【司法書士監修】再転相続の相続放棄は3か月経過後も?最高裁初判断

2023年5月27日

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相続が順次発生した場合(再転相続)に、最終の相続人が家庭裁判所に対して相続放棄の申述をできる期間について、2019年8月9日、最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)が初の判断を示しました。

ここでは、今回の最高裁の判例の具体的な内容や結論、これを理解するための前提問題などについて解説します。

相続放棄とは

相続人が相続放棄をすると、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

したがって、相続放棄をすると被相続人(故人)の借金を承継することもありませんし、同時に不動産や預金などの相続権も失います。
実務的には、故人(被相続人)に多額の借金がある場合によく利用される手続きです。

相続放棄のできる期間と手続き

相続放棄ができる期間には制限があります。相続放棄ができるのは、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(民法915条1項)」です。

実際には「自己のために相続の開始があったことを知った時(起算点)」が具体的にいつなのかが問題となります。

身近な相続人であれば、死亡の時や死亡の連絡を受けたときが起算点となります。

しかし、死亡の事実を知るだけでなく、被相続人の財産の詳細を知った時がはじめて起算点となる、という特別の扱いもあります。

【最判昭和59年4月27日】
相続人が、相続開始の原因事実の発生と、そのために自身が相続人になったことを知った場合であっても、右各事実を知った時から3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全くないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべき時から起算すべきである。

この扱いはかなり限定的に適用されます。この判例があるからといって、死亡後3か月経過後の相続放棄が常に認められるわけではないので注意が必要です。実際に相続放棄が認められるか否かは、家庭裁判所の裁量と言えます。

いずれにしても、相続人は3か月以内に相続を放棄するか、そのまま相続を受け入れるか(「単純承認」と言います)、限定承認をするかを選択しなければなりません。
この3か月の期間のことを「熟慮期間」と呼んだりします。

なんらの選択もしないで3か月を経過すると、法律上は単純承認したものとみなされて、以後は相続放棄や限定承認はできなくなります。

限定承認や単純承認については、こちらのページに解説していますから、もしよろしければお読みください。
【司法書士監修】相続放棄を検討すべき場合とは

再転相続とは

まずAが死亡し、その相続人BがAの相続について承認・放棄の選択をしないまま死亡し、Bの地位をCが相続するケースを再転相続と呼びます。最初のAの相続を「第一の相続」、次のBの相続を「第二の相続」と称して区別します。

再転相続という用語は民法の相続法には存在しないのですが、相続が順次転じて生じているということから、学問上はこのように呼ばれています。

相続人Bは生前に承認・放棄することなく亡くなってしまった訳ですから、Aの相続について承認・放棄できるという地位は、そのままBの相続人であるAに引き継がれていくことになります。

つまり、CはBの相続について承認・放棄できるのは当然として、亡Bに代わってAの相続についても承認・放棄ができる地位を持つことになります。二重の地位を有します。

令和元年8月9日の最高裁判例の事例とは

伯父Aの債務を相続する立場にあった父親Bが、伯父Aの相続について承認・放棄の判断をしないまま熟慮期間中に死亡し、子供C(伯父からすると姪にあたる)がその判断をする権利を引き継ぐという再転相続の事例でした。

再転相続における相続放棄ができる期間とは

今回争われた事例では、第一の相続(伯父の借金)について、第二の相続の相続人C(姪)が相続放棄をすることができる期間は具体的にいつからなのか、が争点でした。

第一の相続を放棄しようとしている訳ですから、第一の相続の開始を知った時から3か月ではないかと思うかもしれません。

しかし、そのように考えると、第一の相続について放棄をしようと考えても、すでに3か月が過ぎていることが多く(3か月過ぎていなくても残りの期間では放棄を検討するに短すぎるため)、再転相続において第一の相続放棄はほとんど不可能となってしまいます。

そこで、法は、第一の相続、第二の相続の両方の熟慮期間について、その起算点はCが自己のためにBの相続の開始があったことを知った時としています。

つまり、CはBの死亡の時から3か月以内であれば(厳密にいえば「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内であれば」)、Bの相続だけでなく、Aの相続も放棄できることになります。

【民法916条】
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

令和元年8月9日の最高裁判所の判例の結論とは

CはBの死亡の時から3か月以内であれば(厳密にいえば「Cが自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内であれば」)、Bの相続だけでなく、Aの相続も放棄できることになります。

従来の通説的な考え方は、Bの死亡の時、あるいはCがBの死亡を知った時を起算点として3か月以内に第一の相続放棄が可能と解されていました。

これを、Aの債務の相続人になったことを知った時から3か月以内であれば、Bの死亡の時から3か月が経過していても相続放棄は可能であると、最高裁判所においては初の判断をしました。

事例では、すでにBの死亡から3か月が経過しているため相続放棄は無効ではないかと債権者から訴えが起こされていましたが、CがAの借金を知った時から3か月は経過していなかったため、無事に相続放棄が認められるに至りました。

最高裁第二小法廷の菅野博之裁判長は「再転相続で伯父の債務があることを知らないまま熟慮期間が始まるとすれば、相続するか放棄するかを選ぶ機会を保障する民法の趣旨に反する」ことを判決の理由としているようです。

今回の判例は、上に掲げた項目「相続放棄のできる期間と手続き」にある「最判昭和59年4月27日」を踏まえたものであると考えます(現に今回の判決の理由中でこの判例を引用しています)。

つまり、「死亡の事実を知るだけでなく、被相続人の財産の詳細を知った時がはじめて起算点となる」という特別の扱いを、再転相続の場合にもあてはめたものと解釈できます。

今回の判例の全文を最高裁判所のホームページで見ることができます。念のためリンクを張っておきます。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/855/088855_hanrei.pdf

今回の判例の意味と今後の方向性

今回の判例は、最終の相続人Cの立場を尊重・保護した常識的なものであると思います。

しかし、再転相続だから常に熟慮期間の特例が認められるということではなく、一定の条件下において認容されるだけと考えるべきです。

どのような場合に認められるか否かは最終的には申し立てる裁判所の裁量となりますが、その前提として確かな知識を有する専門家のアドバイスを得るべきでしょう。

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このページでは、「再転相続の相続放棄は3か月後でも可能なのか?」についてお話ししました。同じようなお悩みをお持ちですか?

相続放棄の手続をこれから始めるにはどうすればよいのか、費用はいくら位かかるのか、そもそも自分の場合に相続放棄が認められるのか、様々な疑問があることと思います。専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。

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