自筆証書遺言の保管制度と公正証書遺言はどちらがいいのか比較してみた

40年ぶりの相続法改正。従来の規定が変更されたり、新しい制度が創設されたりしました。なかでも、「自筆証書遺言の保管制度」は注目を集めている新しい制度です(実際に制度がスタートするのは令和2年7月10日から)。

自筆証書遺言書の保管制度では、法務局が遺言書を保管することになるため安全性はとても高いです。そこで今回は、同じく安全性が高いとされる公正証書遺言書と比較して、結局どちらによるべきか?を考察してみたいと思います。

自筆証書遺言の保管制度 VS 公正証書遺言書

では、新しくスタートする自筆証書遺言の保管制度と、従来からある公正証書遺言を、専門家の視点から8つの項目で比較してみます。

1、費用

これが一番気になります。公正証書遺言書を公証役場で作成する場合、公証人に支払うべき手数料はいくらでしょうか。こちらに詳しい記事を書いています。

公正証書で遺言書を作るといくらかかるか計算してみた

財産(遺産)の金額によって変動しますが、財産1億円で約60000円程度です。しかし、この金額は本人が遺言の内容を考えて、自分で公証人に頼んだ場合の金額です。

司法書士や弁護士にサポートを依頼した場合(遺言の文案作成や公証人との打ち合わせ等)は、その報酬も要しますので、実際にはもう少しかかるでしょう。

これに対して、自筆証書遺言の保管制度は、遺言書を保管する法務局に手数料を払うことになります。手数料は収入印紙で納付することになります。ではその手数料はいくらでしょうか?

実はまだ保管手数料についての定めは決定していません。ウワサでは数千円ではないかと言われていますが、詳細が決定しましたら記事にしたいと思いますので、是非新着記事をチェックして下さい。

いずれにしても、保管料が数万円という事は考えにくいので、金額だけで比較すれば自筆証書遺言の保管制度に軍配が上がりそうです。

2、手間

公正証書遺言書は公証役場で公証人に作成してもらいます。事前に用意すべき書類もありますし、事前に公証人と打合せをする必要があります。また、証人2名以上を立ち会わせなければならないので、かなりの手間と言えるでしょう。

これに対して、自筆証書遺言の保管制度ですが、自ら作成した自筆の遺言書を法務局に持ち込むだけです。ただし、申請書を作成して、添付書類と本人確認書類が必要です。これらは事前に準備することになるので完全に手間いらず、とまでは言えないでしょう。

しかし、証人の立会は不要ですし、公正証書遺言書ほどに事前に準備しなければならない書類も少ないので、自筆証書遺言の保管制度に軍配が上がります。

3、本人が出向けない場合

公正証書遺言は公証役場で作成するのが原則です。しかし、本人が病気等の事情で公証役場に出向くことができない場合は、出張料を支払ったうえで公証人に出張してもらうことができます。

これに対して、自筆証書遺言の保管制度では、必ず本人が法務局に出向く必要があります。本人が出向くことができない場合に、法務局の担当者に出張してもらうことはできません。また、代理人に預けて代理人が本人に代わって法務局に保管することもできません。

自筆証書遺言の保管制度も公正証書遺言も、必ず本人が手続きを行う点は同じです。しかし、出張を依頼できるかを比較すると、公正証書遺言書の方が優れていることが分かります。

4、場所

公正証書遺言書は、公証役場で作成する遺言書ですが、どの公証役場で作成しても構いません。

これに対して、自筆証書遺言の保管制度は法務局に遺言書を預けるわけですが、預けることができる法務局には決まりがあります。次の3つから選択できます。

  1. 遺言者の住所地を管轄する法務局
  2. 遺言者の本籍地を管轄する法務局
  3. 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局

通常は、「1」でしょう。ところで公正証書遺言書もわざわざ遠くの公証役場で作成することはないと思いますから、この点はどちらが優位とは言えません。

5、安全性

公正証書遺言書は公証役場で保管します。自筆証書遺言の保管制度は法務局で保管します。どちらも安全です。公的機関で保管してもらえるという事は、第三者による偽造、紛失、盗難を防止できるというメリットがあります。この点もどちらが優位とは言えません。

6、検索システム

公正証書遺言書は、平成元年以降に作成されたものであれば、遺言者が死亡した後、一定の者から、遺言検索システムによって、その存否等の照会が可能です。

これに対して、自筆証書遺言の保管制度も、遺言者の死亡後に「遺言書情報証明書」の交付請求ができます(保管法9条)。こちらを請求すれば遺言書の画像情報も確認できます。

これは実際に遺言書を預けている法務局以外の法務局に対しても交付請求ができるとなっているので(保管法9条)、法務局が保管している遺言書情報はオンラインで共有されているのでしょう。

さらに、単に遺言書が保管されているか否かだけを調査するための請求もできます(「遺言書保管事実証明書」保管法10条)。ということは、この点もどちらが優位とは言えません。

7、検認

公正証書遺言書以外の遺言書の保管者は、相続の開始を知った後は、遅滞なく家庭裁判所に遺言書を提出して、その検認を請求しなければなりません(民法1004条)。検認手続は、遺言の有効無効を判断するのではなく、遺言書の存在を裁判所で明らかにすることにより、偽造や変造を防止するための手続きです。

公正証書遺言書は、公証役場で遺言書を保管しているため、偽造・変造のおそれはないため、検認手続きを行うことは不要です。

反対に、自筆証書遺言は原則的に検認手続が必要です。しかし自筆証書遺言の保管制度を利用した場合は、法務局が遺言書を保管することになるため、偽造・変造のおそれはなくなりますから、検認が不要になります。

検認が不要という理由で、自筆証書遺言の保管制度を利用する方も増えるかもしれません。したがって、この点もどちらが優位とは言えません。

8、紛争の防止

自筆証書遺言の保管制度は、自筆証書遺言書を単に保管するための制度でしかなく、自筆証書遺言書の内容の正確性や、遺言者の遺言能力を担保するものではありません。したがって、これらの点に関して後日紛争が生じる可能性は否定できません。

それに対して公正証書遺言書は、公証人との事前打合せにより公証人が作成すること、証人の立会が必要な事(その後の証言も得られやすい)など総合的に見ると、かなりの確率で紛争の防止に役立つとみていいでしょう。

公正証書遺言ではその作成時に公証人が本人の意思を確認します。意思の確認というのは、遺言の内容について1つ1つ「これでよいか?」という確認をするという意味です。

これに対して自筆証書遺言の保管制度では、本人確認は行われますが(保管法5条)、意思の確認まではされません。

確かに、公正証書遺言書における本人の意思確認が完全なものかというと、本人の遺言能力について争われた裁判例もありますから、必ずしも完璧なものとは言えません。

しかし、一般論として言えば、相続開始後の紛争の防止に役立つのは、公正証書遺言書といえます。

まとめ|比較の表

以上、8つの観点から自筆証書遺言の保管制度と公正証書遺言書を比較しました。表にまとめると次のようになります。

自筆証書遺言の保管制度優位性公正証書遺言書
1.費用未定(数千円か?)数万円(遺産の金額による)
2.手間自分で書いて預けるだけ必要書類の収集や公証人との打ち合わせが必要
3.本人が出向けない場合出張サービスなし出張サービスあり
4.場所住所地・本籍地等の法務局公証役場ならどこでも
5.安全性法務局で保管公証役場で保管
6.検索システムありあり
7.検認不要不要
8.紛争の防止必ずしも役立つとは言えない概ね役立つと言える

比較した8項目中、4項目についてはどちらも同じとなりました。「1.費用」「2.手間」では自筆証書遺言の保管制度が優位となりました。「3.本人が出向けない場合」「8.紛争の防止」では公正証書遺言書が優位になりました。

なお、自筆証書遺言の保管制度の詳しい記事は、こちらにもあります。もしよろしければあわせてお読みください。

司法書士監修|自筆証書遺言の保管制度のすべて
https://www.office-kon-saitou.com/biz2

相続法の改正|自筆遺言書の保管制度の創設

結局、保管制度を利用すべきなのか公正証書遺言書を作るべきなのか?

自筆証書遺言の保管制度が始まるのは、令和2年7月10日からです。従って、現時点でより安心な遺言書を求めるのであれば、公正証書遺言書を作成するしかありません。

自筆証書遺言の保管制度が始まれば、この制度の利用も十分検討に値しますが、上記で検討したように「紛争の防止」という観点からは、公正証書遺言の作成を推奨します。

保管制度は、遺言者の自筆証書遺言の存在を確保できるだけにすぎません。ですから、自筆証書遺言の内容の有効性が争われた場合にはこれを回避することは困難です。

遺言を作る目的の1つとしては、相続発生後の紛争を予防することにあると思います。確かに保管制度は、費用もほとんどかからず、手間もかかりませんから、時間も費用も節約したい方にとっては願ってもない制度かもしれません。

しかし、「紛争の防止」に役立たない遺言書を残しても、残された相続人が迷惑なだけです。これから遺言書の作成を検討する方は、遺言を作る目的を見失わず、広い視野に立って考えていただきたいと思います。

それを踏まえたうえで、特に費用面の問題からどうしても保管制度を利用したいという場合は、次のやりかたをお勧めします。

1、自筆の遺言書内容を、専門家にチェックしてもらう
2、その上で自筆証書遺言の保管制度を利用する

当事務所でも、業務上、故人が遺した自筆の遺言書を拝見する機会が頻繁にあります。その内、形式的にも内容的も一切問題が無く、かつ紛争の防止にも役立っていると考えられる自筆遺言書は、ごくわずかです。

そもそも法律が定める遺言の形式的な有効要件を充たしていないものや、有効要件は充足しているものの内容が不明瞭(または支離滅裂)で、相続手続きでは使えないようなもの、あるいは、確かに要件は整っているけれども特定の相続人の遺留分を侵害している等、遺言があることにより別の問題を勃発させているもの等々、相続人や私たち専門家を悩ませるようなものが数多くあります。

ですから、自筆証書遺言の保管制度を利用するのであれば、作成した遺言書を法務局に預ける前に、専門家にチェックしてもらうのが良いでしょう(当事務所では税別20,000円~で承っています)。

これにより法的にも問題のない遺言書を作ることができ、かつ、それを法務局に保管することにより、公正証書遺言と同等とは言えませんが、より近い形でご希望を実現できます。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。

このページでは、「自筆証書遺言の保管制度と公正証書遺言はどちらがいいのか比較してみた」についてお話ししました。

どちらも一長一短ですから、ご自身の都合に合わせて、そしてできれば専門家のアドバイスも踏まえたうえで決定されてみたらいかがでしょうか。

遺言の作成手続や、費用はいくら位かかるのか、どの位の期間で完了するのか、様々な疑問があることと思います。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。

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