銀行預金や不動産の相続手続きを行うには、戸籍謄本の取り寄せが必要です。では具体的にどのような内容の戸籍謄本を取り寄せる必要があるか、をご存知ですか。日頃、戸籍謄本のことなどほとんど意識していなかった方も、相続手続きに際し、はじめてこの問題に直面しているのではないでしょうか。

戸籍謄本といっても、除籍謄本、改製原戸籍謄本などいくつかの種類があります。また、戸籍抄本と戸籍謄本の違いについても区別が曖昧かもしれません。

戸籍謄本の取り寄せは困難を極めることもありますから、司法書士が相続人に代わってすることもできますしかし、時間と手間を惜しまなければ、司法書士に代理してもらわなくても自分でも収集することも可能です。

ここでは、「相続の戸籍謄本取寄せのノウハウ」と題して、相続手続きでどのような戸籍を集めればよいのか、具体的な集め方、かかる費用など、事例も掲げて、戸籍の取り寄せに関する様々なことを考察します。

相続の手続きで戸籍謄本の取り寄せがなぜ必要か?

相続が開始したら相続手続きが必要です。そして、相続手続きを行うためには戸籍謄本を取り寄せる必要があります。それではなぜ相続手続きに戸籍謄本が必要となるのでしょうか。

原則的に、不動産や預貯金などの相続手続きは、相続人全員の同意に基づいて行われる必要があります。これは民法の規定の中に「相続人が数人あるときは相続財産はその共有に属する(民法第898条)」と定められているためです。

次に「相続人全員」とはどのようにして判断されるのでしょうか。この時、誰が相続人となるかを判断する唯一ともいえる資料が戸籍謄本です。

例えば、夫が死亡して、夫には妻(配偶者)と子供がいるとします。この場合の相続人は配偶者と子供となります(民法第887条、民法第890条)。それでは取り寄せが必要な戸籍謄本は、どのような内容のものになるでしょうか。

よくある勘違いは、夫が死亡したことがわかる除籍謄本、配偶者と子供の現在の戸籍謄本があれば十分ではないか、というものです。しかし、それは間違いです。なぜなら、夫が過去に別の配偶者と婚姻をしていてその時の配偶者との間に子供があるかもしれません。また、過去に婚姻外で子供をつくった経緯があり、その子を認知しているかもしれません。

このような夫の過去の履歴は、必ずしも死亡の旨が記載されている除籍謄本からだけでは分かりません。分からないなら不問としようというのではありません。相続手続きで戸籍謄本が必要となる理由は「他に相続人がいないことを証明する」ことなのです。

ちなみに、「夫が過去に別の配偶者と婚姻をしていてその時の配偶者との間の子供」も「過去に婚姻外で子供をつくった経緯があり認知されている子供」もいずれも法律上の相続人です。

「他に相続人がいないことを証明する」ためには、夫の死亡した時点の戸籍から、夫が生まれた時点の古い戸籍まで遡るようにしてすべて取り寄せる必要があります。後述しますように、戸籍は制度の改正やシステムの移行、結婚・離婚などによって何度か書き換えられます。これらを網羅的に収集して、それでもなお配偶者と子供以外に相続人がいないときに、はじめて配偶者と子供のみが相続人となるのです。

また、相続人であるか否かは戸籍上の記載によって判断しますから、相続人が意思能力を欠いていたり、行方不明であったり、外国に居住していたり、相続に無関心であったりしても、事情は変わりません。戸籍上記録されていれば、これらの方も当然に相続人です。

いい加減な相続人の特定は危険

相続に詳しい専門家に相談せずに自分たちの判断で戸籍謄本の取り寄せを行い、いい加減に相続人を特定して遺産分割協議を行った後に、別の相続人がいることが判明したり、別の相続人が名乗り出た場合は、すでに行った遺産分割協議は無効となり、やり直しになります。

戸籍謄本を取り寄せること自体は、あまり難しいことではありません。しかし、取り寄せた戸籍謄本で「他に相続人がいないことを証明する」のに十分かどうか、その結果法律上の相続人が誰になるのか、は正確な専門知識が必要となります。

相続人が素人考えで取り寄せた戸籍を登記手続のために法務局に提出しても、戸籍上の共同相続人の一部を欠いた遺産分割協議書によって相続登記が受理されることは原則として考えられません。法務局は提出された戸籍等の書類を審査して、他に相続人がいないかを厳格に判断します。ですから、その時点で「他に相続人がいる」ことが判明した場合、そのまま登記申請が実行されることはありません。

しかし、万が一、法務局が誤って受理してしまい、その登記を信頼して第三者が不動産を購入してしまったような場合は、相続人だけの問題では済まず、第三者との関係で訴訟問題に発展する可能性もあります。これは非常に危険と言えます。

また、自分たちの判断で取り寄せた戸籍謄本を預金引き出し等のために金融機関に提出しても、「他に相続人がいる」と判断されれば、預金の相続手続きはできません。法務局に提出した場合と同様に、金融機関でも提出された戸籍謄本等の書類を厳格に審査します。

もし、金融機関が誤って受理して、相続人からの解約・相続手続きに応じた後に、新たな相続人が判明した場合は難しい問題となります。相続人が相続した預金をすでに使ってしまっていたとしても、除外された相続人は不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得に基づく返還請求などの金銭賠償を求めてきます(金融機関にも明らかな過失があれば金融機関も被告となりえるでしょう)。

さらに、すでに相続税等の税申告を済ませてしまっている場合も問題です。一部の相続人を除いてされた遺産分割協議は無効ですから、もう一度遺産分割協議を行い、税の修正申告をして追加で納税を行ったり、更正の請求をして税の還付を請求することになるでしょう。いずれも容易な手続きとは言えませんから、税理士報酬などが別途かかり、これこそ余計な負担と言えるでしょう。

このように、相続人が多いケースや、相続関係が複雑なケースは「たかが戸籍」と考えずに、早い段階から専門家へ相談されることをおすすめします。その事が結果として相続人の利益を守ることにつながるのです。「一文吝みの百知らず(いちもんおしみのひゃくしらず)」とならないよう、慎重にご判断ください。

戸籍謄本と戸籍抄本の違いなど|どこで発行されるか

まずは、戸籍謄本等の収集に着手する前に、基本的な用語解説をします。もし完全に理解できなくても、イメージが持てれば十分です。すでにご存知の方はどうぞお読み飛ばし下さい。

そもそも「戸籍」とは

私が愛用している「ベネッセ表現読解国語辞典」によると、戸籍とは「夫婦とその未婚の子を一単位としてその氏名・生年月日・続き柄などを記した公式の文書。本籍地の市区町村に置かれる」とあります。

現在は、1つの同じ戸籍に記録されるのは、親・その配偶者・それらの子だけです。つまり二世代までが同一戸籍内に記録されます。親・子・孫の三世代が同一戸籍内にいるという事はありません(後述しますが、昭和32年に法律が改正される前は三世代が同一戸籍にいることがありました)。

戸籍に記録される事項とは

現在、戸籍は市区町村の役所・役場において、コンピューターデータとして保存・保管されています。コンピューターデータを紙に出力した公文書が「戸籍謄本」とか「戸籍抄本」とか呼ばれる書面です。

戸籍謄本には、本籍・氏名・生年月日・続き柄などが記載されます。ここで重要なのは、住所は記載されないという点です。ですから、戸籍謄本をとっても住所を証明する書面とはなりません。住所を証明するためには別に住民票(または戸籍の附票)の取得が必要になります。

なお、本籍と住所は必ずしも同一とは限りません。こちらは個人によって異なります。本籍と住所が同じ方もいますし、違う方もいます(ちなみに私は本籍と住所は一致しません)。本籍が分からないという場合は、住民票を取得すれば、住民票に本籍地が記載されるので確かめることができます。

また、戸籍謄本の一番最初に「本籍」「氏名」が記載されている人のことを、「筆頭者(ひっとうしゃ)」と言います。戸籍謄本の交付を請求する場合、必ず「本籍」と「筆頭者」を特定した上で行います。例えば、父・母・子の三人家族の場合、多くは父が筆頭者になっています。これは婚姻の際に「夫の氏を称する」と定めている方が多いためです。

戸籍謄本・戸籍抄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本・戸籍の附票とは

相続手続きで必要な戸籍謄本等の取り寄せにあたって、戸籍謄本、戸籍抄本、除籍謄本、改製原戸籍・戸籍の附票(以下「戸籍謄本等」と言います)の区別はできた方が良いでしょう。以下、簡潔に表にまとめました。

1.戸籍謄本(全部事項証明書)戸籍の内容のすべてを写した証明文書
2.戸籍抄本(個人事項証明書)戸籍の内容のうち請求者が指定した個人
だけを抜き出して写した証明文書
3.除籍謄本転籍・死亡・婚姻などにより、戸籍から誰もいなくなった除籍簿を写した証明文書
4.改製原戸籍謄本法改正により様式が変わった場合、それ以前の元になった戸籍のこと
5.戸籍の附票その本籍地に本籍を置いている期間の住所の履歴が記載された証明文書

■「1.戸籍謄本」「2.戸籍抄本」のポイント

「1.戸籍謄本」と「2.戸籍抄本」の違いが分からないというご質問をよく頂きます。例えば、父・母・子の三人家族がいる場合に、その全部が記載された書面を戸籍謄本(全部事項証明と呼ぶこともあります)と言います。なお、仮に父に関する部分だけを証明してほしいと請求した場合は、戸籍抄本(一部事項証明)として発行されます。

相続手続きにおいては、戸籍謄本(全部事項証明)を取得した方が無難であると考えます。どうしても今回の相続に関する部分以外は明らかにしたくない、というのであれば戸籍抄本(一部事項証明)を取得すればよいでしょう。

なお、「3.除籍謄本」や「4.改製原戸籍謄本」も特定の個人の証明だけを請求して「抄本」として発行してもらうこともできますが、相続手続きにおいて「抄本」で足りるかどうかは専門家でないと判断できない場合が多いです。可能な限り「謄本」を発行してもらうことをお勧めします。

■「3.除籍謄本」のポイント

「3.除籍謄本」は、戸籍から誰もいなくなった状態を証明するものです。例えば、父・母が共に死亡して、子供が結婚して独立したというのであれば、その戸籍には誰も存在しないことになるため、戸籍自体が除かれることになります。これを証明したものが除籍謄本です。

なお、例えば、父・母・子の三人家族がいて父が死亡したという場合、戸籍謄本中、父の欄には「除籍」と記載されます。しかしながら、母と子供は残っている為、当該戸籍自体は除かれずそのままの状態となります。ですから、これは除籍謄本ではなく戸籍謄本として発行されます。

しかし、当該戸籍謄本1通を取得すれば、父が死亡したという証明(除籍謄本の役目を果たす)にもなりますし、母子については現存しているという証明(戸籍謄本の役目を果たす)にもなります。相続手続きを行うにあたって同じものを2通取得する必要はありません。

また、本籍を別の市区町村へ移した場合(転籍と言います)も、従前の本籍地には誰もいなくなりますので、従前の戸籍は除かれて、除籍謄本として交付が受けられます。

 

■「4.改製原戸籍」のポイント

まず読み方ですが、「かいせいげんこせき」または「かいせいはらこせき」と言います。戸籍は、古くは王朝時代にさかのぼると言われていますが、現在の形となったのは明治5年です。それ以降も2回、大きな制度の変更があり、これによりそれまでの戸籍が行政によって書き換えられています。

1つ目の制度の変更は、昭和32年の法務省令第27号によるものです。それまでは「家」を継いだ戸主と、その「家」に属する親族(配偶者と子のほかに、子の配偶者や孫、兄弟姉妹、親等)から成る「家」を単位とした戸籍でした(イメージとしては「一族」が全員入っている戸籍という感じでしょうか)。

これを、戦後の憲法改正に伴って「夫婦と氏を同じくする子」が戸籍編製の基本単位とし現在に引き継がれています。この改製により、親夫婦と子夫婦や、親・子・孫の三世代が同一戸籍内にいる、ということは無くなりました。この改製前の戸籍は、昭和に行われた改製であることから「昭和改製原戸籍」と呼ばれています。

実際の改製原戸籍謄本には「昭和32年法務省令第27号により昭和○年○月○日新たに戸籍を編製したため本戸籍消除」等のように記載されます(様々な記載例を確認していますので統一的ではありません)。

戦後の憲法改正施行後、昭和23年1月1日に戸籍法が改正、昭和32年にようやく実施された改製ですが、実際の改製作業は、戦後の混乱時期と言うこともあり、昭和33年4月1日から昭和41年3月末日に渡って行われました。ですから、現実に改製によって新しい戸籍が作られた年月日は市区町村役場によって異なります。

2つ目の制度の変更は、平成6年法務省令第51号附則第2条第1項によるものです。それまで紙の戸籍を使用していましたが、平成6年からは戸籍をコンピュータで記録することが出来るようになりました。そして書式が縦書きから横書きとなり、書き方が文章形式から項目化形式に変更されました。この改製前の戸籍は、平成に行われた改製であることから平成改製原戸籍と呼ばれています。

実際の改製原戸籍謄本には「平成6年法務省令第51号附則第2条第1項による改製につきに平成○年○月○日消除」等のように記載されます。

ただし、昭和32年の改製と同様に、現実の改製作業は自治体ごとに行われますから、まだコンピュータ化していない自治体もあります(数としてかなり少ないですが)。

これらを具体例で解説します。時系列のチャートを作成しましたのでご覧ください。

 

 

Aさんは昭和30年に生まれて、生涯結婚はしていません。また転籍もしていません。平成30年に死亡したという事例です。

後述しますが、相続手続きにおいては、死亡した人(被相続人と言います)の死亡から出生に遡るすべての戸籍謄本等が必要となります。こちらの最も単純な事例ですら、全部で3通の戸籍謄本等が必要であることはお分かりいただけますでしょうか。平成30年に死亡したことが記載されている戸籍謄本(又は除籍謄本)が1通、平成改製原戸籍謄本が1通、昭和改製原戸籍謄本が1通、合計で3通です。

もし結婚や転籍をしていれば、その都度の除籍謄本等も必要になってきますから、出生に遡る戸籍謄本を過不足なく全て揃えるには、かなりの時間と手間がかかります。実際の戸籍徴収は、こちらの事例のように簡単な話ではありません。

 

■「5.戸籍の附票」のポイント

同一戸籍に入っている人の当該本籍地における住所・住所を定めた年月日を証明する公文書です。例えば、例えば、父・母・子の三人家族のケースで、子は未婚だが独立して別居しているという場合、戸籍の附票には、父母は同じ住所が記載されて、子は別の住所が記載されます。

また、除籍や改製原戸籍についても、それらの附票を請求することができます。除籍謄本・改製原戸籍謄本に記載されている本籍地に本籍があった間の住所の変遷が記録されています。

常に必要な書類ではありませんが、相続手続きの内容によっては提出が要求される書類です。詳しいことは専門家に相談した方が良いでしょう。

戸籍謄本等はどこに請求すればいいのか

戸籍謄本等は本籍地の市区町村役場・役所で発行されます。本籍地と住所が別の方は、お住まいの市区町村役場・役所では発行されませんから十分に気を付けて下さい。「市民課」や「戸籍住民課」の窓口で請求すればその場で発行されます。住民票を取得した経験ならあると思いますが、同じ窓口になります。

なお、婚姻や転籍等によって本籍が変更されているような場合は、それぞれの本籍地で戸籍謄本等を取得することになります。たとえば、婚姻前の本籍がA市、婚姻後の新たな本籍がB市という場合、婚姻後の戸籍謄本等はB市に請求して取得しますが、婚姻前のものはA市に請求して取得しなければなりません。

新聞報道によると2024年頃には、B市に請求すればA市の戸籍謄本等の交付もしてもらえるとなるかもしれませんが(これを「戸籍証明書の広域交付」と言います)、現時点ではそのような制度はありません。

戸籍証明書の広域交付については、別に詳しいページを書きましたのでもしよろしければお読みください。
■速報【司法書士監修】相続時の戸籍謄本が1カ所で請求可能に

 

戸籍謄本等が発行不能の場合|戸籍の保存期間

戸籍には保存期間の定めがあります。現在、除籍謄本・改製原戸籍謄本については当該戸籍が閉鎖されてから150年になっています。

平成22年6月1日に変更されるまでは、その種類によって保存期間は異なり、50年~100年でした。ですから、平成22年6月1日時点で保存期間が徒過しているものについては、現在は廃棄されて取得できない可能性があります。ただし、自治体によっては発行可能なところもありますので、保存期間は考慮せずに、まずは請求してみることをお勧めします

また、除籍の附票、改製原戸籍の附票の保存期間は5年です。非常に短い為、取得できないケースが多いのですが、こちらも自治体によっては保存期間が過ぎていても取得できる場合もあるので、まずは保存期間を考慮しないで請求してみると良いでしょう。

なお、「戸籍謄本」「戸籍の附票」(つまりまだ閉鎖されていないもの)については、保存期間はありません。戸籍のデータは除籍や改製によって使われなくなって閉鎖され、その時点から保存期間を計算します。現在効力のある事項が記載されている戸籍謄本や戸籍の附票には保存期間という概念はありません。

さらに、保存期間中であるにもかかわらず、戸籍謄本等の請求をしても交付が受けられない場合があります。例えば、震災や戦災などによって戸籍データそのものが役所から消失しているケースです。この場合は、その旨の証明書を自治体から発行してもらいます(証明書の発行はしていない自治体もあります)。

相続手続きに必要な戸籍謄本等とは?

それでは次に、一般的に相続手続きに必要な戸籍謄本等の解説をします。戸籍謄本等の種類については上に掲げましたので、その情報を前提に読んでいただければ、ご自分が収集すべき戸籍謄本等も分かりやすいと思います。

 

被相続人について必要な戸籍謄本等とは…

被相続人(死亡した方)について必要な戸籍謄本等は、被相続人の死亡から出生に遡るまでの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本です。これら全てが必要かどうかはケースにより異なりますが、死亡から出生まで連続したものでなければならない点は共通します。

生まれてから亡くなるまで同じ本籍にとどまる人はほとんどいません。転籍や結婚で本籍が移るのが普通です。また法律の改正によって戸籍情報が書き換えられることもあります。この戸籍謄本等を全部取り寄せます。

「被相続人の死亡から出生に遡る」と示しましたが、そこまで遡らなくていいケースもあります。相続手続きを行う先によって、「被相続人の死亡から婚姻した時までに遡る(ゆうちょ銀行)」もので良いという場合もありますし、「被相続人の死亡から15、16歳までに遡る(登記研究149号要旨)(登記手続)」ものが要求される場合もあります。結局、どのような相続手続きも対応できるように準備するためには、「被相続人の死亡から出生に遡る」ものを用意する必要があります。多くの金融機関は、出生までの遡り戸籍謄本等を要求します。

なお、代襲相続が生じている場合には、被代襲者についても、被相続人と同じように死亡から出生に遡るまでの連続した戸籍謄本等が必要です。また、数次相続が生じている場合も、初めに死亡した被相続人だけでなく、二番目以降に死亡した方についても、死亡から出生に遡る連続した戸籍謄本等が必要になります。

いずれにしても、請求のやりかたとしては、死亡の時点から過去にさかのぼって1つずつ取得していくイメージです。被相続人の出生時の本籍を知っている相続人は通常いませんから、死亡時の本籍をまず明らかにして、出生までの本籍地を探っていくという手順です。

その為には戸籍謄本等を読み取る能力も不可欠になります。残念ながら、戸籍の読み取り能力は一朝一夕には習得できませんが、例えば役所の窓口で、「この戸籍謄本を1つ前に遡った戸籍を取得したいがどこの役場に行けばよいか」と尋ねれば教えてくれます。もちろん当事務所でもお答えします。

代襲相続や数次相続について知りたい方は、別のページで詳しく解説していますので、もしよろしければお読みください。
■【保存版】代襲相続とは|代襲相続をわかりやすく|司法書士監修

 

被相続人についての戸籍謄本等は全部で何通になるか?|事例検証

被相続人について収集しなければならない死亡から出生までに遡る連続した戸籍謄本等が全部で何通になるか、は被相続人によって異なります。「集めてみなければわからない」というのが正直なところです。

よくある事例の1つとして、大正生まれの方が平成30年に亡くなられたケースを以下に検証してみます。細かいところまでは理解しなくて構いませんから、死亡から出生までに遡る戸籍謄本等の具体的なイメージをつかんでいただければ幸いです。

 

 

この事例ですと、生まれてから亡くなるまでに6回戸籍が作り直されていることになるため、計6通の戸籍が必要になります。少し解説を加えます。あまり細かいことに興味のない方はお読み飛ばし下さい。

戸籍①は、出生してから結婚するまでのものです。戸籍②は、当時は結婚してもあらたに夫婦の戸籍を設けるのではなく、例えば夫が属していた「家」の戸籍に入籍したので、その婚姻時から家督相続が生じるまでの戸籍です。家督相続とは旧民法の遺産相続の制度で、原則として「家」の家長(戸主)が亡くなると長男が引き継ぐというものです。これにより長男が新たな戸主となるため、新しく戸籍が作られることになります。

戸籍③は、家督相続が開始してから昭和32年改製までのものです。上でも説明しましたが、昭和32年改製により三世代戸籍は廃止されたので、新しく夫婦の戸籍が編製されました。

戸籍④は、昭和32年改製から転籍までのものです。戸籍⑤は、転籍から平成6年改製までのものです。戸籍①から戸籍⑤までは縦書き(とくに古いものは手書き)です。

戸籍⑥は、平成6年改製から死亡までのものです。コンピューター化され、A4サイズ横書きに統一されています。

 

相続人について必要な戸籍謄本とは…

相続人について必要な戸籍は、現在の戸籍謄本(または戸籍抄本)だけです。出生に遡るまでのものは必要ありません。

しかし、相続人自身も亡くなっている場合は、代襲相続や数次相続が問題となり、被相続人と同じく死亡から出生に遡る連続した戸籍謄本等が必要になります。その内容が被相続人の戸籍謄本等と一部共通する場合もあると思います。その時は、共通するものについては1通あれば足ります。

 

戸籍謄本等は何通用意しておけばよいか?|原本還付の手続き

被相続人に関する戸籍謄本等や、相続人の現在の戸籍謄本は、何セット(何通)用意して置けば良いのでしょうか。後述しますがこのような公文書は無料ではありませんので、なるべく少なくて済むのであればそうしたいものです。

基本的には1セット(各1通ずつ)用意して置けば足りることが多いです。少なくとも不動産登記手続(名義変更)、税務手続き(相続税)、金融機関の相続手続きでは、一度提出した原本を返却してもらえます(税務手続きはコピーの提出可)。これを原本還付の手続きと言います。この原本還付の手続を執ることにより、結果として1セットあればすべての手続きは完了します。

ただし、金融機関によっては原本還付を認めなかったり、保険請求でも認められないことがあるので、実際にはケースにより異なります。

 

戸籍謄本等に有効期限はあるか

有効期間については、「死亡の記載のある除籍謄本」や「相続人の現在の戸籍謄本」は一部の金融機関で発行後6か月内等の有効期限を設けているところもありますが、概ね被相続人が死亡した後に発行されたものであれば大丈夫です。逐一の確認が必要なところです。

ただし、被相続人に関する戸籍謄本等のうち、「除籍謄本」「改製原戸籍謄本」については、だいぶ前に取得したものであっても問題ないことが多いです(例えば以前に別の相続手続きで使用したもの)。これらは既に閉鎖された戸籍データの証明に過ぎないので、いつ発行されても内容が異ならないためでしょう。しかし、念の為逐一の確認は必要です。

 

法定相続情報証明とは

もし、「何セットも戸籍を取得したくない」「有効期限も一応気になる」というのであれば、法務局で一定の手続を執ることにより「法定相続情報証明」を発行してもらうことも可能です。「法定相続情報証明」は戸籍謄本の代わりに付けて相続手続きが行える非常に便利な書面です。

なお、ここでは詳述しませんが、相続手続きに際して、相続人の印鑑証明書が必要な場合があります。この印鑑証明書については、特に金融機関で相続手続きを行う際、作成後3か月以内等の有効期限がありますので十分注意して下さい。「法定相続情報証明」は、戸籍の代わりにしかならず、印鑑証明書の代わりにはなりません。

 

法定相続情報証明について詳しいことは別のページで解説していますので、もしよろしければお読みください。

■【最新版】法定相続情報証明制度を使ってみる

 

戸籍謄本等の取り寄せ方法|費用など

それでは実際に戸籍謄本等を取り寄せてみましょう。ここでは具体的な取り寄せ方法や、その手順、費用などを考察します。

 

戸籍の請求の仕方は2つ

戸籍謄本等を取り寄せる方法は2つあります。ご自分の都合のいい方法を自由に選択して下さい。上でも掲げた通り、戸籍謄本等は本籍地の市区町村役場・役所で発行してもらえる書類です。

 

1つ目の方法は、窓口で直接請求する方法です。

本籍地のある市区町村役場・役所の窓口で、即日戸籍謄本等を交付してもらえます。窓口は、住民票を発行してもらえる場所と同じです。自治体によって名称は異なりますが、「市民課」「区民課」などと呼ばれることが多いです。

役所・役場の入り口を入ってすぐのところにある場合が多いです。手数料もその場で現金で納付すればよいので、簡単です。免許証の提示などの方法による本人確認もその場で行われます。ただし、役所が開いている時間は限られる為、時間のある人向けの方法です。

 

2つ目は、郵送で請求する方法です。

郵送で戸籍謄本等を取り寄せることもできます。詳しくは各自治体のHPに具体的な戸籍謄本等の取り寄せ方法が書いてありますから、HPを確認するようにしてください。概ね次のような手順になります。

【郵送による戸籍謄本の取り寄せ方法】

1、自治体のHPから戸籍謄本請求書をダウンロードして必要事項を記載

2、請求者と被請求者の身分のつながりが分かる戸籍謄本のコピー等を同封

3、請求者の身分証明書(免許証など)のコピーを同封

4、郵便小為替(発行手数料)を同封(郵便小為替は郵便局で取り扱っています)

5、返信用封筒(切手を貼ったもの、またはレターパック)を同封

この方法は、自分の都合で好きな時間に戸籍謄本等を取り寄せることができるのが最大のメリットです。また、遠方の役所に出向く必要がない点もメリットと言えます。しかし、内容に不備があれば、発行されずにそのまま返送されたり、不備を補完するように役所・役場から電話がかかってきたりします。戸籍謄本等を取り寄せるべき役所が多ければ多いほど煩雑になります。手間がかかるというのがデメリットでしょうか。

 

他の相続人の戸籍謄本等も取得できるか?

本人が無条件で取り寄せることができる戸籍謄本等は、①本人の配偶者、②本人の直系尊属(親・祖父母)、③本人の直系卑属(子・孫)です。これ以外の親族については、無条件に取得することはできません。

とくに、相続手続きで問題となるのは、兄弟姉妹の戸籍謄本です。しかし、一定の条件をクリアすれば兄弟姉妹の戸籍謄本を取得することも可能です。必要な書類を準備して、役所に備え付けの戸籍謄本請求書に必要事項を書くだけです。兄弟姉妹以外の他の相続人の戸籍謄本を請求する場合も同じように考えて頂ければ大丈夫です。以下にその手順を掲げます。

【兄弟姉妹の戸籍謄本の取り寄せ方法】

1、自治体の戸籍謄本請求書の備考欄(または請求理由欄)に「被相続人○○の相続手続きのために必要 戸籍謄本提出先は○銀行△支店」などと具体的に書く(簡潔に記載すれば十分です)

2、被相続人が死亡した旨が記載されている除籍謄本等を準備する

3、請求者と被請求者(兄弟姉妹)の身分のつながりが分かる除籍謄本等を準備する

 

以上の要件を充たさずにただ漫然と「兄弟姉妹だから戸籍謄本を交付して下さい」と言っても、手続き上、兄弟姉妹の戸籍謄本等が発行されることはありません。なお、戸籍謄本請求書の備考欄(または請求理由欄)は詳細に書く必要はありませんが、虚偽を記載すると刑法上の罪になりますので十分に注意して下さい。

 

相続発生前にあらかじめ戸籍謄本等を取り寄せることはできるのか?

できます。相続に使う戸籍謄本類を集めるには時間を要します。そこで、死亡したときに慌てないために、あらかじめ戸籍謄本等を取り寄せておくこともできます。上でも掲げましたが、除籍謄本や改製原戸籍謄本は有効期限がないことが多いので、事前に準備しておいたものをそのまま相続手続き使用することも可能です。

もし、生前に取得した除籍謄本や改製原戸籍謄本が有効期限内でないと理由で金融機関で使用できなかったとしても、全く同じものを取得すれば良いだけですから、ゼロからの状態で集めるよりはるかに簡単にそろえることが可能となります。

このような意味でも、生前に戸籍謄本等の準備をしておくというのは大変意味のある行為です。近年はそのようなご依頼も増えています。

 

最近の戸籍謄本は横書きのものがほとんどです

戸籍謄本等の発行手数料はいくらか

戸籍謄本等を市区町村役場・役所で発行してもらうためには、手数料を納付する必要があります。発行手数料は自治体によって異なります。ちなみに、東京国分寺市の発行手数料は以下のようになります。改製原戸籍は、他の書類と比べて発行手数料が高額に設定されている自治体が多いです。窓口で発行してもらう場合は、現金で納付します。郵送で請求する場合は、郵便小為替で納付します。

  • 戸籍謄(抄)本:1通450円
  • 除籍謄(抄)本:1通750円
  • 改製原戸籍謄(抄)本:1通750円

解決案の提示|戸籍謄本等が揃わない…

相続手続きに必要とされる戸籍謄本等を完全に揃えるには、手間も時間もかかります。また、手間と時間をかけて収集した戸籍謄本を読み解いて、法律上の相続人(法定相続人と言います)を確定させるためには、法律知識も必要です。

被相続人の遺産を相続人で分けるため(遺産分割と言います)には、まず法定相続人を確定させることが大前提になり、相続人が1人でも欠けた遺産分割は無効となります。ですから、単に「戸籍が揃った」だけでは済まない問題とも言えます。

揃える時間も知識も不足しているのであれば、相続手続きを専門としている事務所へ依頼してしまえば、そのような不安から解放されます。

また、「途中まで集めてみたが全部は無理だった」という方は、相続手続きの専門家に一度見てもらって、不足分を補ってもらうように依頼すればよいでしょう。さらに、「一応全部そろえてみたがすべて整っているか分からない」という方も、不足がないかどうか専門家に診断してもらうと良いでしょう。

いずれにしても、自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。

 

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

無料相談を受け付けています

私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。

このページでは、「相続の戸籍謄本取り寄せのノウハウ」についてお話ししました。

単に戸籍謄本を取り寄せるといっても、簡単に解決できない様々な問題がある点はお分かりいただけたでしょうか。ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。

戸籍謄本取寄せの手続きの流れや、費用はいくら位かかるのか、相続手続きにかかる費用や、どの位の期間で完了するのか等、他にも様々な疑問があることと思います。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。

毎週土曜日に無料相談を受け付けていますので、この機会にお気軽にお問い合わせください。

お電話(代表042-324-0868)か、予約フォームより受け付けています。