【司法書士監修】遺言に書いた内容は誰が実行するのか

クエスチョンマークを持つ男性

遺言書の内容をじっくり考えて完成させたとしても、いざ相続が開始した際にその内容が遺言書通りに実行されなければ意味がありません。それでは誰が遺言に書いた内容を実行するのでしょうか。

このページでは、これから遺言書を作ろうと考えている方、またはすでに相続が開始して手元に遺言書があるという相続人の方に向けて、遺言書の内容の実行手続きに関する問題について、相続手続き専門化の視点から考察します。

遺言の内容の実行とは?

遺言書には、遺言書に書かれた内容のうち、その内容を実現するために誰かが手続きを行わなければならないものと、そうでないものがあります。

例えば遺言者(遺言書を書いた本人のことを指します)が生前に愛人との間に子供を作っており、存命中に認知をするのは家庭崩壊を招くとの危惧から、遺言書の中で認知を行うという手法があります(民法781条)。この場合、遺言書の内容は「◯◯を認知する」となるわけですが、実際には役所への認知届け出も必要となります。つまり、認知という内容を実現するために誰かが手続きを行わなければならないのです。これを法律上は「遺言の執行」と言います。

反対に、遺言の内容を実現するために遺言の執行行為は必要ないものもあります。例えば家族間が不仲であり、相続開始と同時に遺産分けを進めても上手くいかないことが想定される場合は、遺言書の内容に「遺産分割を5年間禁止する」と記すことができます(民法908条)。この場合、相続が開始しても相続人は遺言書の内容通り5年間の遺産分割が禁止されるだけですから、そのために誰かが手続きを行う必要は全くありません。つまり「遺言の執行」は必要が無いことになります。

ただし、ほとんどの遺言書には「自宅をAに相続させる」とか、「B銀行の預金はCに遺贈する」など、遺言者の財産を承継させる内容が含まれているため、この内容を実現するためには「遺言の執行」が必要となります。具体的には不動産の名義変更や預金の解約・名義変更手続きを行う必要があるという意味です。

遺言の内容は誰が実行するのか?|遺言執行者の地位など

上記のように遺言書が残されていたとき、遺言の執行が必要な場合と不要な場合があることはお分かりいただけたと思います。そして、ほとんどの遺言書は遺言の執行が必要となりますから、次に「誰が遺言の執行を行うのか」について考えていきます。

遺言の中で指定があればその人がやる

遺言の内容を実行する者のことを法律上「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」と言います。遺言者本人は遺言の中であらかじめ遺言執行者を指名しておくことができます。もし、遺言の中で遺言執行者が指定されていればその者が遺言の執行を行います。生前にあらかじめ指定するときは、法律上有効な遺言書で指定されることが必要です。口頭や単なるメモ書きでは無効です。

遺言執行者の指定が無い場合は、2通りの方法に分かれます。まず1つは、利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任請求の申し立てをする方法です。ここで言う「利害関係人」は一般的に広く解釈されていて、遺言の執行に関して法律上の利害関係を有するものを指します。具体的には、相続人や相続人以外の受遺者、相続債権者、受遺者の債権者などを含みます。

家庭裁判所に遺言執行者の選任請求の申立を行う際は、遺言執行者の候補者として適宜の者を推薦することができますが(例えば「遺言執行者は〇〇を選んでほしい」という希望)、裁判所がその候補者を選ぶかどうかは保証がありません。遺言の執行の難易度などを総合的に裁判所が審査して、候補者では不適当だと判断されれば選任されないこともあります。

次に2つ目の方法は、遺言執行者の選任請求を行わず、相続人が遺言の執行を行うというやり方です。この場合、遺言の執行行為を行う相続人をあえて遺言執行者とは呼びませんが、イメージとしては「誰もやらないなら相続人がやる」といった感じです。相続人が複数いる場合は、相続人全員が共同して遺言の執行を行います。

いずれにしても、遺言が残されていた場合は、遺言の執行が必要か否かを判断して、執行が必要なものについては下記で説明するような手続きに取り組み必要があります。また、相続人でも執行が可能か、遺言執行者を選任するべきかも含めてできるだけ早い時期に結論を出す必要があります。その判断は、一般の方には困難ですから、相続手続きに詳しい専門家に相談されることをおすすめします。

遺言執行者になりたくない時は

もし遺言書で遺言執行者に指定されていたとしても、遺言執行者になること(法律上は「就職」と言います)は義務ではありません。遺言執行者に就職する場合も辞退する場合もその理由を相続人などに説明したり明らかにする必要はありません。辞退する場合、その旨を他の相続人等へ通知する義務はありませんが、手続き上は通知をしておいた方が良いでしょう(民法1008条)。

遺言執行者になれない者とは

未成年者と破産者は遺言執行者になることができません(民法1009条)。破産者については、過去に破産していても遺言執行者に就職する時点で復権していれば、遺言執行者になれます。また、相続人や受遺者も遺言執行者になることは可能ですが、遺言の内容によっては(例えば認知や相続人の廃除等相続人が遺言執行者となったのでは公正な執行を期待できないケース)なれない場合もあります。

そして相続人や受遺者が遺言執行者になれない場合(なることが好ましくない場合を含む)は、弁護士や司法書士など相続手続きの専門家を遺言執行者として指定・選任することが望ましいかもしれません。

遺言執行者がいるのに相続人が手続きをしても良いのか

後述する「執行妨害」と関連するところですから、やや微妙な点ではあります。基本的なイメージとしては、遺言執行者がいれば遺言執行者が遺言の執行を行うと覚えておけば無用なトラブルになることはありません。

例えば「自宅をAに相続させる」という遺言内容(相続人に対して特定の財産を相続させる旨のことを法律上「特定財産承継遺言」と言います)について執行を行う際、遺言執行者は当然に自宅不動産の名義をAに変更する旨の手続きを行うことができます(民法1014条2項)。

遺言執行者がいるので当然といえば当然の扱いですが、ではこの場合、不動産を相続するAが自ら名義変更手続きをすることはできないのでしょうか。答えは、相続人Aが自ら名義変更を行うこともできます。相続人Aは自らが取得する財産に関する執行行為を、自ら行っただけですから「執行妨害(民法1013条)」にもあたりません。

この扱いは預金が承継財産とされていた場合も同じです。例えば「甲銀行の預金をすべてBに相続させる」という遺言の内容であれば、遺言執行者により預金の払戻し・解約手続きが可能であるだけでなく、相続人B自身により同様の手続きを行うことが可能です(民法1014条3項)。特定財産承継遺言に関する詳しい解説は別のページでしていますので、もしよろしければあわせてご一読ください。

■【最新版】遺言執行者の権限強化(特定財産承継遺言)|相続法の改正

【最新版】遺言執行者の権限強化(特定財産承継遺言)|相続法の改正

遺言執行者の法律上の地位とは

「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法1012条1項)」とされていますから、遺言執行者にはかなり強力な権限が与えられていることがわかります。

また、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる(民法1015条)」とされているため、実質的には遺言執行者は相続人の代理人的地位を有すると考えられます。もちろん、遺言執行者が遺言の執行行為をするに際して、いちいち個々の相続人の了解や承諾を得る必要はなく、遺言執行者の責任と判断で手続きを行うことができます。

遺言を執行するときに注意すべき点|相続人の妨害

以上で遺言執行者のおおまかなところがイメージできたのではないでしょうか。それでは次に、遺言執行者が遺言の執行をするに際して注意すべき点を中心に考察します。

遺言執行者は遺言の内容を実現するために必要な行為をしなければなりませんが、相続人や受遺者の最大の関心事は「遺産分け」ですから、遺言書に書いてある通りに財産を分配することが着地点となります。

もし相続人・受遺者などから遺言の内容に疑義が出て、遺言書の配分とは異なる配分で分けてほしいというような要求があったとしても、遺言執行者は遺言の内容通りに執行行為を行うべきでありますし、中立的な立場である必要があります。ですから、このような要求があった場合に遺言執行者が特定の相続人の代理人として話を進める行為は、遺言執行行為と相いれない「利益が相反する行為」となり、非常に問題です(弁護士法違反との判決があります|東京高判平成15年4月24日)。

遺言執行者のやるべきことの流れ

遺言執行者がやるべきこと(職務)については、それだけで専門の書籍が何冊も出版されているような複雑な内容を含みますから、ここでは概略だけを説明します。

①相続財産目録の作成~まずは遺産の目録を作るところから始まります。法律上の決まった様式はありません。関係相続人などの協力を得て作成します。不動産については登記事項証明書等を取得したり、預貯金については残高証明書を請求したりします。

②相続人等への通知~遺言執行者に就職したことや、①で作成した相続財産目録、遺言の内容を通知します。後述しますが、以後は相続人による遺産の処分は法律上禁止される点もあわせて伝えます。また、相続する(遺贈を受ける)意思があるか否かを確認し、もし相続人らが保管している相続財産があれば遺言執行者に引き渡すように伝えます。そしてそのようなケースにおいては①の目録の作成は結果的に後にならざるを得ないでしょう。

③名義変更|遺産の分配~遺言書の内容にしたがって、遺産の名義変更などを実行します。また、遺産の分配も行います。なお、執行行為の途中で相続人等から進捗状況を教えてほしいとの要求があった場合は、「遺言執行事務処理に関する報告書」などとして報告をする義務が有ります(法律上の決まった様式はありません)。要求が無い場合には報告義務はありませんが、執行が長期にわたる場合は要求が無くても報告はした方が良いでしょう。

④終了の報告~遺言の執行が完了した場合は、その旨を相続人等へ通知します。法律上の決まった様式はありません。また、相続人のために受領したものがあれば、相続人へ引き渡す義務が有ります。

相続人の協力が得られない場合は|遺言の執行の妨害

上記にある通り、遺言執行者には法律上非常に強大な権限が与えられているため、遺言執行者がいるときには、相続人は遺産の処分をはじめとして遺言の執行を妨げるような行為をすることはできません(民法1013条)。

遺言の執行を妨げる行為とは「単に協力しない」という態度も含まれます。例えば、相続人の1人が遺産の全てを管理していて、個々の通帳や権利証などの引き渡しが無いと遺言の執行が行えないというようなケースでは、それらの引き渡しを求めて訴訟を提起することも可能です。このようなトラブルを起こさないためにも、上記の「遺言執行者のやるべきことの流れ」で説明した「②相続人等への通知」は非常に大切な手続きとなります。

遺言執行者はどこまで財産を調査すべきか

遺言執行者には「相続財産」に関する管理義務が有るだけです。つまり、相続開始時点(死亡時)の遺産を把握する義務が有るのみで、それ以前の例えば生前贈与があったか否かなどについては調査する義務はありません。

遺言を執行するに際して、相続人から「その遺言の内容は遺留分を害している」などの意見が出ることがありますが、遺留分を害しているかについては遺言執行者の調査権限は及ばないことを理由に相続間の争いに巻き込まれることは避けるべきです(仮に遺留分侵害額請求に関する訴訟が提起されても遺言執行者は当事者となりません)。

確かに遺留分の計算をするにあたっては、生前贈与の金額も考慮するわけですが、中立性を保つためにも相続開始前の話には遺言執行者は関与しないのがベターでしょう。もしそのような調査を要求されたら相続人等当事者の責任ですべきものです。

遺言執行者の指定があったら…なかったら…

遺言書に遺言執行者の指定があったとしても、反対に遺言執行者の指定が無かったとしても、どちらも問題はあります。

例えば遺言執行者の指定があった場合、指定された方が相続人中の1人であるとき、法律上滞りなく遺言の執行ができるのか、という問題があります。遺産の配分が相続人同志で不平等であるときは、特に遺言の執行の難しさが顕著になります。

逆に遺言執行者の指定が無い場合、「じゃあ相続人でやろう」という事にしてよいものか、「他の人に頼もう」となった時に誰にお願いすれば良いのか、そもそも受けてくれるのかという問題もあります。

どちらのケースに該当するにしても、最終的に目指すところは故人の想いを汲んで遺言の内容通りになすべきことをなすだけです。できれば自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。

このページでは、「【司法書士監修】遺言に書いた内容は誰が実行するのか」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、様々な点から対処法も含めて多角的に解説しました。

この問題は専門家の立場からしても非常に難しい問題を含んでいます。ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。

遺言執行者を誰にすべきか、遺言の執行の手続きの流れや、具体的なやり方、遺留分侵害額請求があった場合や、遺言の無効を主張する相続人がいる場合など、他にも様々な疑問があることと思います。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。

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