【司法書士監修】遺産の相続で内縁の妻がいる場合|総まとめ

2023年5月31日

はてなを持つ手
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遺産の相続で、入籍はしていないけれども居住を共にしていた女性がいる場合、法律上はどのように扱われるのでしょうか。遺産を相続できるのか、相続する方法はあるのか等。

また、自分が内縁の妻である場合に、他の相続人へどのように連絡をすればよいのか?、反対に他の相続人から内縁の妻に対してどのように連絡を取ればよいかなど、実際上の問題も含めて総合的に解説します。

内縁の妻は「婚約」や「同棲」と何が違うのか?

内縁の妻は、法律上の夫婦と認められる婚姻届出を提出していませんので、いわゆる「配偶者」とはなりません。法律上の配偶者か否かは、婚姻届出をしているか否かで簡単に区別することができます。

しかし、婚約や同棲との区別は難しいものがあります。婚約も同棲も婚姻届出を提出していないという点で内縁と同じであるからです。一般には次のように区別されます。

内縁 事実的な夫婦(事実婚)として、①婚姻意思または内縁関係を結ぶ意思を持って、②夫婦同様の共同生活を営んでいる
婚約 将来結婚しようという合意だけで、夫婦共同生活の実態がない
同棲 結婚の意思はなく、婚姻と切り離された形で共同生活が営まれている

 

下記で解説しますが、内縁も婚約も同棲も法律上の婚姻ではないため、遺産を相続できる法律上の相続人とはなりません。しかし、法律上の相続人と認められなくても、「特別縁故者」として故人の財産を引き継げる可能性はあり、その可能性が最も高いのが内縁と言えます。

内縁とは、婚姻意思がありなおかつ夫婦同様の共同生活を営んでいることが条件となります。いわゆる事実婚状態となれば「特別縁故者」として相続財産を引き継げる可能性も高くいなるという意味です。この点については後述します。

内縁の妻は遺産を相続できるのか?

それでは次に、故人(被相続人)に内縁の配偶者がいた場合、遺産を相続できるのか否かを検討します。特に借家については一般的にあまり知られていないかもしれません。

内縁の妻は原則として遺産は相続できない

まず、内縁関係は当事者の一方の死亡により当然に解消します(この点は通常の夫婦も同じです)。そしてこの場合に、内縁の妻は法律上の妻ではないことから、相続権は認められません。

仮に結婚式も挙げ、どんなに長い間夫婦同然の生活を送ってきたとしても、婚姻届出を提出していない以上は、他の相続人に対して遺産を分割するように請求する権利は一切ありません。

また、内縁の妻が被相続人の財産の維持や増加に貢献したり、病気療養の看護に尽くしたとしても、法律上の相続人にしか認められない「寄与分」を主張することもできません。寄与分は法律上の相続人が特別の寄与行為をした場合に初めて認められるものであるからです。

さらに、内縁関係は当事者が死亡する前であれば、両方の協議で解消することもでき、この場合には民法に規定のある離婚の条文を類推適用して、相手方に財産分与を請求できます(民法第768条、最決平成12年3月10日)。しかし、死亡によって内縁が解消した場合にまでこの規定を適用することはできません(最決平成12年3月10日)。結局内縁の妻が相手の死亡によって遺産を相続することは原則としてありません。

例外的に借家はそのまま住めることも

このように内縁の妻には遺産の相続権はないのですが、借家権についてのみ特別な扱いがあります。例えば、被相続人と内縁の妻が借家(賃貸アパートや賃貸マンション等)に同居していた場合、その賃借権・借家権を内縁の妻が引き継いで、そのまま住み続けることができる可能性もあるという話です。

この点については、被相続人に他に法律上の相続人がいるケースと、他に法律上の相続人がいないケースで少し扱いが異なることろですから、それぞれのケースに分けて解説します。

他に相続人がいないケース|当然に賃借権を承継

被相続人に他に法律上の相続人がいない場合には、相続人と生計を共にしていた内縁の配偶者は、居住用建物の賃借権を承継することができます(借地借家法第36条第1項)。借家の権利を「承継する」だけで、決して「相続する」訳ではありませんが、結果的には同じことと言えるでしょう。

この規定は、内縁の妻に借家の権利の相続を認めたものではものではなく、住む場所まで内縁の妻から奪わないようにという配慮にすぎないと解されています。そもそも他に法律上の相続人がいない場合、内縁の妻に借家権を承継させても、誰にも不利益は生じないはずです。

ただし、この場合、もし未払いの賃料などがあったときは、これも含めて内縁の妻に承継されます(借地借家法第36条第2項)から注意が必要でしょう。

なお、他に相続人がいないということは、被相続人の戸籍をよく調査しないと判断することはできません。被相続人に離婚した妻との間に子供がいれば、その子供は相続人になります。また、子供がいなくても、被相続人に兄弟がいれば、その兄弟が相続人になります。さら、兄弟がすでに死亡していても子供がいれば、その子供が相続人になります。

つまり、故人に本当に法律上の相続人がいないかどうかは、戸籍の調査をしなければわからないという事です。一般的にはこのような戸籍の調査は簡単にはできませんし、法律上の配偶者ではない内縁の妻が自分で行うこと(他人の戸籍を取得すること)はとても難しいと思います。専門家のサポートが必須でしょう。

(居住用建物の賃貸借の承継)
第三十六条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。借地借家法|e-Gov法令検索

他に相続人がいるケース|相続人との話し合いが必要

被相続人に他に法律上の相続人がいる場合には、上記で解説した借地借家法第36条は適用されませんから、内縁の妻が当然に借家を承継して住み続けることはできません。

この点について明確に定める法律の規定はありませんが、相続人が内縁の妻に対して借家から立ち退きを要求した場合には、内縁の妻はこれを拒むことができるとする判例があります(最判昭和39年10月13日)。

また、大家である賃貸人から内縁の妻に対して立ち退きの要求があった場合も、内縁の妻はこれを拒むことができるとする判例もあります(最判昭和42年2月21日)。

相続人からの内縁の妻に対する賃借家屋の明け渡し請求については、内縁の妻は、これを権利の濫用を理由として拒むことができる。裁判所|最高裁判例|最判昭和39年10月13日
賃貸人からの賃借家屋の明け渡し請求に対しては、内縁の妻は、相続人が承継した賃借権を援用することによって、これを拒むことができる。裁判所|最高裁判例|最判昭和42年2月21日

以上のことから、被相続人に他に相続人がいる場合は、内縁の妻は当然に借家に住み続けることができるわけではないため、他の相続人や賃貸人である大家との話し合いが不可欠と言えます。この点も専門家のサポートが必要となるところでしょう。

相続人がいなければ内縁の妻が全部相続できるかも

これまでの説明をまとめると以下のようになります。

  1. 内縁の妻は相続人ではないので遺産は相続できない
  2. しかし借家についてはそのまま住み続けることも可能

ここから先は「内縁の妻が遺産を全部相続できることがあるのか」を考察します。「全部相続」は誤解がある書き方かもしれませんが、特殊な要件を満たし、一定の手続きを踏めば「全部分与してもらえる」ことがあります。ではその手続き等を見ていきます。

内縁の妻は「特別縁故者」として財産分与の対象

内縁の妻は当然には遺産を相続することはできませんが、一切財産分けを請求できないかというと、決してそんなことはありません。民法には「特別縁故者に対する相続財産の分与」という制度があります。

この制度が適用されるためには、法律上相続人がいないという事が確定している必要があります。すでに説明したように、法律上の相続人がいるかどうかは戸籍謄本から明らかではありますが、この制度はより厳密に、裁判上の手続きを使って相続人が不存在であることを確定していきます。

具体的には、まず通常通り戸籍調査をして、戸籍から明らかな相続人がいないという事が判明した後に、家庭裁判所へ「相続財産管理人の選任の申立」を行います(民法第952条)。ほとんどの場合、相続財産管理人には弁護士が選ばれるわけですが、この相続財産管理人が故人の相続財産の清算を行います。

清算を行なってもなお余った財産は国庫に帰属することになります。しかし、内縁の配偶者は清算後一定の期間内に家庭裁判所に請求すれば、家庭裁判所の判断により残余財産の全部または一部を分与してもらえる可能性があります。

法令上、内縁の配偶者は「被相続人と生計を同じくしていた者」と考えられています。家庭裁判所に請求すれば必ず遺産を分与してもらえるという性質のものではありませんが、故人との関係性、財産の内容など一切の事情を考慮した上で家庭裁判所が分与の可否、その内容を決めることになります。

(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の三 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。民法|e-Gov法令検索

他の相続人から内縁の妻への連絡の仕方

内縁の妻が、被相続人の遺産を把握している可能性が高いです。ですから、内縁の妻の協力を得ないと円滑な遺産相続手続きは不可能ともいえるでしょう。

はじめから「内縁の妻には相続権はないから直ちに遺産を引き渡せ」という態度で接してしまうと、相続手続きはできません。内縁の妻には相続権も寄与分もありませんが、法定相続人に代わって被相続人の身の回りのことを行ってきたのは事実でありますから、すべての事情を考慮した上で慎重に接するように対応するのが肝心だと思われます。

また、もし内縁の妻が借家の場合には、借家権については承継してもらう前提で話を進めると、話はまとまりやすくなるかもしれません。

内縁の妻から他の相続人への連絡の仕方

生前に故人から他の相続人の連絡先を聞いている場合には、できるだけ速やかに連絡を取る方が良いでしょう。その際に他の相続人が一方的な要求をする場合には、代理人(弁護士)を立てて話し合いをする方が良いかもしれません。

確かに内縁の妻には相続権はありませんが、婚姻費用の分担義務や日常家事債務の連帯責任などの義務は通常の夫婦と同じようにあり、そのために支払った費用などは遺産から支出しても問題はありませんから、相手の言うがままに請求に応じることによって、本来支払わなくてよいお金まで引き渡してしまう可能性もあります。

また借家に住んでいる場合には、交渉次第でそのまま居住できる可能性は高いので、冷静な話し合いをするように心がけましょう。

内縁の妻に財産をどのように残すか?

以上のように、内縁の妻が当然に相続できる遺産はありませんから、生前の内に何か準備をしておかないと、残された内縁の妻が一方的に不利益を受けるような立場となってしまいます。それでは、生前にできる対策とは一体どのようなものでしょうか。一般的には次のような方法があります。

  1. 生前贈与
  2. 遺言書
  3. 生命保険

まず、「生前贈与」で財産を内縁の妻に渡しておくという方法です。しかし、贈与は高額の贈与税がかかりますから、非課税枠の限度で暦年贈与(複数年に分けて段階的に贈与を行う)をするなど、やり方に工夫が必要となります。

そして「遺言書」を作成して財産を内縁の妻に遺贈するという方法もあります。遺言書が偽造されたものであるなどの疑いをかけられないためにも公正証書で作成することが必須と言えます。また、「全財産を内縁の妻に遺贈する」と書いても、他の相続人には原則として遺留分がありますから、その点を考慮した内容にしないと、後から内縁の妻が苦労する結果となりかねません。

最後に「生命保険」に加入して、保険金の受取人を内縁の妻にするという方法があります。このようにしておけば、保険金は相続財産とはなりませんので、少なくとも保険金の額は内縁の妻に残しておくことができます。ただし、高齢になってから加入できる生命保険は限られますから、できるだけ早くから用意をする必要があります。

遺産の相続で内縁の妻がいる。どうすれば…

これまでの説明で、遺産相続の場面で、故人に内縁の妻がいる場合にどのように対処すべきか理解できたかと思います。内縁の妻に相続権が無いという点は、一般的に知られている事実だと思いますが、財産を承継できるケースも存在するという点はあまり語られることは無いように思います。

また、実際に相続が開始した場合に、内縁の妻から連絡を取る場合と、他の相続人から連絡を取る場合では、注意すべきポイントも変わってきます。この点もあまり語られることは無いように思いました。

いずれにしても、このページで解説したような事情があって、どのようにすべきか迷ったら、当事務所にご相談ください。自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

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このページでは、「【司法書士監修】遺産の相続で内縁の妻がいる場合|総まとめ」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、内縁の妻が関係者としている遺産相続に関して知っておくべきことを解説しました。

このページで解説した内容は一般論です。実際の相続の場面では、一番大事となるのは当事者同士の話し合いという事になります。その話し合いも手順を間違えると取り返しのつかないことになってしまいます。

ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。また相続問題に強い提携の弁護士もおりますので、代理人の依頼も可能です。

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