【司法書士監修】相続により取得した土地の国庫帰属は使える方法か

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「相続を望まない土地があるがどうすればよいか?」当事務所に多い相談の一つです。あなたも同じ悩みを持っていますか?

令和3年4月21日の国会で「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下相続土地国庫帰属法と言います)が成立しました。

この法律が冒頭のお悩みを解決するための新たな方法の一つとなります。

このページでは、相続した不要な土地の処分方法について、今回成立した新しい法律の概略をいち早く解説します。また、新法以外の方法としてこれまで使われてきた代表的な方法の紹介と問題点を指摘します。

「相続土地国庫帰属法」の全貌はこれだ!

この法律を単純に言えば「法務大臣の承認を受けて相続した不要な土地を国に放棄する制度」です。

それでは令和3年の国会で成立した「相続土地国庫帰属法」の内容について、相続手続きを専門とする当司法書士事務所が、法律に詳しくない方にも読みやすいように、順に解説していきます。

「相続土地国庫帰属法」は令和5年4月27日から始まる制度

まず「この新しい制度はいつから始まるのか?」です。

法律は令和3年4月21日に成立し、4月28日に公布されましたが、すぐにこの制度が始まるわけではありません。この法律の中に「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」とあります。

具体的には、令和5年4月27日から施行されます(令和3年12月14日に閣議決定されました)。

いつの時点の相続に適用があるのか

制度が実際に始まるのは、令和5年4月27日からですが、いつの時点の相続にこの法律が適用されるのでしょうか。

相続土地国庫帰属法の中には、特にこの点に関する定めは置かれていません。

ですから、この法律が施行された後に生じた相続に適用されるのは当然として、それ以前の相続にも適用があると考えてよいと思います。

しかし、相続土地国庫帰属法に定められていない細かな内容は、別途「政令」で定められる予定なので、もしかすると「政令」で制限を設けることも考えられます。

「相続土地国庫帰属法」の手続きのイメージ

次のこの手続きを利用する場合の手順です。大まかには次のようになります。

①承認申請(法務局)

相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限られます)により土地を取得した相続人は、その土地の所有権を国庫に帰属させるように、法務局に「申請書」を提出します。

その際、法務局に提出するものは以下の物です。

  • 申請書
  • 添付書類
  • 審査手数料

申請書や添付書類の具体的な様式などはこれから定められる予定です。また、審査手数料(おそらく収入印紙で納付)も現時点では決まっていません。

②審査

申請をしても常に承認・許可されるわけではありません。国庫に帰属させるためには以下で説明するような厳しい要件をクリアしている必要があります。

申請を受け付けた法務局は、事例によって職員による現地調査や、申請人・その他の関係者からの事実の聴取、追加資料の提出要求などをする権限が与えられています。

③負担金の納付

無事に国庫への帰属が承認された場合には、申請者に対し「承認通知」とあわせて「負担金の納付通知」がされます。

負担金とは、国がこの土地を管理するのにかかる費用のことです。土地の管理費用とは、具体的には柵・看板設置費用、草刈、巡回費用などを指します。

この管理費用は10年分を負担金として納付するように法律で規定されましたが、具体的な金額の算定基準などは「政令」で別途定められる予定です。

参考として、200㎡の国有地(宅地)の10年分の管理費用は、約80万円程度となっています。田・畑などの場合はこれよりも低額であることが多いようです。

この負担金は10年ごとに納めるというものではなく、最初の1回のみ納付するものとなります。

負担金は、納付通知を受けた日から30日以内に納付する必要があります。もし納付しない場合は「承認通知」は当然に失効します。つまり、承認はなかったことになります。

④国庫帰属

土地の所有権は、申請者が負担金を納付した時点から国庫に移転します。国庫への名義変更ですが、手続きは国が行いますので、申請者側から登記を申請する必要はありません(国が当事者となる登記を「嘱託登記」と言います)。

「相続土地国庫帰属法」の手続きを利用するための要件はかなり厳しいものに…

このように、相続を望まない土地がある相続人にとっては、何としても利用したいと考える手続きではありますが、その要件はかなり厳しいものがあります。

その要件を以下にお伝えしていきますが、最初に大雑把にまとめると、次の一言になります。

  • 抵当権もなく、争いなどもなく、建物等もないきれいな更地

前提として、今回の法律で国庫に帰属させることができるのは「土地」だけです。ですから、空き家がある場合は、これを解体して更地にしておくことが前提条件となります(その他具体例は下記でお伝えします)。

それでは法が定めている具体的な要件を見ていきます。

次の10項目のうちどれか1つでも該当したらダメ

法が定める要件は全部で10項目あります。次にあげる10項目のうち、どれか1つでも該当していたら国庫への帰属は承認されません。かなりハードルは高いと言えるでしょう。

  1. 建物が存在する土地
  2. 担保権や用益権が設定されている土地
  3. 通路など他人によって使用されている土地
  4. 土壌汚染がある土地
  5. 境界不明など権利関係に争いがある土地
  6. 管理するのに過分の費用・労力を要する崖がある土地
  7. 車両・樹木・工作物などが地上に存在する土地
  8. 除去が必要な埋設物が地下に存在する土地
  9. 隣地所有者と争訟をしなければ使えない土地
  10. 以上に定めるほか管理するのに過分の費用・労力を要する土地

田、畑、山林も国庫帰属の承認申請は可能

この制度を使って国庫帰属の承認申請ができるのは、「宅地」に限られません。田、畑、山林、雑種地なども承認申請をすることができます。

実際には、相続人からすると、田、畑、山林こそ不要な土地となるため、承認申請もそのような土地について多くなされることが予想されます。

空き家や倉庫、車庫、蔵がある土地について国庫帰属の承認申請は不可能

登記されているかどうかを問わず、物理的に「空き家」があれば、国庫帰属の承認申請はできません。「建物が存在する土地」の承認申請はできないとなっているためです。

倉庫、車庫、蔵は建物として登記されている場合もあるかと思いますが、たとえ登記されていなくても「工作物」となるでしょう。そして、「工作物などが地上に存在する土地」の承認申請も認められません。

空き家や倉庫、車庫、蔵などがある場合は、解体して、更地にした後であれば、国庫帰属の承認申請が可能となります。

売買で取得した土地について国庫帰属の承認申請は不可能

例えば、原野商法により売買で取得した土地については、国庫帰属の承認申請はできません。しかし、その土地を相続により故人から取得した相続人は、国庫帰属の承認申請ができることになります。

ですから、原野商法に騙されてうっかり購入した土地について、その土地の所有者が、この制度を利用して国庫に引き取ってもらおうとしても、それはできません。

ところが、その土地の所有者が亡くなった後であれば、相続人から国庫帰属の承認申請ができます。

この制度が使えるのは、「相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により土地の所有権を取得した」場合に限られるのです。

遺贈で取得した土地については国庫帰属の承認申請できない場合も

故人が遺言書を遺していて、遺言書により不要な土地を相続した場合はどうなるのでしょうか。

結論は次のようになります。

【1】相続人が相続した場合 国庫帰属〇
【2】相続人以外が相続した場合 国庫帰属×

つまり、遺言書により相続人が不要土地を相続したケースは、通常の相続と同じように、国庫帰属の承認申請が可能です。

これに対して、本来の相続人以外の人が遺言書の内容により不要土地を取得したケース(遺贈)は、国庫帰属の承認申請はできません。

国庫帰属の承認申請は法務局への専門的な手続き

相続土地国庫帰属法による国庫帰属の承認申請の流れや、要件は理解できましたでしょうか。かなり専門的な手続きにあることが予想されます。

ここまででお伝えしなかった、その他の注意点を4つお伝えします。

共有者の1人から国庫帰属の承認申請はできるのか?

土地を数人で共有している場合は、共有者の全員が共同して国庫帰属の承認申請を行う必要があります。共有者の1名から国庫帰属の承認申請を行うことは認められていません。

10項目の要件をクリアしているかどうかを誰が判断するのか?

国庫帰属の承認申請を、承認したり却下したりする権限は、法務大臣にあります。しかし、日本に1人しかいない法務大臣がそのような事務を行うことは物理的に不可能です。

そこで、実際には法務大臣から各法務局に国庫帰属の事務は委任される格好で運用されます。つまり、10項目の要件を最終的に判断するのは、各法務局となるのです。

相続登記も法務局がその事務を管轄していますので、これと同じ扱いということです。もちろん、「ある法務局では承認されたのに別の法務局では却下された」という事態が生じないように、制度の運用が進むにつれて統一的な指針も整ってくると思われます。

虚偽の申請は損害賠償責任も

上に挙げた10項目のどれか一つでも該当したら、申請は承認されないわけですが、それを避けるために、これらに該当することを隠して承認を受けた場合、相続人はどのような責任が問われるのでしょうか。

(損害賠償責任) 第十四条
(中略)いずれかに該当する事由があったことによって国に損害が生じた場合において、当該承認を受けた者が当該事由を知りながら告げずに同項の承認を受けた者であるときは、その者は、国に対してその損害を賠償する責任を負うものとする。相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律|法務省

つまり「聞かれなかったから言わなかっただけ」という言い訳は許されず、上記の10項目に該当する事由があったら申請時に自ら申告しなければなりません。

しかし、上記10項目に該当することを申告すれば認可はされないわけですから、結局、10項目のどれかに該当する場合は申請できないことになります。

国庫帰属後は財務省が土地を管理

無事に国庫帰属が承認された場合、その後は、財務省がその土地を管理します。名義も国に代わりますので、あなたがその土地について何らかの責任を負うことは一切ありません。

なお、農地や山林は農林水産省が管理するようです。

国庫帰属の承認申請は司法書士に依頼する

国庫帰属の承認申請は、相続人が自ら行うことももちろんできます。現時点では、具体的にどのような申請手続きになるのかは不透明ですが、かなり専門的な内容になることは予想できます。

それでは、どの専門家に国庫帰属の承認申請の手続を依頼すればよいのでしょうか。

上でもお伝えしましたように、国庫帰属の承認申請は「法務局」に対して行います。「法務局」に提出する書類の作成は、司法書士に専属する業務ですから、依頼先は司法書士となります。

その中でも、相続を専門に扱っているような司法書士事務所を選択されると宜しいかと思います。

相続を望まない土地は「いままで」どうしていたか?

それでは、いままでは相続を望まない土地がある場合、どのように対処していたのでしょうか。方法は2つあります。

  1. 相続を放棄する
  2. 相続登記をしないで放置する

順に検討します。

「相続の放棄」は最も使われる方法

故人に遺産がほとんどない場合は、相続を望まない土地を含めて「相続放棄」の手続きを行うことが多いです。「相続放棄」は、財産の一部だけを放棄することはできない手続きです。

例えば、不要な土地だけ放棄して、残りの遺産を相続することは認められないのです。したがって、どうしても相続したくない土地がある場合には、他の遺産も含めて全部放棄することになります。

相続には順位があるので、最優先順位の相続人が相続放棄をすると、相続権は次の順位の相続人へ移ります。

相続の順位は第三順位まであるので、第一順位から第三順位までの相続人が全員相続放棄をしたら、法律上は「相続人不存在(相続人が誰もいない状態)」になります。この問題点は後述します。

「相続登記をしない」という荒業を使う相続人も…

2つ目の方法としては、相続を望まない土地については「相続登記をしない」というやり方を使う相続人もいます。

「相続登記をしない」という選択をしても、法律上は相続しているのですが、「不要な土地について自分が名義人となることを避けたい」という要望も多く、そのような依頼があれば司法書士としては受けざるを得ません。

ちなみに現在の法律では「相続登記をしない」という方法も違法ではありません。この問題点は後述します。

「いままで」の扱いの決定的な問題点とは

さて「いままで」は、上記の通り2つの方法により、相続したくない土地を回避してきたわけですが、もちろんそれぞれに問題点があります。

順に検討します。

「相続の放棄」は最終的に「相続財産管理人」の問題となる

相続したくない土地がある場合に「相続放棄」は確かに有効な方法です。

しかし、相続には順位がありますから、第一順位から第三順位までの相続人全員が「相続放棄」すると、相続人が誰もいない状態となります。

相続人が誰もいないのに、遺産(土地)だけは残されているわけです。この場合、たとえ相続を放棄したとしてもこの土地の管理責任まで免責されません。

そこで免責を受けるために家庭裁判所に対して「相続財産管理人」の選任手続きを行うわけですが、その際に相続財産を管理するためにかかる費用を「予納金」として納めることが原則として必要となります。

その金額は事例により異なりますが、数10万円から100万円程度まで幅があり、この「予納金」の金額が「相続財産管理人」の手続きをためらわせる要因となっています。

こちらの点につきましては当事務所の別のページで詳しく解説していますのでリンクを貼っておきます。

【解決事例】相続放棄したら空き家はどうなるのか?(空き家法から読み解く)

【解決事例】相続放棄したら空き家はどうなるのか?(空き家法から読み解く)

「相続登記をしない」は今後は違法となる

「相続土地国庫帰属法」と同じ日に「相続登記を義務付ける法律」が成立、交付されました。

これにより、3年内に相続登記は義務となり、相続登記をしないことは違法となります。相続登記を行わない場合、最高で10万円以下の過料となります。

こちらの点につきましても当事務所の別のページで詳しく解説していますのでリンクを貼っておきます。

相続登記の義務化の法案が成立【相続専門司法書士監修】

相続登記の義務化の法案が成立【相続専門司法書士監修】

新制度の施行に備えて今できることは何か?

いま現に相続した不要な土地がある場合、どうすればよいのでしょうか?

「相続土地国庫帰属法」が施行されるのは、令和5年4月27日からですが、それまでに何をしておけばよいのでしょうか。

まず注意しなければならないのは、すでに開始している相続で、相続登記がされていないものについては、相続登記が義務化されることにより、最高で10万円の罰金(正確には過料)の対象となる点です(令和6年4月1日から施行)。

ですから、もしすでに相続が開始していながら相続登記の手続きが放置されているものについては、速やかに相続登記を済ませておくことが必要です。

相続登記を済ませておけば、「相続登記を義務付ける法律」が施行されても罰則の適用を受けることはありませんし、速やかに「相続土地国庫帰属法」に基づいて国庫への申請手続きが行えます。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

さいごに|いまなら無料相談が受けられます

私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。

このページでは、「【司法書士監修】相続により取得した土地の国庫帰属は使える方法か」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、まさに今あなたが困っていることについて、知っておくべきことを解説しました。

このページでお伝えしたかったことは次の3点です。

  • 令和5年4月27日から「相続したいらない土地」を国へ放棄できるようになること
  • その為には速やかに相続登記を済ませておくこと
  • 「相続登記」も「国庫帰属の承認申請」も司法書士に依頼すべきであること

放置しておいた相続登記を速やかに行うためには専門的な知識が必須となります。ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。また相続問題に強い提携の税理士や弁護士もおりますので、全方向の対応が可能です。

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*「国庫帰属の承認申請」について多くのお問い合わせをいただいております。当事務所の報酬費用などについては手続きの概要が明らかになった際に、公式ホームページで速やかにご案内いたします。しばらくお待ちください。

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