【司法書士監修】保険金は相続において特別受益となるのか?

2022年7月7日

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故人の死亡保険金(生命保険金)を相続人が受け取ることはよくあることです。それでは、相続人が受け取った死亡保険金は遺産の前渡し(特別受益)と考えて、相続分を計算することはできるのでしょうか?

今回は、「保険金は相続において特別受益となるのか?」について、原則的な取り扱いと、最高裁判所で認められた例外的な取り扱いについて解説します。

保険金は誰のものか|保険金は遺産に含まれるのか?

特別受益となるのかを検討する前に、そもそも死亡保険金は誰のものか、遺産に含まれるのかを考察する必要があります。

死亡保険金が相続財産(遺産)になるか否かは、保険金の受取人が誰になっているかで結論が異なります。大きくは次の2つに分類されます。

まず、①故人が故人自身を受取人に指定していた場合です。このケースはそもそも故人が受け取るべき保険金であったため、当該保険金は遺産に含まれます。ですから、相続人全員に権利があります。

これに対して、②故人が特定の方(例えば妻や子)を受取人に指定した場合はどうでしょうか。このケースでは、受取人として指定された方の固有の財産となり、当該保険金は遺産には含まれません。ですから、受取人だけに権利があり、その他の相続人には権利がありません。

詳細については別の記事がありますから、もしよろしければお読みください。

生命保険金(死亡保険金)を相続人で分ける必要があるか?
https://www.office-kon-saitou.com/biz40

死亡保険金を特別受益として扱うか|原則論

死亡保険金が特別受益にあたるか否かは、上記②故人が特定の方(例えば妻や子)を受取人に指定した場合のケースで問題となります。

なぜ②のケースで、死亡保険金の特別受益性が問題になるのでしょうか。これは、保険金の受取人と指定された相続人は多額の保険金を受け取ることができるにもかかわらず、その他の相続人はわずかの相続財産の分配を受けることができるにすぎないという不都合が生じることがあるためです。

受取人が指定されているときは、受領した保険金は遺産には含まれず、受け取った相続人の固有の財産となります。このため、指定された相続人は「保険金+相続財産」を受け取れる一方で、その他の相続人は「相続財産」のみ取得となり、不平等な結果となることもあります。

そこで、死亡保険金を相続財産の前渡しと考えることによって、保険金受取人については遺産からの取り分は無しと(または少なく)して、その他の相続人は遺産からの取り分をより多くしようという発想が生まれます。

「死亡保険金を相続財産の前渡し」と取り扱うとは、法律的にいうと「死亡保険金を特別受益(民法903条)と扱う」ことを意味します。その結果、受領した死亡保険金を相続財産に加える(「持ち戻す」という言い方もあります)ことになります。

しかし、すでに説明したように、受取人が指定されている死亡保険金は受取人の固有の財産であり、遺産ではありませんから、相続財産に加えるというのはおかしな話です。

したがって、受取人が指定されている死亡保険金は、原則として特別受益とはなりません(最判昭和40年2月2日)。

死亡保険金を特別受益とする例外的扱い|最判平成16年10月29日

このように原則的には死亡保険金は特別受益とはならないのですが、一定の要件をクリアすれば、例外的に特別受益として認めるとする最高裁判所の裁判例があります。

その「一定の要件」については下記に挙げる最高裁の判決文の中で詳細に述べられていますが、要約すると、保険金受取人である相続人とその他の相続人の間で著しく不公平な結果となるような特段の事情がある場合には、保険金が特別受益として認められます

保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条(著者注:特別受益)の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。上記特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。裁判所|最高裁判所判例集|平成16年10月29日

この判例によると、保険金が特別受益となるかについては「諸般の事情を総合考慮して判断すべき」としていますから、1つの事情だけに注目して結論を出すことはできません。

しかし、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率」は非常に重要なポイントになることは間違いないでしょう。つまり、受領した死亡保険金の額が、相続開始時の相続財産の総額全体に占める割合です。

割合が高ければ高いほど、その死亡保険金は特別受益として認められやすくなります。反対に割合が低いほど、特別受益として認められにくくなります。過去の裁判例を表にまとめたものがあります。

相続開始時の相続財産の総額(A) 死亡保険金の総額(B) 全体に対する保険金の比率(B)÷(A) 特別受益にあたるか 判例
(1) 6,963万円 428万円 6.1% あたらない 大阪家平成18年3月22日
(2) 5,958万円 574万円 9.6% あたらない 最判平成16年10月29日
(3) 8,423万円 5,154万円 61.1% あたる 名古屋高決平成18年3月27日
(4) 1億134万円 1億129万円 99.9% あたる 東京高決平成17年10月27日

(*上記表は「生命保険金と特別受益|月報司法書士417号」を元に作成したものです)

(1)と(2)は比率が低い為、特別受益にはあたりません。(3)(4)は比率が高い為、特別受益になると判断されています。

なお、遺産に比して保険金が多すぎるというような場合、例えば遺産(A)が100万円なのに、死亡保険金(B)は1,000万円あるというケースは、上記の表通りに計算すると比率が100%を超過していますから、特別受益にあたり、遺産に加えて(持ち戻して)計算することになります。

ただし、上記表の(3)(4)のように、特別受益にあたると判断された事例も、保険金の比率だけを考慮して判決がされた訳ではなく、「同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等」も評価の対象となっています。

これらの事情は保険金の比率と併せて総合的に判断されますが、「事情」についても上記の表で挙げた判例等をもとに独自に表を作成してみました。上に挙げた平成16年10月29日最高裁判例が述べる「特段の事情」があると言えるのか否かが重要です。

相続分の計算方法 特段の事情 具体例
特別受益となるケース 遺産に持ち戻す 相続人間で不公平だから「特段の事情が存する」 ①婚姻期間が3年5か月の配偶者が保険金を受領(上記表(3)の判例)

②子の1名を保険金の受取人とした場合(ただしその子に障害があり将来を案じてのものであれば特別受益とはなりにくい)

③故人と同居もせず、故人の扶養や療養介護もしていない者が保険金を受領(上記表(4)の判例)

特別受益とならないケース 相続人の固有財産(持ち戻さない) 相続人間で不公平ではないから「特段の事情」はない ①配偶者が保険金を受領(ただし婚姻期間が短い場合は特別受益となりやすい)

②故人と同居し、入通院の世話をした者が保険金を受領(上記表(1)の判例)

表で見ると明らかですが、不公平と呼べそうな具体例はすべて特別受益と判断されています。反対に、不公平とまでは言えないようなケースは特別受益性が否定されています。

解決案の提示|死亡保険金の特別受益性で迷ったら

最高裁平成16年決定以降、死亡保険金は特別受益にあたると短絡的に理解されている方もいますが、上記に説明しました通り、この最高裁の裁判例は決してそのような内容ではありません。

死亡保険金が特別受益にあたるか否かを判断するためには、まずは正確に相続財産の評価を算定し、法定相続人を確定することが先決です。

相続財産の評価は、不動産・有価証券・投資信託・株式・預貯金・定期債権など種類によってその評価方法が異なり、専門知識がないと難しいものばかりです。

また法定相続人の確定も、戸籍謄本から正確に割り出していく作業が必携となります。その上で、最高裁平成16年決定の通りに、保険金比率や特段の事情の有無を判断し、相続人間で特別受益であると(あるいは特別受益ではないと)合意できるかポイントとなります。

特別受益性について合意に至らなければ、遺産分割調停・審判等の裁判手続きにより判断することになります。

いずれにしても、このような問題に強い、相続手続きに特化した司法書士にまずは相談されることをおすすめします。

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。

このページでは、「保険金は相続において特別受益となるのか?」についてお話ししました。

特別受益として認められることもあれば、認められないこともある等、様々なケースがあることはお分かりいただけたでしょうか。

これからの相続手続や、死亡保険金の取り扱い、相続手続きの費用はいくら位かかるのか、どの位の期間で完了するのか、他にも様々な疑問があることと思います。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。

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