遺言で遺産を相続した後、遺留分を請求された時の対応マニュアル

2023年11月8日

タブレットを持つ女性
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「遺留分の請求をしますのでお金を払ってください」。相続手続きも無事に終了したと思った矢先に、このような手紙が来たらだれでも驚くことでしょう。

自分は遺言書に書いてある通りに遺産を相続しただけなのに、後日、他の相続人から遺留分を請求されて、対応に困っている方も多いのではないでしょうか。遺言書と遺留分ではどちらが法律的に優先するのでしょうか。

このページでは「遺言で遺産を相続した後、遺留分を請求された時の対応マニュアル」を20年の実績を有する相続専門司法書士の立場で考察してみました。

おおよその遺留分の計算方法や、遺留分請求があった場合の対処法など、事態を悪化させないための対処法をまとめました。あなたは間違った方法をとっていませんか?

当事務所に寄せられた実際の相談事例をもとにわかりやすく解説します。

【相談】遺言で全部相続した後、姉からお金を請求された

次のような相談がありました。

【相続後、姉からお金を請求されて困っています】
亡くなった父が公正証書の遺言を残しており、遺言書の内容通りに自分が遺産を全部相続しました。

その後しばらくたってその事を知った姉からお金を請求されました。支払わないといけないでしょうか?

【回答】支払う必要があります。

この相談について次のように回答しました。

【原則として支払う必要があります】
「姉からのお金の請求」とはおそらく遺留分の請求だと思われます。遺留分とは法律上認められた権利ですから、請求をされたら支払う必要があります。

支払わないでいると裁判を起こされる可能性もあります。そうならないためにも、支払う金額については当事者同士でよく話し合う必要があります。

遺留分の計算は難しいものがあり、話し合いが進まない場合には双方代理人(弁護士)を選任して、代理人に交渉してもらうことになるでしょう。

この相談のポイントとは

この相談のポイントは次の通りです。

  1. 遺言と遺留分はどちらが優先するのか?
  2. 遺留分はいくら請求されるのか?
  3. 遺留分を支払わないとどうなるのか?請求への対応のコツ
  4. 遺留分を支払う必要がない場合はあるのか?

では順に検討していきたいと思います。他の相続人から遺留分の請求があった場合のマニュアルとして活用してください。

遺言と遺留分はどちらが優先するのか?

まず、相談事例では公正証書による遺言書があるという事ですから、その内容について有効無効が争われる可能性はほとんどないと言っていいでしょう。

これがもし自筆証書遺言であれば「本人の筆跡か?」とか「遺言書を書いた当時の意思能力は?」など争いに発展することも少なくありません。公正証書による遺言書があるというだけで、相談者の方はかなり優位にあると言えます。

遺留分を無視した内容でも遺言書は有効

そして、遺言書があれば、仮にその内容が他の相続人の遺留分を無視したものであっても有効です。他の相続人の遺留分を奪うような内容であっても決して遺言が無効になることはありません。ですから、相談者の方は遺言の内容通りに遺産を全て相続できます。

また、遺言で相談者の方に全部相続させると書いてある以上、相続人による遺産分けの話し合い(遺産分割協議)は不要です。仮に他の相続人から遺産分割協議をしたいという申し入れがあっても、それに応じる義務はありません。

しかし遺留分は法律上認められた権利

確かに、他の相続人の遺留分を奪うような内容の遺言書も有効です。しかし、遺留分とは相続人に法律上認められた最低限の相続分ですから、この権利も保護されるべきものです。

この点、法律上はどのように解釈するかと言いますと「他の相続人の遺留分を無視した遺言も有効だが、あとから遺留分の請求を受けるのはやむを得ない」と考えていきます。わかりやすくまとめると次のようになります。

Q「遺言と遺留分はどちらが優先するのか?」
A「いったんは遺言書が優先するがその後遺留分の請求があれば応じるしかない」

遺留分はどのくらい請求されるのか?

法律上遺留分は割合で規定されています。相談事例の場合、相続人が相談者の方と姉の2名しかいないとすると、遺留分は4分の1となります。原則として、法定相続分をさらに2分の1にした割合が、遺留分割合と覚えておくと良いでしょう。

さて、今回のケースですが大雑把に言えば、相続した遺産の4分の1にあたる金額を請求されることになります。たとえば相続した遺産が4000万円とすると、遺留分として1000万円の支払いを請求されます。

ただし、遺留分の正確な算定方法は複雑で、一般の方には難しいものがあります。そもそも「遺産」の中に何を含めて何を含めないのかという問題があります。

たとえば生前贈与があった場合に、その金額を遺産の金額に含めて良いのか否かということです。ほかにも、故人に債務があった場合に、これをどのように扱うか等。一応法律上の規定としては、民法第1043条~1046条にもとづいて算出することになります。

遺留分を払わないとどうなるか?請求への対応のコツ

相談事例のように他の相続人から遺留分の請求を受けた場合、原則として直ちに支払う義務を負います。ただし、支払うためのお金をすぐに準備できない場合、支払いが遅れるだけ遅延利息が生じますから、請求を受けた方は不利益を受けます。

このような問題を考慮して、請求を受けた相続人は裁判所へ請求することにより、支払い時期を遅らせてもらえるようにすることもできます(「期限の許与」と言います)。裁判所で手続きをする必要があるので手間はかかります。

いずれにしても、遺留分は請求されれば支払い義務が生じますから、支払わなければ相手から裁判を起こされる可能性もあり、無駄な費用と時間がかかるだけということになります。しかも遺留分の請求が法律的に正しいものであれば、勝訴する見込みのない裁判です。

遺留分を請求された時の対応のコツ

今回の相談事例は「姉からお金を請求されました」とあるだけですから、まだ裁判は起こされていないのでしょう。そもそも遺留分の請求は、必ずしも相手を訴えて請求する必要はありません。

ほとんどの場合は、口頭や郵便などでまずは遺留分の請求がされます。ただし、口頭で遺留分を請求しても後々証拠が残らないので適切な方法とは言えず、手紙で請求するようなケースが多いでしょう。

これまでに説明したような内容を自分が知らなければ、「遺言で全部相続しただけなのにどうして相手にお金を支払わなければいけないのだ」と納得できないかもしれません。

しかし法律で決まっていることですから放置するわけにもいきません。

「納得できないから支払わない」という態度をするのは間違っています。相談事例のような場合は、遺留分の請求は正当なもので、支払わなければならない金額だからです。ですから、他の相続人から遺留分の請求を受けた場合は、それを素直に認めた上で「いくらならお互い納得できるか」を話し合っていくべきでしょう。

遺留分を支払う必要がない場合はあるのか?

遺留分を請求された以上はこれを支払う義務があるという事ですが、反対に、請求されても遺留分を支払わなくても良い場合は存在するのでしょうか。以下に2つ例を揚げます。

すでに遺留分請求権が時効によって消滅している場合

遺留分を請求する権利(遺留分侵害額請求権)は、その権利を行使しないで一定期間が経過すると時効によって消滅してしまいます。消滅する時期は以下の通りです(民法第1048条)。

【遺留分侵害額請求権の時効消滅】
①相続が開始し自分の遺留分が侵害される事実を知ったときから「1年」
または
②相続開始の時から「10年」
のどちらか早い方で時効消滅する。

相談事例の場合は、姉から請求があったのはいつか分かりませんが、すでに①の時期から1年以上経過していれば、請求権は時効消滅しており、支払いに応じる必要はないと言えるでしょう。ただし「自分の遺留分が侵害される事実を知ったとき」がいつなのかは争点になりそうです。

すでに高額の生前贈与を相手が受けている場合

上記で「正確な遺留分の算出は計算が難しい」と説明しましたが、たとえば相談事例で姉が生前に結婚資金や生計の資本として高額の生前贈与を受けていたような場合(法律上は「特別受益」と言います)は、姉はこれらを相続分の前渡しとして受け取っているものとして、遺言によっても遺留分は侵害されていないと計算できる場合もあります。

たとえば相談事例で、もし姉に1000万円の遺留分があるような場合でも、姉が特別受益として1000万円を生前に受け取っているのであれば、今回1000万円の遺留分の請求はできないという意味です(実際にはもっと厳密な計算が必要となります)。

つまり「遺言では何も相続する財産はなかったかもしれないが生前にたくさんもらっている」ようなケースでは、遺留分の主張が出来なくなる場合もあるという事です。正確な計算をしてみないと結論は出ない問題ですが、心当たりがある場合は注意が必要でしょう。

結局、遺留分を請求されたらどうすべきか?…

これまでの説明をまとめると…

  • 遺留分を無視した遺言書も有効
  • しかし遺留分は請求されたら支払い義務あり
  • ただし消滅時効や特別受益に注意

となります。

上記の「対応のコツ」でも解説しましたが、「納得できないから支払わない」という間違った態度を決して取らないことが重要です。遺留分を支払わなくてもよい例外を除いて(消滅時効や特別受益があるケース)、請求された以上支払い義務があるからです。

遺留分の計算は難しい為、すぐに代理人(弁護士)を探して任せてしまうという方法もあります。確かにそうすれば手間も時間も節約できますが、相当の費用の負担は覚悟しなければなりません。

もし、相手の相続人が代理人(弁護士)をまだ選任しないで遺留分の請求をしてきているのであれば、相手もなるべく費用をかけないで話し合いで解決したいと思っている証拠です。

そうであるなら、遺留分の計算自体が多少法律の規定通りのものでなかったとしても、当事者同士の解決によりそれ以上の費用削減のメリットを受けることができます。このように遺留分の問題は広い視野に立って考える必要があります。

いずれにしても、このページで解説したような事情があって、どのようにすべきか迷ったら、当事務所にご相談ください。自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。

このページでは、「遺言で遺産を相続した後、遺留分を請求された時の対応マニュアル」と題して、実際に当事務所に寄せられた相談を少しアレンジして紹介・解説しました。同じような問題で困っている方の参考になれば幸いです。

遺留分請求の問題を相続人同士の話し合いで解決できるのがお互いにとって一番いい方法であることは間違いありません。しかし、実際には遺留分の問題は裁判、あるいは双方の代理人(弁護士)同士の和解の方法で解決する場合がほとんどです。

ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。また当事務所には相続問題に強い提携の弁護士もいます。

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