【司法書士監修】相続した預金の解約手続きに遺産分割協議書は必要か

2023年11月9日

エプロン姿で悩む女性
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相続が開始して、故人の名義の銀行預金を解約するにあたって、遺産分割協議書を作成する必要があるのでしょうか。同じ悩みをお持ちの相続人の方は多いと思います。

「遺産分割協議書を作成しなくてもいいなら、作成しないで済む方が簡単に違いない」とお考えではありませんか?作成しないことで後で問題になったり、不利益になったりすることはないのでしょうか?

このページでは、創業20年の相続手続き専門司法書士が「相続した預金の解約手続きに遺産分割協議書は必要か?」についてお伝えいたします。

銀行は「遺産分割協議書はなくてもよい」と回答

まず結論をお伝えすると、「相続した預金の解約について遺産分割協議書は必ずしも必要ではない」となります。

ですから、もし、遺産分割協議書を作成していなくても預金の解約・相続手続きはできますから安心してください。

たとえば、三井住友銀行は、相続手続きをしようとする相続人に対して送付する「相続手続きに関するご案内(相続オフィスによるお手続き)(2020年9月版)」の中で次のように説明しています。

Q 遺産分割協議書の作成・送付は必須ですか?
A 作成がなくても相続手続は可能です。作成されている場合には、戸籍謄本等と共に原本を相続オフィスへご郵送ください。

このような対応は、三井住友銀行に限ったものではなく、他の金融機関でも同様です。

つまり、遺産分割協議書を作成したのであれば金融機関への提出が必要となりますが、作成していないのであれば提出は不要ということです。

「遺産分協議書は不要」ならば預金の解約はどうやるのか

「遺産分割協議書は必ずしも必要ない」とすると、実際に預金の解約の手続きはどのように行われるのでしょうか?

手続きする代表者の書類だけではダメ

まず、よくある勘違いが「手続きを行う代表者だけの書類さえあれば遺産分割協議書がなくても相続手続きはできてしまう」というもの。

これは間違いです。

そもそも、預金の解約・相続手続きには、故人(被相続人とも言います)の死亡から出生にさかのぼる連続した戸籍謄本が必要となりますし、自分以外の相続人の戸籍謄本も必要になります。

【司法書士監修】相続の戸籍謄本取り寄せのノウハウ

他の相続人の署名・捺印、印鑑証明書も必要になる

上記の戸籍謄本等にあわせて、他の相続人全員の印鑑証明書も必要となります。

また、銀行が用意する「相続手続き依頼書」に相続人全員の署名と実印での押印が必要となります。代表者の署名・捺印だけでは手続きはできません。

そもそも「遺産分割協議書」には相続人全員の署名と実印での押印が必要であり、なおかつ印鑑証明書の添付も必要です。

相続人全員の署名・捺印・印鑑証明書の提出が必要という点で比較すると、遺産分割協議書を作らず「相続手続き依頼書」で済ませようが、遺産分割協議書を作ろうが、手間は変わりません。

「相続手続き依頼書」による預金の受け取り方は2つある

銀行が用意する「相続手続き依頼書」による預金の解約の方法は、具体的には次の2つのやり方があります。

  1. 代表相続人が代表して預金を受け取る方法
  2. 相続人が共同して預金を受け取る方法

どちらの方法が認められるかは、金融機関によって異なります。1の方法は大体の金融機関で認められていますが、2の方法は認められている銀行と、認められていない銀行があります。

実際の手続きは次のようになります。

「代表相続人が代表して預金を受け取る方法」の盲点とは

まず、その銀行の預金をいったん代表相続人が全額受け取る方法ですが、この意味は2つあります。そして、どちらの意味で手続きを行っても、それぞれ問題が生じます。

  1. 代表相続人のみが一人で全額を相続する
  2. いったん代表相続人が受け取って後で他の相続人へ分け与える
「A.代表相続人のみが一人で全額を相続する」という意味で手続きした場合

Aの意味で代表相続人が全額受け取る場合、銀行に対する手続きは「相続手続き依頼書」を提出するだけで預金の解約はできます。

しかし、法律上は正式に遺産分割を行ったわけではなく、またその書類も残りません。「相続手続き依頼書」は原本を銀行へ提出することになりますし、その控えなどは発行されません。

つまり、「遺産分割を行った」という証拠が書面として残らないことになるのです。これは法的トラブル防止の観点からみて、非常に危険なことです。

「B.いったん代表相続人が受け取って後で他の相続人へ分け与える」という意味で手続きした場合

また、Bの意味でいったん代表相続人が仮に受け取るというのであれば、その後に税法上の問題が生じる可能性があります。

それは、いったん代表相続人が受け取ったものを、後日そのほかの相続人へ分け与えるということになると、分け与えた金額については、税法上「贈与」とみなされる可能性があるからです

これを避けるためには「遺産分割協議書」を作成する必要があります。銀行が要する「相続手続き依頼書」は法的な効力はなく、いわば銀行の内部資料です。

しかも「相続手続き依頼書」には「代表相続人が代表して受領する」としか書かれておらず、他の相続人へいくら分け与えるとも書かれていません。これでは「遺産分割協議書」の代わりにはなりません。

とりあえず次の場合に該当したら作成すべし

ですから、あなたが次の場合に該当する時は、遺産分割協議書の作成を検討する必要があります。

  • 銀行が「1.代表相続人が代表して預金を受け取る方法」しか認めない場合

この場合に該当するにもかかわらず「相続手続き依頼書」で手続きを終えてしまうと、後で大変な問題が生じる可能性もあります。

銀行が用意する「相続手続き依頼書」は万能ではない

遺産分割協議書を作らず、銀行が用意する「相続手続き依頼書」で預金の相続手続きを行うことは可能です。

しかし上記でお伝えしたように、後から「贈与税」の問題が生じたり、かえって面倒になってしまうケースもあります。例えば次のような場合です。

もともと相続税が生じるような場合

もともと相続税が発生するほどに遺産の金額が多い場合は、もし「相続手続き依頼書」で銀行預金を解約できたとしても、相続税の手続き上、別途、遺産分割協議書を作成しなければならないことがあります。

「相続手続き依頼書」による解約は、預金の金額に関係なく応じてもらえます。

たとえば、相続税の手続きが不要な場合に「相続手続き依頼書」で解約をしても、特段問題は生じません(ただし上記した贈与税の問題や証拠が残らないという問題は生じます)。

しかし、相続税の手続きが必要な場合に、手間を省こうと思って「相続手続き依頼書」で解約をしても、相続税の手続きの際に遺産分割協議書を作らざるを得なくなり、結果として2度手間になってしまいます。

2度手間というのは、「相続手続き依頼書」にも相続人の署名・捺印をもらい、その後「遺産分割協議書」にも相続人の署名・捺印をもらわなければならないという意味です。

相続税の手続きが必要になるかもしれないのに、自分で手続きを行おうとする人は経験上まずいませんが、もしこれをお読みのあなたがそうであれば、十分に気を付けた方がよいでしょう。

繰り返しになるかもしれませんが、「相続手続き依頼書」は遺産分割協議書の代わりにはなりません。

複数の銀行の相続手続きがある場合

「相続手続き依頼書」は、その銀行独自の様式があり、銀行ごとに内容が異なります。

ですから、例えば故人が三菱UFJ銀行とみずほ銀行と三井住友銀行に口座を保有していた場合、三菱UFJ銀行には三菱UFJ銀行から取り寄せた所定の「相続手続き依頼書」を提出しなければなりません。

そして、みずほ銀行、三井住友銀行に対しても同様に、それぞれの銀行から取り寄せた「相続手続き依頼書」を提出する必要があります。

「相続手続き依頼書」には相続人全員が署名捺印をしなければなりませんから、この場合、3つの金融機関に提出する「相続手続き依頼書」にそれぞれ署名捺印が必要となります。

もし「相続手続き依頼書」ではなく、遺産分割協議書を使って手続きをするというのであれば、遺産分割協議書1通のみに相続人全員の署名捺印をもらえばよいだけですから、結果としてその方が間違えも少なく、簡単だということになります。

ちなみにこの場合、「相続手続き依頼書」には代表相続人のみが署名捺印をすれば手続きが行えます。

結論|作成がなくても相続手続は可能だが…

故人の預金口座について相続手続きをする際に、銀行へ「遺産分割協議書の作成・送付は必要ですか?」と問い合わせれば、「作成がなくても相続手続きは可能です」と答えるはずです。

しかし、このページでお伝えしたようなリスクや、かえって面倒になる可能性などの説明はなされないはずです。なぜなら、そのようなことは銀行にとっては関係のないことだからです。

「作成がなくても相続手続きはできるか?」ということと、「作成がなくても問題はないか?」ということは別次元の問題です。

そして「問題がないか?」は、専門的な知識を有する者にしか判断はできません。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。

このページでは、「【司法書士監修】相続した預金の解約手続きに遺産分割協議書は必要か」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、まさに今あなたが困っていることについて、知っておくべきことを解説しました。

このページでお伝えしたかったことは次の3点です。

  • 遺産分割協議書を作成しなくても預金の相続手続きには応じてもらえる
  • 作成しない場合は遺産の分割をした証拠が残らないことになる
  • 作成しない場合は贈与税や相続税の問題に対応できないこともある

遺産分割協議書を作成する必要があるか無いかを判断するには、専門的な知識が必須となります。ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。また相続問題に強い提携の税理士や弁護士もおりますので、全方向の対応が可能です。

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