遺産の一部分割はできるのか?相続法の改正と問題点

2023年11月10日

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40年ぶりの相続法改正。新しく「遺産の一部分割」を認める条文ができました(改正民法907条1項2項)ので、解説します。

遺産の一部だけの分割はどのような場合に行われるのか、また、問題点はないのか、実際に行う場合に注意すべき点などを考察します。

遺産分割とは何か?

「遺産分割」とは文字通り、遺産を分割することです。実務家向けの書籍から、遺産分割の定義を引用します。

遺産分割とは、相続開始後、共同相続人の共同所有に属している相続財産を、各共同相続人に分配、分属させる手続きである。改訂遺産分割実務マニュアル 東京弁護士会法友全期会相続実務研究会 ぎょうせい

遺産は相続開始と同時に、相続人に当然に移転します。売買や贈与のように契約を交わして権利が移転するものではありません。また、相続人が被相続人の死亡の事実を知っているか否かは関係がありません。

例えば、相続人が1人であれば、遺産は1人のものですから、遺産を分けるという問題は生じません。しかし、相続人が数人ある場合は、遺産は当然に全員の共同所有となるので、誰がどの遺産を取得するのか、あるいはどのような割合で取得するのか、話し合いが必要となります。この話し合いの事を遺産分割協議と言います。

(共同相続の効力)
第898条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
第899条 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。電子政府の総合窓口e-Gov

遺産をどのように分割すべきか

まず遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。よくある問題としては、相続人中に認知症の方がいる、相続人中に行方不明の方がいる、というケースです。

いずれの場合も、本人は意思表示ができないため、本人に代わる代理人を立てて(認知症であれば成年後見人・行方不明の場合は不在者財産管理人)、その代理人が遺産分割協議に参加することになります。

この点については、別の記事にまとめてありますので、もしよろしければご一読ください。

次にどのように分割すべきかという問題ですが、基本的には遺産の「全部」を1回で分割するケースが多いです。

なぜなら、一般的に遺産分割においては、まず遺産の範囲を確定させたうえで、遺産の全部について一回的に解決を図ることが望ましいとされているためです。

遺産を一部のみ分割すると、特別受益や寄与分等について十分な配慮ができないこともあり得ることも理由の一つです。

また、遺産分割は民法906条に規定されているように、遺産の種類や性質、各相続人の年齢等、一切の事情を考慮してなされるべきであるため、遺産全体について分割の話し合いをすることが最も好ましいとされているのです。

(遺産の分割の基準)
第906条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。電子政府の総合窓口e-Gov

しかし、現実の世界においては必ずしも遺産全部を一回で分割できるケースばかりとは限りません。遺産分割を一回的に行うことに支障があるような場合などにおいては、遺産分割を早期に解決するために、「一部」の分割を行う必要性も生じます。

法改正前の取り扱い

法改正前は、民法という法律の中に、遺産の一部のみの分割ができるかどうかについて規定はありませんでした(旧民法907条)。

しかし、そもそも相続人は、遺産をどのように処分するかについて権限を有していますから、どのように分割するかについても当然に自由であり、全体を1回で分割するのも、一部ずつ段階的に分割するのも可能であると実務上は解釈されてきました(東京高判昭和57年5月31日等)。

法改正後の取り扱い

このようなこれまでの実務上の運用を踏まえて、今回の改正では、遺産分割協議(相続人による話し合い)、遺産分割調停・審判(裁判)いずれの場合でも、遺産の一部の分割が可能であることが明文化されました。

【改正民法907条】
共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

「遺産の全部または一部の分割」は、協議でも裁判でも自由にできます。しかし、先に掲げた民法906条により、遺産分割はあらゆる事情を考慮したうえでなされるべきですから、「遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合(改正民法907条2項ただし書き)」は、一部分割はできません。

具体的にどのような場合に一部分割ができなくなるかは、事例ごとに検討していくことになるでしょう。

このような場合に一部分割は利用される

すでに説明したように、一部分割は法改正前から行われていた取り扱いです。今まで利用されてきたケースと同じような場面で今後も利用されることが予想されます。主に次のような場合に一部分割は利用されてきました。

とりあえず現金が必要の場合

急な出費(葬式代・墓代・生活費・相続税の支払い等)で、とりあえず一部の遺産を売却・換金して代金を分配したい場合に利用されます。

しかし、今回の改正で「遺産分割前における預貯金債権の行使の制度(仮払い制度)」が新しく設けられたので、今後は仮払い制度を利用した手続きによって、急な出費に対応していくケースが多くなると予想します。

なお、仮払い制度を利用して遺産の一部を取得した場合は、「遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす(改正民法909条の2)」という効果が生じると規定されています。

仮払い制度については、別の記事に詳しく説明していますので、もしよろしければご一読ください。

分割が簡単な遺産を先に分ける場合

現金や銀行預金など、分割の容易な遺産を先に分割し、不動産などの分割困難な遺産の分割については先延ばしにしたい場面でも一部分割は利用されます。

遺産の範囲が定まらない場合

故人の遺産が不明確でその調査や内容の確定に時間がかかる場合、あるいは相続人間で何を遺産に含めるかについて争いがあるような場合に、遺産であることが明らかなものだけ先に分割してしまう場面で一部分割は利用されます。

特定の遺産に固執する相続人がいる場合

不動産や株式など特定の遺産の取得に固執しており、その遺産が相続できれば、他の遺産の取得は希望しない相続人がいる場合にも利用できます。

このような時、その相続人が希望する遺産を先に取得させておき、後の遺産分割においてはその相続人を実質的に相続手続きから脱退させます。

遺産の一部分割には2種類ある

遺産の一部のみを分割するといっても、大きく2つに分類することができると考えられます。

一部分割と知りながら行うケース

相続人全員が遺産全体を把握しており、一部分割であることを知りながらする場合です。上に掲げた「このような場合に一部分割は利用される」は、どれもこちらのケースに該当します。改正民法907条も、こちらのケースを射程範囲とした規律と言えます。

結果として一部分割になってしまったケース(遺産の一部の脱漏)

相続人としては全部の遺産について遺産分割をしたつもりでも、後日新たな遺産が発見された場合(遺産が一部漏れていたという事で「遺産の一部の脱漏」と呼びます)は、結果的にすでになされた遺産分割は一部分割として扱います。

遺産の一部の脱漏の場合、すでになされた一部分割の効力がどうなるかについては2つの結論が判例で示されています。

まず1つ目は、脱漏した遺産が価格等において重要であり、相続人がその遺産の存在を知っていたなら遺産分割協議はしなかったというケースです。

この場合は、共同相続人の公平の理念に照らして、すでにされた遺産分割協議は無効となり、脱漏した遺産を含めてもう一度遺産分割協議をやり直すべきであると考えられます(高松高決昭和48年11月7日等)。

つまりこの場合は、先にされた遺産分割協議を一部分割としては認めないという結論です。だからこそ、遺産全体について協議をやり直すべきだとしているのです。

そして2つ目は、脱漏した遺産が僅少で、すでにされた遺産分割協議を無効とするほどの瑕疵が無いと判断されるケースです。この場合は、脱漏した遺産についてのみ、さらに遺産分割協議をすれば足ります(東京高判昭和52年10月13日等)。この場合は先にされた遺産分割協議を一部分割として有効に扱います。

なお、2つ目のケースで、脱漏した遺産についてさらに遺産分割協議を行う際、先の遺産分割の結果も考慮した上で行うべきか否かが問題となります。この点については、以下の「一部分割の効果とは?」で解説します。

一部分割の効果とは?

改正民法907条は、一部分割ができるようになったと明記しただけで、一部分割と残部分割の関係がどのようなものになるのかは依然として不明確です。

この点については、遺産分割が家庭裁判所の審判で行われた場合は、「残部の分割に当たっては、一部の分割の結果と合わせて、民法906条の基準や具体的相続分の充足が判断される(Q&A改正相続法のポイント 編集 日本弁護士連合会 新日本法規)」と理解されています。

これによると、例えば相続人がA、Bの2名いて、遺産が預金1,000万円と不動産1,000万円というケースで、一部分割としてAが預金1,000万円を取得したのであれば、残部分割においてはBが不動産1,000万円を取得する、となります。その結果、トータルとしてみるとAとBが2分の1ずつ遺産を取得したことになり、公平です。

しかし、遺産分割が協議や調停で行われた場合は、相続人がどのような意思・意図で一部分割を行ったのかによって結論が異なります。

たとえば、一部分割の際に「残余財産については一部分割の協議の結果を斟酌することなく後日改めて遺産分割協議をするものとする」と合意をしておけば、一部分割と残部分割は分離独立した別個のものととらえて、一部分割の結果を考慮することなく残部分割ができることになります。

もし、家庭裁判所の審判で行う場合のように、協議や調停による場合も、残部分割に当たって一部分割の結果を踏まえて公平にしてほしいのであれば、一部分割の際にそのような合意をしておく必要があるでしょう。

ただし、そのような合意をした結果、残部分割でどうしても全体として公平な結果が保てなかった場合は、先にした一部分割の有効性にも問題が生じて、結局何の問題の解決にもならない可能性もあります。

そのように考えると、一部分割を行う際には、残余遺産の内容や相続人中の特別受益や寄与分等の主張のあるなしに関わらず、一部分割により取得した遺産は取得者が絶対的に取得するものとして、少なくとも既得権利について残部分割で分割し直すことはない旨を明らかにしておいた方が良いでしょう。

それでは、「遺産の一部の脱漏」の場合はどのように考えればよいのでしょうか。

脱漏した遺産についてさらに遺産分割協議を行う際、先の遺産分割の結果も考慮した上で行うべきか否かが問題となります。

通常、遺産分割協議書や遺産分割の調停条項では、後日他に遺産が発見された時に備えて、「別途協議の上定める」等といった文言がよく使われます。

このような文言がある場合は、「既になされた遺産分割と切り離して分割する、すなわち、新たに発見された遺産を含めた全部の遺産につき、民法906条の基準や具体的相続分による分割を検討することはせず、新たに発見された遺産の範囲内でのみ分割する(中略)という趣旨を含む(Q&A改正相続法のポイント 日本弁護士連合会 新日本法規)」と考えられます。

改正民法907条の問題点とは

上記のように、一部分割を行う場合には、一部分割が残部分割に影響を及ぼすか否かを予め合意しておく必要があります。

合意をしていなくとも一部分割は可能ですが、その点が不明瞭な一部分割は、無用な争いを引き起こす火種になりかねません。

また、遺産の一部分割を明文化したことで、大手を振ってそれができるわけですから、とりあえず資産価値の高い不動産や預貯金だけ分割して、山林や田畑など誰も相続したがらない遺産については放置しておくという事も増えそうな予感はします。これにより、所有者不明の土地が増加する懸念も実務上指摘されています。

いずれにしても、一部分割を行う場合は、このような問題に強い、相続手続きに特化した司法書士に相談されることをおすすめします。

改正民法907条の施行日は

改正民法907条は令和1年7月1日より施行されています。令和1年7月1日以後に開始した相続について適用があります。

改正法の施行日前に開始した相続については、なお従前の例によるとされていますが(附則2条)、遺産の一部分割は改正法が施行する前から相続実務的には認められていたものなので、あまり影響はありません。

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。

このページでは、「遺産の一部分割はできるのか?」についてお話ししました。

遺産の一部分割といっても2種類のケースがあることはお分かりいただけたでしょうか。

遺産分割の手続や、これを含めた相続手続き全体について、これから始めるにはどうすればよいのか、費用はいくら位かかるのか、どの位の期間で完了するのか、様々な疑問があることと思います。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。

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