認知症の家族に朗報|預金の引き出しが簡単に【司法書士監修】

認知症の家族が本人の預金を今までより引き出しやすくするための取扱いを、全国銀行協会が初めて指針としてまとめました。2021年2月17日付の朝日新聞や日本経済新聞などでも報道されました。

全国銀行協会の公式ホームページに記載されている情報、報道された情報に基づいて、相続手続き専門の司法書士の視点から新指針について考察してみたいと思います。

認知症に関する全国銀行協会の新指針とは

それでは早速、全国銀行協会が初めてまとめた認知症の家族による預金の引き出しに関する指針のポイントを検証します。

■金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について(令和3年2月18日付|一般社団法人全国銀行協会のホームページ)

成年後見人を選ばなくても預金の引き出しが可能に

全国銀行協会による新指針を一言で言えば「預金の引き出しであれば成年後見人は不要」となります。つまり、認知症本人の家族であれば、必ずしも成年後見人でなくても、本人の預金の引き出しが窓口で可能になるという事です。

ただし、これには一定の条件があり、無条件という訳ではありません。また、認知症本人の預金(財産)管理については、法律上は成年後見制度を利用することが大原則となっているため、利用者に対して成年後見制度の利用をまずはお願いするという前提は変わらないようです。

新指針の中では、次のように示されています。

本人の認知判断能力が低下した場合かる成年後見制度を利用していない(できない)場合において行う、極めて限定的な対応である。成年後見制度の利用を求めることが基本であり…(以下省略)。金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について|一般社団法人全国銀行協会

認知症の症状の確認・証明が大前提

まず要件の1つ目としては、本人の判断能力が衰退していることの証明が求められます。この点は、家庭裁判所で成年後見制度を利用する場合にも同じことが要求されるため、家族としては特別難しい作業とはなりません。

具体的には診断書を提出するのが一番早く、明らかな証拠となるでしょう。医師の診断書は通常「長谷川式認知症スケール」で作成されます。いくつか質問に答えて行う簡易的な認知症診断テストですが、裁判所へ成年後見人の選任申立を行う場合もこちらを提出します。

裁判所へ提出する診断書の様式は指定された用紙がある為、診断する医師にはこれに記入してもらうわけですが、銀行へ提出する様式がどのようなものとなるかは分かりません。

明らかに判断能力が劣っている場合は、医師も認知症と判定しやすく、診断書も書きやすいはずです。しかし、判断能力が常に劣っているわけではなく、調子の良い時と悪い時の差があるようなケース(成年後見制度で言うと「成年後見人」ではなく「保佐人」「補助人」の検討が必要となる場合のこと)では、社会福祉士などの福祉関係者に「本人情報シート」を書いてもらい、これを医師が認知症診断の資料とするという流れが家庭裁判所には存在します。

したがいまして、予想される銀行の対応としても、診断書から明らかな認知症とは言えないようなケースにおいては、様々な関係当事者への聞き取りなどを行ったうえで(あるいは「本人情報シート」のような書類の提出を求める)行われるのではないかと思います。

新指針の中では次のように示されています。

本人が認知判断能力を喪失していることを確認する方法としては、本人との面談、診断書の提出、本人の担当医からのヒアリング等に加え、診断書がない場合についても、複数行員による本人面談実施や医療介護費の内容等のエビデンスを確認することなどが考えられる。金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について|一般社団法人全国銀行協会

ちなみに、家庭裁判所の手続では、成年後見の申立てを行う際は、「診断書」や「本人情報シート」を提出します。つぎに裁判所の担当者が認知症患者本人と面談を行います。面談の結果、それでも本人の意思能力について判断が難しい場合は「(精神)鑑定」を行います。通常は「診断書」を作成した医師にそのままお願いすることが多いのですが、費用は数万円が相場です(単なる診断書は数千円)。

まさか、銀行が「(精神)鑑定」まで求めてくることはないと予想しますが、いずれにしても本人の意思能力が客観的にどのようなものかという証明は、成年後見制度の現場でも非常に難しい問題の一つであることは間違いありません。

医療費・介護費・生活費などの預金引き出しに限定

そして2つ目の要件としては、引き出せる預金の使用用途には制限があるという事です。報道によると「本人の利益に適合することが明らかである場合」に限って認められるという事です。その一例として医療や介護にかかった費用、通常の生活費が具体例として揚げられています。

認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる。金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について|一般社団法人全国銀行協会

そもそも成年後見制度を利用した場合もその扱いは同じです。本人の預金を投資に利用したり、贈与に使ったりすることは認められません。ですから、全国銀行協会の新指針に基づく運用においても、使用用途の確認はその都度行っていくものと思われます。医療費や介護費用は請求書の提示が求められるでしょうし、家賃や生活費、光熱費などもその金額の根拠となる書類の提示を求められることになるでしょう。

投資信託等金融商品の解約はケースバイケース

預金が僅少となり、投資信託等の金融商品しかまとまった資産が残っていない場合、親族等から金融商品の解約等(売却)はできるのでしょうか?

新指針の中では、次のように示されています。

投資信託等の金融商品は価格変動があることから、一旦、解約等を行った場合、預金と異なり、原状回復が困難である。この点に鑑み、金融商品の解約等については、より慎重な対応が求められる。金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について|一般社団法人全国銀行協会

かなり遠回しな言い方ではありますが、金融商品の解約等は基本的には認められないというスタンスと解釈できます。

親族関係の証明|戸籍謄本の提出など

そして3つ目の要件としては、一定の親族からの請求に限るという事です。民法という法律では「親族」を次のように定めています。

(親族の範囲)
第七百二十五条 次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族民法|e-Gov法令検索

このように法律上の「親族」はかなり範囲が広いことが分かります。全国銀行協会が認める「親族」がこれと同じものになるかどうかについて新指針の中には記載されていません。

たとえどのような範囲であると定められても、その証明が求められることに変わりはありません。認知症本人と窓口で預金の引き出しの手続をする家族の関係を証明する戸籍謄本の提出は必ず求められるでしょう。

財産管理契約がある親族からの預金引き出しが可能に

あまり話題になっていませんが、新指針の中では、かなり重要度の高いポイントだと思っています。

たとえば、「頭ははっきりしているが銀行へ行く体力がないので資産は全部息子に管理して欲しい」という希望があるとします。

この場合、本人と息子の間で「財産管理契約」を締結し、息子が預貯金などの管理をします。「財産管理契約」は必ずしも公正証書でする必要はありません。

しかし公正証書で行った方が、これを提示された金融機関もリスクを軽減できるため、通常は公正証書で行い、当事務所もそれを提案しています。

ただし、たとえ公正証書で「財産管理契約」を行ったとしても、本人以外からの預金引出し等を認めない金融機関もあり、このような悩みを持った家族を苦しめる結果となっていました。

今回の新指針の中では、適法な「財産管理契約」がされているのであれば、本人以外からの取引に応じる旨が明言されています。

任意後見人が顧客本人の預金取引を代理できるよう、任意後見契約とともに委任契約を締結している事例もある。その場合は、任意後見監督人が選任される前であっても委任契約の受任者である任意後見人との取引が可能。金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について|一般社団法人全国銀行協会

この指針が全国で徹底されれば、今よりももっと「財産管理契約」の利用者は増えるかもしれません。

認知症に関するこれまでの銀行の対応は

認知症で本人が窓口で預金を引き出せなくなり、家族がこれを行おうとした場合、現在の銀行の対応は金融機関・支店・担当者によって異なるものです。

柔軟な扱いを認め、家族からの預金の引き出しを認める銀行もあります。その一方で、成年後見制度の利用を求められて、成年後見人でなければ一切預金の引き出しには応じないとする銀行もあります。

理論上は、成年後見人でない家族は法律上の代理人とは呼べません。本人を代理する権限もなく代理行為をする人のことを「無権代理人」と呼ぶのですが、無権代理人の行った代理・取引行為は原則として無効となります。

これは銀行にとっては危険な行為と言えますから、利用者に対して成年後見制度の利用を求めるのは当然とも言えます。

その一方で、利用者側としては「生活費を引き出すだけでなぜお金のかかる成年後見制度を利用しなければならないのか?」となります。後述しますが、成年後見制度はその利用にデメリットもありますので、法律的な問題は差し置くとして、家族の主張も常識的に理解できるものではあります。

今回の全国銀行協会が定めた指針は、この取り扱いを一本化する初の取り組みと言えます。全国銀行協会には、都市銀行、リテール系信託銀行、地方銀行、第二地方銀行、ゆうちょ銀行、在日支店を有する外国銀行など、ほとんどの銀行が加盟しており、新指針発表直後の対応は鈍いかもしれませんが、徐々に周知・浸透してくるものと予想されます。

新指針の中では、次のように示されています。

本考え方は、会員各行の参考となるよう取りまとめたものであり、会員各行に一律の対応を求めるものではなく、個別の状況等により、本考え方と異なる対応が取られるケースもあり得ることに留意いただきたい。金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について|一般社団法人全国銀行協会

認知症に関する新指針を発表した理由とは?

理由はいくつかあると考えられます。

各銀行で対応がバラバラだから

まず第一に現実に窓口対応で困っているということではないでしょうか。これまでは統一的な指針が存在しないため現場に丸投げの状態で、その結果対応・サービスがバラバラとなり、利用者からの苦情も増えたことが考えられます。

資産が凍結した状態は経済的に良くないから

そして第二に、家族からの引き出しに応じない認知症患者の口座が事実上凍結して、流動資産となっていないこともあると思われます。このまま窓口での門税払いが続けば、認知症患者がさらに増加するにつれ、事実上凍結した口座も増え、市場にお金が流通しない状態を放置してしまうことになります。

成年後見制度は負担が重すぎるから

さらに第三には、成年後見制度の利用に積極的になれない方の増加があるのではないでしょうか。成年後見制度は、2000年4月1日に施行されてから20年が経過する訳ですが、その間で制度の欠陥と言いますか、不便さが次第に明らかになっています。

厚生労働省が公表しているデータによりますと、成年後見制度を利用した動機・理由として、その9割が預貯金の管理・解約であることが分かっています。

また、解約は別として、預貯金の管理の目的だけで、負担の多い成年後見制度の利用を銀行側が義務付けるわけには行かないと言ったところでしょうか。

■成年後見制度の現状|厚生労働省

成年後見人のデメリットとは

それでは、成年後見制度の不便さ、デメリットとは何でしょうか。

家族が成年後見人になれるとは限らない

誰が成年後見人にふさわしいかは、最終的には家庭裁判所の判断となります。本人の資産が多かったり、資産管理が複雑(賃貸収入があるなど)なケースは、弁護士や司法書士が成年後見人に選任されることがあります。

また、家族が成年後見人に選ばれたとしても、これを監督する「後見監督人」として弁護士や司法書士が選ばれたりすることもあります。いずれの場合も、裁判所へ申し立てをして選任されてしまった後は、これに対して法律上不服を言う手段がありません。

弁護士や司法書士が成年後見人として選ばれると、これらに通帳等の財産を預けることになるため、これまで家族が自由に行ってきた本人の財産管理が一切できなくなります。

この点、人によっては「他人に財産を乗っ取られた」と悪い印象を持つ親族もあるようです。また、一度選任されてしまうと、よほどの理由がない限り、後見人を解任して後見人に代わってもらうことはできません。

成年後見人は報酬などの費用がかかる

家族が成年後見人となった場合は無報酬で行うことがほとんどですが、専門家が成年後見人となった場合は、その方に支払う報酬が必要となります。本人の財産の内容や管理の複雑さなどによって金額は異なりますが、数万円が相場です。

成年後見制度は一度利用をし始めると、本人が死亡するまで継続するもので、途中で止めることのできない手続ですから、報酬の支払も一生続きます。

柔軟な資産運用はできなくなる

成年後見制度を利用した後は、新たに本人の財産で株式投資したり、投資信託を購入したりする資産運用は原則的にできなくなります。これまで保有していたものをすぐに売却する必要はありませんが、少なくても新たな資産運用はできなくなります。

資産運用という視点で見れば、成年後見制度を利用することにより不自由になります。また、当然のことですが、成年後見人自身が本人の財産で資産運用を新たに行うこともできません。

成年後見制度の問題点などについては、別のページで詳しく解説しています。

【司法書士監修】成年後見人は親族からと最高裁が方針変更か?|追記最新データ

成年後見人にメリットはあるか

成年後見制度の利用件数は年々増加しています。上記で解説したデメリットがあるうえで、現実に認知症になる人は増え続けているわけですから、今後も利用件数は伸びていくことでしょう。

確かにデメリットばかりが目立つ成年後見制度ではありますが、メリットもあります。

成年後見人は本人の利益の為なら何でもできる

第一は、成年後見人は法律上の代理人となるため、認知症本人の為に必要なことであれば、ほとんどのことに対応が可能です。

たとえば、施設や病院に入りたいが資金が足りないと言ったような場合に、代理権のない家族ではできる対応は限られるわけですが(例えば代わりにお金を出す等)、成年後見人であれば本人の定期預金を解約したり、自宅不動産を売却したりして資金を捻出することが法律上可能となります。

相続が開始したとき「使い込み」を疑われない

また、認知症本人の財産管理人を裁判所が選んだ成年後見人が正しく行っていれば、もし本人に相続が開始しても他の相続人から「使い込み」を疑われることもなく、円滑に相続手続きを進めることが可能となります。

認知症患者の預金|これからの新しい対処法はどうすれば…

全国銀行協会による認知症患者の家族による預金引き出しに関する新指針は、具体的な事務手続きを定めるマニュアルではありません。「指針」ですから、事務手続きの方向性を示したものとなります。従いまして、銀行によってある程度のばらつきはあることが予想されます。しかし、少なくとも一部の金融機関で行われていたこれまでのような「門前払い」はなくなるものと思われます。

ですから、もし本人の判断能力が衰えて、家族が口座の管理に困っているというようなケースは、すぐに成年後見制度の利用を検討するのではなく、まずは新指針に基づく対応をしてもらえるかを銀行に確認することが順番としてはスタンダードになるでしょう。

注意しなければならないのは、今回の新指針で柔軟な対応が示されたのは「預金の引き出し」ですから、例えば口座の解約、定期預金の解約などは原則通り成年後見制度の利用を促されることになるでしょう。

また、預金の引き出しとは関係のない、不動産の処分や介護保険契約の締結、相続手続きについてはこれまで通り成年後見制度の利用を検討しなければならない現状に変更はありません。

いずれにしても、このページで解説したような事情があって、どのようにすべきか迷ったら、当事務所にご相談ください。自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。

このページでは、「認知症の家族に朗報|預金の引き出しが簡単に【司法書士監修】」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、全国銀行協会が初めて示した「認知症患者の家族による預金の引き出しの指針」について知っておくべきことを解説しました。

指針が示されたことでこれまでバラバラであった銀行の対応が統一化されることになります。しかし、成年後見人を選任しないで行う手続きは「その場しのぎ」とも考えられます。「その場しのぎ」でも問題のないケースもありますが、やがて重要な課題に直面するケースも想定できます。

ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。また相続問題に強い提携の弁護士もおりますので、代理人の依頼も可能です。

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