【解決事例】高齢の単身者の病床での遺言作成と遺言執行

財産の多い少ないを問わず、高齢の単身者にとって、自分の遺産を誰に相続させるかは関心のあるところです。

今回の相続事案は「高齢の単身者の病床での遺言作成と遺言執行」。当事務所での実例です。なお、守秘義務違反となることを避けるために事案を特定されないようアレンジしています。文中の氏名・住所・日付等は架空です。

余命宣告を受けているので急いでほしいとの依頼

それは当事務所で毎週土曜日に行っている無料相談での依頼でした。
4人姉妹の次女(70代)より、長女(70代)が余命宣告を受けているので、急いで長女の公正証書遺言を作りたいというものでした。

長女は結婚歴はない独身者。現在、ガン治療の為、入院中。今のところ症状は安定しているが、医師の診断によると余命は1ヶ月程度。その為、長女に代わって、次女が相談に来たという事です。

長女の意思能力は正常で、会話もできる状態。長女の希望としては、遺産(不動産・預貯金・投資信託)は、すべて次女や、次女の子(長女からすると甥姪にあたる者)に相続させたい内容。

その理由を尋ねると、長女と次女は近所に住んでいることもあり、もっぱら姉妹の中で付き合いのあるのは次女のみであること。そして、病気になってからの世話なども次女や甥姪のみが行っているというものでした。

今後の手続の流れや、費用、当事務所で取り寄せができる書面と、依頼者側で用意してもらう書面を説明して、この日の相談は終わりました。

病床での遺言作成の注意点など

その後、次女を通じて正式に依頼を受けたため、遺言作成手続きに着手することになりました。今回の事例で注意した主な点は次の通りです。

意思確認を慎重にすること

遺言者本人は70代ですから、それほど高齢ではないものの、入院中という状況にある為、薬の副作用や、病気による意識障害の可能性を検討しなければなりません。

また、今回の遺言で利益を受ける次女を通じての依頼となるため、失礼な言い方にはなりますが、次女に操られていないか、という点も慎重に確認する必要があります。

その後、長女本人に会って確認したところ、もちろん次女に操られるなどと言うことは全くなく、自らの意思で遺言作成を思い立ったとのことでした。

他の兄弟には遺留分はないが…

長女の遺産を次女らに相続させても、他の姉妹には遺留分はありません。ですから、死後に、遺留分侵害額の請求をされることはありません。

しかし、「遺言は本人の意思に基づいて作られたものでは無い」とか、「病床にあって遺言など作れる状態ではなかったはずだ」など言われ、遺言無効確認の訴えを提起される恐れがあります。

今回は、近隣の公証人に依頼して、病院まで出張してもらうことで公正証書遺言を作成することになります。
ところが「公正証書で作成したから、その後、無効になることはないはずだ」と安心することはできません。

相手方が、上記の事実の証明に成功すれば、裁判所は、遺言作成当時、本人に遺言を残す能力はなかったと認定した上で、公正証書遺言を無効とすることもあるからです。

この点、次女によく説明しました。長女自筆の遺言内容のメモ等を証拠として残しておくようにアドバイスしました。

仮に裁判になった場合、自筆の遺言メモは、本人の意思能力を立証する有力な証拠の一つになるからです。

そもそも本当に子はいないのか?

公証人に提出する戸籍は、遺言者の出生に遡るまでのものは原則的に不要です。つまり、長女に本当に子供がいないかどうかまでは確認せず、本人の申告通りの内容の遺言を作成する、というのが公証人のスタンスです。

しかし、私たち専門家はそれではいけません。確かに次女の言う通り、長女は結婚歴はないかもしれませんが、次女の知らないところで、養子縁組をしている可能性もあるからです。

もし、長女に子供がいるとなれば、せっかく作った遺言も無駄なものとなってしまうのです。
この点も依頼者に説明して、調査の時間を頂きました(結局子供はいませんでした)。

遺言執行者を誰にするか

改正相続法では、遺言執行者の地位が強化されたこともあり、誰を遺言執行者に選ぶかという事はより重要な問題となったと言えます。

依頼者は、遺言執行者については初めて知ったようでした。
そこで、遺言執行者の役目や、遺言執行者は相続人や受遺者でもなれることを伝えて、結局、次女を指定することになりました。

遺言書案の作成

通常、遺言書案の作成は、相続人の調査と、相続税対策の相談も並行して行っていくため、少なくとも2~3週間程度の時間をかけて完成させていきます。

こちらの事例も、本人が余命宣告を受けてはいましたが、症状も安定しているという事で、完成まで1か月のスケジュールを了解のもと進めていました。

しかし、ある日突然次女から「この1週間が山なのですぐに作ってください」との電話がありました。

この時点ではまだ相続人の調査も終わっておらず、不安材料は残っていましたが、本人の了解を得た上で作成に踏み切りました。

難航したのが公証人の出張手配です。どの公証役場も受付事務員の段階で「早くて2週間後なので急な出張は無理です」という回答。

ところが最後に電話した公証役場は、受付事務員が事情を察してくれて、公証人へ電話をつないでくれました。

公証人です。お急ぎのようですね。資料や遺言案はすでにありますか?
はい、本人の病状が急変したらしくとても急いでいます。資料はすべて揃っていて、本人の了解も得ています。
そうですか。後でFAX下さい。日程ですが、ちょうど1週間後が空いていますが…。
1週間後では間に合わない可能性があります。無理を言って申し訳ないのですが、もう少し早くならないでしょうか?

という、やり取りがあり、結局、2日後(!)に出張して頂けることになりました。この時の公証人の方には今でも感謝しています。

遺言書の作成

遺言作成当日。公正証書遺言の作成には、証人2名が必要となりますので、当事務所の司法書士2名が立会いました。

次女から緊急事態と聞いて、今回の急な日程調整となったわけですが、病室での長女を見て、私たちは思わず拍子抜けしました。とても健康そうなのです。

意思能力の確認が取れなければ、今回の話は流れてしまうと覚悟していたのですが、本人はいたって普通の様子です。

急がされた公証人は特にそれに触れることもなく、通常通りの進行で遺言を作成していました。

遺言作成は30分程度で終わり、公証人を見送ったところで、次女も同席し、しばし談笑。長女は「今回の遺言が作れなければ死んでも死にきれない」というようなことを言っていました。

私たちは「こんなに急ぐ必要があったのだろうか」と思いつつも、本人がとても嬉しそうだったので、役目を果たせたことに満足しました。

死亡の連絡|依頼の結果

遺言を作ってから、数か月後、次女より死亡の連絡が入りました。聞けば、遺言作成の2日後に亡くなったそうです(連絡が遅れたのは葬式や法事で忙しかったとのこと)。

やはり、いつもそばにいるからこそ、次女は具体的な死期が予想できたのでしょう。
「健康そう」とか「急ぐ必要があったのか」とか思ってしまった自分を反省しました。

本人の死亡により遺言の効力が生じますので、遺言執行者は執行手続きに着手しなければなりません。

改正相続法では、遺言執行者は相続人に対して通知義務(民法1007条2項)があります。今回の事例は、改正前の話なので通知をする必要は必ずしもありません。

しかし、改正前においても遺言書を隠すことは相続欠格事由(民法891条)となり、相続人の資格を失う可能性もある為、なるべく通知することを勧めました。

ちなみに相続欠格事由については、「相続人の資格がはく奪されるケースとは」という別の記事で詳しく説明していいますので、興味のある方はご一読ください。

相続人の資格がはく奪されるケースとは

ただ、どのように通知すればよいのかについて知識が無い為、手続きを依頼され、当事務所より他の相続人へ執行通知や財産目録等を郵送しました。また、相続手続きについても同時に依頼を受けました。

他の相続人からは特に遺言の内容について争うような連絡もなく、滞りなく相続手続きを終えることができました。

左|司法書士 齋藤遊 右|司法書士 今健一

依頼者からの声

途中でスケジュール変更があったものの、遺言案はすでにまとまっていたため、問題なく遺言を作ることができました。

また、遺言の執行についても、他の相続人から異論もなく、スムーズに執行できたのも幸いでした。万が一、遺言無効確認の訴えを提起されても良いように、事前の証拠等も揃えておいたので、大丈夫とは思っていましたが。

この度はとても早く遺言を作っていただきましてありがとうございました。故人も大変喜んで安心していました。以前母の遺言の作成を別の司法書士に依頼した際、対応がとても遅く、結局間に合わず、残念な思いをしたことがあります。今回は、ネットで調べて遺産相続専門とあったので、それを信じてお願いしました。こちらの思っていた以上のことをしてもらい大変感謝しています。

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。

このページでは、「高齢の単身者の病床での遺言作成と遺言執行」についてお話ししました。同じようなお悩みをお持ちですか?

遺言作成をこれから始めるにはどうすればよいのか、費用はいくら位かかるのか、様々な疑問があることと思います。専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。

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