【司法書士監修】相続登記が義務化されても◯◯登記で解決か?

いま政府は相続登記(相続が開始した場合に不動産の名義を故人から相続人へ変更する登記手続き)を国民に義務付ける法案の作成の準備に入ろうとしています。

この法案が国会で承認されれば、これまでのように相続登記を放置することは許されず、相続登記を回避するという選択肢はありえない事態となります。

しかし、正当な理由があって相続登記を直ちには行えないというケースも予想されます。現にそのような場合は多数存在します。ですから政府は、相続登記とは異なる新たな登記の創設も検討しているようです。現時点(令和元年11月)でわかっている情報を解説します。

相続登記の義務化に向けての経緯

相続登記の義務化は、現時点(令和元年11月)では決定事項ではありません。そもそも相続登記の義務化は、政府が進める「所有者不明土地問題の解消に向けた取組」の一つとして位置づけられます。

不動産の登記簿に記録されている所有者と連絡が取れないことにより、公共事業の用地取得ができなくなったり、東日本大震災の復興の妨げとなったりしました。これを「所有者土地不明問題」というのですが、その最大の原因が相続登記の放置にあるとされています。

現在の法律では、不動産の所有者に相続が開始しても、相続登記を義務付ける法律はなく、もちろん罰則もありません。そしてそのことにより、相続人にさらなる相続が開始するなどして、最終的に相続登記が困難となってしまっているケースも少なくありません。

所有者不明の土地は、2016年で約410万ヘクタール(九州くらい)存在していて、このまま放置すれば2040年には約720万ヘクタール(北海道くらい)になると予想されています。これは国益を損ねる事態と考えられます。

そこで政府は、所有者土地不明問題を解決する取り組みに本腰を入れて取り組むことにしました。政府の具体的な取り組みは、内閣府法務省民事局の資料「所有者不明土地問題の解消に向けた取組」(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/291128/pdf/shiryou5-1.pdf)をご覧ください。

その後、法学者・最高裁判所職員・法務省職員などを構成員とする「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」(座長:早稲田大学山野目章夫教授)を発足させ、相続登記を国民に義務付けることが法律上可能かどうかを議論してきました。

この研究会は平成29年10月から平成31年2月にかけて開催されて、2019年2月に最終報告書をまとめました。かなり詳細に議論・報告がされていますので、「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」の最終報告書のリンクを貼っておきます。

「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究報告書~所有者不明土地問題の解決に向けて~(https://www.kinzai.or.jp/specialty/registration.html)」

さらに、2019年3月から法務省による「法制審議会民法・不動産登記法部会(部会長:早稲田大学山野目章夫教授)」の会議がこれまで10回にわたり開催されてきました。令和元年11月19日に開かれた第10回会議では、相続登記の義務化について、さらに話し合いが持たれたようです。

「相続登記の登録免許税が0円になる法」は相続登記の義務化に向けての伏線

平成30年度の税制改革により、相続による土地の所有権の移転登記について、本来納めなければならない登録免許税が、期限付きで免税となる措置が定められました(租税特別措置法第84条の2の3)。

これは、令和3年3月31日までに相続登記の「申請」をすれば免税になるという措置です。免税措置が受けられるケースは2つだけで、かなり特殊なケースに限って適用が受けられます。

この法律の詳しい内容については、別の記事がありますのでもしよろしければお読みください。
【2019年最新版】相続登記の登録免許税の免税措置はいつまで?

【2019年最新版】相続登記の登録免許税の免税措置はいつまで?

この制度は、一定の条件を満たす相続登記の登録免許税を免除することにより、相続登記を促進し、長期間相続登記が未了である土地に関する問題を解消することにあると説明されています。

つまり、政府は、本来徴収できる税金(登録免許税)を0円にしてでも、所有者不明土地問題を解決する姿勢でいて、これは相続登記の義務化に向けての伏線であるとも考えられます。

相続登記の義務化についてわかっていることと問題点

上に挙げたように、相続登記の義務化は、現時点(令和元年)では決定事項ではありません。しかし、これまでの経緯を観察すると、かなり高い確率で現実化すると思われます。

そして、公開されている法令審議会の資料などから、次のようなことが話し合われていることがわかります。

相続登記の義務は誰にあるのか

不動産の所有者が死亡した場合、その不動産を相続により取得した相続人は、当該不動産について相続による所有権の移転の登記(相続登記)を申請しなければならない、と検討されています。

なお、相続の放棄をした者は、法律上、初めから相続人とはならなかったものとみなされるため、このような義務を負うことはありません。

そして、相続登記の申請義務を負う相続人は、「相続の開始を知っていること」「その不動産が遺産に含まれていることを知っていること」など、主観的な要件を満たしていることが要求されるでしょう。なぜなら、そのような事実を知らない者に不利益を課すのは、不可能を強いる結果となるからです。

また、相続登記の申請義務は、その不動産を相続により承継した者が負うのであり、権利を取得しない者にまで申請義務を課す必要はないでしょう。

さらに、相続が開始して遺産分割が必要であるにもかかわらず、これをしないケースにおいては、相続人の全員がその時点においては当該不動産を共同して承継していることになるため、各相続人がそれぞれ登記の申請義務を負うことになると解されます。

ただし、そもそも相続登記は相続人の中の1人から申請を行うことも可能であるため、一人がその義務を履行すれば、その他の者は義務を免れます。

いつまでに相続登記を行うのか

相続登記を行うべき期限について検討されています。現時点では、比較的短期間(例えば1年、2年、3年)とするか、より長期間(例えば5年、7年、10年)とするかは意見がまとまっていないようです。

あまり長い期間とすると、さらなる相続が発生するなどして、その間の所有者情報の把握に困難を生じさせるため適当ではないという問題があります。

その一方で、短い期間とすると、数次相続の場合など相続人の特定のために時間がかかる場合に義務を履行することができなくなるため、期間延長の申し立てを認めてはどうかという意見もあります。

相続登記を行わない場合に罰則はあるのか

相続登記の申請義務を負う相続人が、一定の期間内にその申請を行わなかったときは、一定の額の過料に処する旨の規律を設けることが検討されています。

過料の金額について、例えば10万円以下、5万円以下という意見があります。

不動産登記法は、表示に関する登記(不動産の物理的現況を公示する登記で例えば土地が○㎡であるとか建物が鉄筋コンクリート造であるとか)について、登記を怠った場合は10万円以下の過料に処する(不動産登記法第164条)としているので、これを参考にして引き続き検討するようです。

相続登記の義務化による問題点

相続登記の義務化することによる問題点は多く指摘されています。例えば罰則についてです。罰則は上にも挙げた通り、相続登記の申請義務があるにもかかわらず、その義務を履行しない相続人に対して適用されるように検討されています。

しかし、そもそもその相続人が登記申請義務を負う者であるか否かをどのように判断するのか、法務局(登記所)の登記官に判断できるのかは問題です。

すでに説明しましたが、相続人が登記申請義務を負う前提として、「主観的な要件」を満たしている必要があります。主観的な要件とは「相続の開始を知っていること」「その不動産が遺産に含まれていることを知っていること」等です。

ところが、現在の法律では登記官にそのような事実を調査する権限は与えられていません。表示に関する登記(不動産の物理的現況を公示する登記で例えば土地が○㎡であるとか建物が鉄筋コンクリート造であるとか)については、不動産登記法第29条で実体的な調査権限は認められているのですが、権利に関する登記(誰が所有者であるかとか誰が抵当権者であるかなど)には認められていません。

ですから、登記官が積極的に登記申請義務違反の事実を調査し、これを把握することは容易ではないでしょう。

また、もし過料の額が10万円、5万円程度の比較的安価であるとした場合、相続登記を行うために要する費用(登録免許税や司法書士に対する報酬等)と比較したうえで、なおあえて相続登記を放置しておくという者もあらわれるだろうと予想でき、どの程度まで実効性があるのか疑問視されます。

相続登記が義務化されても◯◯登記で解決か|新たな登記の新設

もし、相続登記が義務化され、期限までに手続きを行わないと罰則があると定められたら、期限までに間に合わない場合はどうすればよいのか、という別も問題も生じます。

法定相続分で相続登記をすると問題が…

例えば、期限までに遺産分割の協議(話し合い)が終わらないというケースが想定できます。この時に、とりあえず法定相続分での相続登記を強要してしまうと、その後に遺産分割が完了した時点で、その結果を登記に反映させるさらなる登記を申請しなければならなくなり、相続人は二重の負担を強いられることになります。

また、罰則適用を避けるため、共同相続人の一人からとりあえず法定相続分で相続登記がされてしまったとき、他の相続人について相続放棄がされていることを知らずに間違えて登記してしまうおそれなどもあります。

相続登記の「予備的になされる登記」の創設

そこで、このような問題に対応するため、最終的な相続登記は別途改めて行わさせることとして、とりあえずは、登記簿上の所有者に相続が発生したことと、その相続人である蓋然性の高い者を緊急避難的に登記させる「予備的になされる登記」の創設もあり得ることを示唆しています。政府の資料には「過渡的な権利関係を公示する登記」と記載されています。

一定の期限までに相続登記の申請を義務付けると、それまでには間に合わないというケースも多数生じることは明らかです。また、便宜的に法定相続分による相続登記をおこなった場合、それによりかえって当事者に余計な負担を課すことになるかもしれません。

そこで、期限内に相続登記ができないのであれば、期限内に「予備的になされる登記(過渡的な権利関係を公示する登記)」をすればよい、ということとして、相続登記の申請義務の実効性を確保しようというわけです。

「予備的になされる登記(過渡的な権利関係を公示する登記)」とは…

「予備的になされる登記(過渡的な権利関係を公示する登記)」は、所有権が移転したという旨を公示するものではなく、単に所有者が死亡しているということと、その相続人である蓋然性がある者を公示するというものであり、単なる報告的な登記にとどまるものです。

通常の相続登記のように、所有権が移転したことを対外的に主張できるようになるわけではなく、「登記簿上の所有者が亡くなった」という事実を知らせる意味しかありません。

そのような観点からは、この登記の申請に際して、法定相続人全員を調査して、これらを特定した上で申出をさせる必要はありませんし、持分を明らかにする必要もないでしょう。その意味で非常に簡易的な登記です。

例えば通常の相続登記の申請に際しては、被相続人(故人)の出生から死亡までの連続したすべての戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍などを提出する必要があるのですが、「予備的になされる登記(過渡的な権利関係を公示する登記)」では、そのような必要はないと考えられます。

「予備的になされる登記(過渡的な権利関係を公示する登記)」が本当に創設されるかどうかは分かりませんが、相続登記を義務付ける以上は、当事者の手続き的な負担を可能な限り軽減させる方策も同時に講ずるべき、と政府は考えています。

解決案|相続がもめそうだと予想されるなら…

このように、相続登記が義務化の方向へ向けて最終調整されるのは間違いないと感じます。しかし、改正法が施行されるのがいつになるかは分かりません。そして、「予備的になされる登記(過渡的な権利関係を公示する登記)」の実現化も未知数です。

もし、相続がまだ発生していない現時点で、将来の相続がもめそうで心配だという場合、いったい何をすればよいのでしょうか。

いまできる生前対策の1つとして、「遺言の作成」があります。遺言書の中で遺産の分割を指定しておけば、原則的にはその内容通りに財産は相続されます。

これにより、スムーズに期限内に相続登記を行うことができ、相続人が罰則の適用を受けることもなく、安心して遺産を承継させることができます。

なお、遺言が相続問題の解決に役立つのか、とか、遺言を作成するのにかかる費用、遺言作成の具体的な手続きなど、遺言の作成に関してよくあるご質問については、別の記事がありますのでもしよろしければお読みください。

【司法書士監修】自筆の遺言を作成することで安心か

遺言作成

いずれにしても、まずはこのような相続の問題(遺産の作成)に強い、相続専門の司法書士等の専門家に一度相談されることをおすすめします。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。

このページでは、「相続登記が義務化されても◯◯登記で解決か?」についてお話ししました。

国は、相続登記を義務化する方向で、最終的な法案作りに着手しようとしています。もし相続登記が義務となり、直ちに相続登記ができなくても、「予備的になされる登記(過渡的な権利関係を公示する登記)」が創設されれば、とりあえず問題は解決できそうではあります。

しかし、それは根本的な問題の解決にはならず、遺言の作成が有効であることはお分かりいただけたでしょうか。

遺言書の作成の手続きの流れや、遺言作成の費用はいくら位かかるのか、どの位の期間で完了するのか、他にも様々な疑問があることと思います。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。

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