7つのプロセス

相続手続きは面倒です。簡単な相続手続きというものは存在しません。それでは、相続手続きは手間がかかるからという理由で放置して置いたら、どのような不利益を受けるのでしょうか。

また、そのような不利益を受けない為に、相続手続きを計画的に進めるためにどのような手順を踏めばよいのでしょうか。このページでは、相続を放置することによるリスクと、それを避けるための「正しい相続手続きの手順」を解説します。

相続手続きを放置すると…

相続手続きを放っておくと、思ってもいない損害が生じることがあります。具体的にどのような損害なのでしょうか。注意点も含めてデメリットを解説します。

1つ目として、相続手続きを放置している間にさらに相続が開始して相続人が増えてしまうことです。そもそも相続が2回以上重なると、誰が相続人となるのか、その調査だけで相当の時間がかかり、相続登記の手続き費用や手数料も高額となってしまいます。

また、相続人の範囲が増えると、遺産分割協議(話し合い)も円滑にまとまらなくなり、その結果、相続手続き自体が止まってしまいます。

2つ目として、相続手続きを放置している間に3か月が経過してしまい、借金の放棄ができなくなってしまうことです。被相続人に多額の借金があった場合は、速やかに相続の放棄を検討すべきです。

その理由は、相続の放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に限って手続きが可能だからです。反対に、借金を知りながら相続放棄の手続きをしないで3か月が経過すると、法律上は相続を単純承認したものとみなされて、相続の放棄はできなくなり、当然に負債を引き継ぐことになります。

3つ目として、相続手続きを放置している間、相続人中に認知症や行方不明者が出た場合に手続きが複雑になることです。日本は現在超高齢化社会です。放置している間にさらに相続が開始しなくとも、相続人中に認知症の方が現れるかもしれません。

この場合、認知症の方に代わって遺産分割協議に参加する資格を有する成年後見人を選ぶ必要があります。成年後見人は家庭裁判所への申立てが必要な手続きですから、当事者の協力が得られるかという点も含めて非常に難しいと思われます。

行方不明者が現れた場合は、行方不明者に代わって遺産分割協議に参加する資格を有する不在者財産管理人を選ぶ必要があります。不在者財産管理人も家庭裁判所への手続きが必要となり、相続手続き自体が止まってしまう原因になります。

4つ目として、相続登記をしないで放っておくと、相続した不動産を売りたいと思ったときに、すぐに売ることができなくなり、売却価格などの条件で不利益を受けることがあります。

相続した不動産を売却するためには、必ず相続登記が終わっていなければなりません(相続登記は省略できません)。また、相続した不動産を担保に住宅ローンを組む場合も同じです。

なお、相続登記は令和6年度より義務化されるので、相続登記をしないで放っておくとペナルティ(正確には過料)となる可能性があります。最新情報に注意してください。

その他、相続手続きに遅れが生じるとどのような危険があるかについては、当事務所の別のページで詳細に解説をしています。参考までにリンクを揚げます。
■【司法書士監修】「相続手続きの放置」はやってはいけない

 

相続の正しい「7つ」のプロセス

このように、相続手続きを放置しておくことによる不利益を受けないためには、相続が開始したらできるだけ速やかに、適正なタイミングで相続手続きを行う必要があります。特殊な例は別として、主な相続手続きの順番は次の一覧のようになります。

1【遺言が残されているか調査】
遺言が残されていれば、遺産の分け方は遺言に書かれている通りとなります。遺言は、書面で残されている必要があります。これを遺言書と言います。口約束では効力はありません。

相続人間の話し合い(法律上は「遺産分割協議」と言います)が終わった後に遺言書が見つかったら、相続のやり直しとなります。遺品の整理をしながら、遺言書が無いか必ず確認しましょう。

本人が自分で書いた遺言書(法律上は「自筆証書遺言」と言います)は、経験上、貸金庫や自宅の金庫に保管されていることが多いです。見つからない場合は参考にしてください。

公証証書により作成した遺言書(法律上は「公正証書遺言」と言います)は、公証役場で保管されていますから、問い合わせをして手続をとれば大丈夫です。

自筆証書遺言は、封筒に入っているか否かに関係なく、家庭裁判所で「検認」と言われる手続きが必要となります。封筒に入っている場合は裁判所が開封するので、勝手に開封してはいけません。検認を済ませてから相続手続きに着手できます。公正証書遺言では検認は不要です。

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2【誰が相続人になるかを確定させる】
相続をする人(法律上「法定相続人」と言います)は、法律で決められています。そして、相続人によって取得する財産額(法律上「法定相続分」と言います)も異なります。

誰が相続人になるかを自動的に判定する「YESとNoで判定できるツール」を作成しましたので、是非ご利用ください。簡単に相続人を調べることができます。

正確に法定相続人を確認するためには、戸籍を調べることが必要です。その際、被相続人の死亡の旨が記載されている戸籍謄本(または除籍謄本)だけでは不十分です。相続手続きにおいては「他に相続人がいない事実」を戸籍謄本等によって証明する必要があるからです。

「他に相続人がいない事実」を証明するためには、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を集めなければなりません。戸籍は、被相続人が婚姻したり、本籍地を変更したり、または法律などが改正されるごとに新しく作られるため、これらの連続した戸籍謄本等により「他に相続人がいない事実」が初めて証明できることになります。

戸籍謄本は現在のものから、過去にさかのぼって取り寄せることができます。請求先は本籍のある(又はかつて本籍を置いていた)市役所などの役場です。遠方なら郵送で発行・送付してもらうこともできます。全部で何通の戸籍謄本を集めることになるかは分かりません。過去に集めた戸籍謄本が使えることもあります。

いずれにしても、現在の戸籍謄本(除籍謄本)だけでは、相続人の確認ができない場合がほとんどです。連続した戸籍謄本の取り寄せ方や読み取り方などは、当事務所の別のページで詳しく解説しています。参考までに記事のリンクを揚げます。
■【司法書士監修】相続の戸籍謄本取り寄せのノウハウ

この後の手続でもある遺産分割協議は、相続人全員の合意が条件です。したがって、戸籍謄本で相続関係を正確に特定しておく(「他に相続人がいない事実」を確定させること)が重要です。後になって「実はもう一人相続人がいた」といったことにならないよう、事前の調査は漏れがないように行う必要があります。

もし、遺産分割協議をした後に別の相続人がいることが判明した場合は、すでにした遺産分割協議は当然に無効となります。遺産分割をやり直し、相続手続きもやり直さなければならないので、余計な手間がかかり複雑になります。それだけに戸籍謄本で相続関係を正確に特定しておく作業はとても重要なのです。

相続人の特定は、古い時代の戸籍謄本の内容を読み解く力と法律知識が無いと、判断を間違えることがあります。例えば、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合は、被相続人のすでに亡くなっている親(父と母の両方)についても出生に遡るまでの戸籍が必要となり、当然集める戸籍もかなり古い時代のものとなる為、一般的に判読が不明瞭なものもあります。

結局、単に戸籍謄本を収集すればよいという話ではなく、誰が相続人になるのか正確に特定できなければ意味がないと言えます。特に数次相続や代襲相続では注意が必要です。

自信がない方は専門家のサービスを活用することも選択肢の一つです。当事務所では戸籍謄本をはじめ、相続手続きに必要な書類の代理取得を行っています。

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3【何が遺産になるかを確定させる】
何が遺産となるかを特定して、その価額が分からなければ相続分に応じて公平に遺産を分割することはできません。

そこで、まずは遺産となりそうなものを一覧として財産目録(遺産目録と言うこともあります)を作成します。

財産目録の形式は自由です。目録の作成は義務ではありませんが、作成した方が手続きは進めやすくなります

遺産に含まれるものとしては、現金、預貯金、不動産、有価証券などが代表的です。さらに、住宅ローンの残高やクレジットカードの未払金、被相続人の生前の入院費などマイナスの財産も調査します。

そして遺産分割協議をスムーズに進めるために、これらの遺産の価値を評価する必要があります。遺産の価値については、実際の取引価額(時価)を基準とするのが原則です。

時価は、相続人の間で合意ができればどのような方法でも問題ありません。例えば不動産については、路線価(相続税などを算出するときに使う国が公表している評価額)などが目安となります。

これでも納得がいかない場合は、費用はかかりますが不動産鑑定士に鑑定を頼むと良いでしょう。しっかりとした資産の価値が判明します。当事務所には提携の不動産鑑定士がいます。

株式については上場株式と上場していない株式では評価方法が違い、特に上場していない株式については税理士による専門的な計算が必要です。

このように、相続財産の確定は想像以上に面倒な作業と言えます。そのため当事務所では、提携の税理士と共同して正確な相続財産の評価に努めています。

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4【遺産分割協議をする(相続放棄をする)】
遺産分割協議とは、誰がどのように遺産を引き継ぐのかを相続人全員で決める話し合いの事です。必ずしも一つの場所に集合して行う必要はありません。しかし、全員の同意が得られるまで何回でも行わなければなりません。

遺産分割協議は相続人全員の同意があってはじめて有効となります。1人でも協議に参加していない人がいれば無効です。一部の相続人の同意だけでは一切意味はありません。

相続人の中に行方不明の者がいる場合は、家庭裁判所へ別途手続きをして不在者財産管理人を選ぶ必要があり、不在者財産管理人が本人に代わって遺産分割協議に参加します。

また、相続人中に認知症など意思の表示ができない人がいる場合は、家庭裁判所へ別途手続きをして成年後見人を選ぶ必要があります。成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加します。

また、マイナス財産(借金など)が多かったり、そもそも相続は希望せず遺産分割協議に参加したくない人は、相続放棄ができます。

相続放棄は、「自己のために相続に開始があったことを知った時から3か月以内」に家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。しかし相続を認め、相続財産を使ってしまった場合などは単純承認したものとみなされて相続の放棄はできません。

遺産分割協議の進め方には注意が必要です。遺産分けは、一方が得をすれば、もう一方は損をします。自分の意見だけを主張するのではなく、相手の意見もよく聞くことが重要です。実際の遺産分割にあたっては、次の知識が必要です。

  • 寄与分(亡くなった方の財産の維持増加に特別の貢献をした者はより多く取得できるという制度)
  • 特別受益(生前に被相続人から特別の援助を受けていた方はより少なく取得するという制度)
  • 遺留分(法定相続分とは異なるもので遺産から最低限取得できる取り分のこと)

特に相続人同士の関係性がほとんど無い疎遠の場合や、前から財産関係をめぐって良好な関係でない場合は、専門家のアドバイスを受けながら慎重に遺産分割協議を進めることをお勧めします。

また、戸籍を調査した結果、当初、想定していなかった相続人が発覚した場合も慎重に手続きを進める必要があります。状況によっては代理人(弁護士)を選任して、お客様に代わって交渉をしてもらうことも検討すべきでしょう。

遺産分割協議で相続人全員が合意したら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書に特に決まった書き方・形式はありません。

しかし、相続登記や税務申告、預貯金の解約等で使用しますから、それらに対応できる内容が確かなものであることが肝心です。

専門家に作成してもらえば間違いがありません。当事務所ではあらゆる手続きで使用できる遺産分割協議書を作成します。

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5【遺産分割協議で紛争が起こったら】
遺産分割協議で相続人全員の合意が得られなかった場合は、家庭裁判所へ遺産分割調停の申立を行うことになります。

家庭裁判所では、2人の調停委員が相続人1人ひとりに話を聞いて、資料の提出を求めたり適切な助言を行います。遺産分割調停のメリットは、調停委員という第三者を介することで感情的にならず、法律に則った話し合いが進めやすくなることです。

遺産分割調停は必ずしも弁護士を立てる必要はありません。そして、遺産分割調停の中で話し合いが成立した場合には、裁判所が「遺産分割調停調書」を作成して手続きは終了します。

遺産分割調停でも合意ができない場合は、遺産分割審判となります。遺産分割審判では、裁判官の判断にもとづいて、分割方法についての審判が下されます。相続人同士の合意の有無は関係がなく、裁判所によって遺産分割が定められます。手続きは、裁判所が「審判書」を作成して終了します。

裁判所の統計によると、全体の30%は、遺産分割調停・遺産分割審判の手続が完了するまで1年以上かかっています。

また経験上、遺産分割調停・遺産分割審判の手続を利用した相続人はその後、感情的なしこりが残ってしまうことが多いように見受けられます。ですから、家庭裁判所の調停・審判は最終手段と考えるべきでしょう。

遺産分割調停・遺産分割審判について弁護士への依頼を希望される場合は、当事務所の提携の弁護士をご紹介します。相続に強く、信頼できる弁護士を自身で探す手間が省けます。

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6【相続税の確定(節税のアドバイス)】
常に相続税がかかるわけではありません。統計によると相続税がかかるのは全体の30%以下という調査結果もあります。割合としては相続税の納付は必要ない人が多数です。

遺産が高額なら相続税が課税される可能性は高いと言えます。しかし、相続税には「配偶者特例」や「小規模宅地の特例」など様々な特例があり、財産が多くても課税されないこともあります。反対に、財産が少なくても特例が受けられず、課税されてしまうこともあります。

相続税は、相続が開始したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告書を税務署へ提出し、納税もしなければなりません。ですから、遺産分割が終わった時から準備をするのでは遅く、相続開始後なるべく早い時期から用意をする必要があります。

また、誰が何を相続するかによって税額が変わってくることもあります。遺産分割協議が成立した後に節税のアドバイスを受けても意味がありませんので、遺産が多い場合は、相続が開始したら速やかに相続税に強い税理士に相談することが重要です。

相続税の申告書は税理士に頼まずに自分で作成することもできます。しかし、計算の間違いや申告に誤りがあると税務調査を受けて、加算税などがかかることもあります。当事務所には相続税に強い提携の税理士がいます。税理士の選び方も大切です。

参考までに自分で相続税を計算してみたいという方のために、参考となるリンクを以下に揚げておきます。「新生銀行の相続税シュミレーション」では家族構成や遺産の金額・遺産の取得割合を入力するだけで簡易的に相続税を算出することができる便利なツールです。国税庁の「タックスアンサーNo.4152相続税の計算」はより正確に算出したい方に適していますが、一般の方にはやや難しい内容かもしれません。

■相続税シュミレーション|新生銀行
■タックスアンサーNo.4152相続税の計算|国税庁

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7【相続した不動産の登記|預貯金の解約など】
遺産分割が成立して、遺産分割協議書を作成したら速やかに名義の変更を行いましょう。遺産の種類ごとに手続が必要です。土地・建物の名義変更をするには、法務局へ相続登記(不動産登記)を申請する必要があります。

期限はありませんが、登記せずに放っておくとさらに相続が生じて相続登記が困難になってしまったり、後々トラブルを起こしかねません。こういった混乱を防止するためにも確実に名義変更は終わらせておくことが大切です。

相続登記を司法書士に頼まずに自分で行うこともできます。しかし、非常に専門的な内容となることが多いので、法律知識が何もない方が安全に済ませることは難しいかもしれません。法律上、相続登記の代理人になれる資格を有する士業は司法書士だけです

また相続した不動産を売却したい場合も、まずは相続登記をしなければなりません(当事務所では売却の支援もしています)。

預貯金の解約は、各金融機関で手順が多少異なりますが、ほとんどの場合は窓口に出向いて手続きを行う必要があります。手続き完了後1~4週間程度で、相続人の口座に預金が入金されて、最後に計算書を受領して案件が完了します。

 

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