遺言書の内容と異なる遺産分割は有効か?

2023年11月9日

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例えば「Aに不動産、Bに預貯金、Cに動産を相続させる」という遺言書が残されていながら、ABC3名全員平等とするような遺言と異なる遺産分割協議をすることは可能でしょうか。

過去の裁判例や実務の動向、専門書籍の記述なども踏まえて考察します。

原則は遺言書の通りに相続すべき

遺言は死者の最終の意思ですから、これを尊重し、遺言書に書いてある通りに相続すべきでしょう。

過去の裁判例でも、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言には即時に権利移転の効力が生じるので、その相続人が相続放棄の手続きをとらない限りは、権利移転の効力を否定することはできないとしています。

【最判平成3年4月19日】
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるかまたは遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。

この判例を文字通りに解釈すれば、遺言がある以上は、まずは遺言通りに登記手続き等も行うべきと言えます。しかし、この判例は、遺言の内容と異なる遺産分割協議が可能かどうかまでは判断していません。

遺言を前提として贈与や交換などの別の合意はできるか

遺言通りに相続したということを前提に、贈与や交換の合意をすることは有効と解されています。なお、その合意は「遺産分割協議」とは法律上呼べず、贈与や交換など別の契約という位置付けになります。

ですから、冒頭の事例のように、「Aに不動産、Bに預貯金、Cに動産を相続させる」という遺言書が残されていながら、ABC3名全員平等としたいのであれば、登記手続き上は、一度遺言通りにAを単独所有者とする相続登記を行い、その後にABC3名が共有となるような登記を行う必要があります(「相続・遺言の落とし穴」遺言・相続実務問題研究会編集 新日本法規)。

【東京地判平成13年6月28日】
遺言による分割方法の指定のある土地持分について、指定のない財産についての遺産分割協議と共に指定土地持分について遺言によって取得した取得分を相続人間で贈与ないし交換的に譲渡する旨を合意したものと解するのが相当な場合には、その合意については遺産分割協議としては無効ではあっても、また遺言執行者の意思に反していたとしても、遺言による取得分についての贈与又は交換といえるから、有効な合意といえる。

この判例は、遺言の内容に反する遺産分割協議は無効としており、同様の判断を示す判例も他にありますが、いずれも地裁の判断であり、最高裁でのものではありません。

したがって、最高裁での最終的な判断がなされていない以上、遺言の内容に反する遺産分割協議は完全に有効とも、完全に無効とも判断できない状態と言えます。

遺言書と異なる遺産分割の有効性

では、相続実務として一般的にどのように解釈されているのでしょうか。

結論から申し上げますと、遺言書の内容と異なる遺産分割は、有効となることも無効となることもありますそれにはいくつかのケースに分けて検討する必要がありますが、概ね遺言執行者がいるかいないかで分類できます。

遺言執行者とは、遺言を残した故人に代わって遺言の内容を実現する義務を負う者のことです。詳しくはこちらに詳しい記事があります。もしよろしければお読みください。

遺言執行者の指定がない、選任されていないケース

遺言書の文面中に遺言執行者の指定をしていない場合、遺言執行者が選任されていない場合は、相続人全員(相続人以外に受遺者がいるときは受遺者も含みます)の同意があれば、協議は有効であると解されます(「Q&A遺産分割の実務」清文社)。

なお、遺言執行者は遺言書の内容の執行に際して「就任を承諾する」必要があるのですが、いまだ就任承諾をしていないくても、遺言書の中に遺言執行者に関する記載がある以上は、遺言執行者がいる場合に該当します(最判昭和62年4月23日判決です)ので次のケースを参考にして下さい。

また、信託銀行が遺言執行者となっているケースでは、相続人から遺言の内容とは異なる遺産分割協議をしたい旨の申出があった場合(多くは相続人間で遺産を巡って争いが生じている場合と思われますが)、遺言執行者の就任を辞退するようです。

遺言執行者がいるケース

遺言執行者は遺産に関する管理権を持ちます(民法1012条)。ですから、遺言執行者がいるにも関わらず相続人が勝手に遺言の内容とは異なる遺産分割協議をしても無効となります(上記判決が根拠です)。

しかし、遺言の内容を執行する(実現する)にあたって、相続人間の紛争を解決する一手段として遺言の内容を修正して解釈せざるを得ない場面はよくあります。

そして、その修正が遺言の趣旨にかなうものであれば、遺言執行者が予め同意したり、事後的に追認したりすることによって遺産分割協議が有効とされます(東京地裁昭和63年5月31日判決)。

つまり、遺言執行者の承諾があれば、遺言書の内容と異なる遺産分割協議も有効になる余地はあると言えます。

遺言執行者の同意を得なかったらどうなるか

遺言執行者がいるにもかかわらず、その同意・追認が得られなかった場合は、「相続人間における遺産分割が、贈与契約ないし交換契約等として、遺言内容の事後的な変更処分の意味でその効力を保持すべき(大阪地裁平成6年11月7日判決)」としています。

要するに、遺言執行者の同意のない遺産分割協議それ自体は無効であるが、相続人間で贈与や交換といった別の契約をしたと解釈して有効、と考えるようです。

相続人間であらたな贈与や交換をしたとされてしまうと、相続税とは別に贈与税や不動産取得税が課税されてしまう可能性もあるわけですが、その点は次の項目をお読みください。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の課税について

例えば、「自分の財産を全て妻にする」という遺言の内容を、妻と子供の遺産分割協議で子供が全部相続すると変更したら、課税上どのように扱われるのでしょうか。

いったん妻に相続された財産が、その後の協議で子供に移転しているので、妻から子供に移転した部分については贈与とみて贈与税が課税されるとも思えます。

この点について、国税庁のホームページに以下のような記載があります。

特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言書がある場合に、相続人全員で遺言書の内容と異なった遺産分割をしたときには、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当です。

したがって、各人の相続税の課税価格は、相続人全員で行われた分割協議の内容によることとなります。

なお、受遺者である相続人から他の相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課されることにはなりません。(相法11の2、民法907、986)国税庁 タックスアンサー No4176

つまり、遺産分割協議により妻から子供に移転した部分について、別途に贈与税は課税されないことがわかります。

ちなみに、この国税庁の扱いは、遺言書と異なる内容の遺産分割は当然に有効であることを前提としたものです。

国税庁がこのような扱いを公表しているのは、有効・無効の問題はさておき、実際にこのような事例が多い為だと推測されます。

また、上で掲げたように、最高裁が無効であると明確に判断していない以上は、とりあえず有効と扱って税務上の処理をせざるを得ない状況もあるのでしょう。

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このページでは、「遺言書の内容と異なる遺産分割は有効か?」についてお話ししました。上にも揚げました通り、有効か無効かは非常に難しい問題です。

ご自身の思い込みやインターネットの情報のみを元に検討するのではなく、専門家のアドバイスを踏まえて、様々な可能性を検討した上で判断すべきでしょう。

また、相続の手続きをこれから始めるにはどうすればよいのか、費用はいくら位かかるのか、他にも様々な疑問があることと思います。

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