遺産分割協議の心構え

相続に直面した方は誰でも、遺産分割協議はできるだけ穏便に、揉めずに終わりたいと思っているはずです。
しかし、相続人同士の話し合いでは足らず、裁判所へ持ち込まれる例は年々増加の一途を辿っています。
下のグラフは、全国の裁判所で扱った遺産分割の事件数です(司法統計|最高裁判所)。

遺産をめぐって親族が争うほど不幸なことはありません。相続争いで失うものは財産だけではなく、感情的なしこりは金銭に代えることができないダメージとしてずっと残ります。

ここではこれから遺産分割の話し合いを始める方へ向けて、その心構えをお話しします。
遺産分割協議がスムーズに終了するパターンと、揉めに揉めるパターンについて、ご相談の段階で感じる違いや相続人の雰囲気など、きっと参考にして頂けると思います。

遺産分割が揉めるパターンを知る

相続の案件を専門に扱っていると、遺産分割協議がスムーズに行かないケースについて、類型化できることに気付きました。これから遺産分割の話し合いを始める方は、次のようなパターンは揉めやすいので、予め準備が必要です。

遺産が自宅しかない

遺産として自宅以外にも預貯金や株式があれば、あまり揉めません。預貯金や株式は解約や換価により分け合うことができるからです。

しかし、自宅はそうではありません。もちろん法律上は共同相続という形で分割することはできますが、不動産を共有状態にすることは、その後の管理を誰がするのかを含めて、新たな争いや問題を引き起こす要因となることが多く、大変危険です。

特に、故人と同居していた親族がいた場合は、遺産分割の結果、自宅を追われることにもなりかねませんので、協議は非常に難航します。

法定相続分通りで分けるとした場合、自宅を相続する相続人は、その代償として他の相続人へ金銭を支払うことになるのが通例です(これを法律上は「代償分割」と言います)。遺産が自宅しかないケースでは、このような心の準備が必要でしょう。

具体的な代償金の支払い方法(一括払いなのか分割払いなのか)や、その金額については専門家のアドバイスを受けながら相続人同士の話し合いとなります。

自己主張の強い親族がいる

一方的に自分の言い分だけを主張してくる親族への対応は、専門家でも手を焼きます。主張自体が法律的に正しい場合もありますし、でたらめの場合もあります。

真偽の程はさて置き、「私には知り合いの弁護士がいる」と高圧的に語り、まだ話し合いもしていないうちから、他方の親族へ精神的なプレッシャーを与えようとしてくる人もいます。

また、「自分には関係ない」と言って、話し合いに全く応じない人もいます。相続人や当事務所からの郵送物はすべて「受け取り拒否」で返送されることもあります。

特に相続人が多くなるケースは、全員が物分かりのいい人ばかりではないと認識しておく必要があります。立場が違えば、相続に対する考え方も驚くほど異なります。

まずは当人同士で冷静に話し合うことが必要ですが、手に負えなければ専門家へ相談しましょう。

相続人が高齢者ばかり

遺産分割協議は相続人全員でしなければなりません。その相続人が高齢者ばかりだと、遺産分けに関する内容を理解してもらうのに苦労します。

遺産分割は、相続税も視野に入れて行うことが少なくなく、その場合、内容が難しくなることもあります。説明して理解できる程度の意思能力であれば、手間はかかるものの、法律上は問題がありません。

しかし、意思能力すらない場合は、本人に代わる「成年後見人」を裁判所で選ばなければなりません。この場合、成年後見人の選任にかかる費用を誰が負担するかという問題がありますし、成年後見制度は、遺産分割協議が終わっても本人が亡くなるまで続くものです。

遺産分割という話がなければ、成年後見人を選ぶ必要もなかったわけですから、この点を相続人にどう説明するのか、非常に難しい問題があります。

また、遺産分割協議は必ずしも一か所に集まって行う必要はないものの、話し合いがもつれた場合には「相続人会議」のような形で集合して行うことになります。

ところが、相続人が高齢者の場合は、健康上の理由などにより、そもそも集合することが難しいという問題があります。

解決方法はいくつかの選択肢がありますが、協議は難航することもありますので、専門家へ早めに相談してプランを練っておきましょう。

生前から仲が悪い

生前から仲が悪い場合、相続をきっかけにさらに悪くなるケースをよく見かけます。そもそも直接会って話したくない、という状態から遺産分割がスタートするので、私たちも一番神経を使うパターンです。

親族・家族同士の関係が良好な場合は、ある程度は身内で大まかな遺産分けを検討したうえで、相談にいらっしゃいます。そして、このような場合は結果的にスムーズに遺産分割はまとまります。

遺産分割は当人同士の話し合いが大前提ですから、直接会って話をするのが困難であれば、メールや電話、手紙などで、「遺産分けについてどう考えているか」について想いを伝えあうだけでもその後の手続が進めやすくなります。
お手紙の見本・サンプル等は当事務所にありますので、円滑に進めるお手伝いはできます。

相続人でない者が口出しをする

遺産分割協議は相続人全員の合意で行うわけですから、相続人でない者は協議には関係ありません。しかし、相続人の夫や妻、第三者が遺産分割協議に口を挟んでくると、非常にやっかいです。

また、部外者が相続人にあれこれ入れ知恵をすることにより、遺産分割協議を混乱させることもあります。

このような場合は、「相続人でない人は遠慮してくれませんか」等、なるべく早く指摘するようにしましょう。注意する時期が遅れれば遅れるほど、角(かど)が立ち、後から修正することが難しくなってしまいます。

また、ご自分がそのような態度(相続人でもないのに口出しをする)に出てしまったときは、決して他の相続人からは快く思われないので、発言等は控えるようにしてください。

故人を介護したものがいる

高齢者介護は重労働です。相続人の中に介護を行った人がいた場合、当然その対価としてより多くの相続分を主張してきます(これを法律上「寄与分」と言います)。寄与分は相続人の協議で決めるのが原則で、協議ができないときは裁判所が決めることになっています。

話し合いの最初の時点から、介護等面倒を見た相続人が過度な寄与分を期待しているような場合は、危険信号です。

なぜなら他の相続人は、介護をしてくれたこと自体には感謝しているものの、自分の取り分が少なくなることを良しとはしないからです。

また、仮に協議不調で裁判所が決定することになっても、寄与分が認められる要件は非常に厳格であり、実際の介護に見合った金額とは言い難いものになります。

実務上も「寄与分は見通しの悪い制度」と言われており、介護に携わった相続人の期待には沿えないものとなっています。

私自身の考えを言わせて頂くと、たとえ法律上は寄与分が認められないような場合であっても、相続人全員が、介護をした者への最大限の敬意と感謝の念を込めて遺産分割協議を進めてもらいたいと思っています。

なお、相続人でない者が故人を介護した場合(例えば嫁が夫の親の介護をしたケース)は、「嫁」は相続人ではありませんから、どんなに面倒を見たとしても相続することはできません。

弁護士や司法書士から書類を送り付けられる

相続人の間で、まだ何も話をしていないのに、相手方相続人の弁護士や司法書士から遺産分割協議書が送り付けられ、押印や印鑑証明書の提出が求められることがあります。

その場合、遺産分割協議書の内容は、相手方に有利なものであることが多いです。この為、話し合いから始めていればスムーズにいくはずだった遺産分割であっても、頓挫します。

ご自身が専門家に手続を任せるときは、どのような手順で遺産分割の話し合いを進めていくプランなのか、事前に確認するとよいでしょう。

少なくても当事務所では、何の話し合いもなく、いきなり相手方に協議書を送り付けるような相続手続きの進め方はしておりません。

遺言があっても揉める

遺言書の作成が普及したことに伴い、「遺言無効確認の訴え」も増加しています。本来、遺言書があれば、遺言の内容通りに相続しますから、遺産分割協議は不要です。

しかし、「そもそも本人に遺言を書く能力はなかったはずだ」とか、「遺言書は本人の筆跡ではない」などを理由に、遺言の無効が主張されて裁判になることがあります。もちろん遺言が有効であるとすると不利となる相続人(遺産の分け前が減ってしまう相続人)が原告となって訴えが起こされます。

本人が入院中に書いた自筆の遺言書や、たとえ公正証書遺言であっても他方に不利な内容であれば標的になりやすいので注意が必要です。

また、遺言の内容が他の相続人の遺留分を害している場合には、「遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)」が訴えとして起こされることもあります。遺言があるからと言って決して安心することはできないので、その内容をよく確認する必要があります。

遺産の不正使用を疑っている(疑われている)

遺産分割の話し合いを進めていくと、相続人の中から「故人の預貯金を生前に不正使用していた者がいる」という主張がされることがあります。故人の通帳や印鑑を管理していた相続人はそのターゲットになりやすいので注意が必要です。

なお、遺産分割とは、故人が死亡時に残した財産をどのように分けるかという問題ですから、生前の不正使用は、本来遺産分割の問題とは別個の問題です。

詳しくは、別の記事「遺産の生前の不正使用について」で解説していますのでご参照ください。

遺産の生前の不正使用について

いずれにしても、ご自身が遺産の不正使用を疑われる立場である場合、他の相続人から使途について説明を求められるかもしれません。

やましいことが無いのであれば、預貯金通帳の写し等を提出した上で、各払戻についてその使い道を明記し、領収書があるものは領収書を用意しておきましょう。

遺産分割協議への臨み方

上記に挙げた「遺産分割が揉めるパターン」に該当しなければ、特に心配は要りません。相続手続きはきっとうまくいくことでしょう。

しかし、どれか一つにでも当てはまる場合は、心の準備と対策が必要です。

遺産分割協議に際しての心の準備

ご自身から話し合いを持ちかけるとしても、相手方から持ちかけられたとしても、普段以上に冷静に努めてください。

遺産分割協議が成立するまでは、誰が何を言うか分かりません。少なくともご自身は平静を保つように心がけましょう。遺産分割の心労で体調を悪くされる方もいらっしゃいます。

なお、相続人の立場や環境によって、相続に対する考え方は全く異なります。自分の主張ばかり繰り返すのではなく、相手方の意見にも耳を傾けるべきです。それが受け入れ難いものであったとしてもです。

また、相続人の間で、もともとの経済力の差が大きい場合など、今回の相続とは全く関係ないところで、妬んだり妬まれたりします。これまでの不満や妬みは、相続を機会に吹き出すものと予想して下さい。しかし、「売り言葉に買い言葉」で応戦していると、話し合いは決してまとまりません。

いずれにしても、相続人同士で考えが一致しない場合は、意見をすり合わせて、どこかで妥協点を見出さなければなりません。

そもそも立場も環境も異なる人間の考え方が同じわけはありませんから、「遺産分割協議は意見が一致しないところからスタートする」と認識して頂いた方が良いでしょう。

 

遺産分割協議への対策

遺産分割協議を行う前提としてやって置かなければならないことがあります。「遺言が残されているか調査」「誰が相続人になるかを確定させる」「何が遺産になるかを確定させる」などです。詳しいことは、こちらのページの「相続のプロセス」に記載しましたので、ご参照ください。

これらは話し合いの下準備ですが、キッチリと済ませて置かないと、再度協議をやり直さないといけなくなる場合もありますから軽視できません。

なお、遺産分割協議の中で、下準備の内容を蒸し返そうとする相続人が出てくることもありますが(例えば遺産の評価に問題があるのではないか等)、準備が法的に問題のないものであればあるほど、その主張を一蹴できます。

実際の遺産分割の話し合いの進め方について、ご自身にプランがないのであれば、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

ノープランでやみくもに遺産分割協議を進めた結果、頓挫して当事務所に相談に来られる方も多くいらっしゃいます。

専門家はさまざまな相続を見ていますので、見識と経験に基づいた遺産分割協議の進め方を個別に提案することができます。

なお、遺産分割協議の下準備に自信や時間がなければ、準備段階から専門家に相談することもできます。相談をすると、精神的にラクになりますので、遺産分割を負担に感じている方はご検討下さい。

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。
このページでは、遺産分割の心構えをお話ししましたが、相続手続きをこれから始めるにはどうすればよいのか、費用はいくら位かかるのか、様々な疑問があることと思います。

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