いま知っておきたい配偶者居住権【司法書士監修】2019年度版

配偶者居住権は、今回の40年ぶりの改正相続法の中心とも言われています。
しかし、この配偶者居住権は「長期配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」のように種類があり、区別が付きにくく、理解しずらいのです。

ちょうど、2019年3月27 日,租税特別措置法の一部改正を含む所得税法等の一部を改正する法律が国会にて可決・成立し、その中で配偶者居住権の登録免許税も確定しました。

そこで今回は、配偶者居住権のキホンから始まり、相続においてどのように問題になるのか、制度のスタート時期なども含めて情報をコンパクトに整理します。

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、「被相続人(故人)の配偶者が、それまで住んでいた建物に、無償(タダ)で引き続き居住できる権利」です。

残された配偶者にとって、遺産相続における最大の関心事は、住み慣れた住居に引き続き住み続けられるかどうかでしょう。
特に残された配偶者が高齢であればあるほど、それまで住み続けた住居を離れて生活をすることは、精神的にも肉体的にも困難でしょう。

遺産分割(遺産分け)の中で、それまで居住していた建物の所有権を取得できれば、当然に住み続けることはできます。
しかし、相続争いの結果、所有権を取得することができない場合、すぐに立ち退かなければなりませんし、実際すぐに立ち退くことは不可能でしょう。

また、仮に居住していた建物の所有権を取得できても、その代わりに預貯金は少額しか相続できず、老後の生活資金が不足する事態を招きます。

そこで、所有権を取得しなくても引き続き建物に居住し続けることができるという「居住権」を新たな制度として設けたのです。

配偶者居住権の種類は「2つ」

配偶者居住権には2つの種類があります。

1つ目は、故人の死亡と同時に、配偶者に当然に認められる「配偶者短期居住権」。
「短期」とあるように、その期間は6か月だけです。
法律上当然に認められる権利なので、他の相続人が何を言おうが6か月は継続して居住できます。
6か月は短いような気もしますが、それ位の期間があれば別のところに引っ越せるでしょう、というのが制度趣旨のようです。

2つ目は、故人が遺言書に書き残したり、相続人の遺産分割によって、はじめて配偶者に認められる「長期配偶者居住権(法律上は単に「配偶者居住権」と規定されますが短期型との区別の為このように呼ばれることが一般的です)。

長期配偶者居住権は、遺言や遺産分割により取得できる権利なので、当然に認められる権利ではありません。
「長期」なので、期間の制限はありません。「残された配偶者がなくなるまで(終身)」のように定めることもできます。

長期配偶者居住権(配偶者居住権)とは

長期配偶者居住権は、長く居住できる権利ですが、配偶者に当然に認められる権利ではありません。
それでは、どのような要件をクリアーすれば長期配偶者居住権が認められるのでしょうか。

長期配偶者居住権を取得するための要件

配偶者が長期配偶者居住権を取得するには次の要件を満たす必要があります(民法1028条1項)。

  1. 被相続人の財産に属した建物に
  2. 相続開始の時に
  3. 居住していること、が大前提で、なおかつ
  4. 相続人による遺産分割協議(遺産分割調停・遺産分割審判)、または
  5. 被相続人からの遺贈(遺言書に「長期配偶者居住権を遺贈により設定する」と書いてある)、または
  6. 被相続人との間の生前の死因贈与契約があること(条文にはないが解釈上認められる)

1~3はすべてクリアする必要があります。
4~6はいずれかクリアしていれば大丈夫です。
4~6の意味は、配偶者が長期配偶者居住権を取得することについて何らかの合意や意思表示があるという事です。
これだけの要件をクリアして配偶者はその建物に居住し続けることができます。

長期配偶者居住権の注意点とは?

上記の取得要件について、注意すべき点は以下の通りです。

  • この建物を被相続人が配偶者以外の人と共有していた場合は、長期配偶者居住権は生じません(民法1028条1項ただし書き)。
  • 配偶者は必ずしも被相続人とこの建物に同居していた必要はありません。単身赴任などのケースもありますからね。
  • 長期配偶者居住権は、所有権ほどではありませんが、一定の評価はあります(例えば所有権として3000万円の評価であれば長期配偶者居住権としては1500万円など)。
  • そこで遺贈により長期配偶者居住権を取得した場合は、原則としてこれを特別受益として評価しません(持ち戻しを免除)。つまりこれを除外したものを遺産と評価していくことになります(民法1028条3項)。

長期配偶者居住権は登記が必要

長期配偶者居住権は、登記をすることによりその権利を対外的に主張できます。

対抗要件としての登記

登記が対抗要件となります。
法務局の職権により当然登記されるはないので、自ら登記申請が必要です。

残された配偶者は居住しているだけでは、長期配偶者居住権を対抗することはできまん。
また、借地借家法の借家権のように建物の引き渡しを受けているだけでは対抗力はありません(というよりはもともと居住しているため「引き渡し」はあり得ない)。

建物の所有者は、長期配偶者居住権を取得した配偶者に対して、長期配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います(民法1031条1項)。
通常の建物の賃貸人には、特約が無い限りこのような義務が無いことと比較されます。

なお、建物についての登記ですから、敷地(建物の底地部分)について何らかの対抗力が与えられるものではありません。

長期配偶者居住権の登記のやりかた

不動産登記は、登記によって利益を受ける人(登記権利者)と登記によって不利益を受ける人(登記義務者)の共同申請が原則です。

長期配偶者居住権の登記も、配偶者(登記権利者)と建物所有者(登記義務者)の共同申請です。
ただし、遺産分割調停や遺産分割審判で配偶者居住権が認められた場合は、配偶者のみからの単独申請が可能と考えられます。

長期配偶者居住権の登記の前提として、まずは、この建物について相続人への相続を原因とする所有権移転登記が必要となるでしょう。

  1. 所有権移転登記(相続)
  2. 長期配偶者居住権設定の登記

一般的にはこのような登記申請の流れになるはずです。
申請書は別々となりますが、いっしょに提出することはできます。

長期配偶者居住権は登記簿にどのように登記されるのか

長期配偶者居住権は建物の登記簿に賃借権のような形で登記されます。
登記事項は不動産登記法81条の2に規定があります。

【配偶者居住権の登記の登記事項】

第81条の2 配偶者居住権の登記の登記事項は、第59条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
一 存続期間
二 第三者に居住建物(民法第1028条第1項に規定する居住建物をいう。)の使用又は収益をさせることを許す旨の定めがあるときは、その定め

長期配偶者居住権の登録免許税は?

設定登記の登録免許税 = 居住建物の評価額 ×2/1,000(1000分の2

参考までに根拠として財務省のページをリンクとして挙げておきます。
第198回国会における財務省関連法律「所得税法等の一部を改正する法律案」(2019年3月27日可決)。
https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/198diet/index.htm

通常の賃借権設定登記は10/1,000(1000分の10)なので、比べれば大分安いです。
配偶者居住権は、無償で使用するため当然とも言えます。

長期配偶者居住権の「消滅」4つの事由

長期配偶者居住権は以下のいずれかの事由によって当然に消滅します。
配偶者短期居住権もほぼ同じような規定があります。

配偶者の死亡または期間満了

遺産分割協議などにより存続期間の定めがあっても、配偶者が死亡すれば、存続期間の満了を待たずに長期配偶者居住権は消滅します(民法第1030条、民法第1036条)。
なお、期間満了により終了した場合でも更新はできません。

建物所有権を取得した時

配偶者が建物全部の所有権を取得すれば、混同によって、長期配偶者居住権は消滅します(民法第1028条2項)。

建物の全部が滅失した時

建物の全部が滅失その他の事由により使用収益できなくなった場合は、長期配偶者居住権は消滅します(民法1036条、民法616条の2)。

建物所有者が消滅請求した時

配偶者に義務違反があった場合、建物所有者は長期配偶者居住権を一方的請求により消滅させることができます(民法第1032条4項)。
配偶者の義務とは、例えば「善管注意義務」です(民法第1032条1項)。
従前と同じような使い方をして下さいという意味です。

さらに、建物所有者の承諾もないのに「また貸し(転貸)」してはいけないという義務もあります(民法第1032条3項)。

このような義務に反した場合、建物所有者は配偶者に対して意思表示によって長期配偶者居住権を消滅させることができます。

長期配偶者居住権「その他の問題点」

長期配偶者居住権のその他の問題点を考察します。

長期配偶者居住権は譲渡できない

この点、配偶者短期居住権も同じです(民法第1041条、民法第1032条2項)。
特に長期配偶者居住権は「相応の財産的価値」がありますので譲渡の可否が問題となりますが、そもそもの制度趣旨にそぐわないため譲渡は認められません。
たとえ所有者の承諾があっても譲渡はできません

さらに、建物所有者からの一方的請求による買取請求もできません。
しかし、建物所有者と配偶者の合意による買取契約は有効と解されています。

建物居住中の修繕義務は誰にあるのか

建物所有者に修繕義務はありません。
この点、配偶者短期居住権も同じ扱いです(民法第1041条)。

民法の条文も、第1次的には配偶者に修繕する権利を与えています(民法第1033条1項)。
これによって配偶者が修繕した場合は、その後は「かかった費用」を誰が負担すべきかと言う問題として法律上は処理します(民法第1034条)。

通常の必要費(誰が居住しても必ずかかる費用)配偶者負担
特別の必要費・有益費(上記外の費用)所有者負担

 

遺留分侵害額請求の対象になるか

長期配偶者居住権は、その価値相当額をあくまで相続分の一部として取得したと扱われます。
これによって、他の相続人の遺留分を侵害すれば遺留分侵害額請求の対象となると考えられます。

したがって、遺言や生前の死因贈与契約で長期配偶者居住権を配偶者にあたえようと計画している方は要注意。
なぜなら、長期配偶者居住権の評価によっては他の相続人の遺留分を侵害してしまう可能性もあるからです。

これに対して、配偶者短期居住権はその期間が6か月限定という事もあり、配偶者の具体的相続分とカウントされませんので、遺留分侵害額請求の対象とはなりません。

配偶者居住権の評価

建物所有権とは別途の評価をすることになります。
長期配偶者居住権の評価は、配偶者の平均余命年数や建物の耐用年数を考慮して、一定の計算式にもとづいてすることになります。

【配偶者居住権等の評価(相続税法第23条の2)】

概要:相続税における配偶者居住権等の評価額を次のとおりとすることとする。

⑴ <配偶者居住権>
建物の時価-建物の時価×(残存耐用年数-配偶者居住権の存続年数)/残存耐用年数×配偶者居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

⑵< 配偶者居住権が設定された建物(以下「居住建物」という。)>
建物の時価-配偶者居住権の価額

⑶< 配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利>
土地等の時価-土地等の時価×配偶者居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

⑷< 居住建物の敷地> 土地等の時価-敷地の利用に関する権利の価額

参考までに根拠として財務省のページをリンクとして挙げておきます。
第198回国会における財務省関連法律「所得税法等の一部を改正する法律案」(2019年3月27日可決)、「相続税法の一部改正(新旧対照表)」。
https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/198diet/st310205s_03.pdf

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

配偶者短期居住権とは

配偶者短期居住権は、6か月の短期間、配偶者に当然に認められる権利です。
長期配偶者居住権のように、被相続人の意思表示や遺産分割によることは不要です。

配偶者短期居住権の成立要件

配偶者短期居住権の成立要件は3つ、次の通り(民法1037条)。

  1. 被相続人の財産に属した建物に
  2. 相続開始の時に
  3. 無償で居住していること

被相続人の意思表示等は特に必要もないので、通常のケースであれば、配偶者短期居住権は広く成立しそうです。

配偶者短期居住権の注意点とは?

上記の要件について、注意すべき点は以下の通りです。

  • 配偶者は必ずしも被相続人とこの建物に同居していた必要はありません。長期配偶者居住権と同じです。
  • 配偶者が、相続開始の時においてこの建物に長期配偶者居住権を取得した場合は、配偶者短期居住権は有しません(民法第1037条1項ただし書き)。
  • 配偶者に相続欠格事由(民法第891条:遺言書の隠匿破棄を含みます)があったり、廃除によって相続権をはく奪されているときは、配偶者短期居住権は有しません(民法第1037条1項ただし書き)。

配偶者短期居住権は「6か月」だけ

配偶者短期居住権は、6か月だけ認められ、建物に住み続けることができます。
では、起算点はいつでしょうか?(民法第1037条1項)。

1、建物について配偶者を含む共同相続人で遺産分割が必要な場合①遺産分割終了時
②死後6か月経過日
→①か②のいずれか遅い日まで
2、上記以外の場合(遺言や死因贈与があり建物を取得する人が定まっているため遺産分割が不要な場合など)建物取得者が配偶者短期居住権の消滅請求をした日から6か月経過するまで

少なくても死亡日から6か月は配偶者短期居住権が認められることになります。
表中の「1」のように、この建物の所有権を誰が相続するかの話し合い(遺産分割協議)が長引く場合は、それが終わるまで居住できます。
ですから、場合によっては6か月以上居住できることもあるわけですね。

配偶者居住権の施行日|適用されるのはいつから?

2020年4月1日以後に開始した相続に適用があります。
これより前に死亡してもその相続には配偶者居住権は成立しません。

また、長期配偶者居住権は遺言や生前の死因贈与契約によっても設定することができます。
しかし、2020年4月1日以後に作成した遺言書や死因贈与契約に限って、配偶者居住権の成立が認められます。

2019年の現時点で遺言や死因贈与契約をして、2020年4月1日以後に死亡しても、改正法の適用は有りませんのでご注意ください。

配偶者居住権は利用されるか?

特に長期配偶者居住権は、配偶者が自分の相続分として取得するものであり、その財産評価については非常に難しい問題を含んでいます。

相続税対策としての利用価値は検討に値しますが、他の相続人の遺留分を侵害しないかどうかという点や、長期配偶者居住権を取得した配偶者が死亡した後の2次相続の問題など、実体上も税法上も今後の運用実績をよく見ていく必要がありますね。

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