【相談事例】遺産の相続で前妻の子ともめる不安
目次
夫が再婚で、前妻との間に子供がいた場合、その子供も相続人になるのでしょうか。もし相続人になるとすれば、トラブルになることが予想されます。
夫が死亡する前に、現時点でできる方法として遺言の作成は本当に効果的なのでしょうか。当事務所に寄せられた実際の相談事例をもとにわかりやすく解説します。
【相談】遺産相続で前妻の子ともめるのを防止するには?
次のような相談がありました。
【回答】前妻の子との遺産相続争いは遺言書で対策
この相談について次のように回答しました。
この相談のポイントとは
この相談のポイントは次の通りです。
- 前妻の子は相続人になれるのか、またその相続分は
- なぜ後妻と前妻の子は遺産相続でもめるのか
- 相続が開始後、前妻の子と遺産分割協議を不要にする方法とは(遺言の作成)
- 遺言書があれば安心か
- 前妻の子ともめないための遺言書の書き方とは
では順に検討していきたいと思います。
前妻の子は相続人か?相続分は?
まず、今回の相談事案に関して、夫が死亡した場合の相続人は誰なのかが問題です。もし、夫が生前に財産に関して何らの遺言も残していなければ、夫の配偶者と夫の子が共同で相続人となります。つまり、後妻・子1・子2の3人が相続人となります。
ここで言う「配偶者」とは、相続が開始した時点で戸籍上配偶者となっている方を指しますので、後妻を意味します。すでに離婚している前妻は配偶者にあたりませんから相続人ではありません。
そして「子」とは夫の子を指すわけですが、具体的には前妻との間に生まれた子1および子2の事です。もちろん夫が死亡するまでの間に、後妻との間に子が誕生していれば、その子も相続人になります。しかし、あまり仮定の話をしすぎると事例が複雑になりますから、とりあえず後妻との間の子は考えないことにします。もちろん離婚しても、前妻との間の子と父の血縁は切れません。仮に子がすでに結婚して独立していても結論は同じです。
次に、夫が遺言書を残していなかった場合の、具体的な相続分についてです。まず、配偶者である後妻は2分の1の相続権を有します。そして、残りの2分の1を子供の人数で頭割りすることになります。ですから、法律上の相続分は以下の表の通りとなります。
相続人 | 法定相続分 |
後妻 | 4分の2(2分の1) |
子1 | 4分の1 |
子2 | 4分の1 |
後妻と前妻の子は遺産相続でなぜもめるのか
今回の相談と同じようなケースであっても、遺産相続でまったくもめることなく手続きが終わることもあります。ですから、トラブルになるか否かは結果としては事例によるとしか言いようがないわけですが、もめる要因や原因は経験上予想することができます。
それは夫の遺産相続手続きを、前妻の子の立場から見た場合と、後妻の立場から見た場合で違ってくると考えます。まず、前妻の子の立場から見ると、「後妻は自分たちの父親を奪った」「後妻は財産目当てで結婚した」という印象を受けやすいです。こちらも一般論ですから、もちろんそうでない方もたくさんいらっしゃいます。
そして、後妻の立場から見ると「前妻や前妻の子供とは一切関わりたくない」となります。実際には後妻がこのように考えているというよりも、夫が考えているケースが多いです(前妻の子供と関わりたくないとまで思っている方は経験上少ないですが…)。
このように双方に複雑な事情があるため、遺産相続に際してはより慎重に手続きを行う必要があるのです。
遺言書で前妻の子との遺産の協議を不要に
もし夫が遺言を作成しなければ、相続財産は後妻と前妻の子が共同で相続することとなり、その手続きに際しては、主に後妻が前妻の子の承諾を得るような形で話が進むことでしょう。
しかし、夫が遺言書を作成すれば、その中で共同相続人の相続分を自由に定めることができますし、前妻の子に一切相続させないこととすることもできます。相続人の一部に一切相続させない遺言の内容も、それ自体で無効になることはありません。
ですから、相談事例の場合、前妻の子に相続させないような遺言を作っておけば、実際に相続が開始した時に、後妻が前妻の子の署名捺印や印鑑証明書をもらったり等、煩雑な手続きを行わずに済むことになります。
遺言は公正証書で作成することがおすすめです
遺言書の作り方は、一般的には自筆で作成するか(自筆証書遺言)、公証人に作成してもらうか(公正証書遺言)となります。自筆証書遺言は、手軽で費用もかかりませんし、その保管等で不安がある場合は「自筆証書遺言の保管制度」を利用して法務局に預けることもできます。詳しくは別のページで解説しています。
しかし、相続開始後の争いが予想されるケースにおいては、公正証書遺言の作成をお勧めしています。自筆証書遺言については、相続開始後にその作成の真否等を争う裁判が起こされやすく、相談事例のようなケースには不向きと言えます。自筆証書遺言が良いのか、公正証書遺言が良いのかについては、何を重視するかによって結論も変わってくるところです。別のページで詳しく検証しました。
遺言書があっても安心できない|遺留分侵害額請求とは
それでは、前妻の子に一切相続させない遺言書を作成したとして、それで安心と言えるのかが問題です。実は、相続人には法律上保証された最低限の取り分というものがあります。上記で説明した法律上の相続分とは異なるもので、「遺留分」と呼ばれるものです。
今回の相談事例の「前妻の子に一切相続させない」のように、遺言の内容が前妻の子の遺留分を一方的に奪うような内容であっても、この遺言書自体は有効です。無効ではありません。ところが、遺言の内容通りに相続した場合、相続開始後に前妻の子から遺留分侵害額請求を受けることがあり、請求されればこれに応じなければなりません。
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。民法|e-Gov法令検索
前妻の子の遺留分はどのくらいか
それでは今回の相談事例について、前妻の子を含めた相続人全員の遺留分はどのようになるか、下の表でまとめました。
相続人 | 遺留分 | 法定相続分 |
後妻 | 8分の2 | 4分の2(2分の1) |
子1 | 8分の1 | 4分の1 |
子2 | 8分の1 | 4分の1 |
今回の相談事例は、相続人が後妻と前妻の子2人の場合ですから、後妻が8分の2(4分の1)、前妻の子がそれぞれ8分の1ずつとなります(民法第1042条)。
遺留分侵害額請求はどのようにされるのか
遺留分侵害額請求は、自分の遺留分が侵害されたことを知った相続人からなされます。今回の相談事例の場合、前妻の子から後妻に対して権利が行使されることでしょう。権利の行使方法は様々です。メールや電話、手紙、内容証明郵便、代理人弁護士からの郵便、色々なケースがあります。
いずれの場合であっても、遺留分侵害額請求は法律上認められた権利ですから、これを無視したりすることはできません。しかし、請求されたからと言って、請求された金額をそのまま支払うというのも得策とは言えません。何故なら遺留分の侵害額を計算するには、複雑な計算を要することもある為、通常弁護士を代理人として話し合わなければ正確な金額は算定できないことが多いためです。
いずれにしましても、遺留分侵害額請求をされた場合は、最終的には一定の金銭を支払うことになります。
遺産相続で前妻の子ともめないための遺言の書き方
以上で説明しましたように、遺言があっても遺産相続においては前妻の子と後妻はもめる可能性は十分にあるという点はお分かりいただけたと思います。それでは、遺産の相続で前妻の子と後妻がもめないためにはどうすればいいのか。それは、遺言の内容を工夫して書くという事です。具体的に以下で解説します。
遺言書に理由・付言を書いておく
遺言書にこのような遺言の内容となった理由を書いておくことが、後々のトラブルの防止に役立つ可能性はあります(遺言の「付言」と呼ばれます)。つまり、なぜ前妻の子に相続させない内容となっているのか(例えば学費としてすでに多額を援助している等)を明記しておくということです。
遺言書に書いた内容のうち、法律的な効力が認められるのは、法律に定められた法定遺言事項に限られます。これ以外の事項を遺言書に書いても何らの法的拘束力も生じません。遺言理由は、法定遺言事項でないため、遺言書に書いても法的な効果はありません。しかし、これにより無用な争いは止めようという心理的な効果は限定的ではありますが期待できるのではないでしょうか。
しかし、内容によっては、逆に紛争を招く結果となることもあります。理由を記載する場合には十分に注意する必要があるでしょう。
遺言書に遺留分侵害額請求をしないように付言を書いておく
遺留分侵害額請求権は法律が相続人に与えた権利ですから、他人がこれを奪うことはできません。ですから、遺言の中で前妻の子に対して遺留分侵害額請求権を行使しないように求めても、法的な拘束力も効果もありません。
しかし、上記で解説した、相続人が納得できるような「遺言理由」と合わせて、遺留分侵害額請求をしないように求める付言を付け加えれば、トラブルの防止につながる可能性は高くなるかもしれません。ただし、これも内容によっては逆に紛争を招くこともあります(そもそも遺留分侵害額請求を知らなかった者にそのきっかけを与える結果になることもあります)。
遺言書は遺留分に配慮した内容にする
すでに解説しましたように、遺留分を一方的に奪う内容の遺言がある場合、相続開始後に相続人から遺留分侵害額請求を受けることがあり、請求された時にはこれに応じなければなりません。
そこで、そのような相続人間のトラブルを避けるために、遺言の内容を遺留分に配慮したものにすることも考えられます。相談事例の場合、前妻の子の遺留分は各8分の1ずつですから、最低でも8分の1程度は相続させる内容にしておくという事です。
前妻の子との遺産相続、一体どうすれば…
このように、前妻の子との遺産相続をもめないようにする最善の対策は公正証書遺言の作成となります。しかし、遺言書があれば安心という訳ではなく、その内容がとても重要と言えます。
公正証書遺言は自筆証書遺言と異なり、公証人による本人確認、遺言作成時の証人の立会など手続きが極めて厳格で、遺言の有効性を巡って相続開始後に争われるリスクを軽減させることができます。
いずれにしても、このページで解説したような事情があって、どのようにすべきか迷ったら、当事務所にご相談ください。自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。
無料相談を受け付けています
私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。
このページでは、「【相談事例】遺産の相続で前妻の子ともめる不安」と題して、実際に当事務所に寄せられた相談を少しアレンジして紹介・解説しました。同じような問題で困っている方の参考になれば幸いです。
前妻の子との遺産のトラブルがすでに生じている場合は、実際には当事者同士が代理人(弁護士)を付けて話し合いで解決するか、それができない場合は裁判になります。当事務所には、相続実務に精通している提携の弁護士がいます。
ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。
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