【解決事例】実家しか相続する財産がないという相談|代償分割

2022年7月7日

財布からお金を出すサラリーマン
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実家しか相続する財産が無いという事例は珍しくありません。しかし、実家しかないとは言っても、実際には多少の預貯金が有ったり、あるいは、実家自体の価値がほとんどなく、相続人間であまり揉めることなく決着する場合が多いのが当事務所での実例です。

今回の相続事案は「実家しか相続する財産がない相談|代償分割」がテーマです。実家しか相続財産が無く、その実家も高額なため遺産分割で揉めてしまったという事例です。当事務所での実例です。なお、守秘義務違反となることを避けるために事案を特定されないようアレンジしています。文中の氏名・住所・日付・金額等は架空です。

高齢の母の遺言を作りたいという相談が最初だった

今回の相談は、当初は「高齢の母の公正証書遺言の作成」についてでした。母は出歩くことができないという事情らしく、相談の場には同居する娘(長女)が来ました。これまで何度も遺言書の作成を考えたとのことですが、母の状態が日に日に悪くなってきているらしく、どれくらいの時間があれば作成できるのかという相談です。

高齢の方の遺言書作成は急を要する場合も多いのですが、作成の準備をしている間に亡くなってしまったり、そもそも本人の意思ではなく、家族が勝手に相談に来るケースも多いので慎重な対応が求められます。

遺言を作るには意思能力が必要

まず、それとなく「本人は承知されてるのですか?」と尋ねますと「もちろんです」とのこと。ひと先ずは安心です。そして、体調が悪いといっても今日明日中に急変するという訳でもなさそうです。しかし「母はほとんど受け答えができない」という返答に一瞬凍り付きました。

「受け答えができない」にも様々な状態があります。パーキンソン病やALSのように、筋肉が硬直し自ら発言をすることは難しくなっても、意思能力は極めて正常であり、眼球運動などの方法でパソコンを操作し間接的に発言をすることは可能な方もいます。このような方であれば公正所書遺言の作成は可能です。

反対に、高度な認知症のように、意思の疎通が全くできない状態の方もいます。相談者が言う「受け答えができない」は後者でした。遺言を作るには、本人に意思能力があることが当然の前提となります。公正証書遺言の場合、作成依頼を受けた司法書士や公証人が実際には遺言の案文を起案するとしても、本人が示した内容に基づいて作成するため、本人が内容を示せないほどに能力を欠いていればそもそも遺言の作成は不可能です。

公証人の意思能力の確認の仕方は人それぞれ

もう少し相談者の話を聞くと「多少の受け答え程度ならできる」状態であることがわかりました。しかし親族が言う「多少はできる」は、家族であるが故にそう感じるケースが多く、我々のような第三者から見た場合「ほとんどできない」という印象を受けることがあるのは事実です。

この点、公正証書遺言の作成となると最終的には公証人が判断することになるわけですが、公証人の意思能力の確認の仕方は人それぞれです。公証人の言ったことに「うん。うん。」と頷いていればそれでよしとする方もいれば、「まずは今回の遺言の趣旨を自分で述べてください」という方もいます。

とりあえず遺言の作成は保留

相談の場ではすぐに依頼を受けず(依頼されず)、必要書類や費用、手続きの流れや作成に要する日数などを説明しました。そして、依頼を受ける場合は事前に本人と面談をさせていただき、意思能力の有無を確認してからになることを伝えて相談を終了しました。

母死亡の連絡から相続手続きの相談へ

相談があった日から数か月後、相談に来た長女より電話があり、母が亡くなった旨を知らされました。結局、遺言書は作成せずにそのまま亡くなったという事です。今後の相続の手続きについて相談したいという事で、相談予約を入れ、相談に必要な書類などを持参してもらうように伝えました。

実家しか相続する財産が無い…

遺言作成の相談が、相続手続きの相談に変更されるのは悲しいことですが、割とよくある事案の一つです。持参してもらった書類は、主に遺産・相続財産に関する資料です。実家は5階建てのマンションで、1棟を丸ごと所有しているいわゆるマンションオーナー(大家さん)です。建物自体が古いためか固定資産税の評価額はあまり高くありませんが、立地は大変よく、相続税路線価や公示価格はかなり高額でした。問題は、遺産がマンションしかないという点です。預金はほとんどなく、毎月の賃料収入も修繕費(老朽化のため高額)と生活費に消えてしまうという事情のようです。

相続人同志の不仲をどうするか

父はすでに他界していて、相続人は相談者である長女(亡き母と同居)と、遠方に住む次女の2名でした。しかも長女と次女の中は従前より悪く、次女は母とも仲違いしていたとのことです。そのような関係性ですから、次女は母の様子には無関心で、病床に付しても看護や介護どころか見舞いにも来ないという状況でした。

相続人同志が不仲であるという相談はよく受けます。もともと不仲である状態が相続をきっかけに良くなるというのは奇跡に近く、良くてそのままの状態が保たれるか、悪ければ絶縁状態になってしまいます。いずれにしても不仲の場合は遺産分割の話し合いも難しく、司法書士は職務上、特定の相続人の代理人となって相手側と交渉することはできませんから、結果として弁護士案件となることもあります。

寄与分の主張は難しいか

ところで相談者である長女から「寄与分の主張はできないのか?」との質問を受けました。確かに母の世話を何もしていなかった妹と相続分が2分の1ずつというのは、法律上は仕方が無いことだとしても、割り切れない思いがあるのは当然です。

しかし、遺産分割において寄与分の主張をするのは難しく、今回のケースでは「寄与分の主張は無理であろう」と判断しました。寄与分については別のページで詳しく解説していますので、もしよろしければお読みください。

【司法書士監修】寄与分はいくら?|高齢者を療養看護した場合

代償分割の方法を提案

さて、遺産をどう分けるかが最大の問題となります。遺産は自宅マンション1棟、その他はほとんどなし、という状態です。相談者の長女は次女と半分ずつ分けるというのは承知の上ですから、どのように半分にするのか、その方法が問題です。

まずは実家であるマンション1棟を売却して、その売却代金を半分ずつ分けるという「換価分割」を提案しました。しかし、生前に母はマンションの管理を長女に託したかったということなので(遺言書もそのような内容で作成したかったらしいです)、売却することは念頭にないという返答。従ってマンションを半分ずつ相続するというのも趣旨に合いません。なにより姉妹は不仲ですから、マンションの共同管理は無理でしょう。

残る手段としては「代償分割」です。実家であるマンション1棟を長女が単独で相続する代償として一定の金銭を次女に支払うというやり方です。ところでこのマンションの公示価格は7000万円(固定資産税評価額は5000万円)でしたから、代償金としてこの金額の半分を支払うといっても数千万円となります。

代償金をどのように調達するか

代償分割の場合、代償金の金額が争点になります。いきなり高い金額から交渉を始めても良い結果が得られないと考え、「まずは評価額をベースに代償金を話し合ってみたらいかがか」と提案しました。評価額を基準にするとしても5000万円の2分の1ですから、代償金として長女が支払わなければならない金額は2500万円にもなります。

代償金を分割払いにしてもらうなど、諸条件については相続人当事者の話し合いになりますが、ほとんどの場合は一括払いとして決着します。幸い、マンションオーナーとして地元の信用金庫と付き合いがあるそうなので、融資の相談をしてみるとのことでした。経験上、代償金の支払目的での融資は、都市銀行よりも信用金庫の方が柔軟に対応してくれるという印象があります。

代償金が払われない場合の解決方法

今回のケースは代償金を支払う長女の側からの依頼でしたが、反対に代償金を支払いを受ける側からすると「代償金が支払われない場合どうすれば良いのか?」という問題が付きまとう、非常に不安定な方法とも言えます。当事務所の別のページに、相手方に代償金を支払わせる方法としてどのように対処すればよいのかを解説したページがあります。もしよろしければあわせてお読みください。

【司法書士監修】遺産分割の代償金を確実に支払わせる方法とは?

相続人で遺産分割を話し合うが決裂

その後、姉妹で遺産分割の話し合いを数回行ったとの報告を受けました。依頼者側からの話なので客観的にどこまで真実なのかは正直分からないのですが、話し合いの場では相手側の次女は相当に攻撃的で、昔の話まで持ち出すなど、難しい状況だったようです。

やはり代償金の金額でもめる

話合いがもつれたのは予想通り代償金の金額でした。固定資産税評価額から話し合いを持ちかけましたが、当然に拒否され、公的には一番高い金額の公示価格で折り合いを付けようとしたところ、相手側は不動産仲介業者に査定を依頼し、マンションを1億円と評価、5000万円の代償金を要求してきました。

このような報告を受けて「これ以上は自分で交渉を続けても話し合いは平行線のままなので弁護士に代理してもらった方が良い」と依頼者にアドバイスをしました。なぜなら、相手方は「代償金のつり上げ」をしてきていると感じたためです。もちろん不仲の姉妹の関係で、固定資産税評価額を基準に代償金を算出しようとするのは無理があります。しかし、公示価格(偶然にもこのマンションに公示価格が付いていました)を提示してもなお、その金額以上の査定額を提示してくるという姿勢は中々やっかいです。

結局双方が弁護士を立てて裁判外で遺産分割の話し合い

当事務所にはこのような交渉事に強いパートナー弁護士も複数名いるのですが、依頼者にも知り合いがいるらしく、結局その弁護士を代理人として遺産分割の話し合いを継続することになりました。次女は話し合いの当初より「こちらは弁護士をすぐにでも立てるつもりだ」という態度でしたが、実際に次女が弁護士を立ててきたのは、長女よりも相当遅れての事だったと聞きます。

このようなことも相続問題ではよくある話です。「こっちには弁護士が付いている」とか「出るところに出て白黒つけよう」と脅すような態度の方がいるのですが、ほとんどは冷静さを欠いているが故の発言というか、よく状況を理解されていない場合にそのような発言が出ることが多いように見受けられます。

いずれにしても相続人の中にこのような方がいる場合、まともな遺産分割協議は期待できない為、双方で代理人を立てて裁判外で交渉をするか、遺産分割調停という形で裁判所で話し合ってもらうしか方法は無いことになります。

依頼の結果

さて、依頼の結果ですが、双方の弁護士による話し合いは2ヶ月ほどかかり、最終的に代償金は、マンションの公示価格7000万円を基準としてその半分の3500万円とすることでまとまりました。代償金を支払うための信用金庫の融資も無事に承認されて、長女は一括で代償金を支払うことができました。遺産分割協議書は弁護士が作成したものでしたが、故人が所有していた特定の指輪やネックレスなどの所有権についても取り決めがされていて(普通そこまでやらない)、話し合いは相当難航したことを思わせるような内容になっていました。

左|司法書士 齋藤遊 右|司法書士 今健一

依頼者からの声

今回の案件で当事務所が行ったことは、遺産分割方法のアドバイスと、弁護士が作成した遺産分割協議書に基づく不動産の相続登記(名義変更)、金融機関からの借り入れ(代償金支払いの為のもの)を担保する抵当権の設定登記手続きでした。また、相続税関連の諸手続きは当事務所のパートナー税理士をご紹介して、案件を税理士に引き継ぎました。

依頼者の声です。

この度はお世話になりました。生前に遺言書を作ることができたらこんなことにはならなかったかもしれないと思うと、もっと早い時期に相談しておけばよかったと悔やまれます。でも、相続となり自分ひとりではとても耐えきれなかったので、その時に相談にのって頂けたのはとても心強かったです。正直、遺産分割の内容には納得できないのですが、依頼した弁護士からも「次女の態度に呆れて相手の弁護士も困っている。ある程度で妥協しないことにはしょうがない」と言われて途中から半ばあきらめました。遺産の問題というより、これはもともとの家族の問題なんだなと思いました。
ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。

このページでは、「【解決事例】実家しか相続する財産がないという相談|代償分割」と題して、代償分割に悩む方の実際の解決事例を紹介しました。

この問題は専門家の立場からしても非常に難しい問題を含んでいます。ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。

遺産分割の方法は、遺産の種類や親族間の関係性などにあわせて柔軟に検討する必要があります。遺産分割のやり方について、他にも様々な疑問があることと思います。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。

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