積水ハウス地面師巨額詐欺事件を相続手続き専門司法書士が考察する

報道でも大々的に明らかになった、「積水ハウスが騙された、地面師による巨額詐欺事件」。

我々司法書士業界、不動産業界では今年の3月ごろから既に話題となっていたのですが、積水ハウスの役員人事も巻き込んでの騒動となっているらしく、大々的に報道されるに至ったようです。

積水ハウス 地面師による巨額詐欺事件 について一考

積水ハウス事件の特徴とは?

地面師の手口は、地面師が地主本人になりすまして、勝手に本人の土地を売却し、売買代金を買主からだまし取ったところで、逃亡するものです。

昔からよくある詐欺の手口ですが、今回の事件が特殊なのは以下の理由によります
(各報道を総合的に勘案してのことですので間違いがあったら訂正します)。

  1. 公証人がダマされた(偽造パスポートと偽造印鑑証明書を使われ、本人と間違えた)
  2. 弁護士がダマされた(同上)
  3. 司法書士がダマされた(同上)
  4. 積水ハウスがダマされた(同上)
  5. 法務局はダマされなかった
  6. 損害額が55億円!

公証人をはじめとする法律専門職を騙し、さらに大手デベロッパーである積水ハウスをもダマしたというところが、かなりのやり手集団であったことが伺われます。

しかも、損害額が55億円。

地面師による損害額としては1番なのではないでしょうか。

しかも主犯格はすでに海外に逃亡した可能性もあるとの報道もありました。

仮登記のユルさを悪用した地面師

今回、積水ハウスは、直接地面師から権利を取得したわけではありません。

地主→→→IKUTA社→→→積水ハウス

のようです。

中間のIKUTA社が、加害者なのか被害者なのかは今後の捜査で明らかになると思います。

IKUTA社は、「仮登記」という形で、地主から名義を取得していました。

この「仮登記」が、曲者です。

通常、名義変更をするときは、本人の権利証が必要です。

我々司法書士は、この権利証原本で本人かどうかを第一次的に判断します。

なぜなら、一般論として、権利証は本人が保管していることが多い為です。

しかし、「仮登記」のときは、いらないのです。権利証。

報道によると、地面師は、

権利証のコピーはあるけど、原本はない」と言ったようです。

そこで、とりあえず権利証のコピーを確認した上で、仮登記に及んだのでしょう。

まぁ、最終的には、仮登記を正規の登記にする際(これを「仮登記を本登記する」と言います)に、権利証は必要なのですが、いったん仮登記を間に挟むことで、積水ハウスを騙すための目くらましにはなります。

権利証もないのにどうやって本登記しようとしたのか

権利証がなくても名義変更はできます。

いくつか方法がありますが、今回地面師は、公証人役場で本人確認書面(権利証に代わる書面)を作成してもらったようです(法的に認められている手段です)。

しかし公証人役場による本人確認書類の作成は、実は、役場により対応がマチマチでして…。

厳重に本人を確認して作成する役場もあれば、パスポートや印鑑証明書などの提示提出があれば形式的にすぐ作成する役場もあるということです。

地面師はこれも悪用したのでしょう。

公証人を偽造書類でダマして、本人確認書類を作成させた、ということです。

結局、地面師の登記は却下され、相続登記がされた

地面師による詐欺登記は、法務局によって却下され、真実の相続人からの相続登記がなされたようです(その間、本当の地主は死亡したそうです)。

虚偽の仮登記はされてしまいましたが、所有権自体は、本当の地主にとどまっている為、地主の相続人への相続登記はできます。

報道によると、地主の相続人は、積水ハウス側に複数回に渡って、内容証明郵便による警告書を送っていたという事です。

「自分たちは、売った覚えはないですよ。そんな契約はしていませんよ。」

という内容証明郵便です。

これを受けて積水ハウスの顧問弁護士は、再調査が必要だと促したにもかかわらず、積水ハウスは、本件取引を妨害する第三者による工作行為の一種だと判断、再調査は実施されなかった、とのこと。

このような場合、ただ腕を組んでみていると、本人は土地の名義を本当に失ってしまいますので、法務局に対して「不正登記防止申出(不動産登記法24条、不動産登記事務取扱手続準則33条)」ができます。

なりすましの詐欺登記がされそうな場合は、真実の所有者は、法務局に対して注意を促すことができるんですね。

地主側が、不正登記防止申出をしたかどうかは分かりませんが、結果的には仮登記の本登記は法務局から却下され、真実の所有者である地主(およびその相続人)の権利は守られました。

今後は、この虚偽の仮登記も抹消されることになるでしょう。

事件の教訓とは?

私たち専門家はマジシャンでも警察でもありません。

精巧に偽造された印鑑証明書、パスポート等を見破るのは技術的には難しいでしょう。

だからこそ、それ以外のところで、嗅覚を研ぎ澄まさなければならないのではないでしょうか。

たとえば本人に同行してもらっての物件内覧、権利証に代わる書面の提示(たとえば固定資産税納税通知書およびその領収書等)などです。

さらに、最後のチャンスでもあった地主側からの内容証明郵便を不問としたことは痛恨のミスであり、過失責任を問われてもやむを得ないと考えます。

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