いま知っておきたい配偶者居住権【司法書士監修】2019年度版

配偶者居住権は、今回の40年ぶりの改正相続法の中心とも言われています。
しかし、この配偶者居住権は「長期配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」のように種類があり、区別が付きにくく、分かりにくい点があります。

また、2019年3月27 日,租税特別措置法の一部改正を含む所得税法等の一部を改正する法律が国会にて可決・成立し、その中で配偶者居住権の登録免許税も確定しました(配偶者居住権は登記もできるのです)。

そこで今回は、配偶者居住権のキホンから始まり、相続においてどのように問題になるのか、制度のスタート時期なども含めて情報をコンパクトに整理します。

目次

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、「被相続人(故人)の配偶者が、それまで住んでいた建物(これを「居住建物」と言います)に、無償(タダ)で引き続き居住できる権利」です。

今回の相続法改正により「所有権」とは異なる「居住権」という新たな権利が配偶者に認められることになりました。

この制度では、配偶者は居住建物の「所有権」を取得するのではなく(所有権は他の相続人らが取得します)、「居住権」を取得することになります。

そして、遺産分割において、金額が高額となる建物の「所有権」を取得するのではなく、より廉価に見積もられる「居住権」を取得することで、法定相続の範囲内で住まいと生活費に充てる十分な預貯金をバランスよく取得できやすくなると言われています。

従来の問題点とは…

残された配偶者にとって、遺産相続における最大の関心事は、住み慣れた住居に引き続き住み続けられるかどうかでしょう。

特に残された配偶者が高齢であればあるほど、それまで住み続けた住居を離れて生活をすることは、精神的にも肉体的にも困難だと思います。

もちろん遺産分割(遺産分け)の中で、配偶者がそれまで居住していた建物の「所有権」を相続できれば、その建物に居住できるのは当然ですから、この場合に配偶者居住権は問題となりません。

自分の家に自分が住めるのは当然だからです(生前から居住建物の所有権を配偶者が持っている場合も配偶者居住権は問題となりませんが、故人と配偶者が共有していた場合は配偶者居住権を設定することも可能と解される余地はあります)。

しかし、相続争いの結果、居住していた建物の所有権を対立する他の相続人らに取得されてしまった場合はどうでしょう。

たとえ配偶者が住み慣れた家だとしても、他の相続人らに所有権をとられてしまったのであれば、すでに「他人の家」。配偶者が居座ることができる法的な理由がありません。

どうしても居座りたい場合は、建物の所有権を相続した他の相続人らと配偶者の間で賃貸借契約を締結し、配偶者は賃料を支払うことになるでしょう。

もしそれができなければ、すぐに立ち退かなければなりませんし、だからといってすぐに立ち退くことは不可能に違いありません。この点が、従前から問題視されていました。

被相続人が生きている間は、配偶者は無償で居住建物を使用できたのに、被相続人が亡くなったとたんに同居もしていない他の相続人から賃料を請求されるのは、どう考えても一般常識とかけ離れているのです。

そこで、今回の改正で、仮に居住建物の所有権を他の相続人らに取得されたとしても、配偶者は引き続きその建物に無償で居住し続けることができる「居住権」が認められるようになったのです。

イメージとしては、居住建物の所有権を取得した他の相続人らが「賃貸人(大家さん)」で、配偶者が「賃借人」という感じになります(もちろん無料で住めるのですが…)。

また、相続開始後の遺産分割協議で、配偶者が住み慣れた建物を相続した場合でも、高価な不動産を相続したことにより、預貯金などの他の財産を相続することができなくなり、その後の生活が維持できず、結局は相続した不動産を売却しなければならなくなった、という事案も多く、問題視されてきました。

いずれにしても、この制度によって、配偶者は相続の開始によって「住むところがなくなる」という最悪の事態にならずに済むのです。

配偶者居住権のメリット

配偶者居住権が認められることで、配偶者にどのようなメリットがあるのでしょうか。一般的には次のようなメリットがあると説明されます。

住み慣れた家に住み続けることができる

仮に遺産分割協議で居住建物の所有権を相続できなかったとしても、最低でも6か月はその居住建物に無料で引き続き住み続けることができます。

また、故人の遺言や相続人全員の同意(遺産分割協議)があれば、配偶者の終身の間、無料で居住し続けるという事も可能です。

老後の資金を確保できる

上にも掲げたように、この制度では、配偶者は居住建物の「所有権」を取得するのではなく(所有権は他の相続人らが取得します)、「居住権」を取得することになります。

居住権は遺産分割の対象となり、所有権より安い評価と計算されます(具体的な評価の計算方法は後述)。

ですから、所有権ではなく居住権を取得すれば、それ以外の遺産を金銭等でより多く相続できることになり、老後の資金を確保できることになります。

少し分かりにくいので具体例で考察します。

【具体例】
被相続人A・配偶者B・子C
相続財産として、土地及び建物(評価4000万円)、預貯金6000万円がある。

まず、配偶者居住権のことは何も考慮せずに計算します。
相続財産は全部で1億円です(4000万円+6000万円)。法定相続人は配偶者Bと子Cの2名で、その法定相続分は各2分の1ずつです。したがって、具体的な金額でいうと各々5000万円ずつ相続します。

次に、(1)配偶者が不動産の所有権を相続した場合と、(2)配偶者が配偶者居住権を取得した場合で、老後資金(預貯金)にどれ位の違いが出るか、比較してみます。

なお、配偶者居住権の評価は、配偶者の平均余命や建物の耐用年数を考慮して、一定の計算式にもとづいてすることになります(具体的な評価の計算方法は後述)。

この事例では仮に、配偶者居住権を2000万円としました(土地及び建物の評価は4000万円ですから分かりやすいようにその半額に設定しました)。

配偶者の法定相続分額は上で計算した通り5000万円ですから、配偶者が相続できる遺産の内訳がどのように変化するかにもご注目ください。

配偶者Bの取得額子Cの取得額
(1)配偶者Bが不動産の所有権を相続した場合不動産所有権を4000万円
預貯金を1000万円
預貯金を5000万円
(2)配偶者Bが配偶者居住権を取得し、子Cが不動産の所有権を相続した場合配偶者居住権を2000万円
預貯金を3000万円
不動産所有権を2000万円
預貯金を3000万円

この表でもわかるように、(2)の方が(1)より、預貯金を2000万円多く相続できることが分かります。

つまり、(1)の方法によると、配偶者は居住していた建物の所有権を相続できても、その代わりに預貯金は少額しか相続できず、老後の生活資金が不足してしまうのです(預貯金は1000万円しか確保できない)。

それに対して、(2)の方法によれば、配偶者居住権は所有権よりも低額に評価されますから、本事例のように配偶者居住権が2000万円と評価されれば、残りの3000万円を預貯金から相続でき、老後の資金を確保できます。

なお、(2)の方法による場合、子Cは配偶者居住権という負担が付いた不動産の所有権を相続することになります。子Cが相続する不動産の所有権の評価の計算方法は、本来の不動産の評価(4000万円)から、配偶者居住権の評価(2000万円)を控除した金額(2000万円)となります。

したがって、子Cは2000万円の不動産の所有権と、残りの3000万円は預貯金から相続することになります。

配偶者居住権の利用が予想されるケースとは

おそらく、配偶者利用権は次のような場面でよく使われることになるだろうと言われています。

Bには前妻Dとの間に長男Cがいます。その後Dとは離婚(あるいは死別)して、Aと再婚しました。Aとの再婚後にBが死亡し、相続が開始したというケースです。

まず、前提として死亡したBの相続人は、現在の配偶者Aと、前妻との間の子Cの2名です。法定相続分は2分の1づつとなります。

このようなケースにおいて、生前にBが家は跡取り息子のCへ相続させたいと思っているが、配偶者Aにはこれまで通りこの家で生活させたいと思っていたとします。

そこで、Aには配偶者居住権を、Cにはこの建物の所有権を遺贈する(生前にそのような内容の遺言書を作成する)ことによって、Bの希望が実現することになります。

配偶者居住権の種類は「2つ」

配偶者居住権には以下に掲げる2つの種類があります。

配偶者短期居住権

1つ目は、故人の死亡と同時に、配偶者に当然に認められる「配偶者短期居住権」です。
「短期」とあるように、その期間は6か月だけです。

法律上当然に認められる権利なので、他の相続人が何を言おうが6か月は継続して居住できます。
配偶者短期居住権は、故人の遺言や相続人による遺産分割協議がなくても当然に認められる権利です。

当然に認められる権利なので、登記をする必要もありません。

しかし期間は6か月だけです。6か月は短いような気もしますが、それ位の期間があれば別のところに引っ越せるでしょう、というのが制度趣旨のようです。

長期配偶者居住権(正式名称:配偶者居住権)

2つ目は、故人が遺言書に書き残したり、相続人の遺産分割協議によって、はじめて配偶者に認められる「長期配偶者居住権(法律上は単に「配偶者居住権」と表記されますが短期型との区別の為便宜このように呼ばれることもあります)」です。

長期配偶者居住権は、遺言や遺産分割により取得できる権利なので、当然に認められる権利ではありません

「長期」なので、期間の制限はありません。「残された配偶者がなくなるまで(終身)」のように定めることもできます。

長期配偶者居住権(配偶者居住権)とは

長期配偶者居住権は、長く居住できる権利ですが、配偶者に当然に認められる権利ではありません。
それでは、どのような要件をクリアーすれば長期配偶者居住権が認められるのでしょうか。

長期配偶者居住権を取得するための要件

配偶者が長期配偶者居住権を取得するには次の要件を満たす必要があります(民法1028条1項)。

  1. 被相続人の財産に属した建物に
  2. 相続開始の時に
  3. 居住していること、が大前提で、なおかつ
  4. 相続人による遺産分割協議(遺産分割調停・遺産分割審判)、または
  5. 被相続人からの遺贈(遺言書に「配偶者Aに自宅建物の配偶者居住権を遺贈する」とある等)、または
  6. 被相続人との間に生前の死因贈与契約があること(条文にはないが解釈上認められます)

1~3はすべてクリアする必要があります。
4~6はいずれかクリアしていれば大丈夫です。

3の解釈は少し難しいケースも想定されます。例えば配偶者が施設や病院に入所・入院していて相続発生時には、実際に住んでいなかったという場合です。単に住民票上の住所が居住建物にあるという事だけでなく、実質的に判断されるべきです。

ですから、入所・入院が一時的なものであれば、居住していたと判断することができます。その一方で、荷物を整理し自宅へは戻らない(戻れない)ことを前提に入所・入院しているのであれば、居住しているとは判断できないでしょう。この辺りの問題は、解釈論となるため、今後の実例を注視していくべきだと思います。

4~6の意味は、配偶者が長期配偶者居住権を取得することについて、何らかの合意(遺産分割協議)や意思表示(故人の遺言)があるという事です。

これだけの要件をクリアして、配偶者はその建物に無償(タダ)で居住し続けることができます。

なお、これまでの説明にあるように、そもそもこの建物の所有権を配偶者が単独で相続するのであれば、長期配偶者居住権を考慮する必要はありません。

一体どの部分に居住できるのか?

常識的に考えれば、それまで居住していた建物にそのまま居住できるという理解だと思います。一般的なケースにおいてはそれで何も問題がありません。

しかし法はやや特殊なケースも想定しています。たとえば、居住建物の一部を店舗や事務所としていた場合、あるいは、賃貸物件として利用していた場合などです。

つまり、建物の一部しか居住部分として使っていなかったという場合です。その場合であっても、長期配偶者居住権は建物の全体に及ぶとされています(民法1028条1項)。

ですから、生前に自分たちの住宅として使用していた部分の他、店舗や事務所として利用していた部分についても長期配偶者居住権は及ぶことになります。

長期配偶者居住権の注意点とは?

上に揚げた長期配偶者居住権の取得要件について、注意すべき点は以下の通りです。

  • この建物を被相続人が配偶者以外の人と共有していた場合は、長期配偶者居住権は生じません(民法1028条1項ただし書き)。
  • 配偶者は必ずしも被相続人とこの建物に同居していた必要はありません。被相続人が単身赴任などのケースもあるからです。
  • 内縁の配偶者(事実婚の配偶者)にも制度の適用があるのかは不明です。今後の裁判例により解釈が定まるのを待つしかないでしょう。現時点では、内縁の配偶者には認められないと考えるのが一般的です。
  • 居住権は遺産分割の対象となり、所有権より安い評価と計算されます(具体的な評価の計算方法は後述)。
  • 婚姻期間が20年以上の配偶者が、遺贈により長期配偶者居住権を取得した場合は、原則としてこれを特別受益として評価しません(持ち戻しを免除)。つまりこれを除外したものを遺産と評価していくことになります(民法1028条3項で903条4項の規定を準用)。相続財産から除いて計算します。
  • 長期配偶者居住権は、「使用」ができるだけでなく、賃貸して「収益」を上げることもできます。ただし、この場合は建物所有者の承諾が必要です(民法1032条3項)

長期配偶者居住権は登記が必要

配偶者が長期配偶者居住権を他人に主張するためには、登記を備える必要があります。

登記さえ備えておけば、たとえ居住建物の所有者が全くの他人にこの建物を売却したとしても、配偶者はその他人に対しても長期配偶者居住権を主張することができ、その結果、安心して住み続けることが可能となります。

対抗要件としての登記|その怖さ

登記が対抗要件となります。
法務局で勝手に登記してくれるという規定はないので、自ら登記申請が必要です。

残された配偶者は居住しているだけでは、居住建物の所有者以外の他人に長期配偶者居住権を有していることを主張することができません。

借地借家法の借家権のように建物の引き渡しを受けているだけでも対抗力はありません(というよりはもともと配偶者は居住し続けているだけなので誰かからこの建物の「引き渡し」を受けている訳でもない)。

少しややこしいことを書きましたが、つまり配偶者は単に建物に住んでいるだけでは、自分の居住権を他人に主張することはできない、ということです。そこで登記をする必要があるのです。

登記さえしておけば、もし建物が売却されて、所有者が入れ替わったとしても、新しい所有者に対しても配偶者居住権を主張でき、その結果、安心して住み続けることができます。

反対に、配偶者居住権の登記をしないでいるうちに、建物が売却されて所有者が入れ替わってしまった場合には、その新しい所有者には配偶者居住権を有していることを主張できないので、配偶者は立ち退かなければなりません。

とくに建物所有者と配偶者が敵対関係にあるようなケース(相続問題が発生している場合)では、配偶者を追い出す目的で、このような売却行為がされる可能性はありますので、配偶者居住権を取得したらできるだけはやく登記をすることが必要です。

なお、万が一、このように建物が転売されて、結果的に配偶者が居住できなくなってしまったときは、転売行為をした元々の建物所有者を相手方として、不法行為による損害賠償請求を行うことになるでしょう。

しかし、その際の「損害額」をいくらと見積もればよいか、等々、現時点でははっきりとしない点も多いのが悩ましいところです。

相手が登記に応じなかったら

「建物の所有者は、長期配偶者居住権を取得した配偶者に対して、長期配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う(民法1031条1項)」という規定があります。

ですから、配偶者は居住建物の所有者に対して、登記をすることの協力を要請できます。居住建物の所有者はこれを断ることはできません。建物所有者がどうしても登記に応じない場合は、訴訟を提起することになります。あるいは、「仮登記」を申請することを検討しても良いでしょう。

登記ができない間に、建物所有者に建物を売却されてしまうと、上記にも挙げたように、配偶者は配偶者居住権を新しい所有者に主張できなくなってしまう為、裁判所に「処分禁止の仮処分」の申立てをしておくことも必要になります。

なお、建物についての登記ですから、敷地(建物の底地部分)について何らかの対抗力が与えられるものではありません。

配偶者が権利を主張できるのは、あくまでも「建物」に関する居住権だけです。建物の底地部分については配偶者は何の権利も有しません。

長期配偶者居住権の登記のやりかた

不動産登記は、登記によって利益を受ける人(登記権利者)と登記によって不利益を受ける人(登記義務者)の共同申請が原則です。

長期配偶者居住権の登記も、配偶者(登記権利者)と建物所有者(登記義務者)の共同申請です。
ただし、遺産分割調停や遺産分割審判で配偶者居住権が認められた場合は、配偶者のみからの単独申請が可能と考えられます。

どちらにしても、いきなり長期配偶者居住権の登記をすることはできないと考えられます。

長期配偶者居住権の登記の前提として、まずは、居住建物について他の相続人への相続を原因とする所有権移転登記が必要になると思われます。

  1. 所有権移転登記(相続)
  2. 長期配偶者居住権設定の登記

一般的にはこのような登記申請の流れになることが予想されます。
申請書は別々に作成しますが、いっしょに提出することはできます。

長期配偶者居住権は登記簿にどのように登記されるのか

長期配偶者居住権は建物の登記簿に賃借権のような形で登記されます。
登記事項は不動産登記法81条の2に規定があります。

【配偶者居住権の登記の登記事項】

第81条の2 配偶者居住権の登記の登記事項は、第59条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
一 存続期間
二 第三者に居住建物(民法第1028条第1項に規定する居住建物をいう。)の使用又は収益をさせることを許す旨の定めがあるときは、その定め

「存続期間」と言うのは、配偶者が何年間住み続けることができるのか、という期間のことです。原則として、「配偶者の終身の間」となります(民法1030条)。ですから、「長期」の居住権と呼ばれるのですね。

なお、遺産分割の協議や調停・審判、遺言で特に期間を定めている場合は、その期間において長期配偶者居住権が認められます(民法1030条ただし書き)。

「配偶者居住権の新設に係る不動産登記事務の取扱いについては、追って通達します(法務省民二第68号令和元年6月27日法務省民事局長)」とありますので、具体的な登記手続きは詳細が明らかとなった時にご紹介する予定です。

長期配偶者居住権の登録免許税は?

設定登記の登録免許税 = 居住建物の評価額 ×2/1,000(1000分の2

参考までに根拠として財務省のページをリンクとして挙げておきます。
第198回国会における財務省関連法律「所得税法等の一部を改正する法律案」(2019年3月27日可決)。
https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/198diet/index.htm

通常の賃借権設定登記は10/1,000(1000分の10)なので、比べれば大分安いです。
また、相続による所有権移転登記は4/1,000(1000分の4)ですから、これに比較しても安価です。配偶者居住権は、無償で使用するため当然とも言えます。

長期配偶者居住権の「消滅」4つの事由

長期配偶者居住権は以下のいずれかの事由によって当然に消滅します。
配偶者短期居住権もほぼ同じような規定があります。

配偶者の死亡または期間満了

遺産分割協議などにより存続期間の定めがあっても、配偶者が死亡すれば、存続期間の満了を待たずに長期配偶者居住権は消滅します(民法第1030条、民法第1036条)。
なお、期間満了により終了した場合でも更新はできません。

建物所有権を取得した時

配偶者が建物全部の所有権を取得すれば、混同によって、長期配偶者居住権は消滅します(民法第1028条2項)。所有権を取得できれば、完全に配偶者の所有物となりますから、わざわざ居住権を認める必要がなくなるためです。

これに対して、配偶者が長期配偶者居住権を設定した後、その建物の共有持分を取得した場合は、配偶者居住権は消滅しません(民法1028条2項)。

建物の全部が滅失した時

建物の全部が滅失その他の事由により使用収益できなくなった場合は、長期配偶者居住権は消滅します(民法1036条、民法616条の2)。

建物所有者が消滅請求をした時

配偶者に義務違反があった場合、建物所有者は長期配偶者居住権を一方的請求により消滅させることができます(民法第1032条4項)。

配偶者の義務とは、例えば「善管注意義務」です(民法第1032条1項)。
あくまで居住建物は他人の所有物なので、丁寧に使わなければならないという義務です。

このような義務に反することがあれば、建物所有者は配偶者に対して消滅請求をして、配偶者を立ち退かせることができます。

さらに、配偶者には建物所有者の承諾もないのに「また貸し(転貸)」してはいけないという義務もあります(民法第1032条3項)。

このような義務に反した場合も、建物所有者は配偶者に対する意思表示によって、長期配偶者居住権を消滅させることができます。

長期配偶者居住権「その他の問題点」

長期配偶者居住権のその他の問題点を考察します。

長期配偶者居住権は譲渡できない

この点、配偶者短期居住権も同じです(民法第1041条、民法第1032条2項)。

特に長期配偶者居住権は「相応の財産的価値」がありますので譲渡(売却)の可否が問題となりますが、そもそもの制度趣旨にそぐわないため譲渡は認められません。

たとえ所有者の承諾があっても譲渡はできません

さらに、建物所有者が配偶者に対して一方的に「自分が長期配偶者居住権を買い取るので直ちに売り渡しなさい(買取請求と言います)」ということもできません。配偶者の方から、建物所有者に対して一方的に買取を請求することもできません。民法は、「買取請求権」という権利を配偶者と建物所有者のどちらにも与えませんでした。

しかし、建物所有者と配偶者がお互いに合意をすれば、建物所有者が配偶者から長期配偶者居住権を買い取る旨の売買契約は有効と解されています。

つまり原則的に、長期配偶者居住権は換価できないという点は、この権利を取得する時点で十分に注意しなければなりません。

たとえば、長期配偶者居住権を取得した配偶者が、その後、認知症や療養のため施設に入居しようとしても、その資金を捻出するのが難しくなるのです。

相続のときに、「所有権」を取得していれば、所有権を処分することによって施設等入居資金を確保することができたはずが、長期配偶者居住権を取得したためにそれができなくなってしまうのでは大問題です。

ですから、いずれ施設に入るとか、終身自宅に住むことが予定されていないなら、相続の場面で配偶者が配偶者居住権を取得するのではなく、預貯金等別の遺産を取得した方が良い場面もあるでしょう。新しい権利だからと、興味本位でこの制度を利用すると思わぬ事態に陥るかもしれません。

建物居住中の修繕義務は誰にあるのか

建物所有者に修繕義務はありません。
この点、配偶者短期居住権も同じ扱いです(民法第1041条)。

では、居住している配偶者に修繕義務があるかというと、配偶者にも修繕義務はありません。民法の条文は、配偶者に修繕する権利を与えているだけです(民法第1033条1項)。

ですから、配偶者に修繕する義務はありませんが、仮に配偶者が自ら進んで修繕した場合は、その後は「かかった費用」を誰が負担すべきかと言う問題として法律上は処理します(民法第1034条)。

「通常」の必要費(誰が居住しても必ずかかる費用)配偶者が負担
「特別」の必要費・有益費(上記外の費用)所有者が負担

つまり「通常」の修繕を配偶者自身が行って、費用も配偶者が負担するという方法もできます。また、建物所有者が行って、その費用を配偶者に請求するという方法もできます。

例えば、修繕の問題ではありませんが、固定資産税の支払においては後者の方法を用いることになるでしょう。

なぜなら、固定資産税は不動産の所有者に課税されることになっていますので、固定資産税の納付書は建物所有者に送付されて、直接配偶者宛に送付されることはありません。

しかし、固定資産税は「通常の必要費」と解されますので、納付義務自体は配偶者にあります。したがって、いったん建物所有者が固定資産税を代わって納付し、その後に配偶者へ請求していくのが正しい手順といえるでしょう。

それに対して、特別の修繕費用(単なる修繕ではなく建物の価値を高めるような工事・例えば外壁のタイルの張り替え等)は、建物所有者が負担することになります。

具体的に予想される問題としては、高齢の配偶者が安全に生活できるようにする「バリアフリー工事」ではないでしょうか。工事の内容にもよりますが、一般的には「特別の修繕費用」と考えられ、建物の所有者が負担することになるでしょう。

また、建物の改築や増築をするときは、配偶者は勝手に行うことはできません。建物所有者の承諾が必要となっています(民法第1032条3項)。

このように考えると、もし配偶者と建物所有者が良好な関係でない場合(極端なケースで対立関係にあるような場合)、建物所有者がバリアフリー工事に同意して、なおかつ、費用も負担するなどということは到底考えにくいと言えます。

長期配偶者居住権の評価

建物所有権とは別途の評価をすることになります。長期配偶者居住権の評価は、配偶者の平均余命や建物の耐用年数等を考慮して、一定の計算式にもとづいてすることになります。

以下に、長期配偶者居住権の計算式を示しましたが、居住建物の所有権よりその評価は安くなります。

【配偶者居住権等の評価(相続税法第23条の2)】

概要:相続税における配偶者居住権等の評価額を次のとおりとすることとする。

⑴ <配偶者居住権>
建物の時価-建物の時価×(残存耐用年数-配偶者居住権の存続年数)/残存耐用年数×配偶者居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

⑵< 配偶者居住権が設定された建物(以下「居住建物」という。)>
建物の時価-配偶者居住権の価額

⑶< 配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利>
土地等の時価-土地等の時価×配偶者居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

⑷< 居住建物の敷地> 土地等の時価-敷地の利用に関する権利の価額

参考までに根拠として財務省のページをリンクとして挙げておきます。
第198回国会における財務省関連法律「所得税法等の一部を改正する法律案」(2019年3月27日可決)、「相続税法の一部改正(新旧対照表)」。
https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/198diet/st310205s_03.pdf

配偶者居住権は建物に設定する権利ではありますが、建物を利用するということは、その底地(土地)も利用することになりますから、配偶者居住権の評価は、建物そのものだけでなく、土地も利用することに関する評価といえます。

いずれにしても、かなり専門的な計算が必要となります。一般的に相続物件の査定については、不動産業者は喜んで応じてくれます。しかし、配偶者居住権の評価は簡単なものとは言い難いので、不動産業者への査定について期待可能性は低いでしょう。

誤った計算結果は相続人同士の遺産分割協議などその後の相続手続きに支障をきたしますから、税理士・会計士・不動産鑑定士等に計算を依頼して、評価を定めることが必要となるでしょう。

遺留分侵害額請求の対象になるか

長期配偶者居住権を取得した場合、その評価額については相続分の一部として取得したと扱われます。

長期配偶者居住権の評価の計算方法は上に掲げた通りで、いくら建物の所有権の評価より低いとは言っても、長期配偶者居住権を取得したことによって他の相続人の遺留分を侵害すれば遺留分侵害額請求の対象となると考えられます。

したがって、遺言や生前の死因贈与契約で長期配偶者居住権を配偶者に与えようと計画している方は、要注意です。
なぜなら、長期配偶者居住権の評価額によっては、他の相続人の遺留分を侵害してしまう可能性もあるからです。

もし他の相続人から遺留分侵害額請求をされた場合は、配偶者は他の相続人に対して金銭賠償をしなければならず、結果として配偶者の保護になりません。

なお、配偶者短期居住権はその期間が6か月限定という事もあり、それにより得た利益を配偶者の具体的相続分には含めません。つまり、配偶者短期居住権を取得しても、相続分の一部として取得したものとは扱われないということです。

さらに配偶者短期居住権は、遺留分侵害額請求の対象にもなりません。

なお、遺留分についても法改正があり、詳しく知りたい方は、次の2つの記事をお読みください。

相続法の改正|遺留分侵害額請求権(遺留分に関する改正)

相続法の改正|遺留分侵害額請求権(遺留分に関する改正)

【司法書士監修】相続前の贈与は安全か?遺留分の相続法改正

【司法書士監修】相続前の贈与は安全か?遺留分の相続法改正

 

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

配偶者短期居住権とは

配偶者短期居住権は、6か月の短期間、配偶者に当然に認められる権利です。
長期配偶者居住権のように、被相続人の遺言や相続人による遺産分割協議は不要です。

配偶者短期居住権の成立要件

配偶者短期居住権の成立要件は3つ、次の通り(民法1037条)です。

  1. 被相続人の財産に属した建物に
  2. 相続開始の時に
  3. 無償で居住していること

被相続人の遺言等は特に必要もないので、通常のケースであれば、配偶者短期居住権は広く成立しそうです。もちろん無償(タダ)で住み続けることができます。

配偶者短期居住権の注意点とは?

配偶者短期居住権の要件について、注意すべき点は以下の通りです。

  • 配偶者は必ずしも被相続人とこの建物に同居していた必要はありません。長期配偶者居住権と同じです。
  • 配偶者が、相続開始の時においてこの建物に長期配偶者居住権を取得した場合は、配偶者短期居住権は有しません(民法1037条1項ただし書き)。両方の居住権を並立して取得することは認められません。
  • 配偶者に相続欠格事由(民法891条:遺言書の隠匿破棄を含みます)があったり、廃除によって相続権をはく奪されているときは、配偶者短期居住権は取得できません(民法1037条1項ただし書き)。
  • 配偶者短期居住権は登記できません。
  • 配偶者短期居住権は、「使用」ができるだけです。賃貸して「収益」を上げることはできません。
  • 居住が認められる範囲は、生前にもともと無償で使用していた部分に限られます(民法1037条)。長期配偶者居住権のように、事務所・店舗部分にまで居住権を主張することはできません(民法1028条1項)。

配偶者短期居住権は「6か月」だけ

配偶者短期居住権は、6か月だけ認められ、居住建物に住み続けることができます。
では、具体的には、いつまででしょうか?(民法第1037条1項)。

1、建物について配偶者を含む共同相続人で遺産分割が必要な場合(遺言等が無く建物の帰属先を相続人で決める必要がある場合など)①遺産分割終了時
②死後6か月経過日
→①か②のいずれか遅い日まで
2、上記以外の場合(遺言や死因贈与契約があり建物を取得する人が予め定まっているため遺産分割が不要な場合など)建物取得者が配偶者短期居住権の消滅請求をした日から6か月経過するまで

少なくても死亡日から6か月は配偶者短期居住権が認められることになります。
表中の「1」のように、この建物の所有権を誰が相続するかの話し合い(遺産分割協議)が長引く場合は、協議が終わるまで居住できます。
ですから、場合によっては6か月以上居住できることもあるわけですね。

ちなみに、「2」の場合が、「死後6か月経過日」ではなく、「建物取得者が配偶者短期居住権の消滅請求をした日から6か月経過するまで」となっている理由は、やや複雑ですが、趣旨は配偶者の居住権を確保するためです(以下の理由の説明は興味のない方はお読み飛ばし下さい)。

つまり、たとえ遺言や死因贈与契約があり建物を取得する人が予め定まっていたとしても(配偶者以外の者が居住建物を取得するとなっていたケースが想定される)、配偶者が相続開始後すぐに遺言や死因贈与契約の存在を把握することは難しいと思われます。

この時、死後相当の期間が経過して初めて居住建物所有者から配偶者短期居住権の消滅請求をされることもあり(民法1037条3項)、その時点ですでに死後6か月経過していた場合は、配偶者は直ちに立ち退くことになってしまい、配偶者の保護に欠けるのです。

そこで法はこのようなケースも想定して、「2」の場合は、「建物取得者が配偶者短期居住権の消滅請求をした日から6か月経過するまで」と時期をずらしたのです。

配偶者居住権の施行日|適用されるのはいつから?

2020年4月1日以後に開始した相続に適用があります。
これより前に死亡してもその相続には長期も短期も配偶者居住権は成立しません。

また、長期配偶者居住権は遺言や生前の死因贈与契約によっても定めることができます。
しかし、2020年4月1日以後に作成した遺言書や死因贈与契約に限って、長期配偶者居住権の成立が認められます。

2019年の現時点で遺言や死因贈与契約により長期配偶者居住権を定めて、2020年4月1日以後に死亡しても、改正法の適用は有りませんのでご注意ください。

配偶者居住権について解決法のご提案

特に長期配偶者居住権は、配偶者が自分の相続分の一部として取得するものであり、その財産評価については非常に難しい問題を含んでいます。

相続税対策としての利用価値は検討に値しますが、他の相続人の遺留分を侵害しないかどうかという点や、長期配偶者居住権を取得した配偶者が死亡した後の2次相続の問題など、実体上も税法上も今後の運用実績をよく見ていく必要があります。

また、上にも挙げた通り、所有権ではなく配偶者居住権を取得することが、配偶者およびその家族にとって本当に良い結果となるのかは慎重に検討が必要です。配偶者居住権は法律上認められた権利ですから、税務上も一定の評価がされますし、だからこそ途中で不要になったときに放棄できるのかという問題も現時点ではっきりしません。

長期配偶者居住権の利用を検討する場合には、司法書士だけではなく、税理士・会計士とよく吟味する必要があります。その際は税理士や会計士もいる司法書士事務所に相談されることをお勧めします。

無料相談を受け付けています

私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。

このページでは、「いま知っておきたい配偶者居住権」として、配偶者短期居住権と長期配偶者居住権についてお話ししました。

配偶者居住権といっても2種類あり、相続での扱いが異なることはお分かりいただけたでしょうか。

配偶者居住権の利用を検討しているがどうすればよいのか、手続きのための費用はいくら位かかるのか、どの位の期間で完了するのか、様々な疑問があることと思います。

なお当事務所には、相続に強いパートナー税理士がいますので、配偶者居住権の評価についてもご相談に応じます。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。

毎週土曜日に無料相談を受け付けていますので、この機会にお気軽にお問い合わせください。
お電話(代表042-324-0868)か、下のバナーより受け付けています。

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