【相談事例】不公平な遺言書が発覚|遺産の相続の進め方
遺産を相続できる割合は法律で決まっていますが、遺言書にこれと異なる割合が書かれていた場合、相続人としてはどのように対処すればよいのでしょうか。そもそも不公平な内容の遺言書は有効と言えるのでしょうか。
このページでは「不公平な遺言書が発見された場合、その後の遺産相続の進め方はどうすればよいのか?」を相続専門司法書士の立場で考察してみました。当事務所に寄せられた実際の相談事例をもとにわかりやすく解説します。
【相談】不公平な遺言書を発見、遺産相続の進め方は?
次のような相談がありました。
【回答】不公平でも遺言書が優先します。
この相談について次のように回答しました。
この相談のポイントとは
この相談のポイントは次の通りです。
- 不公平な内容の遺言書は有効か
- 不公平な内容の遺言書への対処方法(遺留分侵害額請求とは)
- 遺言書と異なる内容の遺産分割協議はできるのか?
- 不公平な遺言書による遺産相続の手続の進め方(遺言執行者の必要性)
では順に検討していきたいと思います。
不公平な内容の遺言書は有効か
まず、相談事例の遺言書の内容が不公平と言えるかどうかを検討してみます。父はまだ亡くなっておらず、相続は開始していませんが、とりあえずこの状態で相続が開始したものと仮定して検討します。
相談事例の遺言書の内容は不公平と言えるのか?
父の法律上の相続人は、配偶者である母、そしてその間の子が3人となります。法律上の相続分は配偶者である母が2分の1、残りの2分の1を子3人が均等に分けるため、各6分の1ずつとなります。では、相談事例の遺言書に書かれた内容と法定相続分を比較してみましょう。比較がしやすいように分母を通分しました。
法定相続分 | 遺言書の内容 | |
配偶者(母) | 24分の12(2分の1) | 24分の12(8分の4) |
長男 | 24分の4(6分の1) | 24分の6(8分の2) |
次男 | 24分の4(6分の1) | 24分の3(8分の1) |
三男 | 24分の4(6分の1) | 24分の3(8分の1) |
長男は法定相続分は24分の4であったところ、遺言書ではこれを超える割合である24分の6と指定されている為、24分の2だけ得をしています。一方、次男と三男は、本来法定相続分として24分の4を相続できるはずであったところ、遺言書ではこれを下回る24分の3と指定されている為、24分の1だけ損をする内容となっています。
相談事例の家系は「家長を重んじる傾向が強い」ようですが、父が死亡後、家長となる長男が相続において他の兄弟よりも多く相続できるという制度は現在の民法にはありません。ですから、相談事例の遺言書のように、長男が多く、次男・三男が少なく相続するという内容は不公平と言えます。
不公平な内容の遺言書でも有効
このように相談事例の遺言書の内容は兄弟間で不公平な内容となっています。しかし、明らかに相続人同士で不公平な内容が定められている遺言書であっても、法律上当然に無効となるものではありません。通常は、有効なものとして扱われ、そのまま相続手続きが行われます。
父が亡くなった後(相続開始後)に、遺言書の不公平な内容を争う手段はいくつかありますが、そのどれもが金銭的、時間的労力を費やすものですから、それを承知の上で余りある結果が得られるかどうかは難しいところです。
また、今回の相談事例のように、まだ相続が発生していない段階で不公平な内容の遺言書が発見されても、これを解消する法的に正当な手段というものはありません。つまり、もし父の存命のうちに法律的な方法で不公平を解消したいと思っても、その方法は無いという事です。
もしあるとすれば、遺言書を書いた父に頼んで公平な遺言書に書きなおしてもらうという事になります。しかし、もともと遺言書は本人の意思に基づいて作成されるべきものですから、果たしてそのような遺言書(頼まれて書いた遺言書)が有効なのかという別の問題が生じることは否めません。
不公平な内容の遺言書への対処方法
相談事例のように、不公平な内容の遺言書が発見された場合、これを争う方法として代表的なものは次の2つの方法となります。
- 遺言無効確認の訴えを起こす
- 遺留分減殺額請求をする(遺留分減殺請求)
それでは順に解説します。
遺言無効確認の訴えを提起する
まずは、遺言書の有効性そのものを争う裁判を起こすという方法があります。相談事例の場合「便箋に日付、署名、押印があり」となっているので、法律上の形式的な有効要件は備えています。しかし、本人が自分の意思で書いたものかどうかまでは分かりません。
自筆の遺言書が発見された場合、手続き上はまずこれを家庭裁判所へ提出して「検認」を行います。しかし、裁判所で検認を行ったから内容的にも遺言が有効となったというものではなく、単に「そのような書類があった」という法的な確認作業にすぎません。
ですから、例えば発見された遺言書の筆跡が明らかに本人の筆跡と異なるように思われるのであれば、遺言無効確認の訴えを提起できる理由があると言えるでしょう。遺言書が無効であることが裁判上確認されれば、遺言書はなかったことになる訳ですから、相続手続きは振出しに戻って、相続人全員の協議によって決められるということになります。
ただし、本人の筆跡でないことを証明するためには、物理的な証拠(最終的には筆跡鑑定など)だけに限らず、人的な証拠(証人)も用意したりと、とても難解で時間のかかる裁判になることが多いでしょう。ですから、弁護士を選任することなしに遺言無効確認の訴えを行うことは、実際上は無理であると思います。
遺留分侵害額請求をする(金銭賠償を求める)
法律上は不公平な内容の遺言書も有効であると上記で説明しました。つまり、遺産をどのような分配で分けるかは、遺言書を書いた本人が決めるべきことであって、この内容によって遺言書が無効になることはないという事です。
しかし、法律上の相続人には、たとえ遺言書の内容によっても奪うことのできない「遺留分」という相続割合が存在します。法定相続分とは別のものであって、法律の規定によって保障されている最低限の相続割合となります。
もし、遺言書の内容が、遺留分を一方的に奪っているものであったときは、他の相続人に対して金銭賠償を求めることができます。これを「遺留分侵害額請求(旧規定では遺留分減殺請求と呼んでいました)」と言います。
遺留分侵害額請求は必ずしも裁判で行う必要はありません。しかし、遺留分侵害額の計算・算定については法律知識が必要となるほどに複雑であったり、単に請求をして(たとえば郵便や口約束)支払われるようなものでもないことから、裁判によって行うことが多いのが実情です。
それでは今回の相談事例の遺言書の内容が、次男と三男の遺留分を侵害するものなのかを検証してみます。先ほどの表の右側に各相続人の遺留分割合を追加してみました。
法定相続分 | 遺言書の内容 | 遺留分 | |
配偶者(母) | 24分の12(2分の1) | 24分の12(8分の4) | 24分の6 |
長男 | 24分の4(6分の1) | 24分の6(8分の2) | 24分の2 |
次男 | 24分の4(6分の1) | 24分の3(8分の1) | 24分の2 |
三男 | 24分の4(6分の1) | 24分の3(8分の1) | 24分の2 |
すでに検討したように、遺言書の中では、次男と三男は長男よりも相続分が少なく指定されていました。この点に注目すると確かに不公平ではあります。しかし、遺留分の規定に反するほどに不公平かというと、結論は決して不公平ではないことが分かりました。
なぜなら、次男と三男の遺留分はそれぞれ24分の2で、遺言書の内容はこれを超える24分の3となっているからです。つまり、遺言書内容は次男と三男の遺留分を奪う程には不公平でないという事です。したがいまして、遺留分侵害額請求(金銭賠償請求)を行うこともできません。遺留分侵害額請求については、別のページで詳しく解説しています。
遺言書と異なる内容の遺産分割協議はできるのか?
不公平な遺言書が発見された場合の主な解決方法としては、上記で検討したように、①遺言無効確認の訴えの提起、②遺留分減殺額請求権の行使と2つあるわけですが、相談事例に限って言えば、そのどちらも難しいと言えるでしょう。
それでは他にどのような解決方法があるかと言えば「遺言書の内容と異なる遺産分割を相続開始後に行う」というものです。もちろん、遺言書はそれを書いた本人の最終の意思ともいえるものですから、最も尊重されるべきものです。しかし、2次相続や相続税の問題を考慮した場合に、相続人にとって必ずしもその内容が適切なものとも限りません。
このような場合、一般論としては相続人全員の同意があれば、遺言書とは異なる遺産の相続の仕方も便宜上有効と扱われています。しかし、相続人全員の同意が必ず必要となりますから、相談事例の場合において長男の同意が得られるのかは、難しい所となるでしょう。遺言書と異なる遺産分割の可否については別のページで詳しく解説しています。
不公平な内容の遺言書による遺産相続手続きの進め方
相談事例では「相続においては兄が主導権を握る可能性があります。兄に対してどのように対処して進めればよいのか」とあります。もし、遺言書の中で「遺言執行者」を誰にするかが書かれていれば、その方が法律上は主導権を握って相続手続きを進めて行くことになります。
相談事例の遺言書に遺言執行者が書かれているか否かはっきりとしません。もし遺言執行者があれば、相続人は遺言の執行を妨げるような行為は一切行えず、仮にそのような行為があった場合、それは一切無効となります。
そもそも相談事例のような遺言書において、遺言執行者は必要なのかという問題もあります。「相続させる」という内容の遺言ですから、遺言執行者の執行行為無くして当然に相続人に財産等は承継されると考えることもできる為です。
しかし、現実問題として例えば預金解約手続きを行う際に、遺言執行者を選ばずに手続きを行うことは難しく(相続人全員の同意を求められたり等)、遺言執行者が遺言書に書かれていない遺言書については、別途遺言執行者を選任する手続きを家庭裁判所で行う場合がほとんどです。
遺言執行者について資格の制限はないため、理論上は誰でもがなることができます。ただし、遺言の執行について相続人同士の紛争が予想される、または既に紛争状態にある場合は、一般人が遺言執行者になることは難しく、弁護士などの専門家が遺言執行者として適任と思われます。遺言執行者については別のページで詳しく解説しています。
不公平な遺言内容、一体どうすれば…
不公平な遺言書について、生前に発見された場合と、相続開始後に発見された場合ではその対処法が異なります。相談事例では生前に発見されていますが、回答にも書きましたように、財産の分け方について残された家族が揉めないように、感情の行き違いが生じる前にある程度財産の内容をオープンにして家族会議などを経て、一定の合意を得ておくことが必要となるでしょう。また、遺言書を書いた方がまだ存命であれば、なぜそのような不公平な内容にしたのか理由を知れる可能性もあります。
そして相続開始後に遺言書が発見された場合は、遺言無効確認の訴えや、遺留分侵害額請求などによって問題を解決する方法を説明しました。
いずれにしても、このページで解説したような事情があって、どのようにすべきか迷ったら、当事務所にご相談ください。自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。
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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。
このページでは、「【相談事例】不公平な遺言書が発覚|遺産の相続の進め方」と題して、実際に当事務所に寄せられた相談を少しアレンジして紹介・解説しました。同じような問題で困っている方の参考になれば幸いです。
不公平な内容の遺言書に関する解決方法は、主に裁判手続きを前提とするものが多くなります。当事務所には相続問題に強い提携の弁護士がおりますので、訴訟からその後の相続手続きまで一貫して承ることができます。
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