します)、実際上は半永久的に保管せざるを得ないとも言えます。
これに対して自筆証書遺言の保管制度はどうでしょうか。法務局は遺言書の原本を保管すると同時に、法務局内の端末でコンピューターデータ(遺言書の画像データ)としても保存します。一般的な相続の場合は、遺言者の死後50年間は遺言書の現物が保管されます。
コンピューターで管理されている遺言書保管ファイルの情報は、150年間保管されます(法務局における遺言書の保管等に関する政令第5条)。
なお、公正証書遺言書も自筆証書遺言の保管制度の遺言書も、遺言者本人が死亡してもその原本の返却を受けることはできません。相続が開始した時に返還されるという規定はありません。
公正証書遺言書の場合は、公正証書遺言書の正本または謄本で相続手続きを行うことになります。
自筆証書遺言の保管制度の場合は、相続開始後に遺言書情報証明書を法務局で取得したうえで相続手続きを行います。
つまりいずれの場合も原本そのものが手元になくても問題はないのです。遺言書情報証明書については別のページに詳しい説明をしています。
7、検索システム|どちらも充実
公正証書遺言書は、遺言者が死亡した後、相続人などの関係人であれば、遺言検索システムによって、その存否等の照会が可能です。
検索システムというのは、「公正証書遺言書が作成されているか否かを公証役場で調べることができる」という意味です。
昭和時代に作成されたものであれば、当該公証役場においてのみ遺言の検索ができます(例えば新宿の公証役場で作成された遺言書の検索は他の公証役場では行えず新宿の公証役場でだけできるという意味です)。
平成時代以降に作成されたものであれば、コンピューターデータ化されているため、全国の公証役場を検索してもらうことができます。遺言検索は無料です。
相続人などが公証役場で遺言検索ができるのは、遺言者本人が死亡した後に限られます。生前においては例外なく認められません。公証役場が遺言の有無について電話で問い合わせに応じることも一切ありません。
公証役場で遺言検索をして、遺言があることが判明した場合、公正証書遺言書の原本を閲覧することもできます。公正証書遺言書の原本の閲覧は、1回あたり200円の手数料がかかります。もちろん閲覧も相続開始後に相続人などの関係者に限ってすることが認められます。
また、公正証書遺言書の謄本を発行してもらうこともできます。手数料は1枚当たり250円です。こちらも相続開始後に相続人などの関係者に限ってすることが認められます。
これに対して、自筆証書遺言の保管制度はどうでしょうか。
まず、遺言書が保管されているかどうかを検索することが可能です。手数料は1通800円かかりますが、「遺言書保管事実証明書」の交付を請求します。遺言者の死亡後に限って交付請求ができます。
制度上は、誰からも請求できるとはなっていますが、保管されている遺言書とは全く利害関係が無い方が請求した場合は、「(あなたに関係のある)遺言書は保管されていない」という証明書が発行されることになります。
自分に関係のある遺言書が保管されていることが判明した場合、遺言書の原本を閲覧することもできます。
遺言書が保管されている法務局で遺言書の現物を閲覧する場合は1回につき1700円の手数料がかかります。遺言書が保管されている法務局が遠方等の場合は、最寄りの法務局でタブレットなどの端末上で遺言書の原本(遺言書の画像データ)を閲覧することもできます。
これを「モニターによる閲覧」と呼んで、1回1400円の手数料がかかります。いずれの閲覧も相続開始後に相続人などの関係者に限ってすることが認められます。
また、保管されている遺言書の公的な写しのような書面として「遺言書情報証明書」を発行してもらうことも可能です。実際の相続手続き(相続登記や預貯金の解約等)などでは、こちらの書面を使用して行うことになります。相続開始後に相続人などの関係者に限って発行が認められます。手数料は1通1400円です。
このように、両者を比較してみてもどちらが優位とは言えません。検索、閲覧、謄本等の交付、どちらも同じような制度になっています。
そして、すでに上記に掲げた通り、公正証書遺言書も自筆証書遺言の保管制度も、遺言者本人が存命中に相続人等からの問い合わせに応じることはありませんし、そのような手続き(法)も存在しません。
たとえば「父が遺言書を残しているかどうか調べたい」となっても、まだ相続が発生していなければ、公証役場も法務局もその問い合わせには一切応じることはありませんので改めてご注意ください。
8、検認|これが一番のメリットと言えるかもしれない
原則として、公正証書遺言書以外の遺言書(つまり自筆証書遺言を指します)の保管者は、相続の開始を知った後は、遅滞なく家庭裁判所に遺言書を提出して、その検認を請求しなければなりません(民法1004条)。
検認手続は、遺言の有効無効を判断するのではなく、遺言書の存在を裁判所で明らかにすることにより、以後の偽造や変造を防止するための手続きです。裁判所に対する手続きですから、手間がかかります。
しかし自筆証書遺言の保管制度を利用した場合は、法務局が遺言書を保管しているため、偽造・変造のおそれはありませんから、検認手続きは不要になります。
検認が不要という理由で、自筆証書遺言の保管制度を利用する方は増えるかもしれません。なぜなら検認手続きは相続人にとって手間で費用も掛かる手続きであるからです。
なお、公正証書遺言書は、公証役場で遺言書を保管しているため、偽造・変造のおそれは無いことから、検認手続きは一切不要です。
つまり、自筆証書遺言の保管制度も公正証書遺言書もどちらも家庭裁判所の検認の手続きは必要ありません。したがって、この点もどちらが優位とは言えません。
9、紛争の防止|意思確認は公正証書に勝るものはない
自筆証書遺言の保管制度は、自筆証書遺言書を単に保管するための制度でしかなく、自筆証書遺言書の内容の正確性や、遺言者の遺言能力を担保するものではありません。したがって、これらの点に関して後日紛争が生じる可能性は否定できません。
自筆遺言書を預かる法務局では、預かる際に次の点の確認をすると説明されています。
- 遺言書が民法第968条の定める方式に適合しているかの外形的な確認
- 遺言書を自署したかどうかの確認
- 本人であることの確認
これに対して公正証書遺言書は、公証人との事前打合せにより公証人が作成すること、証人の立会が必要な事(その後の証言も得られやすい)など総合的に見ると、かなりの確率で紛争の防止に役立つとみていいでしょう。
また公正証書遺言では作成時に公証人が本人に遺言の趣旨を口述させて、意思を確認します。意思の確認というのは、遺言の内容について1つ1つ「これでよいか?」という確認をするという意味です。
確かに、自筆証書遺言の保管制度でも、本人確認は行われますが(保管法5条)、遺言の内容の1つ1つについて「これでよいか?」という確認はされません。自筆遺言書の内容について法務局は一切アドバイスはしないと事前に告知しています。
法務局は遺言書に名前や日付が記載されているかなどの形式的な確認を行うだけです。
確かに、公正証書遺言書における本人の意思確認が完全なものかというと、本人の遺言能力について争われた裁判例もありますから、必ずしも完璧なものとは言えません。
しかし、一般論として言えば、相続開始後の紛争の防止に役立つのは、公正証書遺言書であると考えます。ですから、この点については公正証書遺言書が優位と判定します。
10、「相続開始の通知」の制度|保管制度ならではのサービス
自筆証書遺言の保管制度では、法務局による通知の制度があります。相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知をします(法務局における遺言書の保管等に関する法律第9条第5項)。この通知を「関係遺言書保管通知」と言います。これは、相続をめぐる紛争を防止する観点から設けられた法的サービスであるとされています。
しかし、この「関係遺言書保管通知」は、関係者が遺言書の閲覧等をしなければ、仮に相続が開始した(遺言者本人が死亡した)としても送付されません。その意味ではやや不完全なサービスと言わざる得ません。
そこで、「関係遺言書保管通知」を補うものとしてもう1種類の通知サービスがあります。それが「死亡時の通知」と呼ばれるものです。自筆証書遺言の保管制度では、遺言書の保管の申請の時に「死亡時通知の申出」をすることができます(義務ではなく任意です)。
この申出をしておくと、遺言者が死亡したときに、法務局から、あらかじめ指定しておいた相続人、受遺者、遺言執行者などのうち1名のみに対して、遺言書が保管されている旨の通知をします(遺言書保管事務取扱手続準則第19条)。
1名しか指定できませんが、遺言書が保管されている旨をどうしても伝えたい人を予め指定して置けば、本人の死後に法務局からその方に宛てて自動的に通知を発送してもらえます。大変便利なサービスです。しかし、「死亡時通知」については、令和3年度以降頃から運用を開始するようで、自筆証書遺言保管制度のスタートと同時には運用されませんので注意が必要です。
これに対して、公正証書遺言書については、このような通知の制度は現在のところありません。公証役場が相続開始後に相続人等に対して、公正証書遺言書が作成・保管されていることを通知することはありません。
このように比較するとどちらが優位と言えるのでしょうか。「相続開始の通知」の制度が用意されているという点から考えると、自筆証書遺言の保管制度の方が優れていると言えます。
つまり、遺言者本人が死亡した後に、誰かが相続手続きに着手すれば、その旨が他の相続人等にも通知されることにより明らかになるわけですから、明瞭で公平な相続手続きが期待できます。
一方、公正証書遺言書では通知制度は存在しないため、相続人の全員が遺言書の存在を知らないままに、相続手続きが進められてしまう可能性があります。
他の相続人に知られることなく迅速に相続手続きを済ませてしまいたいという場合には一定のメリットはあるかもしれませんが、公平性に欠けることもあり、法律知識がない方が遺言の執行(名義変更などの財産の承継手続きのこと)を行った場合、トラブルになる可能性もあります。
なお、自筆証書遺言の保管制度も公正証書遺言書も、遺言書の存在を隠して秘密に遺言の執行を行うと、相続人等の資格を失うこともありますから、十分に注意が必要です。この点は別のページで詳しく説明しています。
■【司法書士監修】相続開始後、遺言書を全員に見せる必要があるのか?
まとめ|比較の表
以上、10つの視点から自筆証書遺言の保管制度と公正証書遺言書を比較しました。表にまとめると次のようになります。
自筆証書遺言の保管制度 | 優位性 | 公正証書遺言書 | |
1.費用 | 3,900円 *その他の保管料は不要 |
> | 数万円(遺産の金額による) *その他の保管料は不要 |
2.手間 | 自分で書いて預けるだけ | > | 必要書類の収集や公証人との打ち合わせが必要 |
3.本人が出向けない場合 | 出張サービスなし | < | 出張サービスあり |
4.場所 | 住所地・本籍地等の特定の法務局 | = | 公証役場ならどこでも |
5.安全性 | 法務局で保管 | = | 公証役場で保管 |
6.保管期間 | 死後50年(コンピューターデータは150年) | = | 半永久的(実務上の取扱い) |
7.死後に遺言書の検索 | 可能 | = | 可能 |
8.検認 | 不要 | = | 不要 |
9.紛争の防止 | 必ずしも役立つとは言えない | < | 概ね役立つと言える |
10.相続開始の通知 | あり | > | なし |
自筆証書遺言の保管制度 | 優位性 | 公正証書遺言書 |
結果を要約すると以下のようになります。
- 比較した10項目中、5項目についてはどちらも同じとなりました。
- 「1.費用」「2.手間」「10.相続開始の通知」の3項目では、自筆証書遺言の保管制度が優位となりました。
- 「3.本人が出向けない場合」「8.紛争の防止」の2項目では、公正証書遺言書が優位になりました。
単純に優位となる項目数でいえば、自筆証書遺言の保管制度が勝ることがわかりました。しかし、遺言書を作る最大の目的や意味は、「8.紛争の防止」にあるわけですから、「8.紛争の防止」で勝っている公正証書遺言を選択するべきではないかとも思います。
遺言書を作る目的が、紛争の防止にあるのではなく、単に手続きに明るくない相続人が困ることのないように、等であれば、自筆証書遺言の保管制度の利用を検討しても良いでしょう。
ちなみに、法務省のパンフレットには「どちらを選ぶべきかはご本人の判断ですので法務局ではお答えできません」と告知しています。
結局、保管制度を利用すべきなのか公正証書遺言書を作るべきなのか?
自筆証書遺言の保管制度が始まったことにより、従来の問題点である「どこに保管されているかわからない」「偽造・変造のおそれがある」については解消されたとみてよいでしょう。しかし、上記で検討したように「紛争の防止」という観点からは、公正証書遺言の作成を推奨します。
保管制度は、遺言者自身による自筆証書遺言の存在を確保できるだけにすぎません。ですから、自筆証書遺言の内容の有効性が争われた場合にはこれを回避することは困難です。なぜなら、証人もいませんし、内容についての意思確認もされないからです。
遺言を作る目的の1つとしては、相続発生後の紛争を予防することにあると思います。確かに保管制度は、費用もほとんどかからず、手間もかかりませんから、時間も費用も節約したい方にとっては利用しやすい制度かもしれません。
しかし、「紛争の防止」に役立たない遺言書を残しても、残された相続人が迷惑なだけではないでしょうか。実際、紛争の防止に役立たない遺言書を残された相続人からのご相談数は年々増加しています。
これから遺言書の作成を検討する方は、遺言を作る目的を見失わず、広い視野に立って考えていただきたいと思います。それを踏まえたうえで、特に費用面の問題からどうしても保管制度を利用したいという場合は、次のやりかたをお勧めします。
2、その上で自筆証書遺言の保管制度を利用する
当事務所でも、業務上、故人が遺した自筆の遺言書を拝見する機会が頻繁にあります。その内、形式的にも内容的にも一切問題が無く、かつ紛争の防止にも役立っていると考えられる自筆遺言書は、残念ながらごくわずかです。
例えば、問題がある自筆の遺言書としては次のようなものがあります。
2、有効要件は充足しているものの内容が不明瞭(または支離滅裂)で、相続手続きでは使えないようなもの
3、確かに要件は整っているが、特定の相続人の遺留分を侵害している等、遺言があることにより別の問題を発生させているもの
4、これら以外でも相続人や私たち専門家を悩ませるようなもの(判例や先例もなく解釈が難しいもの)
ですから、自筆証書遺言の保管制度を利用するのであれば、作成した遺言書を法務局に預ける前に、専門家にチェックしてもらうのが良いでしょう。
これにより法的にも問題のない遺言書を作ることができ、かつ、それを法務局に保管することにより、公正証書遺言と同等とは言えませんが、より近い形で希望を実現できます。
自分がどのタイプかによって選択すべき方法は異なります
遺言を作る目的は人それぞれであると思います。次に、目的別にどのような作成方法が推奨されるか、表にまとめてみました。これから遺言を作成しようと検討されている方のヒントになれば幸いです(参考程度にお考え下さい)。
作成の目的など | 推奨される作成方法 | |
1 |
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自筆証書遺言→書籍等を参考に自分で作成して適切な場所に保管して下さい |
2 |
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自筆証書遺言の保管制度→法務局へご相談ください |
3 |
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自筆証書遺言の保管制度サポート→当事務所にご相談ください |
4 |
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公正証書遺言→お近くの公証役場にご相談ください |
5 |
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公正証書遺言の作成サポート→当事務所にご相談ください |
なお、このページの内容について朝日新聞(箱谷真司記者)より電話取材を受け、令和2年6月28日付朝日新聞デジタル「手書きの遺言 法務局で保管へ」記事中に当職のコメントが掲載されています。
■手書きの遺言、法務局で保管へ 7月10日から|朝日新聞デジタル
ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一 右|司法書士 齋藤遊
当事務所の遺言書作成サポートサービス
当事務所では、遺言者ご本人の希望等によって、「公正証書遺言の作成」と「自筆証書遺言の保管制度の利用」のどちらにも対応できるサービスをご用意しています。
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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。
このページでは、「自筆証書遺言の保管制度と公正証書遺言はどちらがいいのか比較してみた」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、まさに今あなたが困っていることについて、知っておくべきことを解説しました。
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家庭裁判所「後見人・後見監督人候補者名簿」に登載済み
公益財団法人東京都中小企業振興公社「ワンストップ総合相談窓口」相談員
公益財団法人東京都中小企業振興公社「専門家派遣事業支援専門家」登録