【司法書士監修】相続開始後、遺言書を全員に見せる必要があるのか?

2023年11月10日

郵便車
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故人が生前に遺言書を残していた場合、遺言書を発見した人(相続人)や、遺言書を託された人(遺言執行者)は、その遺言書の内容を他の相続人にも見せる必要があるのでしょうか。

令和1年7月1日施行の改正相続法の関係もあり、相続人や遺言執行者になった方は十分注意が必要な点と言えます。今回はその問題点や注意点などについて整理し、まとめてみます。

遺言の効力とその重要性

そもそも遺言とは「死者の最終の意思」と言われるほど重要なものであり、原則的には遺言者本人の死亡と同時にその効力が生じます。

そうであれば、遺言の中で財産を譲り受けるとなっている人(受遺者や相続人)だけが内容を認識していればよく、他の人に知らせる必要はない気もします。

しかし、それは誤りです。なぜなら、一部の相続人には法律上「遺留分(法定相続分とは異なる最低限保証されている取得割合)」があり、遺留分を害する遺言については「遺留分侵害額請求」をすることにより金銭賠償を求めることができるからです。

遺留分侵害額請求についてはこちらに詳しい解説ページを用意してあります。もしよろしければお読みください。
■「相続法の改正|遺留分侵害額請求権(遺留分に関する改正)

また、例え遺言があっても、相続人全員の同意があれば遺産分割協議をする余地があり(その余地はないとする説もあります)、その意味でも他の相続人へ遺言の内容を知らせる必要や実益は残されています。

遺言と遺産分割協議はどちらが優先するかについてはこちらに詳しい記事を用意してあります。もしよろしければお読みください。
■「遺言書の内容と異なる遺産分割は有効か

相続人が遺言書を発見した場合

それでは、相続人が遺言書を発見した場合、その内容を他の相続人それぞれに対して見せたり知らせたりする必要はあるのでしょうか。

まず、原則として、遺言書が存在しているのにもかかわらず、これを破棄したり隠匿すると、法律上相続人としての資格を当然に失うとされています。また、同様に受遺者としての資格も失います(民法965条、民法891条「相続欠格事由」という)。

「破棄」「隠匿」については規定がありますが、見せたり知らせたりする義務があるか否かについては直接の規定・定めはありません。しかし、間接的には規定があると言えます。

遺言書には大きく分けて、自筆証書遺言(手書きのもの)の方式と公正証書遺言(公証役場で公証人に作成してもらうもの)の方式がありますから、結論はこの2つの種類の遺言書に分けて考察します。

自筆証書遺言を発見した場合

自書により作成された自筆証書遺言を発見した場合、まずその遺言書を家庭裁判所へ提出して、「検認の手続き」を行わなければなりません(ただし自筆証書遺言の保管制度を利用している場合は検認は不要です)。

検認手続の中では、裁判所を通じて他の相続人へ遺言書の存在が通知され、裁判所において遺言書の現物が他の相続人へ提示されます。つまり他の相続人は、検認手続で遺言書の内容を知ることとなります。

ですから検認の手続きを怠ることは、遺言書の隠匿に等しいとされ、相続人の資格を失う可能性があります。しかし、一方で以下の最高裁の裁判例も存在します。

【最判平成9年1月28日】
遺言書の破棄隠匿が、相続に関する不当な利益を目的としない場合は、相続欠格事由に当らない。

この裁判例でいう「不当な利益」がどのようなものであるかは個別の事例によって異なるでしょう。例えば、他の相続人から遺留分減殺請求(現行法では遺留分侵害額請求)を受けることを恐れ、遺産の全部を一人で承継することを画策し、死後2年間遺言書の存在を隠したケースでは「不当な利益がある」とされ、相続欠格に該当すると判断された裁判例もあります(東京高判昭和45年3月17日)。十分に注意する必要があります。

下記に説明するとおり、遺言執行者には法律上他の相続人へ遺言の内容を通知する義務があるのですが、遺言執行者ではない相続人が、他の各相続人に対して遺言の内容を通知する義務が有るか無いかは判然としません。しかし、上記の判例のようなケースにおいては、遺言の存在を隠していると相続人の資格を当然に失う結果にもなりかねません。対策は必要でしょう。

公正証書遺言を発見した場合

公正証書遺言は、その原本が公証役場で保管されます。また、平成元年以降に作成されたものは公証人役場でデータの検索が可能です。

ですから、他の相続人は遺言の存在や内容を調べようと思えば調べられるため、遺言の隠匿はそもそも問題にならない気もします。

よってわざわざ他の相続人に対して内容を知らせる必要がないとも解されます(ちなみに公正証書遺言では検認手続きは一切不要です)。

この点、最高裁判所の判断はありません。しかし高等裁判所の裁判例では、概ね、自筆証書遺言と同じような結論です。つまり、公正証書遺言だからといって他の相続人への告知が一切不要という訳ではない、ということです。

遺言執行者がいる場合、遺言執行者に通知義務はあるか?

遺言書の中で特定の方が遺言執行者として指定されている場合があります。指定されていても、拒否することはできるので、拒否した場合は、遺言の内容に関する手続き的なことを行う義務はありません。

しかし、遺言執行者になることを承認した場合は、その旨と遺言の内容を相続人に通知する義務があります。これは明確に他の相続人に見せる義務があるという規定です。

【民法1007条2項】
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

この規定は令和1年7月1日より施行されています。原則として令和1年7月1日以後の相続から適用がありますが、同日前の相続であっても、遺言執行者の就任日が施行日以後であれば本条が適用されるという例外規定もありますから注意してください(平成30年法律第72号附則第8条)。

遺言執行者はいつ通知するべきか?

上に揚げた民法1007条2項は、通知すべき時期として「遅滞なく」とだけ規定しています。そのため長期間通知しないでいると、任務懈怠(遺言執行者としての職務を怠っている)として責任を追及される恐れはあります。

他の相続人からの遺留分減殺請求や、遺言無効確認の訴えをとりあえず回避する目的で、遺言内容を一通り執行した後に(例えば名義変更や預金解約手続きなどを完了させた後に)通知をすれば足りるという見解を有する実務家もいます。つまり見せるのは後回しという考え方です。

反対に、就任承諾の通知と同時に遺言の内容も通知すべきだとする実務家もいます。これは先に見せるべきだという考え方です。

後者の見解(先に見せる)が立法の趣旨にあったものだと考えます(責任追及を防止するため)が、実際はケースバイケースだと思います。どちらを選択するにしてもメリットとデメリットがあります。判断に迷った時は必ず専門家に相談の上、アドバイスを受けると良いでしょう

遺言執行者は何を通知するべきか?(通知事項)

遺言執行者は少なくとも次の内容を通知する必要があります。

  1. 遺言執行者に指定(または家庭裁判所より選任)され、就任を承諾すること
  2. 遺言の内容(遺言書のコピー)
  3. 相続財産の内容(遺産目録)

「遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない(民法1011条)」と規定があります。単に遺言書の内容を伝えるだけでなく、相続財産の内容を遺産目録にして知らせる必要もあります。

相続財産の内容については「被相続人の生活状況を知る者から、遺言書に明記されている財産について、その所在、内容、保管状況等を調査・確認するほか、遺言作成後に取得した財産等がないか否か等の事情を聴取する(「実務解説遺言執行|日本加除出版」)」必要があります。

もし遺言書の本文に「私の財産の全部を相続させる」のように、具体的に遺産が記載されていない場合(このような遺言も問題なく有効です)、関係当事者の協力がなければ相続財産の調査は極めて難航します。相続財産が多くなければ、遺産目録の作成は簡単です。また、相続財産が多くても、その内容が初めから判明している場合(生前に聞き取りなどをしておいた等)も遺産目録の作成は難しくありません。

ところが、そのどちらでもない場合、正確な相続財産を把握することは専門家であっても困難です。例えば弁護士は弁護士会を通じて、銀行など金融機関に対して被相続人名義の口座の有無などを「照会請求」することにより情報を得ることができます。しかしこの「「照会請求」は金融機関を特定して行いますから、「日本全国にあるすべての銀行の保有口座を知りたい」という請求の仕方はできません。

このように、専門家をもってしても相続財産の調査は時間と労力を費やす事務作業ですから、ましてや調査方法に関して全く知識を有しない一般の方には不可能に近いと言っても良いでしょう。そのようなケースでは相続問題に詳しい専門家にすぐ相談されることをおすすめします。

なお遺産目録には法律上の決まった形式・様式はありません。手書きで作成したものでもパソコンで作成したものでもどちらでも構いません。しかし、遺産目録は内容を勝手に決めるものではなく、登記簿謄本ほか客観的な資料に基づいて作成すべきものであることは言うまでもありません。

遺言執行者は誰に通知すべきか?

遺言者が亡くなった後に相続人に対して通知すべきなのは当然ですが、問題となるのは遺留分すら有しない相続人に対してもわざわざ伝える必要性があるのかという点。遺言の内容を明らかにすべき相続人の範囲の問題です。これについては以下の裁判例があります。

【東京地裁平成24年3月9日】
遺言執行者は、遺留分が認められていない相続人に対しても、遅滞なく被相続人に関する相続財産の目録を作成してこれを交付するとともに、遺言執行者としての善管注意義務に基づき、遺言執行の状況について適宜説明や報告をすべき義務を負うというべきである。

つまり上に揚げた民法1011条において、相続財産の目録を交付すべき相続人は遺留分の有無で区別されていないのだから、法的には全員に対して通知が必要であるという訳です。また、上記民法1007条2項で義務付けられている遺言執行者から相続人への遺言の内容の通知についても、遺留分の有無に関わらず適用されると解されることになります。

実務家向けの専門書籍によると、この取り扱いは「学説上も支持されている」と言え、また「実務上ほぼ確立されたものといえます」(「実務家が陥りやすい相続・遺言の落とし穴|新日本法規」)。

遺言執行者が相続人への通知を怠った場合、相続人から任務懈怠を理由とする損害賠償を追及される可能性があります。

解決案の提示|遺言書を見つけたら

発見した遺言書が自筆証書であるのか、公正証書であるのかによって対応は異なるでしょう。しかし、自分が利益を受けるために他の相続人に秘密にするような行為は、相続欠格となる可能性が高いことは以上でお分かりいただけたのではないでしょうか。

また、遺言書を見つけても相続手続きは終わりではなく、むしろここがスタートです。相続手続きの確実な手順については、本ホームページ・サイトのトップページで詳細な説明をしています。もしよろしければあわせてお読みください。
■相続の円滑な手続きは|こん・さいとう司法書士事務所【国分寺】

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