【司法書士監修】ペットと遺産相続問題を考えてみた

2023年5月20日

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財産を相続できるのは人間に限られるだろう…と思っていたら、海外では事情が違うようです。例えば、ドイツでは動物にも相続が認められるとのこと。では、例えばフランスではどうなるのでしょう…と考えていたらこんなニュースが。

「故カール・ラガーフェルド氏の飼い猫シュペットが、200億円の遺産を相続」。カール・ラガーフェルドは瀕死の状態にあったシャネルを立て直したことでも有名な一流デザイナーです。

ラガーフェルド氏の住居はフランスなので、フランス法が適用されることになります。しかし、フランス法には動物が相続できるという規定はありません。

では、どのようにしてシュペットは遺産を相続するのでしょうか。この問題は同時に、日本においてペットに相続させるためにはどうすればいいのか、を考えることにもつながります。

ペットが相続できるか?(日本)

結論から言いますと、日本ではペットは遺産を相続することはできません。また、遺贈と言う形で遺言書の内容に基づいて遺産を譲り受けることもできません。

相続人は人間に限られる

民法896条は次のように規定しています。

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。(以下省略)

つまり、「相続人は」と言っているので、「人」しか財産を相続できないことになります。

胎児は相続できるのでしょうか

ちなみに、胎児も相続できます。胎児はまだ生まれていないので完全な人とは言えません。しかし、民法886条1項の中で次のように規定されています。

胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。

法人は遺産を取得できるのでしょうか

法人は、人ではないので相続により遺産を取得することはできません。しかし、遺贈と言う形で遺言書の内容に基づいて遺産を譲り受けることはできます。遺贈により遺産を取得する人のことを受遺者と呼びます。

つまり受遺者は人間に限りません。会社や法人格のない団体も受遺者になれます。なお、胎児は民法965条の規定により受遺者になることもできます。

ペットが相続する方法は5つ(日本)

日本ではペットは遺産を相続できないと言っておきながら矛盾したタイトルですね。確かに、直接遺産を相続することはできません。しかし、やりかたを工夫すれば、間接的にペットに相続させることも可能です。

ペットに遺産を相続させる、と言ってもペットが自らお金を使うことは出来ません。ですから、残されたペットが困らないように、法律を駆使して誰かにペットの面倒を看させる、という意味に考えるとわかりやすいですね。

方法は、次にあげる4つの方法が主流です。

負担付遺贈(民法1002条)

遺言の方法です。例えば、遺言書に「Aに100万円遺贈する。その代わりペットの世話をして下さい」と書きます。これが負担付遺贈です。ただで100万円がもらえる代わりに、ペットの世話(負担)をすることになります。

遺言でしますから、遺言書を書く飼い主が一方的に内容を決めることになります。ですから、受遺者はこの遺贈を放棄することも可能です(民法986条)。受遺者に放棄されたら遺言の目的は達成されません。

また、受遺者が100万だけもらって全く世話をしないことも考えられます。この場合、相続人や遺言執行者から遺言の取り消しを家庭裁判所に請求できます(民法1027条)。取り消されたら場合もやはり遺言の目的は達成されないままです。

そのようなリスクはありますが、手軽な方法ではあります。遺言も自筆で書くもよし、公証役場で作るもよしです。専門家の立場としてはトラブル防止のため、公正証書遺言によることをお勧めしますが。

負担付死因贈与契約(民法553条、民法554条)

生前契約の方法です。ただし、契約の効力がスタートするのは、飼い主が死亡した時です。例えば、契約書に「Aに100万円贈与する。その代わりペットの世話をして下さい。ただし、この契約の効力が生じるのは私が死亡した時です」と書きます。これが負担付死因贈与契約です。

負担付遺贈と違って、「契約」です。一方的に飼い主が決めたことではありません。契約とは双方の合意に基づくものです。ですから、100万だけもらって世話は放置するという事態はある程度は防止できるでしょう。

遺言信託|民事信託|ペットのための信託

遺言の方法です。さらに信託を組み合わせるやり方です。信託とは、委託者(財産を有する者)が受託者(財産を預かる者)に財産を託して運用をしてもらうことです。遺言書の中で信託契約の内容を示す、これが遺言信託です。これとペットがどう関係あるのでしょうか。

まず、飼い主が委託者です。家族や友人などを受託者として、飼育費を託します。新しい飼い主(になる予定の人)にペットを遺贈して同時に受益者と指定します。飼い主の死亡後は、受託者から受益者へ飼育費用を支払ってもらうようにします。この一連の内容を遺言書にまとめるのです。

この方法のメリットは、ペット費用と飼い主のその他の遺産を完全に分離することができるので、相続争いを防止できる点です。

また、新しい飼い主の世話の様子を見守る役目の信託監督人を任意で指定することもできます。外国では遺産の承継に際して、信託が積極的に利用されていると聞きます。おそらくラガーフェルド氏も遺言信託の方法を用いたのではないでしょうか。

ですから、報道にある「シュペットが、200億円の遺産を相続」というのは日本式に言えば正確な表現ではありません。「シュペットは、遺産を託された受託者(シュペット基金?)から、受益者を通して200億円を取得できる」と言うのが、より正しい表現ではないでしょうか。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

遺言代用信託|民事信託|ペットのための信託

生前契約の方法です。委託者と受託者が契約を締結します。遺言信託と違う点は、契約の時から死亡を待たずして効力が生じる点です。

まず、飼い主が委託者です。同時に最初の受益者と指定します。家族や友人などを受託者とします。信託する財産は、飼育費+ペットです。しかし、飼い主が元気でいる間は、飼い主が世話をします。

飼い主が世話をすることができなくなったときは受託者が管理しますが、その時はあらかじめ定めた動物保護施設などにペットを預けて、飼育代は信託財産から支出するようにします。この一連の流れを契約書にまとめるのです。これを遺言代用信託といいます。

信託法を根拠にする遺言信託と遺言代用信託のやり方は、内容が込み入っているため、費用も掛かります。

死後事務委任契約

生前契約の方法です。自分の死後に必要な事務を、私の代わりにお願いしますという契約です。例えば契約書に「AはBの死後、Bのペットを生涯にわたり責任を持って飼育しなければならない」と書いておきます。このとき、委任契約書の中には、飼育費用や報酬の条項も入れておくべきでしょう。

原則として委任契約は、当事者の一方により契約の効力が終了します(民法653条)。ですから、契約書の中に特約を入れて、飼い主が死亡しても失効しないようにします。そうすると死後事務委任契約となります。

問題点は、Aが全く世話をしなかったらどうなるのか、という点でしょう。しかし、生前契約ですから、信頼に値する人と契約を結べばリスクは軽減できます。

ペットに遺産を承継させるにはどの方法か?

5つ方法をあげました。一長一短です。より安心できる方法となると、信託の方法がいいでしょう。また、より簡単な方法となると、負担付遺贈でしょう。そして、あらゆる面でちょうど真ん中あたりの方法が、負担付死因贈与契約と死後事務委任契約ではないでしょうか。

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